「虫に刺された覚えは、ありません」——草むらに入った数日後の、高熱と発疹。傷病名は「日本紅斑熱」でした
家族を守る

「虫に刺された覚えは、ありません」——草むらに入った数日後の、高熱と発疹。傷病名は「日本紅斑熱」でした

秋の草むらに入った数日後に、高い熱が出る。刺された覚えがなくても起こります。日本皮膚科学会は「日本紅斑熱の患者さんのほとんどは、マダニに刺されたという自覚がありません」と書いています。届出票の集計でも発熱99%・発疹94%に対し刺し口は67%。3人に1人は刺し口が見つかっていません。傷病名は「日本紅斑熱」。診断月別報告数は8〜10月がピークで、2024年の届出は523例、2025年には過去最多を更新しました。有効な抗菌薬がありながら死亡例が報告され続けています。同じマダニが運ぶSFTSの致命率は27%。現役救急救命士が公的資料の原文で解説します。

今日の朝の記事では、秋の低体温症を書きました。九月の野外は、まだ暑いのに、条件がそろえば体温が下がるという話でした。

夕方のこの記事は、同じ「九月の野外」から、まったく別の入口の話をします。

草むらに入ったあと、数日してから熱が出る。

そして、こう言われます。

「虫に刺された覚えは、ありません」

日本皮膚科学会は、その言葉について、はっきり書いています。

ただし、日本紅斑熱の患者さんのほとんどは、マダニに刺されたという自覚がありませんので、病歴や臨床像から、まずはこの病気を疑うことが重要です。

(日本皮膚科学会 皮膚科Q&A「Q5 日本紅斑熱とはどんな病気ですか?」)

「覚えがない」のが、この病気のふつうです。

秋風にゆれるススキの穂 刺されたことに気づかないまま、家に帰ることがあります(写真はイメージです)

はじめにお断りしておきます。**これは特定のどなたかの事案の話ではありません。**公的資料に書かれている典型的な症状の並び方を、家庭で見える形に置き直したものです。

1. 症状——「熱が出ただけです」から始まります

国立健康危機管理研究機構(JIHS)の「日本紅斑熱」のページは、症状をこう書いています。

発熱、発疹、刺し口が主要な三徴候であり、ほとんどの症例にみられる

(国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト「日本紅斑熱」/最終更新 2025年7月24日)

時間の目安も、同じページにあります。

潜伏期間は2から8日程度

(同)

これを家庭の時間割に置き直すと、典型的にはこういう流れになります。

**1日目。**草むらに入ります。墓参りの草取り、畑やあぜ道、家の裏山、犬の散歩、山菜やキノコを探しに行った林の縁——どこでも起こります。刺された感覚はありません。その日は何もありません。

**3日目から8日目のどこか。**急に熱が出ます。頭痛と、体のだるさをともないます。「かぜをひいたかな」と言います。

**そのあと。**手足に、赤い斑点が出はじめます。**かゆくありません。**本人は熱とだるさのほうがつらいので、発疹に気づかないこともあります。

秋の高原の草原 「山に行った」だけでなく、裏庭や畑でも起こります(写真はイメージです)

家族の側から見ると、最初の数日は、ただの発熱です。

そしてこの季節、発熱の説明は他にいくらでもつきます。夏の疲れが出た、朝晩の冷え込みで風邪をひいた、エアコンで体が冷えた——どれも自然な解釈です。

**「草むらに入ったこと」と「熱」が、家庭の中で結びつきません。**間が数日空いているからです。

2. 救急隊が現場で疑うこと

高い熱が出て、動けなくなって、家族が救急車を呼ぶ。この段階で救急要請になると、現場でそろいやすいのは次のような所見です。

  • 38℃台から39℃台の発熱
  • 頭痛、全身のだるさ、食欲が落ちている
  • 呼びかけへの反応は保たれているが、受け答えがゆっくりになっている
  • 高齢の方では、脱水が進んでいることが多い

私たちがまず考えるのは、この季節に多いものからです。肺炎、尿路感染症、そこから進んだ敗血症。高齢の方なら、悪寒・ふるえをともなう感染症は現場でよく出会う形です。

発疹は、最初は視界に入りません。

長袖と長ズボンで寝ていれば、手足の皮膚は見えません。血圧計を巻くために袖をまくったとき、あるいは病院で服を脱がせたときに、初めて腕や手のひらの赤い斑点が見えることがあります。

そして、こう聞かれます。

「最近、山や草むらに入りましたか」

これが、この病気で決定的な質問になります。

3. 病院で行われること

血液検査で、次のような変化が出ることが知られています。

検査所見では、ツツガムシ病と同様にCRPの上昇、肝酵素(AST、ALT)の上昇、白血球減少および血小板減少などがみられる。

(国立健康危機管理研究機構「日本紅斑熱とは(詳細版)」/IDWR 2002年第25号掲載)

そして皮膚を全身くまなく探して、刺し口——中心が黒いかさぶたになった小さな傷を探します。どこを探すかも、学会が書いています。

刺し口は脇の周囲、下腹部や太ももの内側など、おもに衣類に被われた柔らかい部位に見つかることが多く、日本紅斑熱を疑う重要な症状です。

(日本皮膚科学会 皮膚科Q&A「Q5」)

自分では見えないところに多いということです。

確定診断には特別な検査が必要ですが、ここに重要な原則があります。

リケッチア症を疑った場合には, 実験室診断の結果を待たず, 直ちに抗菌薬の投与が勧められる。これは未治療では致死性であるリケッチア症に対する国際的コンセンサスにもなっている。

(国立健康危機管理研究機構「IASR 41(8), 2020【特集】日本紅斑熱 1999〜2019年」)

**検査結果を待たずに薬を始める。**それくらい、時間が効く病気だということです。

ここまでの形でついた傷病名が、日本紅斑熱です。

草の生えた砂利道 どこで入ったかを思い出せることが、治療につながります(写真はイメージです)

4. 日本紅斑熱とは

マダニに刺されることで、リケッチアという細菌の一種(Rickettsia japonica)に感染して起こる病気です。1984年に徳島県で初めて報告された、日本で見つかった病気です。

今が、いちばん多い時期です

これが、この記事を九月に書いている理由です。

日本紅斑熱患者の診断月別報告数は, 5〜10月にかけて増加し, 8〜10月がピークとなり, マダニの活動時期と一致する。

(同 IASR 41(8), 2020)

**8月から10月がピーク。**今がその真ん中です。

JIHSの概要ページも「媒介ダニの活動が活発化する4月から11月に発生がみられる」と書いています。マダニ全体の活動については、JIHSの一般向けガイドがこうです。

マダニの多くは春から秋(3〜11月)にかけて活動が活発になりますが、冬季に活動する種類もいます。

(国立健康危機管理研究機構「マダニ対策、今できること」/2025年8月6日改訂)

そして、増えています

最新の年別届出数が、JIHSの専門誌に載っています。

診断年 つつが虫病 日本紅斑熱 SFTS
2022年 493 457 118
2023年 445 500 134
2024年 354 523 122

(国立健康危機管理研究機構「IASR Vol.46 No.12(No.550)<特集>感染症媒介節足動物」2025年12月発行/感染症発生動向調査:2025年9月9日現在届出数)

同じ号の本文には、こう書かれています。

感染症発生動向調査におけるSFTSと日本紅斑熱の国内届出数は2025年に過去最多を更新した。

(同)

わが国では, つつが虫病は以前はダニ媒介感染症としては最も届出数が多かったが, 2023年以降は日本紅斑熱の届出数が上回っている

(同)

**ダニが媒介する感染症のうち、いま日本でいちばん届出が多いのが日本紅斑熱です。**そして2025年に、過去最多を更新しています。

3人に1人は、刺し口が見つかっていない

届出票の集計に、この記事でいちばん大事な数字があります。

2007〜2019年の届出票の記載(n=2,726)では, 発熱99%, 発疹94%, 肝機能障害73%, 刺し口67%, 頭痛30%, 播種性血管内凝固症候群(DIC) 21%であった。

(同 IASR 41(8), 2020)

発熱は99%、発疹は94%。ところが**刺し口は67%**です。

つまり、診断がついた患者さんの3人に1人は、刺し口が記載されていません。「刺された跡が見当たらない」ことは、この病気を否定する材料になりません。

冒頭の学会の一文と、数字の向きが一致しています。

高齢の方に多い

60代以上の患者が多く, 年齢中央値は71歳(男性69歳, 女性73歳)であった。

(同)

草取り、畑仕事、墓参り、犬の散歩。日常の中に草むらがある人ほど、機会が多いということでもあります。

治る薬があるのに、亡くなる人がいる

日本紅斑熱をはじめリケッチア症には, テトラサイクリン系の抗菌薬が著効を示す。

(同)

学会も「適切に診断し、治療すれば治ります」と書いています。それでも、IASRはこう結ばれています。

しかし, 有効な抗菌薬がありながら, なおも死亡例が報告されている。

(同)

死亡の数字も出ています。

届出時点の死亡例は, 1999年4月〜2018年末までの間は31例(致命率1.1%, 31/2,790)報告されているが, 2019年単独では13例(致命率4.1%, 13/318)であった

(同)

**効く薬がある病気で亡くなるとしたら、原因は「間に合わなかったこと」です。**だから、家族が最初に気づけるかどうかが効いてきます。

5. 似ているけれど、別の病気があります

同じ「ダニに刺されて、数日〜2週間後に熱が出る」形をとる病気が、日本にはあと2つあります。季節も治療も違うので、分けて書きます。

つつが虫病——ピークはこれから来ます

マダニではなく、ツツガムシというもっと小さなダニの幼虫に刺されて感染します。幼虫の大きさは、学会によれば「体長約0.3mm」。

また、幼虫は体長約0.3mmという小さいダニですので、吸着されてもほとんど気付きません。

(日本皮膚科学会 皮膚科Q&A「Q6 つつが虫病とはどんな病気ですか?」)

季節は、日本紅斑熱とずれています。

診断月別の患者報告数は, 全国では5〜6月と11〜12月の二つのピークがある

(国立健康危機管理研究機構「IASR 38(6), 2017【特集】つつが虫病・日本紅斑熱 2007〜2016年」)

JIHSの概要ページも「春から初夏と、秋から初冬に二峰性の発生がある」と書いています。**11月・12月がもう一つの山です。**日本紅斑熱の山が終わるころに、こちらの山が来ます。

症状の出かたです。

潜伏期は5〜14日で、典型的な症例では39℃以上の高熱を伴って発症し、皮膚には特徴的なダニの刺し口がみられ、その後数日で体幹部を中心に発疹がみられるようになる。

(国立健康危機管理研究機構「つつが虫病(詳細版)」/IDWR 2002年第13号掲載)

発熱、刺し口、発疹は主要3徴候とよばれ、およそ90%以上の患者にみられる。

(同)

届出票の集計では「発熱95%, 発疹86%, 刺し口(黒色痂皮)が85%, 頭痛40%」(IASR 2017・n=4,185)。日本紅斑熱より、刺し口は見つかりやすいという違いがあります。

そして薬について、はっきりした一文があります。

第一選択薬はテトラサイクリン系の抗菌薬であり、使用できない場合はクロラムフェニコールを用いる。βラクタム系抗菌薬は無効である。

(同「つつが虫病(詳細版)」)

βラクタム系というのは、ペニシリン系やセフェム系のことです。かぜや扁桃炎、膀胱炎などでよく使われる系統の抗菌薬が、この病気には効きません。

「抗生物質をもらって飲んでいるのに、熱が下がらない」——それが起こりうる、という意味です。

治療が遅れたときのことも書かれています。

また、治療が遅れると播種性血管内凝固をおこすことがあり、致死率が高い。

(同)

SFTS(重症熱性血小板減少症候群)——熱と「胃腸炎」の顔をします

こちらはウイルスによる病気で、マダニが運びます。症状の並びが、日本紅斑熱ともつつが虫病とも違います。

発熱、消化器症状(食欲不振、嘔気、嘔吐、下痢、腹痛)が出現します。時に頭痛、筋肉痛、神経症状(意識障害、けいれん、昏睡)、リンパ節腫脹、呼吸不全症状、出血症状(紫斑、下血)が出現します。

(厚生労働省「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に関するQ&A」Q22)

発疹ではなく、吐き気・下痢・腹痛が前に出ます。だから、こう書かれています。

初期症状は急性胃腸炎、インフルエンザ様疾患の症状と類似し区別がつきません。

(同 Q25)

**国が「区別がつきません」と書いています。**家庭で見分ける方法はありません。だからこそ、次の第9節に書く「どこに行ったか」を伝えることが、唯一できることになります。

刺し口についても、同じ趣旨の記載があります。

また、患者がマダニに刺されたことに気がついていなかったり、刺し口が見つからなかったりする場合も多くあります。

(同 Q24)

重さの数字は、はっきりしています。

国立健康危機管理研究機構の研究によると、日本のSFTS患者の致命率は27%です。

(同 Q17)

日本でこれまでに確認されたSFTS患者の年齢層は、5歳〜90歳代で、全患者の約90%が60歳以上となっています。

(同 Q16)

**致命率27%。**日本紅斑熱やつつが虫病とは、桁が違います。潜伏期は「6日〜2週間」で、発症が多いのは「4月〜8月」ですが、「数は少ないですが、冬期の感染も確認されています」(JIHS「マダニ対策、今できること」)。

治療については、2024年に大きな変化がありました。

対症療法が主体となりますが、国内では、抗ウイルス薬(ファビピラビル)が、2024年6月に承認されており、病状の進行が予期される場合には、使用することも検討されます。

(同 Q27)

ただし、IASRは「抗ウイルス療法のみでは重篤な病態の完全な制御には至っておらず」とも書いています。薬ができたから安心、という段階ではありません。

西日本の病気、ではなくなりました

SFTSの患者は、これまで西日本を中心に報告されていましたが、2025年に関東や北海道で感染した症例が報告されました。そのため、全国的に感染リスクがあると考えられ、SFTS患者の発生が確認されていない地域においても注意が必要です。

(同 Q12)

日本紅斑熱についても、IASRが「近年, 福島, 新潟, 栃木, 茨城, 石川, 滋賀, 奈良等で, 新たに県内での感染が推定される患者が報告され, 感染地域も拡がっていると考えられる」と書いています。

「うちの県では聞いたことがない」は、根拠になりません。

ペットからうつることがあります

SFTSには、マダニ以外の経路が公的資料に明記されています。

国内ではSFTSウイルスに感染し、発症したネコ、イヌ及びチーターが報告されています。(中略)ネコやイヌでは発熱・元気消失・嘔吐・黄疸(黄疸はネコのみ)などの症状を示し、ネコは約6割、イヌは約4割が死亡します。

(同 Q5)

SFTSウイルスに感染し、発症している動物の血液や唾液などの体液に直接触れた場合、SFTSウイルスに感染する可能性があります。実際に、ネコに咬まれたことが原因でSFTSウイルスに感染した事例や発症動物の体液等との直接接触が原因と考えられる獣医療関係者の感染事例も報告されています。

(同 Q6)

室内で伸びをする猫 動物の側にも、同じ病気があります(写真はイメージです)

ただし、同じQ&Aは条件も書いています。「発症していないネコやイヌ、屋内のみで飼育されているネコやイヌからヒトがSFTSウイルスに感染した事例はこれまでに報告されていません」。

**問題になるのは「具合の悪い動物」です。**急に元気がなくなった、食べない、吐いている——そういうときに口の周りを素手で拭かない、というだけでも意味があります。動物に咬まれた・引っかかれたときの考え方は、犬猫に咬まれた傷の記事にまとめてあります。

草の斜面で立ち止まる散歩中の犬 散歩は、犬にとってもマダニに出会う時間です(写真はイメージです)

6. 「山に行っていません」でも起こります

マダニがいる場所について、JIHSの一般向けガイドははっきり書いています。

マダニは、シカやイノシシ、野ウサギなどの野生動物が出没する環境に多く生息しています。また、民家の裏山や裏庭、畑、あぜ道などにも生息しています。

(国立健康危機管理研究機構「マダニ対策、今できること」/2025年8月6日改訂)

**裏庭、畑、あぜ道。**登山の話ではありません。

つつが虫病の解説にも、家庭にとって大事な一行があります。

ヒトの移動に伴い、汚染地域に出かけて感染し、帰宅後発症する例もあるので、汚染地域だけでなく広く全国の医療機関で注意が必要である。

(同「つつが虫病(詳細版)」)

**行った先で刺されて、家に帰ってから発症する。**帰省や旅行のあとに熱が出たときは、「どこに行ったか」がそのまま情報になります。

さらに、日本紅斑熱の特集には、こういう報告も記録されています。

さらに, 野外活動のみならず, 家族により屋内へ持ち込まれたと推定されるマダニによって発症した新生児症例も報告されている

(同 IASR 41(8), 2020)

**外に出ていない人が発症することがある。**服やタオルにくっついて、家の中に入ってくるからです。

7. 避けるには

ここからは、厚生労働省のQ&AとJIHSの一般向けガイドの原文に沿って書きます。国が一般向けに出している、いちばん具体的な資料です。

服装は「すき間をなくす」

草むらや藪など、マダニが多く生息する場所に入る場合には、長袖・長ズボン(シャツの裾はズボンの中に、ズボンの裾は靴下や長靴の中に入れる、または登山用スパッツを着用する)、足を完全に覆う靴(サンダル等は避ける)、帽子、手袋を着用し、首にタオルを巻く等、肌の露出を少なくすることが大事です。服は、明るい色のもの(マダニを目視で確認しやすい)がお薦めです。

(厚生労働省「SFTSに関するQ&A」Q13)

JIHSのガイドも同じ内容で、さらに具体的です。

シャツの袖口は軍手や手袋の中に入れましょう。 シャツの裾はズボンの中に入れましょう。 ハイキングなどで山林に入る場合は、ズボンの裾に靴下を被せましょう。 農作業や草刈などではズボンの裾は長靴の中に入れましょう。

(同「マダニ対策、今できること」)

長袖のシャツが並んでいる 袖口を手袋の中に、裾をズボンの中に。それだけで入口が減ります(写真はイメージです)

全部に共通しているのは、すき間をなくすことです。そして「明るい色の服」は、今日から、何も買わずにできます。

軍手をして草をさわる手元 裏庭の草取りも、対象の作業です(写真はイメージです)

帰ってきてから、どこを見るか

また、屋外活動後は入浴し、マダニに刺されていないか確認してください。特に、首、耳、わきの下、足の付け根、手首、膝の裏などがポイントです。

なお、厚生労働省のリーフレットのほうは、見る場所を少し違う書き方で挙げています。「特に、わきの下、足の付け根、手首、膝の裏、胸の下、頭部(髪の毛の中)などに注意」(「『ダニ』にご注意ください」/平成29年4月)。胸の下と頭部(髪の毛の中)が加わります。どちらも自分では見えない場所なので、この確認は家族でやったほうが確実です。

同じリーフレットは、探すものの大きさも図で示しています。マダニは吸血前で約0.5cm、吸血後で約1.5cm(ペットボトルのキャップが約3cm)。「できもの」に見えるのは、この大きさだからです。

(厚生労働省「SFTSに関するQ&A」Q13)

学会は、乳幼児について一行足しています。

乳幼児では頭部にマダニが吸着していることがありますので、頭皮も探す必要があります。

(日本皮膚科学会 皮膚科Q&A「Q9」)

そして、何を探すのかがいちばん大事です。

マダニが付着しているときは、「できもの」のように見えることがあります。

(国立健康危機管理研究機構「マダニ対策、今できること」)

ほくろが増えた、ニキビができた、と思って放置される形です。痛くも、かゆくもありません。

服を家に入れない

野外活動後は、上着や作業着は、家の中に持ち込まないようにしましょう。 ガムテープや粘着カーペットクリーナーを使って服に付いたダニを取り除く方法も効果的です。

(同)

干された洗濯物 作業着は家に持ち込まない。玄関の外で脱ぐだけでも違います(写真はイメージです)

第6節に書いた「家族が持ち込んだマダニで新生児が発症した」という報告は、この一行の裏側にあります。

虫よけの限界

マダニに対する忌避剤(虫よけ剤)が、2013年から新たに認可されました。現在は、ディート、イカリジンの2種類の有効成分を含む忌避剤が市販されています。

忌避剤の使用でマダニの付着数は減少しますが、マダニの付着を完全に防ぐわけではありません。忌避剤を過信せず、様々な防護手段と組み合わせて対策を取ってください。

(同)

年齢の注意もあります。

ディートの使用上の注意事項として、例えば30%の製品は12歳未満に使用しないなど、年齢制限があります。

(同)

学会は「イカリジンは小児への使用制限はありません」と書いています(皮膚科Q&A「Q9」)。子どもに使うならイカリジン、というのが、この2つを並べたときの読み方になります。

8. 刺されているのを見つけたら——引き抜かない

これは、知らないと必ずやってしまうことです。

吸血中のマダニに気が付いた際は、無理に引き抜こうとするとマダニの一部が皮膚内に残って化膿したり、マダニの体液を逆流させて病原体が体内に入りやすくしてしまう恐れがあるので、医療機関(皮膚科など)で処置(マダニの除去、洗浄など)をしてもらってください。

(厚生労働省「SFTSに関するQ&A」Q14)

JIHSも同じです。

吸血中のマダニを無理に取り除こうとすると、マダニの口器が皮膚の中に残り化膿することがあるので、皮膚科等の医療機関で、適切な処置(マダニの除去や消毒など)を受けて下さい。

(同「マダニ対策、今できること」)

**指でつまんで引っぱらない。潰さない。**マダニがくっついている時間の長さも、知っておくと納得できます。

マダニ類の多くは、ヒトや動物に取り付くと、皮膚にしっかりと口器を突き刺し、長時間(数日から、長いものは10日間以上)吸血しますが、刺されたことに気がつかない場合も多いとされています。

(同 Q14)

そして、市民向けの救急の教科書にも、この項目があります。『救急蘇生法の指針2025(市民用)』の「Ⅵ ファーストエイド」の章に、**「18.マダニに刺されたとき」**という独立した節(p.56)があります。やってはいけないことが、名指しで並んでいます。

マダニは刺されてから時間が経つと除去が困難になるため、早めに対応しましょう。マダニに刺されたことに気づいた場合は、できるだけ早く、1~2日以内を目安に皮膚科などを受診してください。自分でマダニを除去する場合には、指では取り除かず、先の尖ったピンセットでマダニの口器の部分をつまみ、ゆっくり引き抜きます(図41)。**マダニの腹部をつまむと病原体を含んだ体液が皮膚内に流入することがあるため避けてください。**また、化学薬品、ライターなどの火、氷は使用しないでください。

マダニは感染症の原因となる病原体を保有していることがあります。**発熱、発疹、倦怠感などの症状が現れた場合には、すみやかに病院を受診し、マダニに刺されたことを伝えてください。**マダニを自分で除去した場合は、**捨てずに保管しておくとよいでしょう。**その後に感染症を発症した場合、原因検索のための検査に使用されることがあるため、受診の際には持参してください。

(一般財団法人日本救急医療財団 心肺蘇生法委員会 監修『救急蘇生法の指針2025(市民用)』Ⅵ ファーストエイド p.56)

**やらないことが4つ、はっきり書かれています。**指でつまんで取らない。腹部をつままない。火であぶらない。薬品や氷を使わない。

昔から言い伝えられている「たばこの火を近づける」「ワセリンで窒息させる」は、この指針には書かれていません。そして「1〜2日以内を目安に皮膚科などを受診」が、方法の説明より先に置かれています。

**行き先は皮膚科です。**これは救急車を呼ぶ場面ではありません。刺されているのを見つけただけなら、翌日の診療時間内で構いません。夜間・休日に受診するかどうかで迷ったときの考え方は、かかりつけ医と救急外来の分かれ目にまとめてあります。

そして、そのあと数週間

また、マダニに刺された後、数週間程度は体調の変化に注意をし、発熱等の症状が現れた場合はすみやかに医療機関で診察を受けてください。その際、マダニに刺されたことを医師に説明してください。

(同 Q14)

これがこの記事の結論です。取ったら終わり、ではありません。

日付にピンを刺したカレンダー 草むらに入った日、刺されていた日をカレンダーに残しておく(写真はイメージです)

9. 家族がやること——伝える一言

救急車を呼ぶかどうか

総務省消防庁のリーフレット『救急車を上手に使いましょう』(令和7年12月発行)の全9ページを確認しました。

「発疹」「ダニ」「皮膚」「草」という語は、一度も出てきません。

「虫に刺されて」という記述は、症状の欄では1か所だけです。

● 虫に刺されて全身にじんましんが出て、顔色が悪くなった

(総務省消防庁『救急車を上手に使いましょう』こども(15歳以下)のページ)

これはこどものページだけにあり、しかもハチ刺されなどのアナフィラキシー——刺された直後に起こる反応——を想定した書き方です。数日後の発熱の話ではありません。

では、この病気に届く一行が国の家庭向け資料にまったくないかというと、あります。

● 突然の高熱

(同『救急車を上手に使いましょう』おとなのページ/高齢者のページ)

**「突然の高熱」は、おとなのページにも高齢者のページにも載っています。**どちらも「頭」の欄に、「突然の激しい頭痛」と並んで書かれています。

そして高齢者のページの冒頭には、この一行があります。

高齢者は自覚症状が出にくい場合もありますので注意しましょう。

(同)

日本紅斑熱もつつが虫病もSFTSも、患者の中心は60代以上です。本人が「たいしたことない」と言うことを、判断の材料にしないでください。

意識がはっきりしない、返事がおかしい、ぐったりして動けない——そうなっていれば、迷わず119番です。呼ぶかどうかで迷う段階なら、♯7119(救急安心センター)という窓口があります。通報したときに何を聞かれるかは、119番通報で最初に聞かれることにまとめてあります。

病院で、必ず言ってほしいこと

救急車を呼ぶ場合でも、自分で受診する場合でも、伝えることは同じです。日本皮膚科学会が、そのまま書いています。

ダニ類に刺されたあとに発熱や倦怠感、発疹・刺し口などの皮膚症状、下痢・嘔吐などの消化器症状、麻痺などの神経症状が現れた場合は必ず医療機関を受診してください。その際に、野外活動歴(活動の時期、場所、内容など)やダニ類に刺された(かもしれない)ことを医師に伝えてください。

(日本皮膚科学会 皮膚科Q&A「Q9」)

厚生労働省のリーフレットは、これを3つの箇条書きにしています。考えなくてよいように、番号が振ってあります。

【受診時に医師に伝えること】  ①野外活動の日付け、②場所、③発症前の行動

(厚生労働省「『ダニ』にご注意ください」/平成29年4月)

家庭の言葉にすると、こうなります。

「◯日前に、どこそこの草むら(畑・裏庭・墓地・山)に入りました」

**日付。場所。していたこと。**この3つだけです。刺された覚えがなくても、この3つは言えます。

体温をはかる 熱の数字と同じくらい、「いつ、どこの草むらに入ったか」が効きます(写真はイメージです)

この一言が効く理由は、第3節に書いたとおりです。検査結果を待たずに抗菌薬を始めるかどうかの判断が、そこで変わるからです。刺し口は3人に1人で見つかっていません。医師が皮膚のどこを探すか、その手がかりが家族の証言しかないこともあります。

あわせて用意しておくと早いものは、いつもと同じです。お薬手帳、かかりつけ医の名前、いつから熱が出たか。

点滴を受けている手元 早く始めた治療ほど効きます(写真はイメージです)

10. 書けなかったこと

いつものように、調べたけれど書けなかったことを残します。

  • **「秋はダニ媒介感染症が増える」という一括りの言い方。**3つとも季節が違います。日本紅斑熱は8〜10月がピーク、つつが虫病は5〜6月と11〜12月の二峰性、SFTSは4〜8月に多く、秋がピークではありません(JIHS「マダニ対策、今できること」)。この記事が日本紅斑熱を主題にしているのは、そのためです。
  • **日本紅斑熱・つつが虫病の2020年以降の死亡例数と致命率。**見つけられませんでした。本文の「2019年単独で13例・致命率4.1%」はIASR 2020年8月号、つつが虫病の「20例・致命率0.48%」はIASR 2017年6月号(2007〜2016年)の数字です。年次を必ず添えて読んでください。
  • **2025年の確定した年間届出数。**本文の表は「2025年9月9日現在届出数」の集計で、2024年までです。2025年については同じ資料の「SFTSと日本紅斑熱の国内届出数は2025年に過去最多を更新した」という記述までにとどめました。速報値は報告遅れで後から増えます。
  • どの都道府県が危ないか。報告の多い県名は資料にありますが、集計期間が古く、しかも同じ資料が「感染地域も拡がっている」と書いています。「うちの県は出ていないから大丈夫」という読み方はできません。
  • **家庭でマダニを安全に取る方法。**国(厚生労働省・JIHS)はどちらも「無理に引き抜こうとせず、皮膚科等の医療機関で」と書いています。**一方、日本皮膚科学会のQ&Aは、吸着後早期であればピンセットでの自己除去に言及しています。**この記事では、家庭向けの指示としては国の記述を採りました。片方だけを読むと真逆の行動になるので、両方あることをここに書いておきます。
  • **「刺されてから何時間以内に取れば感染しない」という基準。**日本の一次資料に、家庭向けの時間基準はありませんでした。
  • **家庭でSFTSと胃腸炎を見分ける方法。**ありません。厚生労働省自身が「初期症状は急性胃腸炎、インフルエンザ様疾患の症状と類似し区別がつきません」と書いています。
  • **「発疹が出たら救急車」という基準。**消防庁のリーフレット全9ページに「発疹」の語はありません。国の家庭向け資料にある判断軸は「突然の高熱」「意識がおかしい」までです。
  • **ダニ媒介感染症の救急搬送人員。**総務省消防庁『救急救助の現況』に、この病名の集計区分はありません。
  • **JIHSの「詳細版」ページの患者数・発生地域。**日本紅斑熱・つつが虫病とも掲載は2002年のIDWRで、両ページの冒頭に「更新作業中のため、ページの一部に古い情報が含まれる場合があります」と明記されています。今回、そこからは臨床症状と予防の記述だけを引き、数字はIASRと概要ページ(2025〜2026年更新)から取りました。
  • **潜伏期の数字は、資料によって幅があります。**つつが虫病の潜伏期は、JIHSの「つつが虫病(詳細版)」で「5〜14日」、同じくJIHSの「日本紅斑熱とは(詳細版)」の中では「10〜14日」と書かれています。本文はより新しいIASR 2020年特集と概要ページに合わせて「5〜14日」としました。

まとめ

  • **「虫に刺された覚えはありません」は、この病気のふつうです。**日本皮膚科学会は「日本紅斑熱の患者さんのほとんどは、マダニに刺されたという自覚がありません」と書いています
  • 届出票の集計でも、発熱99%・発疹94%に対し、刺し口は67%。3人に1人は刺し口が見つかっていません(IASR 2020)
  • **今がピークです。**日本紅斑熱の診断月別報告数は「5〜10月にかけて増加し、8〜10月がピーク」。つつが虫病の第2のピークは11〜12月で、これから来ます
  • **増えています。**2024年の届出は日本紅斑熱523例・つつが虫病354例・SFTS 122例。2023年以降は日本紅斑熱が最多で、2025年には過去最多を更新しました(IASR 2025年12月発行)
  • **潜伏期は日本紅斑熱2〜8日、つつが虫病5〜14日、SFTS 6日〜2週間。**熱が出るころには、草むらに入った日は忘れられています
  • 効く薬があります。リケッチア症にはテトラサイクリン系が著効し、「実験室診断の結果を待たず、直ちに抗菌薬の投与が勧められる」。ただしβラクタム系(ペニシリン系・セフェム系)は無効です
  • それでも「有効な抗菌薬がありながら、なおも死亡例が報告されている」(IASR 2020)
  • SFTSの致命率は27%、患者の約90%が60歳以上(厚生労働省Q&A)。初期症状は「急性胃腸炎と区別がつきません」——見分ける方法は、家庭にはありません
  • ネコやイヌからうつった事例、人から人への感染も報告があります(同)。問題になるのは「具合の悪い動物」です
  • 西日本の病気ではなくなりました。「2025年に関東や北海道で感染した症例が報告されました」(同 Q12)
  • **山だけの話でもありません。**マダニは「民家の裏山や裏庭、畑、あぜ道などにも生息しています」(JIHS)
  • **服装は「すき間をなくす」。**袖口は手袋の中、裾はズボンの中、ズボンの裾は靴下や長靴の中。明るい色の服は見つけやすい
  • 帰ってきたら、作業着を家に持ち込まない。入浴のときに、首・耳・わきの下・足の付け根・手首・膝の裏をチェックする。厚生労働省のリーフレットはこれに胸の下・頭部(髪の毛の中)を加えています。マダニは「できもの」のように見えることがあります(吸血前で約0.5cm、吸血後で約1.5cm)
  • 『救急蘇生法の指針2025(市民用)』には「18.マダニに刺されたとき」という節があります(p.56)。指で取らない/腹部をつままない/火・薬品・氷を使わない1〜2日以内を目安に皮膚科などを受診/自分で取れたマダニは捨てずに受診時に持参
  • 受診時に伝えるのは3つ。①野外活動の日付け、②場所、③発症前の行動(厚生労働省「『ダニ』にご注意ください」)
  • 見つけても、引き抜かない。「マダニの体液を逆流させて病原体が体内に入りやすくしてしまう恐れがある」ので、皮膚科等の医療機関へ
  • 取ったあとが本番です。「数週間程度は体調の変化に注意し、発熱等の症状が現れた場合はすみやかに医療機関で」
  • **病院で言う一言は、「◯日前に、どこそこの草むらに入りました」。**検査結果を待たずに薬を始めるかどうかが、そこで変わります

「虫に刺された覚えは、ありません」

その通りかもしれません。**それでも、草むらに入った日は覚えていてください。**熱が出たとき、それを言えるかどうかで、届く薬が変わります。

今日そろえておけるもの

高価な道具は要りません。今日の話に直接効くのは、この3つくらいです。

  • イカリジンまたはディートの虫よけ — 国が名指ししている2つの有効成分です。子どもに使うならイカリジン(学会が「小児への使用制限はありません」と明記/ディートは30%製品が12歳未満に使えません)。ただし「マダニの付着を完全に防ぐわけではありません」。服装と組み合わせて使ってください
  • 明るい色の長袖アームカバー・作業用手袋 — 「服は、明るい色のもの(マダニを目視で確認しやすい)がお薦めです」(厚生労働省)。袖口を手袋の中に入れられるものだと、すき間がなくなります
  • 粘着カーペットクリーナー — 「ガムテープや粘着カーペットクリーナーを使って服に付いたダニを取り除く方法も効果的です」(JIHS)。玄関の外に一本置いておくだけで、家に持ち込む量が変わります

関連記事として、同じ「刺されたあと」でも直後に起こるハチ刺されとアナフィラキシー、小さな傷から全身に及ぶ壊死性筋膜炎、熱と寒気から進む高齢者の敗血症、同じ秋の野外で起こる低体温症もあわせてご覧ください。


本記事は一般的な情報提供であり、医療診断に代わるものではありません。実際の症状については必ず医療機関にご相談ください。

参考

⚠️ 免責事項この記事の情報は一般的な救急知識の情報提供を目的としており、医療行為や医療診断に代わるものではありません。症状がある場合は必ず医療機関を受診してください。生命の危機を感じる症状は、迷わず119番に通報してください。

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