今日は、**「尿管結石(にょうかん・けっせき)」**という病気の話をします。
名前は聞いたことがあるかもしれません。「石ができる、あれでしょう」と。
ただ、この病気には家庭でも救急の現場でも、いちばん誤解されやすい特徴があります。
痛みの強さと、命の危なさが、まったく比例しないのです。
転げ回るほど痛いのに命に別状がないこともあれば、同じ場所が同じように痛くて、正体が血管の病気だったこともあります。逆に、いったん治まったあとに熱が出て、そこから一気に悪くなることもあります。
「わき腹が痛い」は、痛みの強さでは重さを測れません(写真はイメージです)
順番に説明します。
1. 症状——「痛くて、じっとしていられないんです」
私たちが呼ばれる場面は、だいたいこういう形です。
夕方から夜。ご本人は意識もはっきりしていて、呼びかけにもちゃんと答えます。ところが、座っていられません。
- わき腹から背中が、突然、痛くなった
- 痛くて、じっとしていられない
- 吐き気がする/実際に吐いた
- 汗をびっしょりかいている
畳の上を転がっていたり、立ったり座ったりを繰り返していたり、壁に寄りかかって唸っていたりします。ご家族のほうが「こんなに痛がるのを見たことがない」と言われることが多い。
そして、聞いていくとこう続きます。
- 「痛みが強くなったり、弱くなったりします」
- 「さっきいちばん痛くて、今は少し楽です」
- 「今日は暑くて、あまり水を飲んでいませんでした」
この「動き回る」という点は、実は資料にも書かれています。MSDマニュアル家庭版の尿路結石の症状の項に、こうあります。
このほかにも、吐き気や嘔吐、落ち着きがない、発汗、血尿といった症状がみられるほか、尿中に結石やその破片が現れることもあります。
**「落ち着きがない」。**痛みで動き回る、という意味です。
ここは覚えておいて損がありません。おなかの中で炎症が広がっているとき(腹膜炎)、人はふつう動くと痛いので動かなくなります。逆に痛くて動き回るのは、それとは別の痛み方です。
ただし——ここを診断に使ってはいけません。あくまで「救急隊や医師に伝えるべき情報」であって、家庭で病名を決める材料ではありません。
2. 救急隊が現場で疑うもの
「わき腹から背中が、突然、激しく痛い」で呼ばれたとき、私たちが頭に浮かべるのは、正直に言えばこのあたりです。
- 大動脈解離・腹部大動脈瘤の破裂(心臓から出る太い血管が裂ける/こぶが破れる)
- 尿路結石(腎臓から膀胱への通り道に石が詰まる)
- 腎盂腎炎(腎臓の細菌の感染)
- 急性膵炎・胆のうの病気(みぞおちや背中に抜ける痛み)
- 虫垂炎・腸閉塞(おなかの中の病気)
- 帯状疱疹・神経痛・筋肉や骨の痛み
この並べ方は、私が勝手にしているものではありません。MSDマニュアル家庭版は、尿路結石の診断の項で、わざわざ「鑑別すべき病気」を名指しで挙げています。
しかしながら、以下に挙げるものなど、重度の腹痛を引き起こす他の病気と結石を鑑別する必要があります。 腹膜炎(虫垂炎、異所性妊娠、骨盤内炎症性疾患などによって引き起こされます)/急性胆嚢疾患(急性胆嚢炎)/腸閉塞/膵炎/解離性大動脈瘤
**いちばん最後に「解離性大動脈瘤」が入っている。**ここが、現場でいちばん緊張する部分です。
同じページには、CT検査をなぜ行うのかについて、こうも書かれています。
大動脈瘤や虫垂炎などのようにCTで診断可能な深刻な病気も原因の候補に含まれる場合には、このリスク(放射線被曝)は通常正当化されます。
つまり、「たぶん石でしょう」で終わらせないために検査をする、と資料のほうが書いているわけです。
血管が裂ける病気については「腰が痛い」だけだと思っていた——大動脈破裂の危険サインに別途まとめました。背中やわき腹の突然の激痛は、この記事の主役(尿管結石)よりも、まずそちらを外さなければならない、というのが救急側の順番です。
そしてもうひとつ。日本泌尿器科学会の一般向けページ「腎臓のあたりが痛む」には、腎臓が原因ではない痛みについても、はっきり書かれています。
背中の腎臓のあたりが痛むといっても腎臓には関係のない痛みもあります。いわゆる神経痛や筋肉痛、椎間板ヘルニアなど整形外科的疾患で、同じような場所が痛むことがあります。
「わき腹・背中が痛い」の行き先は、ひとつではありません。
暑い日の夕方から夜にかけて、この痛みは始まることがあります(写真はイメージです)
3. 病院で何を調べたか
搬送先で行われるのは、おおむねこの3つです。
(1)尿検査
尿に血が混じっていないかを見ます。日本泌尿器科学会の一般向けページには、こうあります。
尿路結石症では、ほとんどの症例で顕微鏡的血尿をともなっています。
ここで大事なのは「顕微鏡的」という言葉です。同じページはこう説明しています。
目でみて尿の色の変化はわからないものの、尿検査にて血が混じっている状態を顕微鏡的血尿といいます。
つまり、家庭のトイレで見ても、たいていは分かりません。「赤くないから石ではない」とは言えないということです。
逆に、目で見て分かるほど赤い尿(肉眼的血尿)は、それ自体が別の重い病気のサインでもあります。同ページは「特に肉眼的血尿は重要な病気のサインです」として、膀胱がんなどを挙げています。色がついた尿を見たら、痛みが治まっても受診してください。
(2)超音波検査(エコー)
日本泌尿器科学会は、腎臓の痛みのページで、この検査をこう書いています。
水腎症は超音波検査で簡単に診断がつきます。
「水腎症(すいじんしょう)」というのは、あとで説明しますが、石で流れがせき止められて、腎臓側に尿がたまってふくらんだ状態のことです。
(3)CT検査
MSDマニュアル家庭版は、こう書いています。
通常は、CT検査が最善の診断法になります。CT検査では、結石の位置を特定でき、結石による尿路の閉塞の程度を評価することも可能です。CT検査ではさらに、結石に似た痛みを引き起こす他の多くの病態を検出することができます。
「結石に似た痛みを引き起こす他の多くの病態」——これが、2節で並べたリストです。石を見つけるためだけの検査ではありません。
エコーは、腎臓がふくらんでいないかをその場で見られる検査です(写真はイメージです)
4. 傷病名は「尿管結石」でした
検査の結果、血管も、おなかの中の病気も否定され、残った答えがこれです。
**尿管結石。**尿路結石症(にょうろけっせきしょう)という病気のひとつです。
石そのものは、数ミリしかありません。ところが、その数ミリが痛みで人を転げ回らせ、救急車を呼ばせます。
なぜ、それほど痛いのか。日本泌尿器科学会の説明が、いちばん腑に落ちます。
腎臓は腎被膜という膜に囲まれています。**その膜が引き伸ばされると痛みが出現します。**つまり、腎臓自体が何らかの原因によって腫れてくると膜が外側に圧迫される形となり、その結果として痛みが生じるのです。急激に引き伸ばされると激しい痛みがきます。その典型的なものが、尿路結石による痛みです。
**痛みの正体は「石」ではなく、「腎臓がパンパンに張ること」だった。**ここが、この病気のいちばん大事な一行です。
同じ説明は、こう続きます。
腎臓から膀胱に尿を運ぶ尿管の中の石が詰まって、上流の腎臓側の尿管や腎盂といわれる部分に尿が過剰にたまり、腎盂の内圧が上昇します。この状態を水腎症といいます。急激に水腎が起こると激痛を伴い、多くの場合、救急外来を通じて泌尿器科に受診されます。
**学会の一般向けページ自身が「多くの場合、救急外来を通じて」と書いている。**救急車を呼ぶこと自体は、この病気ではまったく的外れではありません。
5. 尿管結石とは?
たとえるなら——「排水管に石が詰まった状態」です
腎臓は、血液から尿をつくる工場です。つくられた尿は、尿管という細い管を通って膀胱まで下りてきます。この管は、いちばん細いところで数ミリしかありません。
ここに、腎臓でできた石が落ちてきて、途中で引っかかる。
すると上流(腎臓側)に尿がたまり続けます。排水管が詰まったまま、蛇口を止められない洗面台を想像してください。水は行き場を失って、たまる一方です。
腎臓は袋(腎被膜)に包まれているので、たまるほど袋が内側から押し広げられます。この「引き伸ばされた膜」が痛みを出します。
だから痛みは、石が動くたびに強くなったり弱くなったりします。MSDマニュアル家庭版の記述が正確です。
腎仙痛は、間欠的で激しい痛みが普通は片側の肋骨から腰にかけて生じるのが特徴で、この痛みは腹部からしばしば陰部にまで広がります。痛みは波のように強弱を繰り返すような傾向があり、徐々に強くなってピークに達し、軽快するというパターンが20~60分間かけてみられます。この痛みは、下腹部から鼠径(そけい)部、精巣、外陰部などに放散する場合があります。
「腎仙痛(じんせんつう)」というのが、この痛みの名前です。波が来て、20〜60分かけて山と谷をつくる。「さっきよりマシになりました」は、治ったという意味ではありません。
どれくらいの人がなるのか
日本には、学会が行った全国調査があります。『尿路結石症診療ガイドライン 2013年版 第2版』(日本泌尿器科学会・日本泌尿器内視鏡学会・日本尿路結石症学会)に、こうあります。
2005 年の調査では、上部尿路結石の年間罹患率(2005 年1 年間に尿路結石に罹患した人の割合)は**人口10 万人対134 人(男性:192 人、女性:79 人)**で、1965 年の第1 回調査時と比較して約3 倍、第4 回調査時(1995 年)と比較しても約1.6 倍増加している
生涯罹患率(年間罹患率×平均寿命×100)は**男性では15.1%、女性では6.8%**となり、男性では7 人に1 人が、女性では15 人に1 人が一生に一度は尿路結石に罹患することになる
**男性の7人に1人。**珍しい病気ではありません。むしろ、増えています。
同じガイドラインは、増えた理由をこう説明しています。
この10年間で急激に上部尿路結石症が増加した要因として、①食生活や生活様式の欧米化が日本で定着したこと、②診断技術の向上(中略)、③人口構成の高齢化などが考えられる
(なお、このガイドラインには2023年に第3版が出ていますが、こちらは市販の書籍のため本文を参照できていません。本記事で引用しているのは、学会サイトで無料公開されている2013年版 第2版です。数字はこの版のものとしてお読みください。)
なぜ「夏」なのか
この記事を8月の終わりに書いているのには、理由があります。同じガイドラインには、**季節についてのクリニカルクエスチョン(CQ03)**があります。答えの部分を、そのまま引きます。
四季のある地域では、季節の変動と尿路結石の疼痛発作には関係がある。また、外気温の上昇と尿路結石の発生の関係が示唆される。
そして、その仕組みの説明がこう続きます。
外気温が結石の発生に関係する理由として、発汗による細胞外液の減少に伴い抗利尿ホルモンの分泌がなされ、尿が濃縮されること、尿量が減少することがあげられる。
平たく言えば、**汗をかくと、体は水を捨てないように働き、尿が濃くなって量が減る。**濃い尿は、石の材料が固まりやすい尿です。
解説文には、海外の報告として「四季がある地域では夏期に約2 倍多く結石発作が起こる」「気温が20℃以上であると結石発作が多く」といった記述も並んでいます(いずれもガイドラインが引用している論文の内容で、日本国内の数字ではありません)。
汗をかいて、水を飲まない日が続く。——この夏、多くのご家庭に当てはまったはずです。熱中症と同じ入り口から、別の病気が出てくる、ということです(暑さと脱水そのものについては熱中症の応急手当5ステップにまとめています)。
汗をかいた日に飲まなかった水は、濃い尿になって残ります(写真はイメージです)
石は、たいてい自分で出ていきます
怖い話ばかりではありません。ガイドラインのCQ09には、こうあります。
長径10 mm 未満の尿管結石の多くは、自然排石が期待できるため、保存的な経過観察(薬物治療を含む)が選択肢の一つである。結石が小さいほど自然排石率が高く、排石までの期間が短い。
具体的な数字も出ています。
尿管結石の自然排石率は、<5 mm で68%、**5~10 mm で47%**と報告された
長径10 mm 以下の尿管結石の約2/3 は、症状発現後4 週以内に自然排石される
**5ミリ未満なら約7割が自分で出る。**多くの方が「痛み止めをもらって、帰されて、数日後に出た」となるのは、このためです。
ただし、同じCQは期限も切っています。
1 か月以上自然排石されない尿管結石については、腎機能障害や感染併発の危険を回避するために、積極的な結石除去治療の介入を考慮すべきである
**「そのうち出るでしょう」には、1か月という区切りがある。**痛みが引いたからといって、通院をやめてよいという意味ではありません。
いちばん危ないのは「石+熱」です
ここが、この記事でいちばん大事な部分です。
尿管結石そのもので命を落とすことは、まずありません。危ないのは、詰まったところに感染が乗ったときです。
MSDマニュアル家庭版は、こう書いています。
**結石による閉塞部より上流側にたまった尿に細菌が停滞すると、尿路感染症が発生することがあります。**また、結石によって尿路が閉塞された状態が長期間続くと、(中略)最終的には腎臓の組織の損傷を起こします。
そして日本泌尿器科学会の一般向けページには、もっとはっきりした一文があります。
特に糖尿病、尿路結石、前立腺肥大症など、尿路感染を起こしやすい疾患がもともとある場合には**重症化しやすく、ときには命に関わる場合もあります。**排尿症状を伴う発熱を認めた場合には、できるだけ早く泌尿器科専門医を受診してください。
学会の一般向けページが「命に関わる」と書く病気は、そう多くありません。
なぜそうなるのか。日本感染症学会・日本化学療法学会の『JAID/JSC 感染症治療ガイドライン2015 ―尿路感染症・男性性器感染症―』には、その道すじが書かれています。
尿路感染症では、結石の尿管嵌頓やカテーテル閉塞などにより尿流障害が生じると尿路内圧が急激に上昇し、細菌は機械的に腎実質および血中に侵入する。
**流れが止まって圧が上がると、細菌が押し出されるように血の中へ入る。**これが、尿路の感染が全身に回る仕組みです(この先に何が起きるかは毛布を三枚かけても寒い——尿路感染から敗血症へに詳しく書きました)。
MSDマニュアル家庭版も、結石の症状として「ときに悪寒、発熱、排尿時の灼熱感や痛み、尿の濁りと悪臭」を挙げています。
だから、家庭で見るべきものは「痛みの強さ」ではありません。「熱が出たかどうか」です。
石の痛みは、それ自体では熱を出しません。痛みに熱が乗ったときが、この病気の危険な瞬間です。
「石ができるから牛乳をやめる」は、ガイドラインが否定しています(写真はイメージです)
ひと振り足す前に、一度だけ考える。それだけで変わる項目です(写真はイメージです)
夕食に寄せて、食べてすぐ寝る。ガイドラインが名指しした習慣です(写真はイメージです)
痛みが治まっても、行き先を決めるのは検査です(写真はイメージです)
「前と同じ」でも、熱があるなら電話をしてください(写真はイメージです)
痛みが引いた翌日から、できることがあります(写真はイメージです)

