AEDは、必要な場所にあるのに使われていない——市民が電気ショックを行ったのは「5%あまり」という現実
119の判断

AEDは、必要な場所にあるのに使われていない——市民が電気ショックを行ったのは「5%あまり」という現実

市民が目撃した心停止 約28,000人のうち、市民がAEDで電気ショックを行ったのは約1,450件——5%あまり。それでも市民がショックを行った場合の社会復帰率は44.4%で、救急隊到着後の17.7%を大きく上回ります。なぜ使われないのかを『救急蘇生法の指針2025』の原文から、現役救急救命士が解説します。

日本の街には、AEDがたくさんあります。駅にも、学校にも、コンビニにも、職場にも。

厚生労働科学研究の推計では、2024年12月末時点で約71.4万台(医療機関と消防機関を除く、市民が使えるAED)。国の資料は、この普及ぶりをこう表現しています。

人口当たりのAED 設置台数は他国と比較して引けをとらない水準に達した

そして——ほとんど使われていません。

AEDを示すハートと稲妻のマーク 置いてあることと、使われることのあいだには、大きな溝があります(写真はイメージです)

これは私の感想ではなく、国の手引きに書かれている数字です。

この記事は、**AEDの使い方の説明ではありません。**使い方と探し方は街中でAEDを見つける3つの場所と、実際に使うときの5ステップに書きました。

今日書くのは、**「置いてあるのに、なぜ手が伸びないのか」**のほうです。


まず、数字を1つだけ覚えて帰ってください

『救急蘇生法の指針2025(市民用)』——国の市民向けの手引きです——に、こう書かれています。

ただし、市民が電気ショックを行ったのは、市民が倒れるところを目撃した心停止傷病者約28,000人のうち約1,450件と、5%あまりにすぎませんでした。

約28,000人のうち、約1,450件。

もとになっている消防庁の統計(令和6年)では、さらに細かい数字が出ています。一般市民が心原性の心肺機能停止を目撃したのは27,769人。そのうち一般市民がAEDで除細動を実施したのは1,449人でした。

日本AED財団は、この割合をそのまま書いています。

心停止後のAED使用率はたった5.2%です。

倒れるところを人が見ていた心停止です。つまり、その場に助けられる人がいたという状況。それでも、AEDで電気ショックが行われたのは20回に1回ほどです。

日本のAEDの数が足りないから、ではありません。足りていないのは、手が伸びるかどうかのほうです。


使われたときに、何が起きているのか

同じページに、その先が書いてあります。

実際、倒れるところを目撃された突然の心停止について、市民が心肺蘇生を実施しなかった場合、1か月後の社会復帰率は3.7%であったのに比べ、実施した場合は10.4%と約3倍でした。とくに、市民が救急隊の到着までに電気ショックを行った場合の社会復帰率は44.4%で、これは救急隊が到着してから電気ショックを実施した場合の17.7%を大きく上回っています。

数字を並べます。すべて「1か月後の社会復帰率」——元の生活に戻れた割合です。

状況 社会復帰率
市民が心肺蘇生をしなかった 3.7%
市民が心肺蘇生をした 10.4%
救急隊が到着してから電気ショック 17.7%
市民が救急隊の到着までに電気ショック 44.4%

44.4%と17.7%。

同じ「電気ショック」でも、誰がやったかで倍以上ちがう。

これは私たち救急隊の技術が劣っているという話ではありません。**単純に、時間です。**私たちは119番通報を受けてから向かいます。その場にいる人は、もう、そこにいます。

この差を埋められるのは、私たちではありません。

街を行き交う人々の足元 心停止が起きたとき、いちばん早くそこにいるのは救急隊ではなく、通りかかった人です


なぜ使われないのか——3つの壁

現場に行くと、AEDが箱に入ったままであることが本当に多いです。近くにあったのに、誰も取りに行っていない。

理由は、だいたい3つに分かれると思っています。

壁① どこにあるか知らない

これは物理的な問題です。倒れた人のそばで「AEDはどこですか」と探し始めると、それだけで数分が消えます。

しかも、探そうとしても見つからないという問題が制度の側にあります。

国が登録を呼びかけている「日本救急医療財団 全国AEDマップ」に登録されているのは、約38万台。設置されている約71万台に対して、**半分ほどしか載っていません。**これは国の研究班自身が課題として書いています。

しかし、全国に約70 万台設置されている中で、設置管理者からの自主的な届出に基づく情報であるため、現在38 万台の登録にとどまっており網羅性について課題がある

登録が任意なので、地図に載っていないAEDがたくさんあるということです。つまり「アプリで探せばいい」だけでは、穴が残ります。

だから対策は単純で、自分の生活圏で、いつも通る場所のAEDを1つだけ覚えておくことです。全部覚える必要はありません。職場、最寄り駅、よく行く商業施設。1つ知っているだけで、頭の中に「取りに行く」という選択肢が生まれます。

(マップは日本救急医療財団 全国AEDマップ日本AED財団 AED N@VIがあり、指針2025も両方を名前を挙げて紹介しています。平時に自分の生活圏を一度見ておく用途には十分役に立ちます。)

壁に取り付けられたAEDの案内サイン 「そういえばあそこにあった」が出てくるかどうかで、初動が変わります

壁② 「自分が使っていいのか」

これがいちばん多い誤解だと思います。資格がいるのでは、と思われている。

指針にはっきり書かれています。

一次救命処置は特別な資格がなくても誰でも行えるだけでなく、救急救命士や医師が医療資材を用いて行う二次救命処置よりも命を守るために大きな役割を果たします。

2回読んでください。

「特別な資格がなくても誰でも行える」。そして、「救急救命士や医師が…行う二次救命処置よりも命を守るために大きな役割を果たす」。

これは国の手引きの原文です。私たち救急救命士がやることより、その場にいるあなたの手のほうが大きいと、はっきり書いてあるのです。

私は救急救命士ですが、この記述に異論はありません。現場で結果を分けているのは、私たちが到着する前の数分です。

「あとで責任を問われるのでは」について

これも、手を止める理由としてよく聞きます。国の検討会の報告書には、こう書かれています。

救命の現場に居合わせた一般市民が自動体外式除細動器を用いることは一般的に反復継続性が認められず、医師法違反にはならないものと考えられる。

医師法違反の問題に限らず、刑事・民事の責任についても、人命救助の観点からやむを得ず行った場合には、関係法令の規定に照らし、免責されるべきであろう。

また、講習の受講についてもこう書かれています。

一般市民については、医師法との関係で義務的な条件とはならないものの

講習を受けていなくても、市民がAEDを使うことは制度上の前提になっている、ということです。

(※後半の「免責されるべきであろう」は、検討会の考え方を示した文であって、条文そのものではありません。ここは正確にお伝えしておきます。)

壁③ 「間違えたらどうしよう」

「必要ない人にショックを流してしまったら」という不安です。

その心配は、AEDの設計上、あなたが背負うものではありません。

AEDは心電図を自動的に解析し、電気ショックが必要な場合には、「ショックが必要です」などの音声メッセージとともに自動的に充電を開始します。

**判断するのはAEDです。**あなたではありません。

電極パッドを貼れば、AEDが心電図を読み、**電気ショックが必要かどうかを機械が決めます。**必要なければ、こうなります。

AEDの音声メッセージが「ショックは不要です」の場合は、その後に続く音声メッセージに従って、ただちに胸骨圧迫から心肺蘇生を再開します。「ショックは不要です」は、心肺蘇生が不要だという意味ではありません。AEDの電源は切らずに、胸骨圧迫を始めてください。

**「ショックは不要です」と言われることは、失敗ではありません。**それはAEDが正常に働いた結果です。

そして操作は、全部むこうが指示してくれます。

AEDは、電源を入れると音声メッセージなどで実施すべきことを指示してくれるので、それに従ってください。

訓練用マネキンに手を当てているところ 覚えることは多くありません。電源を入れれば、あとは声が教えてくれます

ひとつだけ、新しい機種について知っておいてください。

電気ショックが必要な場合にショックボタンを押さなくても自動的に電気が流れる機種(オートショックAED)の設置が進んでいます

ショックボタンを押さなくても電気が流れる機種が増えています。この場合も、音声メッセージが「離れてください」と言うので、指示どおり傷病者から離れれば大丈夫です。

AEDを開けるのに必要なのは、知識ではなく、ふたを開ける動作です。


服を脱がせることへの、ためらいについて

ここは、あまり正面から語られませんが、実際に手が止まる理由です。とくに相手が女性のとき、周囲に人がいるとき。

指針は、この点を避けずに書いています。

傷病者の胸を露出させることはためらいがちですが、電極パッドや袋に描かれたイラストどおりに電極パッドを貼り付けることを優先します。その際に、できるかぎり人目にさらさない配慮も大事ですが、命がかかっている状況です。命を助けることを優先してください。

「配慮も大事」と書いたうえで、「命を助けることを優先してください」と結んでいます。

現実的な折り合いのつけ方はあります。**上着や衣類で周囲からの視線をさえぎる、人垣を作って外側を向いてもらう、そういう役割を誰かに頼む。**パッドを貼るのを止めるのではなく、同時にやるのが正解です。

下着については、指針が具体的に書いています。

ブラジャーなど下着の上から電極パッドを貼ってはいけません。……電極パッドを貼るべき位置にブラジャーがあって邪魔になるような場合には、ブラジャーをずらして貼り付けるとよいでしょう

全部脱がせる必要はありません。ずらせば足ります。

そして、日本AED財団が監修した自治体の解説には、こうあります。

パッドを貼ったあと、その上から服などをかけて肌を隠すようにしても、AEDの機能に影響はありません

**貼ってから、隠していい。**これを知っているだけで、手が動きやすくなるはずです。

ためらいそのものは、悪いことではありません。ためらったまま何もしない時間だけが、失われます。


時間の話

「1分ごとに救命率が◯%下がる」という数字を聞いたことがあるかもしれません。ここは、正確にお伝えしておきます。

**この数字は実在します。**日本救急医学会・日本循環器学会・日本AED財団は、いずれも「電気ショックが1分遅れるごとに救命率は約10%ずつ低下する」という趣旨を書いています。ただし、ついている条件を落とさないでください。

  • 対象は心室細動(心臓が細かくふるえて血液を送り出せなくなった状態)の場合の話です
  • 元になっているのは主に海外の研究で、日本の学会がそれを引いています

そして、**国の市民向けの手引き(救急蘇生法の指針2025)と、消防庁の統計資料には、この「1分ごとに◯%」という書き方は出てきません。**代わりに書かれているのは、こういう表現です。

心臓が止まると、時間の経過とともに救命の可能性は急激に低下しますが(図3の破線)、救急隊を待つ間に居合わせた市民が救命処置を行うと救命の可能性が2倍程度に保たれます(図3の実線)。

**「急激に低下する」。**そして、居合わせた人が動くと「2倍程度に保たれる」。

そこに、もうひとつの数字が重なります。

わが国では、119番通報をしてから救急車が現場に到着するまでにかかる時間は全国平均で約9.8分(2024年)であり、市民による一次救命処置が救命のために大変重要な役割を果たします。

平均で約9.8分。

これは「遅い」という話ではなく、物理的にそれだけかかるという話です。通報を受け、出動し、道を走り、建物に入り、あなたのところまで来る。どんなに急いでも、この時間はゼロになりません。

**その9.8分を誰が埋めるか。**それが、この記事の全部です。

胸骨圧迫をしている手元 私たちが着くまでの時間は、その場にいる人にしか埋められません


家庭と職場でできる「心の準備」

技術の練習の話ではありません。当日に手が動くかどうかは、事前に決めてあるかどうかで決まります。

① 職場のAEDの場所を、いま確認する

**「たしか1階のどこか」では間に合いません。**フロア、目印、箱の見た目まで。一度その場所まで歩いてみるのがいちばん確実です。

職場に置いてあるなら、誰が取りに行くかまで話しておくと、当日の空白が消えます。

オフィスの共有スペース 設置されている場所ほど、「あるはずなのに使われない」が起きます

② 家族で「役割」を1回だけ決めておく

倒れた人がいたとき、同時に3つのことが必要になります。

  • 119番通報する人
  • 胸骨圧迫をする人
  • AEDを取りに行く人

ひとりで全部はできません。「私が押すから、あなたが呼んで、あなたが取ってきて」——この一言が出るかどうかで、初動の速さが変わります。

家族が2人なら、通報はスピーカーにして、押しながら話すという形になります。指令員が手順を教えてくれるので、覚えていなくても進みます。

電話をかけている人の後ろ姿 通報は、手が空いている人に頼むのがいちばん確実です

テーブルで向き合って話している手元 決めるのは5分で済みます。決めていないと、当日は数分止まります

③ 一度、講習を受ける

手が動くようになるのは、結局これがいちばん早いです。

消防機関や日本赤十字社などが行っている救命講習では、実際にマネキンで胸骨圧迫をして、訓練用のAEDを操作します。「箱を開けて、パッドを貼る」を1回でも体でやっておくと、当日の心理的な壁がまるで違います。

講習の様子 知識ではなく、動作の記憶が残ります


救命士として、正直に思っていること

現場に着いて、AEDが手つかずのまま壁にかかっているのを見ることがあります。

そのとき、私はその場にいた人を責める気持ちにはなりません。目の前で人が倒れて、動ける人のほうが少ないと知っているからです。固まってしまうのは、人として自然な反応です。

ただ、伝えたいことがあります。

「何もしない」は、安全な選択ではありません。

胸骨圧迫をして、もし相手が心停止でなかったら——その人は嫌がって動きます。それで分かります。AEDを貼って、必要なければ「ショックは不要です」と機械が言います。間違いは、機械と体が教えてくれます。

一方で、**何もしなかった時間だけは、あとから取り返せません。**社会復帰率3.7%と10.4%の差は、そこにあります。

そして冒頭の数字に戻ります。5%あまり。

この数字を上げるのは、講習を受けた専門家ではなく、たまたまその場にいた人です。

和室に差し込む光 「使われたAED」の1件になるかどうかは、ふたを開けるかどうかで決まります


まとめ

  • 市民が目撃した心停止 約28,000人のうち、市民が電気ショックを行ったのは約1,450件=5%あまり(救急蘇生法の指針2025)。設置数ではなく、手が伸びるかどうかが足りていません
  • **市民が電気ショックを行った場合の社会復帰率は44.4%、救急隊が到着してから行った場合は17.7%。**差を埋められるのは、その場にいる人だけです
  • 一次救命処置は「特別な資格がなくても誰でも行える」、そして指針は**「二次救命処置よりも命を守るために大きな役割を果たす」**と書いています
  • 必要かどうかを判断するのはAEDです。「ショックは不要です」は失敗ではなく、正常に働いた結果です
  • 救急車の到着は全国平均で約9.8分(2024年)。その時間を埋められるのは、居合わせた人だけです

心停止は、助かったあとに長い時間がかかることのある出来事でもあります。入院、リハビリ、仕事を離れる期間——回復の過程で家計と時間がどう動くかは、落ち着いているいまのうちに確かめておく価値があります。

そして、呼ぶと決めたあとに何を聞かれるか119番通報で聞かれる7つのことに、そもそも呼ぶべきかどうか119番、迷ったら押していい5つの症状に書いています。

AEDは、開けた人にしか使えません。


本記事は一般的な情報提供であり、医療診断に代わるものではありません。実際の症状については必ず医療機関にご相談ください。

参考

⚠️ 免責事項この記事の情報は一般的な救急知識の情報提供を目的としており、医療行為や医療診断に代わるものではありません。症状がある場合は必ず医療機関を受診してください。生命の危機を感じる症状は、迷わず119番に通報してください。

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救急のリアル 編集部

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