119番通報を、人生で何度もする人はいません。多くの方にとっては、一生に一度あるかどうかです。
だから、いざ電話がつながったとき、頭が真っ白になるのは当たり前です。
かける側は初めてでも、受ける側は毎日受けています(写真はイメージです)
ただ、ひとつ知っておいてほしいことがあります。電話の向こうには「聞く順番」が決まっている、ということです。
こちらが何をどう話すか悩まなくても、指令員が順番に聞いてくれます。この記事では、その順番を消防庁の資料の原文どおりに並べたうえで、現場に出ている側から見て、どこが大事なのかをお伝えします。
最初の質問は「火事ですか、救急ですか」
119番は消防と救急で共通の番号です。だから最初にこう聞かれます。
119番、火事ですか?救急ですか?
答えは、「救急です」。
消防庁の「救急車を上手に使いましょう」(令和7年12月発行)には、こう書かれています。
119番通報をしたら、まず「救急です」と伝えてください。
これが1つ目です。ここで詰まる必要はまったくありません。
固定電話でも携帯電話でも、聞かれる順番は同じです
聞かれる7つのこと
ここからが本題です。
消防庁は、指令員向けに**「119番通報からの導入要領(心停止等の識別)」**というプロトコルを定めています。口頭指導の実施基準に添えられた資料で、質問1から質問7まで、聞く順番と分岐が決められています。
市民向けのリーフレットには5ステップと書かれていますが、指令室の中では7つです。差の2つは「反応」と「呼吸」。この2つが独立した質問として立っているところに、この仕事の性格が出ています。
順に見ていきます。
質問1「火事ですか、救急ですか?」
答えは「救急です」。ここで「救急」と答えると、質問2へ進みます。
質問2 救急車が出動する先の住所の確認
市民向け資料には、答え方がこう書かれています。
住所は、必ず、市町村名から伝えてください。住所が分からない時は、近くの大きな建物、交差点など目印になるものを伝えてください。
「市町村名から」。そして住所がわからなくても、目印で構いません。
質問3「どなたが、どうしましたか?」
プロトコルには、この質問の留意事項として**「通報者自らが提供する傷病者情報の表現に傾聴」**と書かれています。指令員は、通報者の言葉そのものを聞いています。
そして、ここで特定の言葉が出ると、**質問4を飛ばして即座に口頭指導へ進みます。**その言葉が原文でこう挙げられています。
<キーワード> 普段どおりの呼吸なし・水没・首をつっている
「喉にものをつめた(窒息)」も別枠で、その場で気道異物除去の指導に入ります。
答え方は、市民向け資料の言い方が使えます。
最初に、誰が、どのようにして、どうなったと簡潔に伝えてください。
もうひとつ、この質問の留意事項に、私が現場でいちばん重いと思う一文があります。
具合が悪そう、様子がおかしいなど不明確・不定愁訴な通報内容には心停止が潜んでいる
「うまく説明できない通報」を、危ないほうに倒して扱うと決められている、ということです。
質問4「大きな声で呼びかけて反応はありますか?」
ここから、市民向けリーフレットには番号が振られていない領域です。
選択肢は3つ。「はい」「反応がない」——そして、「不明(判断に迷う・わからない)」。
「わからない」は、ちゃんと用意されている答えです
質問5「胸や腹部が上下する普段通りの呼吸ですか?」
こちらも選択肢は3つで、**「不明(判断に迷う・わからない)」**が用意されています。
そして、その場合にどうなるかが決められています。
c 不明(判断に迷う・わからない) → 出動指令+心肺蘇生法の口頭指導
**「わからない」と答えると、そのまま心肺蘇生の指導が始まります。**放置されるのでも、答えを求めて足踏みするのでもありません。
これは、通報者が「わからない」と言えるように設計されているということです。だから、無理に判断しようとしないでください。**わからないときは、わからないと言ってください。**それが正しい答えです。
質問6 年齢と性別
(ここまで不明な場合)年齢はいくつぐらいですか/傷病者は男性ですか、女性ですか?
**「ここまで不明な場合」**という条件がついています。会話のなかで自然にわかっていれば、聞かれません。
答え方も、市民向け資料が助け舟を出しています。
分からない時は、「60代」のように、おおよそでかまいませんので伝えてください。
質問7「救急車はすでに出動していますので、詳しい概況を教えてください」
最後の質問です。この一文を、よく読んでください。
救急車はすでに出動していますので、詳しい概況を教えてください
詳しい話を聞かれている時点で、救急車はもう走っています。
なお、市民向け資料には、この段階で聞かれることとして、こう注記されています。
その他、詳しい状況、持病、かかりつけ病院等について尋ねられることがあります。答えられる範囲で伝えてください。
持病と薬は、現場でいちばん時間がかかる聞き取りです
「答えられる範囲で」。ここも、わからなければわからないで構いません。
なお、症状が「いつから」始まったかは、この7つの質問には項目として立っていませんが、質問7の「詳しい概況」として聞かれますし、現場でも必ず確認します。発症の時刻がわかるかどうかで、運べる病院が変わる病気があるからです。時計を見る余裕があれば、見ておいてください。
「いつから」がわかると、受け入れ先の選定が早くなることがあります
いちばん伝えたいのは、ここです
7つ挙げましたが、全部を言えないと救急車が来ない、ということはありません。
消防庁の資料に、はっきりこう書かれています。
119番通報をすると、指令員が救急車の出動に必要なことを、順番にお伺いします。**緊急性が高い場合は、すべてお伺いする前でも救急車が出動します。**あわてず、ゆっくりと答えてください。
「すべてお伺いする前でも救急車が出動します」。
先ほどの質問7の文言と、まっすぐつながります。「救急車はすでに出動していますので、詳しい概況を教えてください」——詳しく聞かれているときには、もう出ているのです。
これは、通報をためらう理由をひとつ消してくれる一文だと思います。うまく説明できる自信がないから電話しづらい、という方がいます。その必要はありません。住所と「救急です」だけでも、動き始めます。
そして**「あわてず、ゆっくりと答えてください」**。早口で全部言おうとするより、そのほうが結果的に早いのです。
こちらは、聞きながら向かっています
やり方がわからなくても大丈夫です——「口頭指導」があります
ここが、この記事で最もお伝えしたいところかもしれません。
消防庁の市民向け資料には、こう書かれています。
救える命を救うためには、応急手当が重要です。応急手当が必要な場合は、119番通報を受けた通信指令員等から、適切な応急手当のお願いと、口頭での指導を行う場合があります。
**指令員が、電話越しに応急手当を指導します。**これを「口頭指導」といいます。
『救急蘇生法の指針2025(市民用)』にも、はっきり書かれています。
胸骨圧迫のやり方がわからないときには119番通報をすれば通信指令員から、その場で教えてもらうこともできます。
さらに、実際のやりとりまで書かれています。
通信指令員は、あなたや応援に来てくれた人が行うべきことを指導してくれます。AEDが近くにある場合には、その場所を教えてもらえることもあります。「胸骨圧迫ができますか」とたずねられるので、自信がなければ指導を求め、落ち着いてそれに従ってください。
**「自信がなければ指導を求め」。**知らないことは、恥ずかしいことではなく、その場で聞けばよいこととして書かれています。
両手を空けるために
同じ指針には、続けてこうあります。
その際、電話のスピーカー機能などを活用すれば、両手を自由に使える状態になり、指導を受けながら胸骨圧迫を行うことができます。
**スピーカーにすれば、指導を受けながら両手で胸骨圧迫ができる。**これは覚えておく価値があります。
ただし、消防庁の実施基準には、指令員向けの注意として**「操作方法を知らない通報者の場合、操作方法の説明等によりかえって胸骨圧迫開始が遅れてしまう場合もあるため強要はしない」**とも書かれています。普段使い慣れていないなら、無理にやらなくて構いません。
なお、消防庁の資料には、こうも書かれています。
AEDを誰かに持ってきてもらってください
人手があるなら、ひとりは電話、ひとりはAED。この役割分担ができると、現場は大きく変わります。
手を振ってくれる人がひとりいるだけで、探す時間が消えます
書いて貼っておけば、慌てている人でも読み上げるだけで済みます

この7つを、家族の誰かひとりが知っているだけで十分です

