今日は、**「急性胆管炎(きゅうせい・たんかんえん)」**という病気の話をします。
聞き慣れない名前だと思います。けれどこの病気は、家庭でいちばん見過ごされやすい形でやってきます。
なぜなら、最初に出るのが**「熱」だからです。そして熱の前にあった腹痛は、たいていもう治まっている**からです。
つまり、ご家族が見るのは「昨日ちょっとおなかが痛かったけど、今は治った人が、今日は熱を出している」という景色になります。これを「かぜ」と読まないでいるのは、正直、かなり難しい。
痛みが治まった時点で、家庭の記録はいったん終わってしまいます(写真はイメージです)
けれど、この病気には家庭でも見える手がかりが、ひとつだけあります。
白目の色です。
順番に説明します。
1. 症状——「熱が出ただけだと思っていました」
私たちが呼ばれる場面は、だいたいこういう形をしています。
**前の日の夜。**夕食のあと、しばらくしてから、みぞおちか、右のあばら骨の下が痛くなった。じっとしていられないくらい痛かったが、1時間ほどで、ひとりでに治まった。本人は「食べすぎだろう」と思って寝た。
翌日。日中はふつうに過ごしていた。ところが夕方から寒気がして、ふるえが止まらない。測ると38℃台後半。「かぜをひいたかな」と、解熱剤を飲んで横になった。
**その夜。**呼びかけへの返事が、どうもぼんやりしている。トイレに立とうとしてふらつく。ここで家族が119番。
現場に着いて私たちが見るのは、こういう状態です。
- 熱が高い(38〜39℃台。ただし高齢の方では、熱が上がりきらないこともあります)
- ガタガタふるえている、あるいはふるえが終わって、ぐったりしている
- 脈が速い(100を超えていることが多い)
- 血圧が、その人の普段より低い
- 返事がぼんやりしている(名前は言えるが、日付や場所があやしい)
- おなかを触ると、右のあばら骨の下あたりを痛がる
そして、ここが今日のいちばん大事なところです。
懐中電灯で白目を照らすと、うっすら黄色い。
痛みが始まった時刻と、治まった時刻。家庭に残せる記録は、それで足ります(写真はイメージです)
ご家族はたいてい、こうおっしゃいます。
「熱が出ただけだと思っていました。」 「昨日おなかを痛がっていましたけど、すぐ治ったので……」
この「すぐ治ったので」が、この病気のいちばんの落とし穴です。
MSDマニュアル家庭版は、胆石による痛みについてこう書いています。
大半の胆道仙痛は自然に消失しますが、毎年20~40%の人で再発し、合併症が生じることがあります。痛みが治まった後、次に発生するまで体調は良好です。 (MSDマニュアル家庭版「胆石」)
「痛みが治まった後、次に発生するまで体調は良好です」。
だから受診しない。だから記録も残らない。そして次に起きることが、熱です。
2. 救急隊が現場で疑ったもの
「高齢の家族が、高い熱を出して、ぼんやりしている」で呼ばれたとき、私たちの頭に最初に浮かぶのは、正直に言うとこのあたりです。
- 肺炎(高齢者では、せきも痰もなく熱だけのことがあります)
- 尿路感染症(高齢者の発熱では非常に多い)
- 敗血症(感染がすでに全身に回っている状態)
- 熱中症(夏場なら必ず考えます)
- 脱水
- 薬の飲み忘れ・飲みすぎ
つまり**「感染症だろう」というところまでは、すぐ行き着く**。問題は、どこの感染かです。
胸の音を聴きます。せきの有無を聞きます。尿の色とにおいを聞きます。ここまでは、どの隊でもやります。
そのうえで、**おなかに触ります。**そして、目を見ます。
なぜ目を見るのか。日本消化器病学会の患者さん向けガイドが、その理由を短く書いてくれています。
胆石が胆汁の流れを妨げるような場所にある場合には、白目の部分や皮膚が黄色くなる黄疸(おうだん)がみられることもあります。 (日本消化器病学会『患者さんとご家族のための胆石症ガイド2023』Q3)
このガイドの図には、わざわざ**「白目の部分がわかりやすい」**という注記が入っています。皮膚の色は、日焼け・照明・その人のもともとの肌の色に左右されます。白目は、比較的ごまかしがきかないということです。
そして、次の一文が続きます。
胆石のあるところに細菌が感染すると、高い熱が出るようになります。胆のうで起こると急性胆のう炎、胆管で起こると急性胆管炎と診断されます。適切な治療が行われないと、細菌を含んだ胆汁が血液中に逆流し、敗血症というきわめて重い病気を引き起こします。 (同 Q3)
「石」「熱」「黄色」——この3つがつながったとき、私たちは行き先を切り替えます。「熱が出た高齢者」ではなく、**「おなかの中で感染が起きて、全身に回りかけている人」**として運びます。
寒気とふるえは、体の中で感染が起きているサインのことがあります(写真はイメージです)
なお、寒気・ふるえについては、毛布を三枚かけても寒い——敗血症性ショックで詳しく書きました。今日の話と地続きです。
3. 病院で行われる検査と、確定診断
病院に着いてから行われることは、だいたい順番が決まっています。
(1)血液検査
MSDマニュアル家庭版は、胆石のときの血液検査についてこう書いています。
胆石が胆管をふさいでいない限り、結果はたいてい正常です。胆石が胆管をふさいでいる場合、結果は異常であることが多く、肝臓に胆汁が滞留していることが示唆されます。しばしばビリルビンや特定の肝酵素が増加しています。 (MSDマニュアル家庭版「胆石」)
ここが重要です。詰まっていなければ、血液検査は正常なのです。だから「前に検診で異常なしと言われた」は、今回の否定材料になりません。
ビリルビンというのは、黄疸の色のもとになる物質です。白目が黄色く見えるのと、採血の数字が上がるのは、同じことを別の方法で見ているだけです。
(2)腹部超音波(エコー)検査
日本消化器病学会のガイドは、この検査をこう呼んでいます。
腹部超音波検査は「おなかの聴診器」と呼ばれ、プローブという装置をおなかにあてる検査法で、患者さんの負担はほとんどありません。 (『胆石症ガイド2023』Q4)
MSDマニュアル家庭版によれば、この検査で胆嚢内の胆石の95%が正確に検出されます。
ただし、ここに落とし穴があります。同じガイドが、こう続けているのです。
胆石が総胆管の中にある総胆管結石の場合には、腹部超音波検査でこれを描出することは多くの場合困難です。 (同 Q4)
「胆のうの中の石」は見えるが、「胆管に落ちた石」は見えにくい。そして今日の話は、まさに胆管に落ちた石の話です。
(3)CT・MRCP
そこで次の検査に進みます。
胆石症を疑わせるような症状や採血での異常があるにもかかわらず、腹部超音波検査で結石がはっきりしない場合には、CT やMRCP を受けるようになります。 (同 Q4の続き)
MRCP(磁気共鳴胆管膵管撮像法)は、MRIを使って胆汁の通り道の中を見る検査です。ガイドは「X 線被曝がなく負担の少ない検査ですが、CTより検査時間が長く、閉所恐怖症や体内に金属の入っている方、刺青のある方では受けることができない場合があります」と書いています。
(4)血液培養
MSDマニュアル プロフェッショナル版は「急性胆管炎が疑われる場合は,血算および血液培養も必須である」としています。細菌が血液の中まで来ているかどうかを調べる検査です。
血液検査は「詰まっているかどうか」を映します。詰まっていなければ正常のことが多いとされています(写真はイメージです)
4. 色々検討しましたが、傷病名は「急性胆管炎」でした
熱があった。ふるえがあった。白目が黄色かった。
MSDマニュアル プロフェッショナル版は、この組み合わせについて、はっきりこう書いています。
症状としては,腹痛,黄疸,発熱または悪寒(Charcot三徴)などがある。 腹痛,黄疸,および発熱または悪寒がみられる患者では,急性胆管炎(外科的緊急事態)を疑う。 (MSDマニュアル プロフェッショナル版「総胆管結石症および胆管炎」)
「Charcot三徴(シャルコーさんちょう)」というのは、腹痛・黄疸・発熱(または悪寒)の3点セットにつけられた名前です。そして注目していただきたいのは、そのあとの一文です。
「外科的緊急事態」。
これは「急いで受診したほうがよい」という程度の言葉ではありません。その場で管を入れて胆汁を出さないと助からない状態がある、という意味です。
MSDマニュアル家庭版のほうは、同じことをもう少しやさしく書いています。
場合によって、発熱、悪寒、黄疸(皮膚や白眼の部分が黄色くなる症状)も起こります。これらの症状の組合せは、急性胆管炎という重篤な感染症が発生していることを示します。 (MSDマニュアル家庭版「胆石」)
**傷病名は、急性胆管炎。**原因は、胆のうから落ちて胆管に詰まった石でした。
5. 急性胆管炎とは?
胆汁の「出口」がふさがって、そこに細菌が入る病気です
まず、体のつくりから。
日本消化器病学会のガイドはこう説明しています。
胆汁は肝臓で1日に600-1000ml 程度作られる黄褐色で透明の液体で、胆管という管(くだ)を通って十二指腸に流れ出します。胆管の途中に胆のうという袋状の貯蔵庫があり、ここで胆汁が濃縮され、食物が十二指腸に入ってくると十二指腸に分泌され、食物中の脂肪分やビタミンの消化・吸収を助けます。 (『胆石症ガイド2023』Q1)
かんたんに言えば、こうです。
- 肝臓=胆汁をつくる工場
- 胆管=工場から腸まで胆汁を運ぶ配管
- 胆のう=配管の途中にある貯蔵タンク
この配管の中に石ができる(あるいは落ちてくる)のが、胆石症です。そして配管が詰まったところに細菌が入って炎症を起こしたのが、急性胆管炎です。
MSDマニュアル プロフェッショナル版は、詰まった先で何が起きるかをこう書いています。「胆管閉塞により十二指腸からの細菌の上行が可能となる」。腸のほうから、細菌が配管をさかのぼってくるということです。
石ができる場所によって、3つに分かれます
胆石のできる部位によって、「胆のう結石」、「総胆管結石」、「肝内結石」に分けられます。胆石症の多くは胆のう結石で約80% を占め、総胆管結石は約20%、肝内結石は約2% の頻度です。 (『胆石症ガイド2023』Q1)
そして、MSDマニュアル家庭版はこう書いています。
総胆管またはファーター膨大部の閉塞は、胆嚢管の閉塞より重篤です。
**タンク(胆のう)の出口が詰まるより、本管(総胆管)が詰まるほうが重い。**今日の話は、その重いほうです。
8割の人は、症状がありません
ここがこの病気のいちばんやっかいなところです。
胆石症になっても、胆嚢結石では8 割の人が、また総胆管結石では2~3 割の人は自覚症状がありません。このような場合には無症状胆石と呼ばれます。 (『胆石症ガイド2023』Q3)
MSDマニュアル家庭版も、ほぼ同じことを書いています。「胆石が形成された人の約80%では、長年にわたって何の症状も起こりません」。
つまり、「胆石があると言われたことがない」は、胆石がないことの証明にはならない。健康診断で腹部エコーを受けていなければ、そもそも見つかっていないだけかもしれません。
そして、MSDマニュアル プロフェッショナル版には、高齢のご家族を持つ方に読んでいただきたい一文があります。
一部の患者(通常は高齢者)では,それまで何の症状も引き起こしていなかった結石による胆道閉塞で受診することもある。
**何十年も静かにしていた石が、ある日いきなり詰まる形で表に出る。**その最初の受診が、救急車ということがあります。
痛みには「型」があります
MSDマニュアル家庭版が、胆石の痛みの経過をかなり具体的に書いてくれています。
この痛みは上腹部、通常は右側の肋骨の下にに感じられます。痛みの場所を正確に特定できないこともあり、糖尿病の患者や高齢者では特に困難です。一般に15分から1時間の間に痛みが強くなり、その後は6時間以内、長くて12時間、一定して痛みが継続します。(中略)痛みが引き始めると、30~90分かけて弱まっていき、後には鈍痛が残ります。吐き気を催して嘔吐することも、しばしばあります。 (MSDマニュアル家庭版「胆石」/原文ママ)
日本消化器病学会のガイドも、痛む場所についてこう書いています。
胆石症では右の肋骨の下の部分やみぞおちの痛み(胆道痛といいます)がみられ、右肩に抜けるような痛みが起こる場合もあります。食後少しして症状が出ることが多いのも特徴です。 (『胆石症ガイド2023』Q3)
まとめると、家庭で覚えておく形はこうなります。
- 場所:みぞおち、または右のあばら骨の下。右肩に抜けることもある
- タイミング:食後しばらくして
- 経過:15分〜1時間かけて強くなり、数時間続き、そのあと弱まって鈍痛が残る
ただし——高齢の方や糖尿病のある方では、痛む場所をうまく言えないことがある、とMSDははっきり書いています。ここは覚えておいてください。「どこが痛いかはっきりしない」は、否定材料になりません。
悪くなると、こうなります
MSDマニュアル プロフェッショナル版に、重症化した形の記載があります。
錯乱および低血圧,腹痛,黄疸,ならびに発熱または悪寒(Reynolds 5徴)を呈した場合には,死亡率が約50%となり,高度の障害が予測される。
Charcot三徴(腹痛・黄疸・発熱)に、**「錯乱(ぼんやりする、意識がおかしい)」と「低血圧」**の2つが加わった状態です。「Reynolds 5徴(レイノルズごちょう)」と呼ばれています。
家庭の言葉に直すと、こうです。
熱があって、白目が黄色くて、返事がおかしくて、ぐったりしている。
これは救急車です。迷う場面ではありません。
治療は「詰まりを取ること」です
MSDマニュアル プロフェッショナル版は、治療をこう書いています。
急性胆管炎は,積極的な支持療法と内視鏡的または外科的な緊急結石除去を必要とする緊急事態である。
抗菌薬(抗生物質)を打つだけでは足りません。詰まっているものを取り除いて、胆汁を流してやらないと治らない。だから内視鏡の設備がある病院に運ぶ必要があります。
日本消化器病学会のガイドも、総胆管結石についてこう書いています。
総胆管結石は症状を示すことが多く重症となるリスクもあるため、診断された場合には原則的に治療が必要です。 (『胆石症ガイド2023』Q5)
胆のうの石は「症状がなければ経過観察も可能」とされているのに対し、胆管に落ちた石は「原則的に治療が必要」。扱いがはっきり違います。
エコーは「おなかの聴診器」と呼ばれますが、胆管に落ちた石は写りにくいとされています(写真はイメージです)
白目は、朝の自然光の下がいちばん見やすいです(写真はイメージです)
呼ぶ根拠は「熱」と「返事がおかしい」で足ります(写真はイメージです)
詰まりを取れば、経過は大きく変わる病気です(写真はイメージです)
「昨日、おなかを痛がっていました」——それが最短の道になります(写真はイメージです)
白目を見るなら、朝の光がいちばんです(写真はイメージです)

