夕方の住宅街に出動して、道ばたでうずくまっている高齢の方に接触することがあります。
汗はほとんどかいていない。財布も携帯も持っていない。名前を聞いても、はっきりした答えが返ってこない。そして少し経ってから、ご家族が息を切らして走ってくる。
「お昼過ぎからいなくて……でも、いつも夕方には帰ってくるので」
責める話ではありません。「そのうち帰ってくる」は、これまで実際にそうだったから出てくる言葉です。むしろ、これまで何度も無事に帰ってきたからこそ、そう思えるわけです。
ただ、この「もう少し待ってみよう」という数時間について、国の統計は、ちょっと怖いことを示しています。
いなくなった場所から、そう遠くない。統計が示しているのは、そういう話です(写真はイメージです)
この記事の主な出典は、警察庁生活安全局人身安全・少年課「令和7年における行方不明者届受理等の状況」(令和8年6月)と、同じシリーズの「令和6年における行方不明者届受理等の状況」(令和7年6月)です。どちらも警察庁のウェブサイトで誰でも読めるPDFです。あわせて、環境省「熱中症環境保健マニュアル2022」と、総務省消防庁のリーフレット「救急車を上手に使いましょう」(令和7年12月発行)を使います。
先に、3つだけ
長い記事になるので、結論から置きます。
- 統計の時計は、「家族が届け出た瞬間」から動きはじめます。令和7年に所在が確認された認知症の行方不明者のうち、受理当日に見つかった人が68.0%、3日以内で94.8%。ところが4日目以降に見つかった人では、生きて所在が確認された割合は**53.7%**まで落ち、15日目以降は死亡確認のほうが多くなります。「もう少し待とう」という時間は、この統計にはまだ入っていません。
- 探す場所は、思っているより近いです。令和6年に届出を受理した認知症の行方不明者のうち亡くなって見つかった491人は、その77.8%(382人)がいなくなった場所から5km以内。うち1km以内だけで235人です。そして見つかった場所は、河川・河川敷、用水路・側溝、山林で全体の54.0%を占めます。
- **見つけるのは、警察よりも「地域の人」であることが多いです。**令和7年に所在確認等がなされた認知症の行方不明者17,268人のうち、47.0%(8,114人)が「民間通報」を端緒に見つかっています。これが、事前に地域へ伝えておくことの意味です。
そのうえで、この記事の後半では**「見つけたあと」**の話をします。救急の現場から見ると、見つかった瞬間は、終わりではなく始まりだからです。
1. 国の統計は「徘徊」と呼んでいない
まず、言葉の話を少しだけ。
警察庁のこの資料には、「徘徊」という語が出てきません。使われているのは「認知症行方不明者」で、資料の凡例には、こう定義されています。
認知症行方不明者… 行方不明となった原因・動機が、認知症による行方不明者をいう。
(※「認知症」は「認知症又はその疑い」を指す、とも同じ凡例に書かれています)
国が「徘徊」という言葉を禁止した、という事実は確認できませんでした。ここで言えるのは、国の統計の名前が「行方不明者」であるということだけです。ただ、ご家族と話していて感じるのは、この呼び方の違いが、意外と大きいということです。「徘徊」と呼ぶと、あてもなく歩き回っているように聞こえる。「行方不明」と呼ぶと、探しに行かなければいけないことが言葉の中に入ってきます。
数字を見ておきます。令和7年の認知症行方不明者数は1万7,345人(前年比776人減少)。単純に365で割ると、1日あたり約47人です。警察庁の資料は、この水準について「依然として高い水準で推移している」と書いています。
推移はこうです。平成28年1万5,432人 → 令和5年1万9,039人(この10年で最多)→ 令和6年1万8,121人 → 令和7年1万7,345人。2年続けて減ってはいますが、10年前より多い水準です。
そして、行方不明になった原因・動機の全体(令和7年・総数8万486人)を見ると、疾病関係が2万2,753人(28.3%)で最も多く、そのうち認知症が1万7,345人で全体の21.6%。つまり、行方不明になる方のおよそ5人に1人が、認知症を理由とした行方不明です。男女別では男性56.0%、女性44.0%で、男性のほうが多い傾向が続いています。
「靴がない」に気づくのは、たいてい家族です(写真はイメージです)
2. 時計は「届け出た瞬間」から動きはじめる
ここがこの記事の中心です。
令和7年中に所在確認・死亡確認された認知症行方不明者は16,729人。この方たちが、届出の受理からどれくらいで見つかったかという表が、警察庁の資料に載っています。
| 受理からの期間 | 所在確認 | 死亡確認 |
|---|---|---|
| 受理当日 | 11,369人 | 127人 |
| 2日〜3日 | 4,487人 | 187人 |
| 4日〜7日 | 195人 | 67人 |
| 8日〜14日 | 58人 | 48人 |
| 15日〜1か月未満 | 23人 | 45人 |
| 1か月〜3か月未満 | 21人 | 48人 |
| 3か月〜6か月未満 | 1人 | 19人 |
| 6か月〜1年未満 | 1人 | 11人 |
| 1年〜2年未満 | 1人 | 13人 |
| 2年〜 | 0人 | 8人 |
(警察庁「令和7年における行方不明者届受理等の状況」より。所在確認16,156人・死亡確認573人の内訳)
警察庁自身がこの表につけている説明が、こうです。
令和7年中に所在確認・死亡確認された認知症行方不明者のうち、94.8%(16,729 人中15,856 人)が受理から3日以内に所在確認されている。
94.8%が3日以内。ほとんどの方は、無事に見つかっています。ここは、まず安心していい数字です。
問題は、その次に書かれている注記のほうです。
受理から4日以降に所在確認・死亡確認された認知症行方不明者のうち、所在確認された者の割合は53.7%(559 人中300 人)。受理から15 日以降は死亡確認の割合の方が高くなる。
表を縦に見ると、これがはっきり分かります。受理当日は、所在確認11,369人に対して死亡確認127人。ところが15日〜1か月未満では、所在確認23人に対して死亡確認45人と、逆転しています。
つまり——3日以内なら、ほとんど生きて見つかる。4日目を過ぎると、見つかった人の約半分が、亡くなって見つかるということです。
この時計が動きはじめるのは、家族が届け出た瞬間からです(写真はイメージです)
そして、ここが一番お伝えしたいところです。
この統計が数えている時間は、すべて「届出を受理してから」です。
ご家族が「いないな」と気づいてから、「もう少し待ってみよう」「近所を一回りしてから」「夕飯までに帰らなかったら」と考えている時間は、この表のどこにも入っていません。3日という時計は、届け出るまで、動きはじめないのです。
なお、「何時間以内に届け出るべき」という基準は、国の資料には書かれていません。警察庁がこの資料で繰り返し書いているのは、警察側の活動について「迅速な発見活動を展開することが重要」ということです。家族への時間の指示ではありません。だから私も、ここで「◯時間で通報を」とは書きません。
書けるのは、この統計の時計が動き出す起点はどこかという、それだけです。警察への相談は、早すぎて困るものではありません。
3. 探す場所は、思っているより近い
「電車に乗って遠くへ行ってしまったかもしれない」——ご家族から、よく聞く不安です。
実際にそういうケースもあります(後で出てくる事例では、130km離れた駅で見つかった方がいます)。ただ、亡くなって見つかった方に限って見ると、統計はまったく逆のことを示しています。
令和6年に届出を受理した認知症の行方不明者のうち、亡くなって見つかった方は491人。その距離の内訳がこうです。
| いなくなった場所からの距離 | 人数 |
|---|---|
| 〜1km | 235人 |
| 〜5km | 147人 |
| 〜10km | 48人 |
| 〜20km | 26人 |
| 〜30km | 9人 |
| 〜40km | 4人 |
| 〜50km | 6人 |
| 50kmを超える | 15人 |
| 不明 | 1人 |
5km圏内で382人(77.8%)。そのうち1km以内だけで235人——全体のほぼ半分です。
そして、見つかった場所がこうです。
| 死亡確認場所 | 人数 |
|---|---|
| 河川・河川敷 | 115人 |
| 用水路・側溝 | 79人 |
| 山林 | 71人 |
| 田畑 | 44人 |
| 路上 | 37人 |
| 海・海岸 | 31人 |
| 住宅等敷地内 | 30人 |
| 屋内 | 23人 |
| 池沼 | 11人 |
| 湖・ダム | 6人 |
| その他 | 44人 |
河川・河川敷、用水路・側溝、山林の3つで、全体の54.0%。警察庁は、この3つについてこう書いています。
これらの場所は、人的捜索が困難となる場合も多く、発見の遅延が行方不明者の生命に大きく影響する。
用水路・側溝で79人。家のすぐそばにある「探しにくい場所」です(写真はイメージです)
この2つの数字——「1km以内が最多」と「見つかった場所は水のそば」——を並べると、探すときの優先順位が変わります。
駅やバス停を先に見に行きたくなります。実際、そこも見るべきです。でも同時に、家から歩いて数分の、ふだん誰も通らない用水路のふち、側溝のふた、川の土手の草むら——近すぎて、探す場所として意識に上がらないところが、統計上いちばん多いのです。
しかも、そういう場所は上から覗き込まないと見えません。車で通っても、道を歩いても、見えない。だから発見が遅れる。警察庁がドローンによる捜索の有効性を書いているのも、この「人的捜索が困難」という理由からです。
河川・河川敷で115人。草に隠れると、道路からは見えません(写真はイメージです)
水辺そのものの危険については、こちらの記事でも国の統計を扱っています。あわせてお読みください。
4. 見つけるのは、たいてい「近所の人」です
もうひとつ、意外な数字があります。
令和7年中に所在確認等がなされた認知症行方不明者は17,268人。その「発見の端緒」、つまりどうやって見つかったかの内訳がこうです。
| 発見の端緒 | 人数 |
|---|---|
| 民間通報 | 8,114人 |
| その他(届出の取下げ、自らの帰宅など) | 5,746人 |
| 職務質問 | 2,037人 |
| 立ち回り調査 | 1,021人 |
| 保護願出(本人から) | 326人 |
| 立入調査等 | 17人 |
| 犯罪捜査 | 7人 |
| 少年補導 | 0人 |
民間通報が47.0%で最多です。警察庁の説明はこうです。
所在確認等がなされた認知症行方不明者のうち、約半数が民間通報を端緒に発見されており、関係行政機関等との間で構築している発見・保護のためのネットワーク等と連携し、迅速・多角的な発見活動を早期に展開することが必要
警察官が職務質問で見つけた2,037人の、4倍が、地域の人からの通報で見つかっています。
同じ資料に載っている実際の事例が、その中身をよく表しています。
認知症を有する女性(80代)が自宅から行方不明となった事案について、受理直後に警察から情報提供を受けた自治体が防災行政無線、自治体の公式LINE等により広報した結果、公式LINEを見た地域住民が行方不明者を発見し、警察へ通報したことにより、受理から約2時間後、自宅から約2キロメートル離れた路上において、行方不明者を無事発見・保護するに至った。
もう1件。
認知症を有する女性(70代)が旅行先で行方不明となった事案について、受理直後に警察から情報提供を受けた自治体が防災行政無線による広報等を実施した。後刻、防犯カメラの記録映像から行方不明者の進行方向が判明したことから、再度、防災行政無線で広報したところ、受理から約6時間後、広報を聞いた地域住民が行方不明者を発見し、警察へ通報した
どちらも、**「警察が探して見つけた」のではなく、「情報が地域に流れて、住民が見つけた」**という構図です。そしてどちらも、受理直後に自治体へ情報が渡っている。
47.0%は、この道沿いのどこかにいる誰かが見つけています(写真はイメージです)
ここから、家族が事前にできることが一つ出てきます。
「うちの親は認知症で、ひとりで出てしまうことがあります」と、近所と地域に先に伝えておく。
言いにくいことです。私も、ご家族が言い出せない気持ちはよく分かります。でも、47.0%という数字は、「知っている人が近くにいたかどうか」で動く数字です。知らない人は、道を歩いている高齢の方を見ても、通報しません。
いつも持って出るものに、一つ付けておく。それだけで当日発見率が変わります(写真はイメージです)
見つかった、で終わりにしない。ここからが家族の観察です(写真はイメージです)
決めておくのは、この道を探しはじめる前の話です(写真はイメージです)
94.8%は、3日以内に帰ってきます。その確率を上げる準備の話でした(写真はイメージです)

