「痛いところが、さっきと違うんです」——胸から、背中へ。傷病名は「急性大動脈解離」でした
119の判断

「痛いところが、さっきと違うんです」——胸から、背中へ。傷病名は「急性大動脈解離」でした

突然の胸や背中の激痛。そのあと痛みが別の場所へ動いていく——総務省消防庁のリーフレット『救急車を上手に使いましょう』の「胸や背中」欄には、おとな・高齢者の両ページに『痛む場所が移動する』が載っています。傷病名は「急性大動脈解離」。日本循環器学会のガイドラインは『痛みは解離部位の拡大とともに移動したり,逆に解離の進展が止まると一時的に疼痛が消退することもある』と書いています。発症は冬場に多く夏場に少なく、午前6〜12時に多い。現役救急救命士が公的資料の原文で解説します。

9月に入りました。

今朝の記事では、秋に集中する毒キノコによる食中毒の話を書きました。夕方のこの記事は、まったく別の病気です。ただ、これから寒くなる季節に向かって増えていくという点だけが、共通しています。

今日は、総務省消防庁のリーフレットに載っている、たった一行の症状の話をします。

「痛む場所が移動する」

この一行が、どの病気のために置かれているのか。そして、なぜ家庭でいちばん見落とされるのか。順番に書いていきます。

1. 症状——「痛いところが、さっきと違うんです」

はじめにお断りしておきます。**これは特定のどなたかの事案の話ではありません。**公的資料に書かれている典型的な症状の並び方を、家庭で見える形に置き直したものです。

典型的には、こういう形をとります。

突然、胸か背中に、これまで経験したことのない強さの痛みが起こります。

「だんだん痛くなってきた」ではありません。時計の針が動いた瞬間に、そこから痛い。ご本人は「何時何分に始まった」と答えられることが多いくらい、始まりがはっきりしています。

ガイドラインは痛みの性状を「鋭く引き裂かれるような痛み」と書いています。

そして——ここからが、この病気の分かれ目です。

しばらくすると、痛みの場所が動きます。

胸が痛かったはずなのに、いつの間にか背中が痛い。背中だったのが、腰やお腹に下りてくる。家族が「さっきと言っていることが違う」と感じる場面です。

さらに厄介なことに、痛みが一度、軽くなることがあります。

本人は「おさまってきた」と言います。家族は「よかった」と思います。救急車を呼ぼうかと話していたのが、「もう少し様子を見よう」に変わります。

日本循環器学会など7学会の合同研究班による『2020年改訂版 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン』は、この経過を正面から書いています。

大半の症例で発症時に胸部・背部に激痛を訴え,過去に経験したことのない強い疼痛と表現されることが多い.性状は鋭く引き裂かれるような痛みであり,突然発症が特徴的である.A型解離では前胸部痛,B型解離では背部痛や腹痛が特徴的である.また,痛みは解離部位の拡大とともに移動したり,逆に解離の進展が止まると一時的に疼痛が消退することもある.一方で,急性大動脈解離の6%程度は無痛性であることも重要である

(日本循環器学会ほか『2020年改訂版 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン』第3章 p.26。2024年8月30日更新)

読み直してほしいのは、真ん中の一文です。

「痛みは解離部位の拡大とともに移動したり」——痛みが動くのは、体の中で裂け目が広がっているからです。

「逆に解離の進展が止まると一時的に疼痛が消退することもある」——痛みが軽くなるのは、治ったからではなく、裂けるのがいったん止まっただけです。

そして同じページには、こうも書かれています。

9~20%は典型的疼痛がなく失神をきたす

痛みを訴えないまま、倒れる形で始まることがある、ということです。

背中に回された手が、白いシャツの背を押さえている 胸から背中へ。痛む場所が動くのは、大動脈に沿って裂け目が伸びているからです(写真はイメージです)

2. 救急隊は、何を疑いながら向かうか

119番の内容が「突然の胸の痛み」「突然の背中の痛み」であれば、救急隊は複数の病気を同時に頭に置いて向かいます。心筋梗塞、肺の血管が詰まるもの、自然気胸、そして大動脈が裂けるもの。

**現場で、どれかに決めることはできません。**心電図で分かるものもあれば、分からないものもあります。

ただ、ガイドラインは「疑うべき所見」を並べて示しています。

急性解離を疑う臨床症状・所見として,突然生じる激烈な胸背部痛・胸内苦悶,ショックバイタル,異常高血圧,意識障害・下肢麻痺,腹痛,腰痛,移動性疼痛血圧の左右差,上下肢血圧差,脈拍欠損,などがある

(同ガイドライン 第6章 p.109)

このリストのうち、家庭で分かるものが1つだけあります。

「移動性疼痛」——痛む場所が移動することです。

血圧の左右差も、脈が触れないことも、私たちが現場で両腕を測って初めて分かることです。家庭用の血圧計は片腕にしか巻きませんし、そもそも激痛のある人に「もう片方も測ろう」と言える状況ではありません。

でも、「さっきは胸だったのに、今は背中だ」は、そばにいる家族にしか分からない情報です。

水色の背景に置かれた黒い聴診器 現場でできる観察には限りがあります。家族の一言が、そこを埋めます(写真はイメージです)

3. 検査——病院で何が行われるか

病院に着くと、まず心電図と血液検査、胸のレントゲンが行われます。それと並行して、超音波(エコー)検査が行われることがあります。

そのうえで、診断を確定させるのは造影CT検査です。ガイドラインは、こう書いています。

AAS診断のゴールドスタンダードは造影CT検査であるが,初療(とくに地域医療での)ではAASを疑っても,造影剤アレルギーや腎機能障害を考慮して単純CT検査のみ行われることも少なくない

(同ガイドライン 第4章 p.43。AAS=急性大動脈症候群。大動脈解離を含む、大動脈が原因で急激に発症する病気のまとまりを指す言葉です)

同じガイドラインには、こういう一文もあります。

侵襲的治療(外科手術,SG内挿術)に到達できれば9割が救命可能なことを考慮すると,迅速かつ簡便なエコー検査により,誤診やそれによる搬送の遅れを回避することが望ましい

(同ガイドライン 第4章 p.43。SG内挿術=ステントグラフト内挿術)

**手術にたどり着けば9割が助かる。**だから、たどり着くまでの時間の話になる——ガイドラインはそういう順序で書いています。

円形のCT装置の中に、白い布をかけた検査台が見えている 診断を確定させるのは造影CT検査だと、ガイドラインは書いています(写真はイメージです)

4. 傷病名は「急性大動脈解離」でした

大動脈は、心臓から出て体じゅうに血液を送る、人体でいちばん太い血管です。国立循環器病研究センターは、その形をこう説明しています。

クエスチョンマーク「?」のように弓状に曲がりながら脳や、左右の腕に栄養を運ぶ3本の枝を出し、幹の部分は背中側に回り下半身へ向かいます

(国立循環器病研究センター「大動脈瘤と大動脈解離」)

**心臓から出て、頭のほうへ上り、Uターンして、背中側を通って下りていく。**この道筋を覚えておいてください。痛みが胸から背中、背中から腰へ動くのは、この管に沿って裂け目が伸びていくからです。

その大動脈の壁は3層構造になっています。

大動脈は内膜、中膜、外膜の3層に分かれています。中膜がなんらかの原因で裂けて、もともとは大動脈の壁であった部分に血液が流れ込むことで大動脈内に二つの通り道ができる状態が大動脈解離です

(同)

**血管が破れるのではなく、壁が「裂けて層が分かれる」。**それが「解離」という言葉の意味です。

そして、裂けたばかりの大動脈は、壁が薄くなっています。

起こったばかりの時は、血管が裂けているために血管の壁が薄くなり、きわめて破裂しやすい状態にあります。特に上行大動脈に解離が及ぶA型では、1時間に1%ずつ死亡率が上昇すると言われています。つまり、48時間以内におよそ半分の患者さんが亡くなることになります

(同)

診療ガイドラインの記述も同じ向きです。

上行大動脈に解離が及ぶA型解離はきわめて予後不良の疾患で,発症後に致死率が1時間あたり1~2%上昇すると報告されており,侵襲的治療(外科手術/TEVAR)を行わなければ**48時間以内の致死率が約50%**とされる

(同ガイドライン 第6章 p.96)

1時間ごとに、1〜2%。

これは私が現場で口にする数字ではありません。ですが、この記事を読んでいる方には、意味を知っておいてほしい数字です。「様子を見よう」の1時間には、値段がついています。

白いタイル壁に掛けられた、文字盤だけのシンプルな時計 「何時何分に始まったか」は、家族が残せる情報のひとつです(写真はイメージです)

どのくらい起きているのか

日本には全国統計がありません。ガイドライン自身が「本邦における大動脈瘤と大動脈解離に関する全国統計はいまだなく,その正確な発症率は不明である」と書いています。

そのうえで、こう記されています。

10万人あたりの年間発症数はおよそ3人前後と思われていたが,東京都急性大動脈スーパーネットワークのデータでは,急性大動脈解離の発症は10万人あたり年間10人であると報告されている

(同ガイドライン 第2章 p.19)

10万人に3人から10人。決して多い病気ではありません。

ただし、突然死を扱う統計から見ると、景色が変わります。東京都監察医務院の報告(発病後短時間で死亡、あるいは予期しない死亡のケースの解剖がほとんど=突然死の剖検報告)について、ガイドラインはこうまとめています。

**病院着前死亡は61.4%に及ぶ.**発症から死亡まで1時間以内は7.3%,1~6時間は12.4%,6~24時間は11.7%であり,病院着前死亡と併せると,93%が24時間以内に死亡したことになる

(同ガイドライン 第2章 p.19-20)

**この61.4%と93%は、「突然死として解剖された症例」の中での割合です。**急性大動脈解離になった人全体の死亡率ではありません。そこは混ぜないでください。

それでも、この数字が示していることは一つです。**病院に着く前に亡くなっている人が、相当数いる。**私たちが呼ばれる時点で、すでに時間との勝負が始まっています。

朝の光が差し込む、人のいない病院の廊下 病院に着く前という時間帯が、この病気にはあります(写真はイメージです)

年齢と季節

大動脈解離の発症が多い年齢は男女とも70代とされていますが、40代や50代で発症することも稀ではありません。

(国立循環器病研究センター「大動脈瘤と大動脈解離」)

そして、季節と時間帯です。

また、大動脈解離の発症は冬場に多く、夏場に少ない傾向があります。また、時間的には活動時間帯である日中が多く、特に6~12時に多いと報告されています。逆に深夜から早朝は少ないようです。

(同。診療ガイドライン第2章 p.19にも同じ記述があります)

今日から、増えていく側の季節に入ります。

「9月に急に増える」とは、どの資料にも書かれていません。書いてあるのは「冬に多く夏に少ない」という傾向だけです。ですから私も、そこまでしか書きません。

ただ、夏がいちばん少ない季節だとすれば、9月1日は、いちばん少ない時期の終わりの日です。

朝の光が差し込む、木枠の窓と木の床 発症は午前6〜12時に多いと報告されています(写真はイメージです)

5. 「急性大動脈解離」とは——家庭から見た3つの顔

この病気が家庭で見落とされる理由は、症状が「大動脈の病気らしく」見えないことにあります。国立循環器病研究センターは、そこをはっきり書いています。

例えば脳に血液を送る血管が解離で血流障害を起こした場合には、「脳卒中」による意識障害を疑われて脳神経科へ搬送されてから大動脈解離であることが分かることはよくあります。血流障害による手や足の痛みで発症したり、急性心筋梗塞を疑われてカテーテル治療を開始してから分かることもあります。

(同)

**病院の中でさえ、別の病気として動き始めてから分かることがある。**公的機関がそう書いています。家庭で見分けられるはずがありません。

だから家庭でやることは、見分けることではありません。

① 痛みが「動く」

胸→背中、背中→腰、腰→足。これは大動脈の走り方そのものです。

② 痛みが「いったん引く」

ガイドラインの「解離の進展が止まると一時的に疼痛が消退することもある」です。引いたことは、治ったことではありません。

このブログでは、同じ形をした病気を何度も扱ってきました。痛みが治まった後は体調が良好に見える急性胆管炎、痛がったりけろっとしたりを繰り返す赤ちゃんの腸重積症、症状が1日でいったんおさまる毒キノコによる食中毒

**「よくなったように見える時間がある」ことが、その病気の特徴として一次資料に書かれている。**急性大動脈解離も、その一つです。

③ 痛くない場合がある

「6%程度は無痛性」「9〜20%は典型的疼痛がなく失神をきたす」。

痛みがないから違う、とは言えません。

膝の上に置かれた、年配の人の両手 発症のピークは男女とも70代。ただし40代・50代も稀ではありません(写真はイメージです)

6. 避けるには

急性大動脈解離そのものを予防する方法は、公的資料に「これ」と書かれていません。国立循環器病研究センターも、率直に書いています。

急性大動脈解離の発症を予測することはできませんが、破裂の可能性がある大きさの大動脈瘤が見つかれば、破裂する前に治療を受けるのが最も大切なことです。

(同)

そのうえで、危険因子は共通しています。

動脈硬化、高血圧、喫煙、ストレス、高脂血症、糖尿病、睡眠時無呼吸症候群、遺伝などのさまざまな要因が関係すると考えられています

(同「大動脈解離の原因は?」)

いちばん上に高血圧があります。このブログでは以前、血圧196/128で搬送された交通事故の記事で、降圧薬を自己判断でやめることの危うさを書きました。大動脈の話でも、根っこは同じです。

「大動脈瘤と診断された方」への注意事項は、今の季節に効きます

ここから先は、すでに大動脈瘤や大動脈解離と診断されている方に向けて国立循環器病研究センターが挙げている日常生活の注意です(同センターは「大動脈解離で急性期を脱した場合も同じように注意してください」と書いています)。診断されていない人の予防法として書かれたものではありませんので、そこは分けて読んでください。

そのうえで、9月の今日にいちばん引っかかるのが、この項目です。

冬季の防寒、夏季の過冷房に留意すること →急激な温度変化は避けるようにしましょう。(中略)夏は、冷房が効き過ぎた部屋への出入りの時に血圧が上昇するので、外気との温度差が5度以上にならないよう気を付けましょう。

(同「大動脈瘤と診断されたら...日常生活での注意」)

**9月は、この両方が同時に来る月です。**日中はまだ冷房を使い、朝晩は窓を開けると冷たい。外と中の温度差も、朝と昼の温度差も、いちばん揺れる時期です。

夕暮れの光が差し込む、薄暗い部屋の窓 冷房の効いた部屋と、外の空気。9月はその差がいちばん揺れます(写真はイメージです)

同じ欄には、こういう項目も並んでいます。

  • 毎日、血圧を測定し、かかりつけ医によく相談すること
  • 禁煙すること
  • 便秘に注意すること(→息むと血圧が上がってしまいます)
  • 入浴の際には熱すぎる湯にはつからないようにすること(→40度位のややぬるめのお湯に入り長湯をしないように)
  • 十分な睡眠と休養をとる、ストレスを避け、イライラしないこと

トイレとお風呂が入っているのが、現場感覚からするとよく分かります。家の中で血圧がいちばん跳ねる場所が、その二つだからです。

大動脈瘤は、症状が出ないまま大きくなります

解離を予防することはできませんが、その手前にある「こぶ」は、見つけることができます。

大動脈瘤は自覚症状がないまま大きくなる場合がほとんどです。 (中略)自分では気づいていなかった腹部大動脈瘤が、他の病気で腹部の超音波検査やCT検査を受けた時に、偶然、発見されることがほとんどです。

(同「大動脈瘤の症状は?」)

**偶然にしか見つからない。**逆に言えば、健診や他の病気の検査で「大動脈が少し太い」と言われたことがある人は、それを放置しないでほしい、ということです。同センターは「定期的に専門医に相談してCT検査などで『こぶ』の大きさをチェックして経過を観察してもらうこと」を「最も重要なこと」と書いています。

7. 家族へ——消防庁のリーフレットに、この症状はちゃんと載っています

ここが、この記事でいちばん伝えたいところです。

総務省消防庁のリーフレット『救急車を上手に使いましょう』(令和7年12月発行)は、私たちが119番の判断について案内するときの基本資料です。こども(15歳以下)・おとな・高齢者の3ページに、体の部位ごとに「すぐ119番」の症状が並んでいます。

「胸や背中」という欄が、おとなのページと高齢者のページの両方にあります。

おとな(3ページ目)の「胸や背中」欄

  • 突然の激痛
  • 急な息切れ、呼吸困難
  • 胸の中央が締め付けられるような、または圧迫されるような痛みが2〜3分続く
  • 痛む場所が移動する

高齢者(2ページ目)の「胸や背中」欄

  • 突然の激痛
  • 急な息切れ、呼吸困難
  • 旅行などの後に痛み出した
  • 痛む場所が移動する

両方に「痛む場所が移動する」が入っています。

これは、この記事でずっと引用してきたガイドラインの「移動性疼痛」と、同じことを言っています。

大事なのは、リーフレットには病名が一行も書かれていないということです。「大動脈解離のとき」とは書いていません。書いてあるのは症状だけです。

**つまり、家族が判断していいのは「痛む場所が移動したかどうか」までであって、それが何の病気かを当てる必要はありません。**当てるのは病院の仕事です。

なお、**こども(15歳以下)のページに「胸や背中」の欄はありません。**こどもの胸の欄にあるのは「激しい咳やゼーゼーして呼吸が苦しそう」「呼吸が弱い」の2つだけです。理由はリーフレットに書かれていないので、私も推測は書きません。

呼ぶ・呼ばないで迷ったときの、たった一つの基準

国立循環器病研究センターの文章が、これ以上ないほど明確です。

突然の胸や背中の激痛を起こす病気で、様子を見ても大丈夫と言える病気はありませんので、とにかく一刻も早く救急車を呼んで医療機関を受診し、治療を受ける必要があります。

(同「大動脈解離の症状は?」)

「様子を見ても大丈夫と言える病気はありません」。

突然の胸背部痛について、公的機関がここまで言い切っている文章を、私は他に知りません。心筋梗塞かもしれない、気胸かもしれない、大動脈解離かもしれない——どれであっても呼んでいい、というのがこの一文の意味です。

救急隊に伝えてほしいこと

そして、同じページに、この記事を書こうと思ったきっかけの一文があります。

診断が遅れないように、大動脈解離の可能性を疑うことが重要ですので、**些細な症状であっても救急救命士や医師に伝えてください。**また、ご本人から伝えるのが困難なときには、家族が知り得る情報を詳しく伝えてください。

(同)

公的機関が、名指しで「救急救命士に伝えてください」と書いています。

私たちが到着したとき、ご本人は痛みで話せないことがあります。声が出ても、話が飛びます。そのとき、家族が持っている情報だけが手がかりになります。

夜の暗い建物に、ひとつだけ明かりのついた窓 本人が話せないとき、家族の情報だけが手がかりになります(写真はイメージです)

具体的には、この4つです。

① 何時何分に始まったか

この病気は「1時間あたり1〜2%」で語られます。発症時刻は、そのまま治療方針の材料になります。「夕飯の途中だった」「テレビのニュースが始まったころ」でも構いません。時計の話ができるだけで十分です。

② 最初はどこが痛かったか

今どこが痛いか、はご本人が言えます。最初がどこだったかは、家族しか覚えていません。「最初は胸だと言っていました。今は背中だと言っています」——この一言が、私たちにとっては大きな情報です。

③ 痛みが一度おさまったか

おさまった時間帯があったなら、必ず伝えてください。「途中で楽になった時間がありました」は、隠したほうがいい情報ではなく、いちばん伝えてほしい情報です。

④ 血圧の薬を飲んでいるか、最近やめていないか

お薬手帳があれば、それを渡すのがいちばん早いです。

このあたりの伝え方は、119番通報で最初に聞かれることの記事にまとめてあります。呼ぶかどうかで迷う段階なら、♯7119(救急安心センター)という窓口もあります。

まとめ

  • 突然の胸や背中の激痛は、「様子を見ても大丈夫と言える病気はありません」(国立循環器病研究センター)
  • **消防庁のリーフレットの「胸や背中」欄には、おとな・高齢者の両ページに「痛む場所が移動する」が載っています。**家族が判断できるのは、ここまでで十分です
  • 痛みが動くのは、大動脈に沿って裂け目が伸びているからです(「痛みは解離部位の拡大とともに移動したり」/診療ガイドライン)
  • 痛みが一度軽くなることがあります。それは治ったのではなく、裂けるのがいったん止まっただけです(「解離の進展が止まると一時的に疼痛が消退することもある」/同)
  • 6%は痛みがなく、9〜20%は痛みではなく失神で始まります(同)
  • A型では1時間あたり1〜2%ずつ致死率が上がり、治療しなければ48時間以内の致死率は約50%(同)。一方で、手術やステントグラフトに到達できれば9割が救命可能とも書かれています
  • **発症は冬場に多く夏場に少なく、午前6〜12時に多い。**今日から、増えていく側の季節です
  • 発症のピークは男女とも70代。ただし40代・50代も稀ではありません(国立循環器病研究センター)
  • 救急隊に伝えるのは、①始まった時刻 ②最初に痛かった場所 ③一度おさまった時間があったか ④血圧の薬。「些細な症状であっても救急救命士や医師に伝えてください」と国立循環器病研究センターが書いています

「痛いところが、さっきと違うんです」

家族のその一言が、現場では大きな意味を持ちます。**言い間違いでも、勘違いでもありません。**そのまま、私たちに伝えてください。

今日そろえておけるもの

高価な道具は要りません。今日の話に直接効くのは、この3つくらいです。

  • 上腕式血圧計 — 国立循環器病研究センターは日常生活の注意の筆頭に「毎日、血圧を測定し、かかりつけ医によく相談すること」を挙げています。危険因子のいちばん上が高血圧です
  • お薬手帳ケース — 血圧の薬を飲んでいるか、最近やめていないか。痛みで本人が話せないとき、一冊渡せば済みます
  • マグネット式メモボード(冷蔵庫用) — 「何時何分に始まったか」を書き留める場所です。救急車を待つ数分のあいだに書けるものが、玄関か台所にあると違います

関連記事として、同じ「突然の胸の痛み」を扱った自然気胸胸ではなく肩や顎が痛む心筋梗塞、腰痛で始まった大動脈破裂、痛みの強さでは重さを測れない尿管結石、そして高血圧の薬を自己判断でやめることもあわせてご覧ください。


本記事は一般的な情報提供であり、医療診断に代わるものではありません。実際の症状については必ず医療機関にご相談ください。

参考

⚠️ 免責事項この記事の情報は一般的な救急知識の情報提供を目的としており、医療行為や医療診断に代わるものではありません。症状がある場合は必ず医療機関を受診してください。生命の危機を感じる症状は、迷わず119番に通報してください。

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