かかりつけ医と救急外来、どっちに行く?——分岐点は「意識・呼吸・痛みの強さ」の3点
119の判断

かかりつけ医と救急外来、どっちに行く?——分岐点は「意識・呼吸・痛みの強さ」の3点

「病院に行くべきか、そもそもどこへ行けばいいのか」。救急車を呼ぶほどではないと感じたときの行き先を、意識・呼吸・痛みの強さの3点で分ける判断フレームとして整理しました。消防庁・厚生労働省の一次資料をもとに、現役救急救命士が解説します。

今朝の記事では、119番通報で聞かれる7つのことを書きました。あれは、「救急車を呼ぶ」と決めたあとの話です。

この記事は、その手前の話をします。

「病院に行ったほうがいい気はする。でも救急車を呼ぶほどじゃない気もする。そもそも、どこに行けばいいんだろう」

病院の待合室に並ぶ椅子 行き先は、かかりつけ医・救急外来・電話相談と、実はいくつもあります(写真はイメージです)

家族から相談を受けるとき、いちばん多いのがこの迷いです。「呼ぶか呼ばないか」の前に、「どこへ」で止まっている。

これは私だけの実感ではありません。総務省消防庁の冊子は、救急車が呼ばれてしまう理由のひとつに、はっきりこう挙げています。

症状に緊急性がなくても、「交通手段がない」「どこの病院に行けばよいかわからない」「便利だから」「困っているから」と救急車を呼ぶ人がいます。

「どこに行けばいいか分からない」は、国が把握している課題なのです。この記事は、そこを埋めるために書きます。


最初にやるのは、行き先選びではありません

いきなり結論から書きます。

行き先を考える前に、3つだけ見てください。

  • 意識——呼びかけに、いつもどおり返事をするか
  • 呼吸——息づかいは普通か。苦しそうではないか
  • 痛みの強さ——耐えられないほどの痛みが、突然きていないか

このどれかが「おかしい」なら、行き先を考えるのはやめて、119番です。

かかりつけ医か救急外来かを迷っている時間が、そのまま失われます。どこへ行くかを選べるのは、この3つが大丈夫なときだけだと思ってください。

この3つは、どこから来ているのか

先に、正直なところを書いておきます。

**「意識・呼吸・痛みの強さの3点」という束ね方そのものは、私の整理です。**国の資料に「この3つで分けなさい」と書かれているわけではありません。

ただし、**3つの中身は、それぞれ国の資料に載っています。**総務省消防庁の『救急車を上手に使いましょう』は、おとなについて「ためらわず救急車を呼んでほしい症状」をこう挙げています。

意識について

意識がない(返事がない)またはおかしい(もうろうとしている)

ぐったりしている

呼吸について

急な息切れ、呼吸困難

物をのどにつまらせて、呼吸が苦しい、意識がない

胸元に手を当てている胸から下の構図 「呼吸」は、肩で息をしていないか、話すのが苦しそうでないかを見ます

痛みの強さについて

突然の激しい頭痛/突然の激痛/突然の激しい腹痛/激しい腹痛が持続する

胸の中央が締め付けられるような、または圧迫されるような痛みが2~3分続く

お腹の前で両手を組んで押さえている胸から下の構図 「痛みの強さ」で見ているのは、我慢できるかどうかと、突然きたかどうかです

私が現場で最初に見ているのも、結局この3つです。覚えきれない症状リストを持ち歩くより、3つの窓から覗くほうが、家族には実用的だと考えています。

そして冊子には、こうも書かれています。

◎その他、いつもと違う場合、様子がおかしい場合

**3つに当てはまらなくても、「いつもと違う」は、それだけで理由になります。**とくに高齢の方については、冊子が名指しで注意しています。

高齢者は自覚症状が出にくい場合もありますので注意しましょう。

ベッドで横になっている人の手に、家族が手を重ねている 「意識」は、難しい確認ではありません。名前を呼んで、いつもどおり返ってくるかどうかです


3つとも大丈夫そうなら、次に見るのは時計です

3点チェックを通過したら、次の分岐は時間です。

ここは単純で、いま診療時間内かどうかだけで分かれます。

状況 行き先
診療時間内 かかりつけ医
時間外・休日で、迷いがある #7119(子どもは#8000)
時間外で、待てないと判断した 救急外来
時間外だが、朝まで待てそう 翌朝いちばんにかかりつけ医

順番に説明します。


診療時間内なら、まずかかりつけ医

消防庁の冊子には、はっきりこう書かれています。

迷ったら「かかりつけ医」に相談しましょう!

救急の呼びかけをしている国の機関が、判断に迷ったときの相談先として、まずかかりつけ医を挙げているということです。

厚生労働省の「上手な医療のかかり方」も、同じことを繰り返し書いています。

最近なんか調子が悪いけど、わざわざ大きい病院いくのもねぇ…。/そんな時に気軽に相談できるのがかかりつけ医。遠慮せずに相談しましょう。

「かかりつけ医」は症状に応じ必要な場合には、適切な医療機関の紹介もしてくれます。まずは、身近な「かかりつけ医」に相談してみましょう。

子供の発熱!大きな病院の先生が安心よね?/大きな病院は、急患や難しい病気の人もかかる場所。まずはかかりつけ医へ!

そもそも「かかりつけ医」とは

同じサイトには定義も載っています。ただしこれは厚労省自身の定義ではなく、日本医師会の平成25年の提言からの引用として掲げられているものです。

健康に関することをなんでも相談できる上、最新の医療情報を熟知して、必要な時には専門医、専門医療機関を紹介してくれる、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師。

「なんでも相談できる」と「必要なときは紹介してくれる」——この2つが、かかりつけ医の役割として書かれているということです。

かかりつけ医が強いのは「いつも」を知っているから

私が現場で毎回ほしいと思う情報が、まさにここにあります。

  • ふだんの血圧や、ふだんの様子
  • どんな薬を、いつから飲んでいるか
  • 前回の検査で何を言われていたか
  • その人にとっての「普通」がどこか

初めて診る医師は、**その人の「普通」を知りません。**だから同じ症状でも、判断に使える材料の量がまったく違います。

**「これくらいで行っていいのかな」と思う程度の相談こそ、かかりつけ医に向いています。**時間内に電話して「こういう症状なんですが、今日みてもらえますか」と聞く。これがいちばん早くて確実な道であることは、実際かなり多いです。

聴診器と、何も書かれていないクリップボードの用紙 「いつものあなた」を知っている人がいる、というのは大きな強みです


「救急外来」は、ひとつではありません

ここは、あまり知られていないところだと思います。

家族が「救急外来」と言うとき、多くは大きな病院の夜間の窓口を思い浮かべています。ですが、時間外の医療は層になっていて、軽い症状の受け皿は別に用意されています。

厚生労働省の「救急医療の体制構築に係る指針」は、3つの層をこう定義しています。

初期救急医療

主に、独歩で来院する軽度の救急患者への夜間及び休日における外来診療を行う。

第二次救急医療(入院を要する救急医療)

高齢者救急をはじめ、地域で発生する救急患者の初期診療と入院治療を主に担う。

第三次救急医療(救命救急医療)

その他の医療機関では対応できない重篤な患者への医療を担当し、地域の救急患者を最終的に受け入れる役割を果たす。

注目してほしいのは、いちばん上の**「独歩で来院する」**という言葉です。自分の足で歩いて来られる軽い症状のための窓口が、夜間・休日にちゃんと用意されているということです。

具体的には、こういう仕組みがあります。

在宅当番医制:郡市医師会ごとに、複数の医師が在宅当番医制により、休日及び夜間において、比較的軽症の救急患者を受け入れるもの。

休日夜間急患センター:地方自治体が整備する急患センターにて、休日及び夜間において、比較的軽症の救急患者を受け入れるもの。

厚生労働省の資料では、休日夜間急患センターは551か所、在宅当番医制は607地区(いずれも令和2年4月1日現在)、救命救急センターは300か所(令和4年6月1日現在)とされています。

つまり、「時間外=大きな病院の救急外来」ではありません。

いきなり大きな病院に行くと、より重い患者が優先されるため、待ち時間が長くなることがあります。逆に、その大きな病院でしか対応できない状態の人が、順番待ちで後ろに回ることにもなります。

消防庁の冊子も、こう書いています。

救急車や救急医療は 限りある資源です。

救える命を確実に救うためには、緊急度に応じた救急医療を提供することが重要です。

**ただし、これを「遠慮しろ」と読まないでください。言っているのは「症状に合った窓口に行こう」であって、「具合が悪くても我慢しよう」ではありません。**合った窓口に行くほうが、結果としてあなた自身も早く診てもらえます。

夜間の薄暗い廊下 夜の救急外来は、来た順に診てもらえる場所ではありません

お金のことが気になって迷っているなら

「紹介状なしで大きな病院に行くと、追加のお金がかかるのでは」——これも、行き先選びをためらわせる大きな理由です。

結論だけ書くと、**緊急の患者からは、その「特別の料金」を求めてはならないことになっています。**制度の詳しい話は#7119の記事にまとめました。

お金を理由に受診をやめる判断だけは、しないでください。

いま開いている医療機関は、国のサイトで探せます

「時間外に診てくれるところが、そもそもどこにあるか分からない」——ここでつまずく方がとても多いです。

厚生労働省が**医療情報ネット(ナビイ)**という全国の医療機関検索を運用しています。

医療情報ネット(ナビイ)は診療日や診療科目といった一般的な情報に加え、対応可能な疾患・治療内容、提供しているサービスなどさまざまな情報から、全国の医療機関を検索することのできるシステムです。

今すぐ近くで診療を受けたい場合、地域を問わず希望する設備やサービスを提供する医療機関を探したい場合など、さまざまな場面で活用できます。

このサイトには**「急いで探す」という入口があり、「現在診療中の医療機関」「休日夜間対応医療機関」**から探せるようになっています。都道府県ごとにバラバラだった情報が集約され、令和6年4月から全国統一のシステムとして運用が始まりました。

当日に慌てて検索するより、平時にブックマークしておくほうが確実です。

医療情報ネット(ナビイ) https://www.iryou.teikyouseido.mhlw.go.jp/znk-web/


迷いが残るなら、#7119に電話する

3点チェックは通った。でも心配は消えない。その状態のための窓口が#7119です。

消防庁の冊子にも、各ページの下に必ず同じ案内が入っています。

※ 119番通報などの判断に迷った時は、救急相談窓口(♯7119等)にご相談ください。

そして子どもについては、別の番号があります。

子ども医療電話相談(主に休日・夜間)は♯8000 、119番通報の相談は♯7119をご利用いただけます。

#7119は多くの地域で「おおむね15歳以上」が対象で、子どもは#8000が窓口になります。地域ごとの対象年齢や受付時間の違いは#7119の記事に細かく書いたので、自分の地域が使えるかどうかは、平時に一度だけ確かめておいてください。

スマートフォンで電話をかける手元 迷っている時間そのものを、相談に変えられます


救命士としての判断フレーム

ここからは資料の話ではなく、私が現場で使っている整理です。

3点チェックを通過したあと、私が家族に聞くのはこの2つです。

① 自力で行けますか

歩けるか。車に乗って座っていられるか。

ここが崩れているなら、行き先の議論より先に119番です。支えないと立てない人を、家族が車に乗せて夜道を走るのは、それ自体がリスクです。途中で状態が変わっても、運転している人には何もできません。

(自分で病院へ向かうことの危うさは、119番、迷ったら押していい5つの症状にも書きました。)

② 朝まで待てますか

**「いま行くか、朝いちばんに行くか」**で考えると、判断がはっきりします。

朝まで待てると思えるなら、翌朝のかかりつけ医が最善です。待てないと思うなら、その感覚のほうが正しいことが多い。「待てない」と感じた理由を、そのまま#7119で話してください。

判断を鈍らせるのは、たいてい遠慮です

現場で本当によく聞くのは、症状の説明ではなく言い訳です。

  • 「こんなことで呼んで申し訳ない」
  • 「夜中に先生を起こすのは悪いから」
  • 「明日になれば治るかもしれないし」

この3つが出てきたときは、判断が医学ではなく遠慮で動いています。

遠慮は、家族思いの人ほど強く出ます。ですが遠慮で30分待って悪くなった人を、私は何度も運んでいます。逆に「呼んで、結果的に軽かった」ことを、私たちが困ったと思うことはありません。

数字でも言えます。消防庁の『令和7年版 救急救助の現況』では、令和6年に救急車で運ばれた676万9,172人のうち、**軽症(外来診療)は317万1,350人で46.8%**でした。

「半分近くが軽症なら、やはり呼びすぎでは」と読めてしまいますが、消防庁自身が注をつけています。

軽症の中には早期に病院での治療が必要だったものや、通院による治療が必要だったものも含まれる。

さらに同じ資料は、一定の条件で「救急搬送の必要性が低かった」と言える人の割合まで出しています。

救急搬送の必要性が低かった者の占める割合は13.6%となっている

軽症の46.8%ではなく、軽症者のうち13.6%です。(※消防庁は、この数字について「機械的な簡易フローチャートに基づく概数であることに留意が必要である」とも書いています。)

「呼び損になるのでは」という遠慮は、数字の面から見ても過剰だと私は思っています。

夜の窓辺 「朝まで様子を見よう」がいちばん危ないのは、決めた本人も眠ってしまうからです


今日からできる3つのこと

① かかりつけ医の診療時間と電話番号を、スマホに入れておく

**当日に調べ始めると、それだけで10分持っていかれます。**診療時間・休診日・電話番号を連絡先に登録しておく。それだけで、時間内か時間外かの判断が一瞬で終わります。

② 自分の地域の#7119が使えるか、いま確かめる

**#7119は全国どこでも使えるわけではありません。**使えない地域には、都道府県ごとの救急相談窓口があります。**元気なうちに1回調べて、番号を登録しておく。**これが、いちばん効く準備です。

③ 家族で「3点」だけ共有する

意識・呼吸・痛みの強さ。この3つがおかしければ行き先を考えない。

覚えることを増やすと、いざというとき何も出てきません。3つに絞るのは、そのためです。

メモとペン 紙に書いて冷蔵庫に貼っておくだけでも、当日の迷いが減ります


まとめ

  • **行き先を選ぶ前に、意識・呼吸・痛みの強さの3点。**どれかがおかしければ、行き先は考えずに119番。この3つの中身はいずれも消防庁の「ためらわず救急車を呼んでほしい症状」に載っています
  • **3点が大丈夫なら、次は時計。**診療時間内ならかかりつけ医。消防庁の冊子も「迷ったら『かかりつけ医』に相談しましょう!」と案内しています
  • 時間外で迷いが残るなら#7119、子どもは#8000。「救急外来」は1種類ではなく、軽症を診る時間外の窓口が別にあります
  • **「いつもと違う」は、それだけで理由になります。**とくに高齢の方は自覚症状が出にくいことがあります

朝の光が入る部屋 迷った夜を、無事な朝にするための地図です

行き先の地図を持っておくことと同じくらい、実際に入院や通院が続いたときに、家計と時間がどれくらい動くのかを知っておくことも備えのひとつです。落ち着いているいまだからこそ、確かめておく価値があります。

なお、呼ぶと決めたあとに何を聞かれるかは119番通報で聞かれる7つのことに、呼ぶべきサインそのもの119番、迷ったら押していい5つの症状に書いています。この記事と合わせて、3本で一組です。


本記事は一般的な情報提供であり、医療診断に代わるものではありません。実際の症状については必ず医療機関にご相談ください。

参考

⚠️ 免責事項この記事の情報は一般的な救急知識の情報提供を目的としており、医療行為や医療診断に代わるものではありません。症状がある場合は必ず医療機関を受診してください。生命の危機を感じる症状は、迷わず119番に通報してください。

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救急のリアル 編集部

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