「転んだけど、歩けています」——90代女性の足の付け根の痛み。学会が書く“急に立てなくなる”のは、その数日後でした

「転んだけど、歩けています」——90代女性の足の付け根の痛み。学会が書く“急に立てなくなる”のは、その数日後でした

高齢者施設で転倒し、足の付け根を痛がっていた90代女性の救急事案から、大腿骨頚部骨折を家族が見逃さないポイントを解説します。日本整形外科学会は「何日か前から足の付け根を痛がっていたが、或る時急に立てなくなった」を“よくあるエピソード”として書いています。現役救急救命士が、転倒後に様子見にしてはいけない理由をまとめました。

ある夏の日の午後でした。「入居している方が転んで、足を痛がっている」という119番通報で、私たちは高齢者施設へ向かいました。

通報したのは、施設の職員さんです。

廊下の板の間に、片方だけ脱げたスリッパが残っている 転んだ場所には、たいてい「その瞬間」の痕跡だけが残っています(写真はイメージです)

到着して最初に聞いたのは、こんな言葉でした。

「さっき転んだんですけど……本人は『大丈夫』って言っていて、支えれば立てたんです。でも、足の付け根を触ると痛がるので」

転んだ。歩けた。でも痛がる。

この3つが並んだとき、現場でいちばん先に考える骨折があります。大腿骨頚部骨折——足の付け根の骨折です。

この記事では、実際の事案をもとに、高齢の親や家族が転んで足の付け根を痛がったとき、家族と施設が何を見るべきかをお伝えします。骨折そのものより、「歩けたから大丈夫」と数日を過ごしてしまうことのほうが怖い、という話です。

事案の経過——ある夏の日、90代女性

時間帯:夏の午後 場所:高齢者施設の居室 通報者:施設職員 年代・性別:90代・女性

到着すると、その方はベッドに横になっていました。職員さんの話では、居室内で転倒し、床に座り込んでいるところを発見されたとのことでした。

観察した内容

  • 意識:清明。会話は成立する
  • 呼吸・脈拍・血圧・体温:いずれも大きな異常なし
  • 頭部:打撲の訴えなし、外傷なし
  • 訴え:大腿部(足の付け根から太ももにかけて)の痛み
  • 見た目:明らかな変形はなし。腫れも、この時点でははっきりしない
  • 動作:職員が支えると立つことはできたが、痛みが強く、体重をかけたがらない

バイタルサインは、何も教えてくれませんでした。血圧も脈拍も酸素も正常です。

日本家屋の板張りの廊下 転倒は「特別な場所」で起きません。歩き慣れた廊下と居室が、いちばん多い現場です

それでも私たちが搬送を勧めたのは、「転倒」と「足の付け根の痛み」がそろっていたからです。この組み合わせのとき、現場では骨折を「否定できないもの」として扱います。

日本整形外科学会が書いている、「よくあるエピソード」

大腿骨頚部骨折について、日本整形外科学会の一般向けページには、こう書かれています。

大腿骨頸部骨折では股関節部(脚の付け根)に痛みがあり、ほとんどの場合、立つことや歩くことができなくなります。

——日本整形外科学会「大腿骨頚部骨折」

「ほとんどの場合、立てなくなる」。これだけ読むと、**「歩けたなら骨折ではない」**と受け取ってしまいそうになります。

ところが、同じページの少し先に、こんな記述があります。

頸部内側骨折は、骨粗鬆症がある場合、ちょっと脚を捻ったぐらいでも発生します。**よくあるのは高齢者が何日か前から足の付け根を痛がっていたが、或る時急に立てなくなったというエピソードです。**おそらく立てなくなった時、骨折部で“ずれ”が生じたのでしょう。

——日本整形外科学会「大腿骨頚部骨折」(強調は筆者)

ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。

学会が「よくある」として挙げているのは、いきなり立てなくなる話ではありません

  1. 何日か前から足の付け根を痛がっていた(この間、本人は歩けている)
  2. 或る時、急に立てなくなった
  3. そのとき、骨折部で“ずれ”が生じたと考えられる

つまり、「痛がっているが歩けている」期間が、先にあることがあるということです。そして家族や施設が「様子を見よう」と判断しやすいのは、まさにこの期間です。

「歩けているから大丈夫」ではなく、「歩けている今のうちに」——これが、この骨折に対する現実的な向き合い方だと思います。

杖の握りに重ねられた、高齢者の手 歩けることと、折れていないことは、同じではありません(写真はイメージです)

公的機関が書いている、家庭で見るべき動作は「片脚で立てるか」

国立長寿医療研究センターの一般向けページ「転びやすくなる原因は?」には、転倒後の注意点として、こう書かれています。

転倒後歩くだけでは痛みはなくても、立ち上がったり、横になる動作で腰や背中に痛みがある場合は、背骨の骨折が疑われます。また、股関節周囲に痛みはあるが歩ける場合でも、片脚で立てなかったら、脚の付け根の骨(大腿骨近位部)が折れていることもあります。

——国立長寿医療研究センター 健康長寿ナビ「転びやすくなる原因は?」(強調は筆者)

「痛みはあるが歩ける場合でも」——公的機関が、はっきりそう書いています。

そして、家庭で見るべき動作まで具体的に示してくれています。片脚で立てるかです。

歩けるかどうかだけを見ていると、両脚で支えている限り、痛い側をかばって「歩けている」ように見えてしまいます。**痛いほうの脚だけで、体を支えられるかどうか。**ここに差が出ます。

ただし、これは無理にやらせるものではありません。痛がるようなら、そこでやめて受診してください。確認のためにもう一度転倒させてしまっては、意味がありません。手すりや家族の支えがある場所で、ほんの一瞬だけです。

「そんなに激しく転んでいない」は、判断材料になりません

ご家族から本当によく聞くのが、この言葉です。

「そんなにひどい転び方じゃなかったんです」 「ちょっと尻もちをついただけで」

気持ちはよくわかります。でも、学会の記述はこうです。

頸部内側骨折は、骨粗鬆症がある場合、ちょっと脚を捻ったぐらいでも発生します

同じページには、この骨折が「骨粗鬆症で骨がもろくなった高齢者に多発することで有名」とも書かれています。

**骨がもろくなっていれば、外力は小さくても足ります。**だから「転び方が軽かったこと」は、骨折を否定する材料になりません。

一方で、もう少し膝側で折れる外側骨折については、学会は「明らかな転倒・転落で発生します」としており、「受傷時の外力も大きく、内出血もするため全身状態に影響が出やすい」と書いています。同じ「足の付け根の骨折」でも、性質が違うわけです。

現場の私たちは、この区別を目で見て判断することはできません。だから、判断は病院に渡します。

レントゲンに写らないことがある

もうひとつ、家族が知っておくと役に立つ記述があります。

もし高齢者が転んだりした後、立てなくなったら第一にこの骨折を考えて痛む場所を確認しX線(レントゲン)診断を行います。亀裂骨折(いわゆる“ひび”)でX線で判りにくい場合はMRIで診断可能です。

——日本整形外科学会「大腿骨頚部骨折」

「レントゲンを撮って、骨折はないと言われました」——このあとも痛みが続き、歩けなくなっていく。そういう経過は、実際にあります。

学会がX線で判りにくい場合にMRIという手段があると書いている以上、「レントゲンで異常なし」=「骨折はゼロ」ではないと考えておくのが安全です。

この点についても、国立長寿医療研究センターが、家族が取るべき行動まで書いてくれています。

**初診時にレントゲンで骨折はないと言われた場合でも、骨折によるズレや変形がほとんどない例では、骨折していてもレントゲンではわからないことがありますので、要注意です。痛みが続く場合は、再度整形外科の受診をおすすめします。**再度のレントゲン検査やCT検査、MRI検査が診断に役立つ場合もあります。

——国立長寿医療研究センター 健康長寿ナビ「転びやすくなる原因は?」(強調は筆者)

**「痛みが続く場合は、再度整形外科の受診をおすすめします」。**受診をためらう理由は、ここにはありません。

もし受診後も痛みが引かない、あるいは歩き方が戻らないなら、そのことを持ってもう一度受診してください。それは我慢する時間ではありません。

居間の床とラグ、脱いだサンダル 「異常なし」と言われたあとの数日を、家族はいちばん記録できる立場にいます

なお、学会は「時々骨盤の亀裂骨折と間違えられることがありますが、骨盤の亀裂骨折では、多くの場合歩行は何とか可能です」とも書いています。似た痛みでも、原因が違うことがあるということです。これも、家族が自分で見分けられるものではありません。

「とりあえず寝かせておく」がいちばん危ない

転んで痛がっている高齢の方を、まずベッドや布団に寝かせる。ごく自然な対応です。そして、そのまま数日が過ぎる。

ここに、この骨折の本当の怖さがあります。

学会のページには、こう書かれています。

もし骨折が発生してしまった場合は、安静期間中に認知症や、廃用萎縮といって動けないうちに運動機能がおちて寝たきりになってしまうことがありますので、何らかの手術療法を考えることが増えています。

「安静にしていれば治る」ではなく、「安静にしていること自体にリスクがあるので、手術を考えることが増えている」。学会がそう書いているわけです。

そして、その手術には**時間の目安があります。**日本整形外傷学会(旧・日本骨折治療学会)の一般向け解説には、こう書かれています。

ヒップ・フラクチャーの手術は,生命予後,機能予後,医療コストのすべての点から,受傷後できるだけ早く行うのが,最良の結果をもたらすと考えられています.すなわち,准緊急手術として対応すべき骨折です.日本では受傷後48時間以内,欧州では医療施設に到着後36時間以内の手術をめざすようになりました.

——日本整形外傷学会「高齢者の大腿骨頚部骨折と大腿骨転子部骨折」(2025年12月)

受傷後48時間以内。「准緊急手術」という言葉が使われています。

家で2日、3日と様子を見てから受診したのでは、この目安の中に入れません。「様子を見る」という選択が、時間の勝負に負けることにつながる——これが、足の付け根の痛みを急ぐ理由です。

なお同じページは、抗血小板薬・抗凝固薬を飲んでいる場合は休薬期間が必要で48時間以内の手術ができないこともある、体制の問題で早期手術ができない施設が多いのが日本の現状である、とも率直に書いています。だからこそ、家族の側で削れる時間は「気づいてから受診するまで」だけです。

同じ趣旨のことは、厚生労働省が公開している「生活機能低下予防マニュアル ~生活不活発病を防ぐ~」も、別の角度から述べています。

本当に必要な安静だけにとどめる。 局所的疾患・外傷では、局所的安静と全身の安静を別々に考える。局所は安静にしながら全身の活動性は保つようにする。

折れたところを安静にすることと、その人を寝かせきりにすることは、別のことだということです。どこまで動いてよいのかは、家族の判断ではなく、医師に聞くべきことになります。

そして学会は、この骨折の影響をこう表現しています。

本邦でも年間10数万人が受傷し、多くの方が骨折を契機に寝たきり、閉じこもりになってしまうので社会問題となっています。

年間10数万人。そして、その多くが「骨折を契機に」生活を変えられてしまう。

和室に敷かれた布団 寝かせることは応急処置ですが、経過観察ではありません(写真はイメージです)

なお、内側骨折については「骨頭壊死といって、血流障害で後ほど骨がつぶれてしまう合併症にも注意することが必要です」とも書かれています。時間が経ってから問題が出てくる骨折でもある、ということです。

数字で見る——転倒は、家庭で最も多い救急事案です

「うちの親に限って」と思いたくなりますが、統計は違うことを言っています。

① 骨折・転倒は、「要介護者」では介護が必要になった原因の第2位

厚生労働省「2025(令和7)年 国民生活基礎調査」の介護の状況では、介護が必要になった主な原因は次のようになっています。

  • 要介護者:1位「認知症」23.6% / 2位「骨折・転倒」14.8% / 3位「高齢による衰弱」14.5%
  • 総数:1位「認知症」16.7% / 2位「高齢による衰弱」15.6% / 3位「骨折・転倒」14.6%

前回の大規模調査(令和4年)では要介護者の2位は「脳血管疾患(脳卒中)」でした。今回、骨折・転倒がそれを上回っています。

なお、要支援者を含めた「総数」で見ると骨折・転倒は第3位です。「第2位」と言えるのは要介護者に限った場合なので、母集団を混ぜないでください。

② 一般負傷(日常のけが)の7割強が高齢者

総務省消防庁『令和7年版 救急救助の現況』によれば、令和6年中の救急出動を事故種別でみると、急病 519万5,867件(67.3%)に次いで多いのが一般負傷 122万4,778件(15.9%)。交通事故は39万3,941件(5.1%)で、一般負傷は交通事故の3倍以上あります。

そして搬送人員でみると——

一般負傷では**高齢者80万3,484人(72.9%)**が高い割合で搬送されている

③ 高齢者の事故で最も多いのは「ころぶ」

東京消防庁が公表している管内(令和6年)のデータでは、65歳以上の救急搬送は98,056人。そのうち事故種別で最も多いのが「ころぶ」で73,500人です。同庁は**「高齢者のころぶ事故の4割が中等症以上と診断されています」**としています。発生場所は、住宅等の居住場所が6割を占めます。

転倒は、めずらしい出来事ではありません。家庭と施設で、いちばん多く起きている救急事案です。この全体像は命の統計——消防庁の最新データで見る「家庭で起きる救急事案」TOP5にまとめてあります。

青い布の上に重ねられた高齢者の手 痛みを強く訴えない方ほど、家族の「いつもと違う」が頼りになります

家族・施設が転倒後に見るべき5つのこと

私たちが現場で確認していることを、そのまま家庭で使える形にしました。痛みの強さを聞くのではなく、動きを見るのがコツです。

  1. 足の付け根(股関節部)を痛がるか 太ももの真ん中や膝ではなく、脚の付け根を触って痛がるかどうか。ここが本命です。

  2. 痛いほうの脚だけで立てるか 立てるかどうかだけでなく、痛い側の脚に体重を乗せられるかを見ます。国立長寿医療研究センターが「片脚で立てなかったら」と書いているのは、この動作のことです。支えれば立てても、その脚に乗せたがらないなら、それは「歩けている」とは違います。手すりや家族の支えのある場所で、無理をさせない範囲で確認してください。

  3. 左右の脚の長さ・向きが違って見えないか 仰向けに寝てもらったとき、片方の脚が短く見える、つま先が外を向いている——このような見た目の左右差は、そのまま救急隊や医師に伝えてください。

  4. 転倒の前に、何日か痛がっていなかったか 学会が挙げている典型エピソードの入口です。「今日転んだ」だけでなく、「先週から痛がっていた」も情報です。

  5. 転んだあと、歩き方や生活が元に戻ったか その日は歩けても、翌日からトイレに行く回数が減った・座っている時間が増えたなら、それは痛みを避けている証拠かもしれません。

認知症のある方は、痛みをうまく言葉にできないことがあります。「痛い?」と聞いて「痛くない」と答えても、動きが変わっていれば、それが答えです。

救急車を呼ぶか、受診にするか

現場感覚でお伝えします。

迷わず119番でよい場面

  • 転倒後、立てない・歩けない
  • 脚の見た目に左右差がある(短く見える、外を向いている)
  • 頭を打った可能性がある、または転倒の状況がわからない(目撃者がいない)
  • 意識・受け答えがいつもと違う
  • 出血や、明らかな変形がある

とくに、目撃者のいない転倒は要注意です。頭を打っていないと言い切れないためで、これについては車から降りるときに転んで、頭を打った——「意識はある」のに高次病院へ運ばれた80代男性に詳しく書きました。

その日のうちに受診でよいと思われる場面

  • 歩けているが、足の付け根の痛みが続いている
  • 痛みで動く量が減っている

このとき大切なのは、「様子を見る」と決めないことです。様子を見るなら、いつまで見るかを決めてください。「明日の朝、まだ痛がっていたら受診する」——そこまで決めて、はじめて経過観察になります。

夜、スマートフォンを手に持つ 迷う時間を短くするために、電話という手段があります(写真はイメージです)

判断に迷うときは、**#7119(救急安心センター事業)**という相談先があります。実施地域や受付時間には差があるので、#7119(救急安心センター)の使い方——119を呼ぶか迷ったらの判断ラインを先に読んでおいてください。

なお、「呼んで搬送されなかったら申し訳ない」と感じる方は多いのですが、その考え方については救急車を呼ぶ判断、実は「呼ばない理由」のほうが多い救急車を呼んだのに搬送されなかった——「不搬送」が起きる理由にまとめてあります。

施設から連絡が来たとき、家族が確認すること

今回の事案のように、転倒が施設内で起きることもあります。施設から電話が来たとき、慌てずに聞いておきたいのはこの4つです。

  1. どこを痛がっているか(足の付け根か、膝か、腰か、頭か)
  2. 立てるか、その脚に体重をかけられるか
  3. 転倒を見ていた人がいるか(目撃なしなら、頭部の評価が必要になります)
  4. すでに受診・救急要請をしたか。していないなら、いつまで様子を見る予定か

たとえば特別養護老人ホーム(指定介護老人福祉施設)には、協力医療機関をあらかじめ定めておく義務が省令で決まっています(「嘱託医」は法令上の用語ではありません)。

指定介護老人福祉施設は、入所者の病状の急変等に備えるため、あらかじめ、次の各号に掲げる要件を満たす協力医療機関(略)を定めておかなければならない。

——指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第39号)第28条

同じ省令の第29条は、**協力医療機関を「見やすい場所に掲示しなければならない」**とし、原則としてウェブサイトにも掲載しなければならないとしています。入居先がどこの病院と連携しているかは、家族が自分で確認できる情報だということです。

ただし、これは特別養護老人ホームの基準です。施設の種類によって、医師の配置義務も、根拠となる省令も異なります。「施設にいるのだから医療的な判断がすぐつく」とは限らない、と考えておいてください。

「施設が転ばせた」と考える前に

もうひとつ、お伝えしておきたいことがあります。

日本老年医学会と全国老人保健施設協会は2021年に「介護施設内での転倒に関するステートメント」を公表しています。その第1項は、こうです。

<ステートメント1>【転倒すべてが過失による事故ではない】転倒リスクが高い入所者については、転倒予防策を実施していても、一定の確率で転倒が発生する。転倒の結果として骨折や外傷が生じたとしても、必ずしも医療・介護現場の過失による事故と位置付けられない。

一般向けの説明では、こう書かれています。

転倒リスクが極めて高い高齢者においては、施設であれ、自宅であれ、活動を行っている以上は一定の確率で転倒が発生し、その人たちの中で一定の確率で骨折や死亡に至ることがあるということです。

学会は同時に「ケアやリハビリテーションは原則として継続する」「転倒についてあらかじめ入所者・家族の理解を得る」「転倒予防策と発生時対策を講じ、その定期的な見直しを図る」も掲げています。

転ばせないために動かさない、が答えではないということです。家族としては、責任の所在を先に問うよりも、「これからどう動くか」を施設と一緒に決めるほうが、結果として本人の生活を守ります。

施設からの連絡を受けたときの動き方は、施設から「お母さまの酸素の値が下がっています」と電話がきたらにも書きました。**聞くべきことは、症状ではなく「これからどうするか」**という点は共通しています。

和室に敷かれた布団と掛け軸 施設でも自宅でも、転倒が起きるのは見慣れた部屋の中です

折れる前にできること

学会は、予防について2点を挙げています。

予防は折れにくい骨を作るという意味で骨粗鬆症の治療を行うことと転倒しにくい環境を整えるという2点です。

骨粗鬆症の治療については「食物、薬物、運動」とし、「特に女性の場合は正常でも更年期以後年率で1%づつカルシウム量が減るといわれており、普段から検診等でチェックすることが大切です」と書かれています。

ここに、もうひとつ理由が加わります。日本整形外傷学会は、この骨折を一度起こした人について、こう書いています。

ヒップ・フラクチャーを受傷した患者さんは,反対側のヒップ・フラクチャーを起こすリスクが非常に高いことも知られています.**おおよそ,10人に1人は反対側も受傷してしまいます.**受傷から1年以内に二次骨折として反対側のヒップ・フラクチャーを受傷するリスクが高いとされています.

**一度折れた人にとって、予防は「終わった話」ではありません。**同学会は、この骨折を受けた患者さんのうち骨粗鬆症の治療を受けていた人は3割程度しかいなかった、とも書いています。退院後に骨粗鬆症の治療をどうするかは、必ず確認してください。

環境のほうは、帰省したときに家族が手をつけられる部分です。

  • 廊下・トイレまでの動線に、物が置かれていないか
  • 夜間、トイレまでの明かりが足りているか
  • 段差、めくれたカーペット、コード類
  • 使っていない手すりや杖が、しまい込まれていないか

背骨の圧迫骨折についても同じことが言えます。すでに折れた経験がある場合の注意点は、1か月前に背骨を折った父が、動けなくなっていたにまとめました。帰省時のチェック全般は盆休みの帰省で高齢の親に確認する救急5チェックをどうぞ。

若い手が、高齢者の手を下から支えている 「痛い?」より「今日はどれくらい歩いた?」のほうが、答えが返ってきます

まとめ

3行まとめ:

  • 日本整形外科学会は、大腿骨頚部骨折の「よくあるエピソード」として「何日か前から足の付け根を痛がっていたが、或る時急に立てなくなった」を挙げている。痛がっているが歩けている期間が、先にあることがある
  • 「ちょっと脚を捻ったぐらいでも発生します」と学会は書いている。転び方が軽かったことは、骨折を否定する材料にならない。X線で判りにくい場合はMRIで診断可能、とも書かれている
  • 学会は「安静期間中に認知症や廃用萎縮で寝たきりになってしまうことがある」として、手術療法を考えることが増えているとしている。寝かせておくことは応急処置であって、経過観察ではない
  • 手術は「日本では受傷後48時間以内をめざす」准緊急手術(日本整形外傷学会)。家族の側で削れる時間は、気づいてから受診するまでだけ。そして公的機関は、家庭で見る動作として「片脚で立てるか」を挙げている

今回の事案で、施設の職員さんは「支えれば立てた」にもかかわらず119番しました。私はその判断が正しかったと思っています。

立てたかどうかではなく、痛がっている場所で判断したからです。

高齢の家族が転んだと聞いたとき、覚えておいてください。足の付け根を痛がっているなら、歩けていても、それは「まだ歩けている」だけかもしれません。 学会が「よくある」と書いた通りの経過をたどるなら、次に来るのは、急に立てなくなる日です。

その日を待つ必要は、まったくありません。

年配の手と若い手が、互いに握り合っている 「大丈夫」と言う人ほど、家族が動くしかない場面があります


本記事は一般的な情報提供であり、医療診断に代わるものではありません。実際の症状については必ず医療機関にご相談ください。

※本記事の事案は、個人が特定されないよう、日付・地域・年齢・具体的な状況を変更・抽象化しています。

参考

高齢の方の骨折は、入院が終わってもリハビリと介護の相談が続きます。「治療費」より「そのあとの生活費と手間」のほうが大きくなりやすいのがこの分野です。備えを見直すなら、動ける今のうちが一番です。

⚠️ 免責事項この記事の情報は一般的な救急知識の情報提供を目的としており、医療行為や医療診断に代わるものではありません。症状がある場合は必ず医療機関を受診してください。生命の危機を感じる症状は、迷わず119番に通報してください。

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