毛布を三枚かけても「寒い」と震えていた80代の父——高熱の前に来る“ガタガタ”は、体温の話ではありません

毛布を三枚かけても「寒い」と震えていた80代の父——高熱の前に来る“ガタガタ”は、体温の話ではありません

「トイレが近いだけ」と言われていた80代男性が、翌日に体温40.8℃・SpO2 88%・意識もうろうで搬送された事案。手はあたたかく、顔色も悪くありませんでした。MSDマニュアル家庭版は「皮膚は熱を持ち、潮紅します」を悪化の途中として書き、「皮膚が冷たくなり」をそのあとに置いています。日本版敗血症診療ガイドライン2024と3学会の敗血症.comが家族向けに示した3つのチェック(意識・呼吸・血圧)を、現役救急救命士が一次資料の原文で整理します。

八月の終わり、まだ日中は三十度を超えていた日のことです。

通報してきたのは、同居されている娘さんでした。

「父が、毛布を三枚かけても寒い寒いと言って、震えているんです」

八月に、毛布を三枚。

その一文を聞いた時点で、私は熱中症とは違う可能性を先に考えました。理由は、この記事のなかでひとつずつ書いていきます。

布団にすっぽりくるまって横になっている 八月に毛布を重ねてもまだ寒い——この「ふるえ」は、熱の高さとは別の意味を持っています(写真はイメージです)


現場——熱は40.8℃、けれど気になったのはそこではなかった

到着したのは、住宅街の一戸建てでした。

80代の男性が、和室に敷かれた布団に横になっていました。かけているのは、たしかに毛布と掛け布団です。エアコンは効いていて、部屋そのものは暑くありません。

呼びかけると、目は開きます。でも、返事がずれる。

「お名前を教えてください」と聞くと、こちらを見て、少し間があって、「……ああ、はい」とだけ。娘さんが「お父さん、しっかりして」と声をかけると、そちらを向く。けれど、そのあとの会話が続かない。

「朝は、普通に話せていたんです」

娘さんはそう言いました。私はこの言葉を、この日いちばん重要な情報として記録票に書きました。

体温を測ると、40.8℃

高い。ですが、私が本当に気になったのは、そこではありませんでした。

  • 息が速い。数えると、1分間に28回ありました
  • 脈が速く、弱い
  • 血圧は、上が80台
  • SpO2(血中の酸素の飽和度)が、88%

高熱で、意識がぼんやりしていて、呼吸が速くて、血圧が低い。

この組み合わせを見た時点で、私の頭のなかには「敗血症性ショックの疑い」という言葉が浮かんでいました。

そしてもうひとつ、書いておかなければならないことがあります。

この方の手は、冷たくありませんでした。

顔には赤みが差していて、腕も、手のひらも、触るとあたたかい。娘さんも「手はあたたかいんです」とおっしゃいました。そのとおりでした。

「手足が冷たい」は、体調の急変を表すサインとしてよく知られています。だから、その逆=あたたかいなら、まだ大丈夫だと読んでしまいます。私も、ご家族がそう読まれるのは自然なことだと思います。

ですが、これは安心の材料になりません。理由は、この記事の7章にひとつ節を立てて書きました。

酸素を投与すると、SpO2は**98%**まで上がりました。数字だけ見れば「よくなった」ように見えます。けれど、酸素で上がるということは、それだけ酸素が足りていなかったということでもあります。

搬送先は、集中治療の対応ができる病院になりました。


前日、家族が聞いていた症状は「トイレが近い」だけだった

搬送中、娘さんに「昨日までは、どうでしたか」と聞きました。

返ってきた答えは、こうです。

「トイレが近い、って言ってました。それくらいです」

夜中に何度も起きていた。少し残った感じがすると言っていた。でも熱もなかったし、食事も食べていた。かかりつけの先生には「膀胱炎かもしれないから、水を多めに飲んでおいて」と電話で言われていた——。

ご家族は、何も間違っていません。実際、その時点では熱もなかったのです。

問題は、高齢の方の尿の感染症は、そこから先の進み方が速いことがあるという点でした。

暗い部屋の奥で、少し開いたドアから明かりがもれている 「夜中に何度もトイレに起きる」——ご家族が気づける、数少ない入口のひとつです(写真はイメージです)

木のテーブルに、水の入ったコップが二つ置かれている 「水を多めに飲んでおいて」——この助言自体は、まったく正しいものでした(写真はイメージです)


1. 敗血症とは何か——「菌が血に入る病気」ではありません

まず、言葉を正確にしておきます。

「敗血症」は、日常会話では「菌が血のなかに入ってしまう病気」のように使われがちですが、医学的な定義は違います。

**日本集中治療医学会と日本救急医学会が合同でつくった『日本版敗血症診療ガイドライン2024(J-SSCG2024)』**は、国際的な定義(Sepsis-3)をそのまま採用して、こう書いています。

敗血症は「感染症に対する生体反応が調節不能な状態となり,重篤な臓器障害が引き起こされる状態」と定義される (日本版敗血症診療ガイドライン2024 CQ1-2 解説)

つまり、**主語は「菌」ではなく「体の反応」**です。

体が感染と戦おうとして起こす反応が、行きすぎて制御できなくなり、その結果として自分の臓器が傷んでいく。それが敗血症です。

一般の方向けに、同じ3学会(日本集中治療医学会・日本救急医学会・日本感染症学会)が合同で運営している情報サイト「敗血症.com」では、こう説明されています。

敗血症は、感染症を発症された方の体内でおこる過剰な生体反応によって、組織障害や臓器障害をおこす致死性の病態です。 (敗血症.com トップページ)

そして、**敗血症のいちばん重い状態が「敗血症性ショック」**です。ガイドラインの定義はこうです。

敗血症性ショックは、敗血症の診断基準に加え、平均動脈圧65 mmHg以上を保つために輸液療法に加えて血管収縮薬を必要とし、かつ血中乳酸値2 mmol/L(18 mg/dL)を超える場合に診断する (同 CQ1-2 Answer)

お読みいただいて分かるとおり、この定義に「体温」は一文字も出てきません。ここは、この記事のなかでいちばん大事な部分です。あとでもう一度戻ってきます。


2. 尿の感染症が、なぜここまで重くなるのか——「70%」という数字

ここからが、今回いちばんお伝えしたいことです。

J-SSCG2024は、日本の多施設データベースを使った2019年の研究をもとに、敗血症の「感染巣」——つまり、どこの感染から敗血症になったか——の内訳を、こう書いています。

2019年の日本の多施設データベースを用いた後ろ向き観察研究では、敗血症の感染巣は肺(31%)、腹腔(26%)、尿路(18%)、軟部組織(11%)の順に頻度が高く、また敗血症の中でショックを合併する割合は腹腔内感染症(72%)と尿路感染症(70%)で高かった。そのため、これらの感染症では敗血症の合併に特に留意することが大切である (日本版敗血症診療ガイドライン2024 CQ1-3 解説)

この一段落を、二回に分けて読んでみてください。

前半——敗血症の入口として多いのは、肺(31%)、おなか(26%)、尿路(18%)の順。尿路は3番目です。

後半——ところが、「敗血症になったうちショックまで至った割合」で見ると、腹腔内感染症の72%に次いで、尿路感染症が70%。肺よりも高い。

言い方を変えます。尿の感染症は、敗血症の入口としては3番目だけれど、いったん敗血症になったときにショックまで進む割合は、いちばん上のグループにいるということです。

そしてガイドライン自身が、「これらの感染症では敗血症の合併に特に留意することが大切である」と、わざわざ書き足しています。

「膀胱炎くらいで大げさな」と思われがちな感染症が、なぜ救急の現場で重く扱われるのか。その理由が、この一文にあります。

**書き方の注意です。**この70%は「尿路感染症になった人の70%がショックになる」という意味ではありません。「敗血症と診断された人のうち、感染巣が尿路だった人」を母集団にした割合です。膀胱炎になった人の7割がショックになる、という話では、まったくありません。ここを取り違えると、いたずらに怖いだけの数字になってしまいます。

この状態には「ウロセプシス」という名前がついています

尿路が起点になった敗血症には、専用の呼び名があります。日本感染症学会・日本化学療法学会の『JAID/JSC 感染症治療ガイドライン2015 ―尿路感染症・男性性器感染症―』は、こう定義しています。

ウロセプシスは、尿路あるいは男性性器の重症感染症により生じた敗血症と定義される。 (JAID/JSC 感染症治療ガイドライン2015 ―尿路感染症・男性性器感染症―)

同じガイドラインは、その規模もこう書いています。

ウロセプシスは(中略)全敗血症の約25%、重症敗血症、敗血症性ショックの9〜31%を占めるとされている。

敗血症の4件に1件ほどが、尿路や男性性器から始まっているという見積もりです。前半で見た「感染巣として3番目(18%)」という数字とあわせて読んでください。

では、なぜ尿路だと重くなりやすいのか。同じガイドラインは、その道すじも説明しています。

尿路感染症では、結石の尿管嵌頓やカテーテル閉塞などにより尿流障害が生じると尿路内圧が急激に上昇し、細菌は機械的に腎実質および血中に侵入する。

尿の流れが滞ると、細菌が押し出されるように血の中へ入る、ということです。高齢の男性で尿の流れが滞りやすくなる理由については、次の節で書きます。

なお、このガイドラインは2015年のもので、引用した部分は当時の「重症敗血症」という区分を含む書き方になっています。敗血症の定義そのものは、その後2016年のSepsis-3に更新されました(第1節に書いたとおりです)。ここで引いたのは、定義ではなく「尿路が起点になったときに何が起きるか」の説明の部分です。


3. 高齢の方は、「おしっこの症状」が出ないことがある

もうひとつ、今回の事案の核心があります。

前日の症状は「トイレが近い」だけでした。痛みも、熱も、なかった。

これは珍しいことではありません。『MSDマニュアル家庭版』の「膀胱感染症」の項には、こう書かれています。

高齢者では、膀胱炎で排尿に関連する症状が起きずに、発熱や混乱などの症状がみられることがあります (MSDマニュアル家庭版「膀胱感染症」)

さらに、腎臓まで感染が及んだ「腎臓感染症(腎盂腎炎)」の項では、もっとはっきり書かれています。

高齢者では、腎盂腎炎が発生しても尿路の異常を疑わせるような症状は何も現れない場合もあります 高齢の患者では、**精神機能の低下(せん妄や混乱)、発熱、血流感染症(敗血症)**がみられることがあります (MSDマニュアル家庭版「腎臓感染症」)

「尿路の異常を疑わせるような症状は何も現れない場合もある」。

かわりに出てくるのが、せん妄や混乱、つまり「様子がおかしい」です。

消防庁のリーフレット『救急車を上手に使いましょう』(令和7年12月発行)の高齢者のページにも、冒頭にこう書かれています。

高齢者は自覚症状が出にくい場合もありますので注意しましょう。

高齢のご家族について、「痛がっていないから大丈夫」「本人が平気だと言っているから」という判断が効きにくいのは、こういう理由です。

同じことは、むせない誤嚥性肺炎でも起きます。そちらは「むせていないのに、誤嚥性肺炎」——熱も咳もない高齢者の肺炎に書きました。「典型的な症状が出ない」というのは、高齢の方の感染症に共通して起きることです。

男性の場合——「腎盂腎炎」とはかぎりません

もうひとつ、今回の事案が80代の男性だったので、書いておきます。

日本泌尿器科学会の一般の方向けページ「排尿症状を伴う発熱がある」には、こう書かれています。

男性が腎盂腎炎になることはまれで、排尿症状を伴う発熱を認める場合には、急性細菌性前立腺炎である可能性が高いと考えられます。 (日本泌尿器科学会【一般のみなさま】「排尿症状を伴う発熱がある」)

ですので、この記事では「腎盂腎炎」と決めつけて書いていません。**男性で尿路が起点だったときに、実際にどこで何が起きていたのかは、病院で調べて初めて分かることです。**家庭では「尿路のどこか」までで十分です。

同じページには、家族に覚えておいてほしい一文もあります。

特に糖尿病、尿路結石、前立腺肥大症など、尿路感染を起こしやすい疾患がもともとある場合には**重症化しやすく、ときには命に関わる場合もあります。**排尿症状を伴う発熱を認めた場合には、できるだけ早く泌尿器科専門医を受診してください。

**「命に関わる」。**学会の一般向けページが、ここまで踏み込んで書く病気は、そう多くありません。

そして名前が挙がっている前立腺肥大症は、高齢の男性にありふれた持病です。前の節で見た「尿の流れが滞ると細菌が血中に入る」という道すじと、そのままつながります。ご家族の持病にこれらがある方は、「トイレが近い」「出にくい」に熱が乗ったときの意味が、ほかの人より重いと思っておいてください。

高齢の方の手に、そっと手を添えている 「痛がっていないから大丈夫」が効きにくいのが、高齢の方の感染症です(写真はイメージです)


4. では、家族は何を見ればいいのか——学会が示した「3つのチェック」

「症状が出にくい」と言われると、では何を見ればいいのか、という話になります。

ここについて、3学会が運営する「敗血症.com」のQ&Aに、一般の方からの質問に対する回答として、はっきりした答えが載っています。長いですが、家庭で使える形になっているので、原文で引用します。

敗血症は、頭痛がする、咳が出る、痰が出る、ぶるぶる震える、高い熱が出てぐったりしている、関節が痛い、お腹が痛い、トイレが近いなど、まず、「感染症かな」と、何か感染症を疑う症状があることを確認します。 つまり、「風邪っぽい」などという感染症を疑う症状に加えて、次の3つなどをチェックしてください。

《3つのチェックポイント》 ①意識が変——意識がいつもと違い、反応が悪かったり、頭がボーっとしたりします。話が鈍かったり、話が混乱したりすることもあります。 ②呼吸が速くなる——敗血症を疑った場合には、1分間の呼吸の数を胸の上がり方や鼻息などから、数えるようにしてください。激しい息切れには、注意が必要です。 ③血圧が下がる——現在、血圧計を置かれているご家庭が増えているようです。血圧を計ることができるならば、収縮期圧(上の血圧)が100mHg以下となる場合、普段から血圧が低い方を含めて注意してください。

以上の3つをチェックを行ってください。これらのどれかが当てはまるようでしたら、病院に行くことをお勧めします。 (敗血症.com Q&A「敗血症の初期症状はどんなものですか?」)

読み返してみてください。「トイレが近い」が、感染症を疑う症状の例として、ちゃんと入っています。

そして3つのチェックは、意識・呼吸・血圧

今回の事案では、この3つが全部当てはまっていました。意識はぼんやり、呼吸は28回、血圧は上が80台です。

壁の時計の針を近くから写している 呼吸の数は、家庭にある時計ひとつで数えられます。胸の上がり下がりを1分間、そのまま数えてください(写真はイメージです)

これは医療者が使う「qSOFA」を、家庭向けに書き直したものです

この3つには、元になった医学的な指標があります。**qSOFA(クイックソーファ)**といいます。J-SSCG2024の Table 1-3-2 に、そのまま載っています。

qSOFA(quick SOFA)基準 ・意識変容 ・呼吸数 ≧22 /min ・収縮期血圧 ≦100 mmHg 感染症が疑われ、上記3項目のうち2項目以上を満たす場合に敗血症を疑う。 (日本版敗血症診療ガイドライン2024 Table 1-3-2)

見比べると、「敗血症.com」の3つのチェックは、qSOFAの3項目を、そのまま家庭向けの言葉に置き換えたものだと分かります。血圧の「100mmHg以下」という数字まで同じです。

ただし、ここで正直に付け加えておかなければならないことがあります。

ガイドラインは、qSOFAの限界も、はっきり書いています。

その後の検証研究では、敗血症診断や院内死亡に対する感度が低いことが報告され、最近ではベッドサイドにおけるスクリーニングシステムとしての有用性は疑問視されている。また、qSOFAを用いて敗血症を疑った場合でも、敗血症の確定診断はSOFAスコアを用いて行う必要がある (日本版敗血症診療ガイドライン2024 CQ1-2 解説)

「感度が低い」というのは、当てはまらなくても敗血症でないとは言えないという意味です。

だから、この3つのチェックは、こう使ってください。

  • 当てはまったら → 動く理由になる
  • 当てはまらなかったら → 「大丈夫」の理由には、ならない

医療者向けの指標ですら「単独でのスクリーニングには懸念がある」と学会が書いているものを、家庭で「陰性証明」に使うことはできません。安心するための道具ではなく、背中を押すための道具として持っておいてください。

なお、呼吸の数を数えることの意味については、「病院はいい」と言い続けた50代の弟でも書きました。呼吸数は、本人が訴えなくても外から見える、数少ない情報です。


5. 「ガタガタふるえる寒気」が意味していること

冒頭に戻ります。八月に、毛布を三枚かけても寒い。

これは「悪寒(おかん)」、なかでも体が震えるほど強いものは「戦慄(せんりつ)」と呼ばれます。

J-SSCG2024の、血液培養についての解説のなかに、こういう一文があります。

悪寒・戦慄を伴う発熱が生じた場合は菌血症の陽性尤度比が高い (日本版敗血症診療ガイドライン2024 CQ1-4 解説)

「陽性尤度比が高い」というのは、平たく言えばその所見があると、菌が血液中にいる可能性がぐっと上がるということです。

同じ解説には、敗血症を疑って血液培養を採るべき状況として、こう並んでいます。

菌血症を疑う症状(発熱、悪寒・戦慄など)の出現、原因不明の低体温、低血圧、頻呼吸、意識障害(特に高齢者や小児)、白血球数増加や減少……がみられた場合は敗血症を疑い、できるだけ早急に血液培養を2セット以上採取することが推奨されている (同 CQ1-4 解説)

**「意識障害(特に高齢者や小児)」**と、わざわざ高齢者が名指しされています。

そして「敗血症.com」の症状のリストも、いちばん上が「悪寒とふるえ、発熱」です。

ですから、ご家族に対して、私がお伝えしたいのはこの一点です。

「寒い」と言ってガタガタ震えているのに、触ると体が熱い。これは、暖めてあげれば済む話ではありません。

暑い季節ならなおさら分かりやすいはずです。八月に毛布を三枚欲しがるのは、部屋が寒いからではなく、体のなかで何かが起きているからです。

デジタル体温計を手に持っている 学会のチェックリストは「38度以上」と「36度以下」を同じ重みで並べています(写真はイメージです)


6. 40.8℃という数字を、私は「重さ」の根拠にしていません

ここで、さきほど保留した話に戻ります。

敗血症の診断基準にも、敗血症性ショックの診断基準にも、体温は入っていません

これは意外に思われるかもしれませんが、事実です。ガイドラインが挙げているのは、感染症の存在と、臓器の障害(SOFAスコア)、そしてショックについては血圧を保つのに薬が要るかどうかと、血中の乳酸値です。

体温が高いことは、感染症を疑う入口にはなりますが、重症度の物差しではありません

その証拠に、「敗血症.com」の早期発見のページに載っているチェック項目を見てください。

肺炎、下痢、膀胱炎、傷の化膿などの身近な感染症を発端に、次のような症状が出現する場合は、敗血症を疑います。 ・発熱している(38度以上)体温が低い(36度以下) ・脈が速い(90回/分以上) ・呼吸が速い(20回/分以上) ・意識が悪い(様子がおかしい) ・全身がむくんでいる ・血圧が普段より低い ・手足が異常に冷たい

上記の項目のうち、2つ以上が当てはまるなら、医療機関の受診をお勧めします。 (敗血症.com「敗血症対策|対策2 早期発見」)

「発熱している(38度以上)」と「体温が低い(36度以下)」が、同じリストに並んでいます。

熱が高いことも、熱が出ないことも、どちらも同じ重みで「敗血症を疑う理由」として置かれている。これが、体温を重症度の物差しにできない理由です。

今回の事案の40.8℃も、私は「40℃を超えたから重い」とは考えていません。重いと判断した根拠は、意識・呼吸・血圧・SpO2のほうです。

ちなみに、このリストで今回の事案に当てはまったのは、8項目のうち5項目でした(発熱・脈が速い・呼吸が速い・意識が悪い・血圧が普段より低い)。**当てはまらなかったのは「手足が異常に冷たい」です。**基準は「2つ以上」ですから、これで十分に受診の理由になります。

そして、ご家族が見ておられたのは、その当てはまらなかった1項目のほうでした。この読み違えについては、次の節で書きます。

残暑の時期の注意です。「高熱・ぐったり・意識がおかしい」という組み合わせは、熱中症でも起こります。実際、この時期のご家庭でまず疑われるのは熱中症のほうでしょう。ただし、熱中症だと思って様子を見ている間に進むタイプの病気が、ほかにもあるというのが、この記事の趣旨です。熱中症そのものの見分け方と手当ては、熱中症まとめ・家族のための完全ガイドにまとめてあります。

「熱中症」は、感染症を除外して初めてつく診断名です

ここは、残暑のあいだ、いちばんお伝えしたいところです。

日本救急医学会の『熱中症診療ガイドライン2024』は、熱中症の診断基準そのものを、こう書いています。

熱中症の診断基準は「暑熱環境に居る、あるいは居た後」の症状として、めまい、失神(立ちくらみ)、生あくび、大量の発汗、強い口渇感、筋肉痛、筋肉の硬直(こむら返り)、頭痛、嘔吐、倦怠感、虚脱感、意識障害、痙攣、せん妄、小脳失調、高体温等の諸症状を呈するもので、**感染症や悪性症候群による中枢性高体温、甲状腺クリーゼ等、他の原因疾患を「除外」したものとする。**ただし、この「除外」は、他の原因疾患に熱中症が合併することを否定するものではない。 (日本救急医学会『熱中症診療ガイドライン2024』スコープ)

二度読んでいただきたい一文です。

**熱中症という診断は、「暑い場所にいた」+「症状がある」だけでは成立しません。**いちばん先に名前が挙がっている「感染症」などを除外して、初めて熱中症と呼べる。これが、国内の学会が定めた診断基準です。

そして、**家庭に除外の手段はありません。**血液検査も、尿検査も、画像検査もできない。だから、ご家族が「熱中症だと思います」とおっしゃるとき、それは診断ではなく、いちばんもっともらしい仮説です。仮説であること自体は、まったく悪いことではありません。私たちも同じ順番で考えます。問題は、その仮説のまま様子を見てしまうことです。

同じガイドラインは、解熱薬についてのCQのなかでも、こう書いています。

体温が上昇している場合、鑑別診断は広範囲にわたり、感染症、内分泌・神経疾患、中枢神経系および中毒も含まれる。

「体温が上がっている」という所見ひとつから枝分かれする可能性は、専門医にとっても広い、ということです。

もうひとつ、引用の末尾も大切です。「この『除外』は、他の原因疾患に熱中症が合併することを否定するものではない」——**感染症と熱中症は、どちらか一方とはかぎりません。**両方が同時に起きていることもあります。

最後に、この記事の第5節とつなげておきます。上に引いた熱中症の症状リストを、もう一度見てください。めまい、失神、生あくび、大量の発汗……「悪寒」も「戦慄」も、そこに並んでいません。

これは「震えていれば感染症、震えていなければ熱中症」という話ではありません(後半の「書けなかったこと」に書きます)。ただ、暑い部屋で毛布を三枚かけて震えている高齢の方を見たとき、それを熱中症の説明で片づけられるかというと、少なくとも学会の症状リストにその根拠はない、ということです。

夏の光が差し込む和室 暑い部屋にいたことは、熱中症の必要条件であって、十分条件ではありません(写真はイメージです)


7. 「手はあたたかいし、顔色もいい」——それが安心の材料にならない理由

冒頭に書いた、あの一点に戻ります。

この方の手は、あたたかかった。顔にも赤みが差していました。娘さんは、そこを見て「そこまでではないかもしれない」と感じておられました。

前の節のリストで、8項目のうち当てはまらなかったのは「手足が異常に冷たい」だけです。そして人は、当てはまった5つより、当てはまらなかった1つのほうを見てしまいます。

これは責める話ではありません。「急変した人の手は氷のように冷たい」というイメージは、ドラマでも小説でも繰り返し描かれてきました。だから逆に、あたたかければ大丈夫だと読んでしまう。ごく自然なことです。

**ただ、リストのどこにも「あたたかければ敗血症ではない」とは書かれていません。**書かれていないことを、こちらが読み取ってしまっているだけです。

布団から出た手に、家族の手がそっと重ねられている 触って確かめるのは、正しい行動です。変えていただきたいのは、その手ざわりの読み方のほうです(写真はイメージです)

公開資料は、「あたたかい」と「冷たい」を、順番で書いています

『MSDマニュアル家庭版』の「敗血症および敗血症性ショック」には、症状がどういう順番で進むかが書かれています。原文です。

敗血症が悪化すると、錯乱を来し、覚醒レベルが低下します。**皮膚は熱を持ち、潮紅します。**脈拍が速くなり、動悸が起こって、呼吸が速くなります。尿の回数と量が少なくなり、血圧が低下します。その後、多くの場合、体温が正常値以下に低下し、呼吸が非常に困難になります。血流減少のため、皮膚が冷たくなり、斑点ができたり青くなったりします。 (MSDマニュアル家庭版「敗血症および敗血症性ショック」)

ゆっくり読み直してみてください。

**「皮膚は熱を持ち、潮紅します」は、「敗血症が悪化すると」のあとに置かれています。**あたたかい・顔が赤いは、良い兆候として書かれていません。悪くなっていく途中の記述です。

そして「皮膚が冷たくなり」は、そのさらに先にあります。体温が下がり、呼吸が非常に困難になり、皮膚に斑点が出る——という段階です。

つまり、手が冷たくなるのを待っていたら、それは待ちすぎだということです。

同じ一文のなかに「尿の回数と量が少なくなり」も入っています。今回のように尿の感染から始まった場合、前日までは「トイレが近い」で、悪くなるにつれて逆に「出なくなる」ことがある。ご家族が見ておられる場所は同じなのに、意味が反転します。ここも覚えておいてください。

学会は、この状態に「warm shock」という名前をつけています

日本語の公的資料にも、この「あたたかいショック」を名指しした記述があります。**日本救急医学会の「医学用語解説集」**です。

まず、私たちがふだん「ショック」と聞いて思い浮かべる姿。同解説集の「ショック」の項には、こうあります。

典型的には交感神経系の緊張により、頻脈、顔面蒼白、冷汗などの症状をともなう。 (日本救急医学会 医学用語解説集「ショック」)

顔が白い。冷や汗が出ている。脈が速い。——ドラマでも、救命講習でも、こう習います。私たちもそう教わりました。

ところが、同じ解説集の「循環亢進状態」の項には、こう書かれています。

敗血症性ショックにおける循環動態は、高心拍出量、低末梢血管抵抗、低血圧であり、低容量性ショックでみられるような冷たい湿った皮膚や四肢末端の蒼白はみられず、むしろ末梢皮膚温は温かく、warm shock と呼ばれる。 (日本救急医学会 医学用語解説集「循環亢進状態」)

「むしろ末梢皮膚温は温かく」。

出血や脱水によるショックでは、体は手足の血管を締めて、中心に血を集めようとします。だから手足が冷たくなり、顔が白くなる。けれど敗血症性ショックでは、その血管が全身でゆるんでしまう(引用文の「低末梢血管抵抗」がそれです)。結果として、血圧は下がっているのに、手足は温かいという、直感に反する組み合わせが起きます。

今回の事案が、まさにこれでした。血圧は上が80台、SpO2は88%。それでも腕も手のひらも温かく、顔には赤みが差していた。

ふたつ、正直に付け加えておきます。

ひとつ。この解説集の記述は、1992年の古い定義(ACCP/SCCM)に基づいて書かれています。現在の敗血症の定義は、第1節に書いたとおり2016年のSepsis-3に更新されました。ただし、ここで引用した「手足が温かい」という循環の見え方の説明そのものは、定義の新旧で変わる性質のものではありませんので、そのまま紹介しました。

もうひとつ。この話は、逆向きには使えません。「手足が温かいから敗血症性ショックだ」とは言えません。解説集が書いているのは「(ほかのショックのような)冷たい皮膚や蒼白はみられない」までであって、家庭で手の温度から病名を当てるための記述ではありません。手足が温かいことは、安心の根拠にならない——そこで止めるのが正確です。

掛け布団から出ている足元 手足が温かいことは、「大丈夫」の根拠にはなりません(写真はイメージです)

現場での読み方

私たちが「手はあたたかいですね」と言われて、それでも高い緊急度で運んだ理由は、単純です。

当てはまらなかった1項目を見に行かず、当てはまった5項目を見たからです。

意識がおかしい。呼吸が28回ある。上の血圧が80台。それだけで、学会が家庭向けに示した3つのチェックは全部そろっています。手のひらの温度は、その3つを打ち消しません。

ご家庭で使える形にすると、こうなります。

  • 手足の冷たさは、「あったら急ぐ」サインです
  • なくても、「大丈夫」のサインにはなりません
  • 見る順番は、いつも意識・呼吸・血圧が先です

8. SpO2 88%——酸素を吸って98%になったことの意味

今回、SpO2は88%でした。酸素投与で98%に上がりました。

SpO2の数字については、日本呼吸器学会が一般の方向けのQ&Aで、はっきりした基準を出しています。

一般的に96〜99%が標準値とされ、90%以下の場合は十分な酸素を全身の臓器に送れなくなった状態(呼吸不全)になっている可能性があるため、適切な対応が必要です。 (日本呼吸器学会 呼吸器Q&A Q28)

88%は、この「90%以下」に入ります。

指にパルスオキシメーターを装着している手元 数字が上がったのではなく、酸素を足したから上がった——ここを取り違えないでください(写真はイメージです)

ここで大事なのは、酸素で98%まで上がったからといって、病気が軽くなったわけではないということです。

酸素を足せば数字は上がります。上がったのは、外から酸素を足しているからです。「足さないと保てなかった」という事実のほうが、状態を表しています。

もうひとつ、酸素そのものの位置づけについて。『MSDマニュアル家庭版』は、敗血症の治療として抗菌薬・輸液・酸素・感染巣の除去(必要なら血圧を上げる薬)を並べています。**酸素は、そのうちの1つです。**数字が戻ったということは、酸素という手当てが効いているという意味であって、残りの3つが要らなくなったという意味ではありません。同じページには「敗血症と敗血症性ショックは、直ちに抗菌薬で治療します。この治療は、診断を確認するために検査結果を待つことなく開始します」とも書かれています。病院に着かないと始まらない治療がある、ということです。

なお、家庭のパルスオキシメータは条件で簡単に狂います。同じ日本呼吸器学会のQ&Aは、測定の誤差要因として「体動によって発光部と受光部がずれる場合」「指先の冷えなどで測定部に血流が十分にない場合」「マニキュアなどで光の透過が邪魔される場合」を挙げ、「正しく測定されないことがあります」と書いています。手足が冷えている方の数値は、そのまま鵜呑みにできる値ではありません。私たちが酸素を投与したのも、数字だけを見たからではなく、意識と呼吸と血圧を合わせて判断したからです。

同じQ&Aには「装着直後ではなく、脈拍が安定する20〜30秒後に数値を読んでください」とも書かれています。ご家庭にパルスオキシメータがある方は、ここも合わせて覚えておいてください。SpO2の読み方については、1週間、食べられていない——熱はなかった。けれど酸素は88%だったで詳しく書いています。今回とほぼ同じ数字で、原因がまったく違う事案です。


9. 119番を呼ぶ判断——消防庁のリーフレットは、高齢者のページに何を書いているか

「受診したほうがいい」と「救急車を呼んでいい」は、別の話です。

消防庁のリーフレット『救急車を上手に使いましょう』(令和7年12月発行)の高齢者のページに載っている「ためらわず救急車を呼んでほしい症状」から、今回の事案に関係する部分を挙げます。

  • 突然の高熱
  • 意識がない(返事がない)またはおかしい(もうろうとしている)
  • 急な息切れ、呼吸困難
  • 急にふらつき、立っていられない
  • 突然の激しい腹痛

今回の80代男性は、「突然の高熱」「意識がおかしい(もうろうとしている)」「急な息切れ、呼吸困難」の3つに当てはまっていました

リーフレットは「これらのうち2つ以上で」とは書いていません。ひとつ当てはまれば、ためらわず呼んでいいという書き方です。

判断に迷う段階であれば、救急相談窓口(♯7119など)という選択肢もあります。使い方は#7119(救急安心センター)の使い方にまとめました。ただし、上の症状が出ているなら、迷う段階を過ぎています。

119番でどんなことを聞かれるかを先に知っておきたい方は、119番通報、電話に出た瞬間に聞かれる7つのことをどうぞ。

スマートフォンを手に持っている ひとつ当てはまれば、ためらわずに119番です(写真はイメージです)


10. 「1時間以内に抗生物質」という話を、聞いたことがあるかもしれません

敗血症について調べると、「発症から1時間以内の抗菌薬投与が命を分ける」という説明を目にすることがあります。

これについて、J-SSCG2024の推奨は、慎重な書き方になっています。

CQ2-2:敗血症に対する経験的抗菌薬は、敗血症認知後1時間以内を目標に投与開始するか? Answer:敗血症あるいは敗血症性ショックと認知した後、抗菌薬は可及的早期に開始するが、必ずしも1時間以内という目標は用いないことを弱く推奨する(GRADE 2C) (日本版敗血症診療ガイドライン2024 CQ2-2)

理由も書かれています。1時間に固執すると、原因となっている菌の見当をつけるための検査が不十分になり、必要のない広い範囲の抗菌薬が増えてしまう可能性がある、というものです。

ですから、「1時間ルール」を根拠にご家族が焦る必要はありません。

ただし、「可及的早期に開始する」という前提は変わっていません。早いに越したことはない。ただ、時計の針で追い立てられるようなものではない。——そう理解しておいてください。

そして、ご家族の側にできる「早く」は、気づいて、動くことだけです。病院に着いてからの時間は、私たちと病院の仕事です。


11. 救急車を待つあいだに、ご家族にお願いしたいこと

今回の現場で、娘さんが用意してくださっていたものが、とても役に立ちました。

お薬手帳と、前日からのメモです。

敗血症を疑う場面で、病院がまっさきに知りたいのは「どこの感染か」です。感染の入口が分かれば、想定する菌が絞れます。J-SSCG2024も、経験的な抗菌薬の選択について「まず感染巣の同定が重要であり」と書いています。

そして今回、その入口を示した情報は、娘さんの「昨日、トイレが近いと言っていました」の一言でした。

本人は、その時点でもう説明できません。意識がぼんやりしているからです。

ですから、次の5つを、思い出せる範囲でメモにしてください。

  1. いつから、いつもと違うか(「昨日の夜から」「一昨日から」で十分です)
  2. どんな症状が、どの順番で出たか(トイレが近い → 寒気 → 熱、のように)
  3. 尿の様子(回数、色、においが変わっていないか、痛みや残った感じがないか)
  4. 最後に食べた・飲んだのはいつか
  5. 飲んでいる薬——お薬手帳をそのまま持っていくのがいちばん確実です

とくに**3番の「尿の様子」**は、高齢の方が敗血症で運ばれてくる場面で、ご家族しか答えられないことが多い項目です。

薬の情報のまとめ方は家庭の常備薬とお薬手帳の整理術に、具合の悪い日に薬をどうするかは「薬をやめる」も「いつも通り飲む」も、具合の悪い日に決めないでくださいに書いてあります。

開いたノートと鉛筆が机に置かれている 本人が説明できなくなる前提で、メモを1枚つくっておくのが確実です(写真はイメージです)


12. この病気が、家族の生活に何を残すか

最後に、少しだけ、退院したあとの話をします。

敗血症は、助かったらそれで終わり、という病気ではありません。「敗血症.com」は、後遺症についてこう書いています。

敗血症で救命された人のうち多くは完全に治癒し、元通りの生活に戻ることができます。しかし、集中治療を必要とする他の病気と同じように、一部の人は長期的な影響(後遺症)が残ります。 ……不眠/悪夢、鮮明な幻覚、パニック発作/筋肉の動きが悪い、関節痛/精神(認知)機能の低下/自尊心と自己信念の喪失/臓器機能の障害(腎不全、呼吸機能の問題など)/四肢を失う(治療により手や足を切断するなど) (敗血症.com「敗血症とは|予後と後遺症」)

そして、こうも書かれています。

もともと腎臓の機能が低下しているような人は、敗血症の経過でさらに腎機能が悪化し、生涯透析を余儀なくされることもあります

集中治療室での治療が必要になり、そのあとにリハビリの期間が続く。ご家族の側も、付き添いや手続き、退院後の生活の組み立てで、仕事を調整せざるを得ないことがあります。

高齢のご家族と暮らしていて、こうした「入院が長引く病気」が現実的な選択肢として見えてきた段階で、いまの保険がどこまでカバーしているのかを一度だけ確認しておくのは、悪くない使い方だと思います。急いで入り直すという話ではなく、手元の証券を開いて、入院日額と、通算の限度と、集中治療室に入ったときの扱いを確かめるだけでも意味があります。


この記事で「書けなかったこと」

いつものように、確認できなかったこと・書けなかったことを正直に置いておきます。

  • **「尿路感染症になった人のうち、何%が敗血症になるのか」。**この割合を示した公的な統計は見つかりませんでした。本文の70%は、あくまで「敗血症と診断された人のうち、感染巣が尿路だった人」の中でショックを合併した割合です。母集団が違います。
  • **敗血症の救急搬送人員。**消防庁の『救急救助の現況』は事故種別(急病・一般負傷など)による集計で、疾患名ごとの搬送人員は公表されていません。「年間何人が敗血症で運ばれているか」は書けませんでした。
  • 年間の死亡数について、二つの数字が並存しています。厚生労働省『令和6年 人口動態統計(確定数)』第9表では、死因が「敗血症」の死亡数は11,714人(人口10万対9.7)です。一方、3学会が運営する敗血症.comのトップページは「年間約10万人(推定)」と書いています。この差は、前者が「原死因が敗血症と記載された死亡」の集計であるのに対し、後者が推定値であることによると思われますが、敗血症.comには推定の算出根拠が示されていません。どちらか一方だけを使うと誤解を招くため、両方を並べて書きました。
  • **「発症から1時間遅れるごとに死亡率が◯%上がる」という数字。**よく見かける表現ですが、J-SSCG2024はむしろ1時間という目標を採らないことを弱く推奨しています(CQ2-2)。この記事では使いません。
  • **家庭で敗血症を見分ける方法。**ありません。qSOFAですら、ガイドラインが「感度が低い」「有用性は疑問視されている」と書いています。本文の3つのチェックは「受診する理由」までで、「敗血症かどうかの判定」には使えません。
  • **水分をたくさん摂れば尿路感染症を防げるか。**予防法として一般向けに書かれた公的資料を確認できなかったため、書いていません。敗血症.comが挙げている予防策は、ワクチン接種・衛生(手洗い等)・早期に対応することの3つです。
  • 「皮膚があたたかい段階」の呼び名について。『日本版敗血症診療ガイドライン2024』の全文(149ページ)を検索しても、この段階を区別して呼ぶ用語は見つかりませんでした。一方、日本救急医学会の「医学用語解説集」の「循環亢進状態」の項には、warm shock という呼び名が明記されています(7章に引用しました)。ただしこの項目は1992年の古い定義に基づく記述で、現行のSepsis-3の枠組みで書かれたものではありません。ですので本記事では、循環の見え方の説明としてのみ引用し、診断の用語としては使っていません。
  • **「手足が温かいかどうか」で敗血症性ショックを見分けること。**できません。医学用語解説集が書いているのは「(ほかのショックのような)冷たい皮膚や蒼白はみられない」までで、逆向き(温かいから敗血症性ショックだ)には使えません。安心の根拠にならない、というところで止めるのが正確です。
  • 熱中症と敗血症が同時に起きる頻度。『熱中症診療ガイドライン2024』は「他の原因疾患に熱中症が合併することを否定するものではない」と書いていますが、どのくらいの割合で合併するかは、今回確認した資料にはありませんでした。
  • **「震えていれば感染症、震えていなければ熱中症」という見分け方。**逆向きには使えません。『熱中症診療ガイドライン2024』の症状リストに悪寒・戦慄が並んでいないことは確認しましたが、「震えがなければ感染症を否定できる」とはどこにも書かれていません。
  • **「尿路感染症になった人のうち、何%がウロセプシスになるか」。**JAID/JSCガイドラインが示しているのは「全敗血症の約25%がウロセプシス」という向きの数字で、その逆は書かれていません。
  • **今回の事案の確定診断。**私たちが把握しているのは搬送までです。記事中で「敗血症性ショックの疑い」としているのは、そのためです。

まとめ

3行にすると、こうなります。

  • **八月に毛布を重ねてもガタガタ震えるのは、部屋が寒いからではありません。**ガイドラインは「悪寒・戦慄を伴う発熱が生じた場合は菌血症の陽性尤度比が高い」と書いています
  • **見るべきは、熱の高さではなく「意識・呼吸・血圧」の3つ。**3学会の敗血症.comは「これらのどれかが当てはまるようでしたら、病院に行くことをお勧めします」と書いています。当てはまらなくても、安心の根拠にはなりません
  • **高齢の方の尿路感染症は、おしっこの症状が出ないことがあります。**かわりに出てくるのが「様子がおかしい」です。そして敗血症のなかでショックまで進む割合は、尿路感染症で70%と高いことがガイドラインに書かれています
  • 手足があたたかいことは、安心の材料になりません。MSDマニュアル家庭版は「皮膚は熱を持ち、潮紅します」を悪化の途中として書き、「皮膚が冷たくなり」をそのあとに置いています

「トイレが近いって言ってました。それくらいです」——娘さんのこの言葉は、実は診断の入口そのものでした。

**ご家族が覚えている「それくらいのこと」は、私たちにとって、しばしばいちばん大きな手がかりです。**遠慮なく、全部教えてください。

高齢の方の両手が重ねられている 「それくらいのこと」を覚えているのは、いつもご家族です(写真はイメージです)

この夏、高齢のご家族が「寒い」と言って震えていたことがある方は、この記事をそのまま送っていただければ十分です。


本記事は一般的な情報提供であり、医療診断に代わるものではありません。実際の症状については必ず医療機関にご相談ください。 本事案は、実際の救急事案をもとに、個人が特定されないよう年代・時期・場所・状況を改変して再構成したものです。

参考

⚠️ 免責事項この記事の情報は一般的な救急知識の情報提供を目的としており、医療行為や医療診断に代わるものではありません。症状がある場合は必ず医療機関を受診してください。生命の危機を感じる症状は、迷わず119番に通報してください。

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