水の事故で亡くなる人のうち、子どもは1割もいない——統計が壊す、夏の水難の3つの思い込み
家族を守る

水の事故で亡くなる人のうち、子どもは1割もいない——統計が壊す、夏の水難の3つの思い込み

夏の水の事故は「子どもが海で溺れる」というイメージがあります。しかし警察庁の令和7年の統計では、水難者のうち中学生以下は11.1%、65歳以上が36.1%。亡くなった人の行為で最も多いのは「魚とり・釣り」でした。一次資料をもとに現役救急救命士が解説します。

お盆と週末が重なる時期です。川や海に出かける予定のある方も多いと思います。

「水の事故」と聞いて、多くの方が思い浮かべるのは——子どもが、海で、泳いでいて溺れる、という絵ではないでしょうか。

河原と浅瀬の広がる夏の川 水の事故は、思っている場所と、思っている人に起きているとは限りません(写真はイメージです)

私も救急隊に入るまでは、そう思っていました。

けれど、警察庁が毎年公表している統計を読むと、その絵はかなり違っています。この記事では、統計が壊す3つの思い込みをお伝えします。

思い込み1:水の事故は「子どもの事故」

警察庁の「令和7年における水難の概況等」(令和8年6月18日公表)によると、令和7年の水難は次のとおりでした。

  • 発生件数 1,426件
  • 水難者 1,599人
  • うち死者・行方不明者 760人

問題は、この760人の年齢層です。

  • 中学生以下:27人(3.6%)
  • 高校生相当:12人(1.6%)
  • 高校卒業相当〜65歳未満:265人(34.9%)
  • 65歳以上:383人(50.4%)
  • 不明:73人(9.6%)

**亡くなった人の半数以上が、65歳以上です。**そして中学生以下は、3.6%。

流れの速い川と岩 水の事故で亡くなっているのは、主に高齢者でした

しかも、これはこの年だけの偏りではありません。同じ表で過去6年をさかのぼると、65歳以上の構成比は51.1% → 52.4% → 51.3% → 53.7% → 52.6% → 50.4% と、一貫して過半数です。

もちろん、子どもの事故が軽いという意味ではまったくありません。令和7年も27人が亡くなるか行方不明になっています。

ただ、「うちは子どもがもう大きいから」「大人だけで行くから」という理由で警戒をゆるめる根拠には、まったくならないということです。むしろ、警戒すべきは自分自身と、一緒に行く親の世代です。

思い込み2:亡くなるのは「泳いでいて」

ここが、私がいちばん意外に思ったところです。

同じ760人を「そのとき何をしていたか」で分けると、こうなります。

  • 魚とり・釣り:168人(22.1%)
  • 水遊び:53人(7.0%)
  • 作業中:48人(6.3%)
  • 通行中:45人(5.9%)
  • 水泳:37人(4.9%)

**「泳いでいて」亡くなった人は、4.9%しかいません。**最多は「魚とり・釣り」で、その4倍以上です。

川に立ち込んで釣りをする人の後ろ姿 亡くなった人の行為で最も多いのは、泳ぎではなく釣りでした

考えてみれば、当たり前かもしれません。泳ぐ人は「これから水に入る」と思って準備をします。けれど釣りをする人は、水に入るつもりがない。だから浮くものを身につけていないことがあります。

警察庁も、防止対策の筆頭にこう書いています。

魚とり・釣りでは、転落等のおそれがある場所、水泳や水遊びでは、水(海)藻が繁茂している場所、水温の変化や水流の激しい場所、深みのある場所等の危険箇所を事前に把握して、近づかない。

**「転落等のおそれがある場所」。**釣りの事故は、泳いでいて力尽きるのではなく、落ちることから始まる、ということです。

なお、子どもだけを見ると絵は変わります。中学生以下の死者・行方不明者27人では、行為別で最も多いのは水遊びで11人(40.7%)、次いで水泳5人(18.5%)でした。大人と子どもでは、危ない場面がまったく違います。

思い込み3:危ないのは「遊びに行った先」

死者・行方不明者760人の発生場所は、こうです。

  • 海:352人(46.3%)
  • 河川:282人(37.1%)
  • 用水路:69人(9.1%)
  • 湖沼池:46人(6.1%)
  • プール:2人(0.3%)

用水路で69人。海水浴場でもレジャースポットでもない、田んぼの脇の水路です。

岩場に打ち寄せる波 海と河川で8割強。ただし残りの2割弱に、用水路と湖沼池が入ります

行為別を思い出してください。**作業中48人(6.3%)、通行中45人(5.9%)。**合わせて93人が、そもそも水辺に遊びに来ていない人です。

用水路の見回り、草刈り、通りがかり。「水に入る予定がまったくない人」が、100人近く亡くなっているということです。

田んぼのあいだを流れる用水路 帰省先の用水路は、レジャーの場所ではありません。だから誰も浮くものを持っていません

お盆で帰省する方は、ここを覚えておいてください。**実家の周りの水路は、統計上まぎれもなく「水難の現場」です。**とくに高齢の親が、雨のあとに水路を見に行く——これは、亡くなった383人の高齢者と同じ動線です。

そして川については、もうひとつ。**川は、海と違って監視員がいません。**海水浴場のような区域の設定もありません。そして——これは現場に出ていて強く思うことですが——川は、見た目で深さと流れがわからないのです。

浅い川に立つ足元 足首までの水深に見えても、一歩先が胸まで、ということが普通にあります

いま、その2か月の真ん中です

時期の話です。

警察庁は「夏期(7〜8月の2か月間)」の統計を別に公表しています。令和7年夏期は、死者・行方不明者が241人(速報値)でした。

年間の760人(確定値)に対して、7月と8月の2か月だけでこの人数です。速報値と確定値なので単純に割り算はできませんが、夏の2か月に相当な割合が集中していることは読み取れます。

そして夏期の死者・行方不明者241人のうち、65歳以上が108人(44.8%)。年間と同じ傾向です。

いま、まさにその2か月の真ん中です。

警察庁が「やらないこと」として挙げていること

防止対策として書かれている項目は、どれも具体的です。原文から、家庭で共有しやすいものを引きます。

天気と上流

事前に気象情報を把握し、風雨、落雷等の天候不良時や上流で雨が降っているなど、河川の増水のおそれが高いときには、釣りや水泳、中洲や河原でのバーベキューなどを行わない。

**その場が晴れていても、上流が降っていれば水は増えます。**中洲でのバーベキューが名指しされている点にも注目してください。

体調と飲酒

また、体調が悪いとき、飲酒したときなどは、海、河川に入らない。

お盆の川辺で、いちばん起こりやすい組み合わせだと思います。ビールを飲んで、暑いから足だけ、というあれです。

遊泳場所

海水浴場として開設されていない場所は、監視員が不在であるなど安全が確保されていないため、開設の有無、監視員の存在等を確認する。

田んぼのあいだを流れる用水路 帰省先の用水路や水路も、「泳ぐ場所ではない」から油断が生まれます

ライフジャケットは、泳ぐ人のためのものではない

警察庁の対策には、こう書かれています。

釣りやボート等で水辺に行くときは、必ずライフジャケットを着用(体のサイズに合った物を選び、正しく着用)する。

**「釣りやボート等で水辺に行くとき」。**泳ぐときではなく、水に入るつもりがないときにこそ着けるという書き方になっています。

亡くなった人の行為で最多が「魚とり・釣り」だったことと、まっすぐつながっています。

オレンジ色のライフジャケット 「泳がないから要らない」は、統計とは逆向きの判断です

子どもについても、明確です。

子供の水難防止のため、子供一人では水遊び等をさせず、幼児や泳げない学童等には、必ずライフジャケットを着用させ、その者を保護する責任のある者が付き添うなどして、目を離さないようにする。

**「必ず」「目を離さないように」。**公的な文書としては、かなり強い書き方です。

誰かが流されているのを見たら

ここは、実際に起きたときの話です。

飛び込まないでください。

これは精神論ではありません。国の市民向けの手引きである『救急蘇生法の指針2025(市民用)』は、章の冒頭で、理由から書いています。

溺れている人を救助しようとして救助者が死亡する事故を防ぐために、救助は消防隊やライフセーバーなどの専門家に任せるのが原則です。

**「救助者が死亡する事故を防ぐために」。**これが、飛び込まない理由です。

海上保安庁も同じことを書いています。

溺れた人を助けるために、水に入るのは危険です。まずは自分の安全を確保し、道具を使うなどして助けましょう。ひとりで助けようとするのではなく、まわりの人にも助けを求めましょう。

やることは、この順番です

指針の原文にそって並べます。

溺れている人を見つけたら、ただちに119番(海上では118番)通報をします。水面に浮いて助けを求めている場合には、つかまって浮くことができそうな物を投げ入れてください。さらにロープがあれば投げ渡し、岸に引き寄せてください。溺れている人の体が水没したら、水没した場所がわかるように目印を覚えておきます。そして、救助の専門家が到着したらその目印を伝えます。

  1. 通報する——陸の水辺(川・池・用水路)は119番、海上は118番
  2. 浮くものを投げ入れる——海上保安庁は「大きめのペットボトル・ビーチボール・クーラーボックス」を挙げています。ペットボトルは**「投げやすくするため水や砂が少し入った状態にして、キャップを閉める」**とも書かれています
  3. 沈んだら、目印を覚える——「どこで沈んだか」を伝えられるのは、見ていた人だけです

そして、入ってよい場合の条件も明記されています。

浅いプールなど救助者の安全が確保できる環境であれば、救助の専門家の到着を待たずに水没した人を引き上げます。水の流れがあるところや、水底が見えなかったり水深がわからない場合は水に入らないでください。

川は、まさにこの「入ってはいけない」条件に当てはまります。

スマートフォンを操作する手元 通報のとき、目印になる建物や橋の名前を一緒に伝えてください

118番について、海上保安庁はこう説明しています。

海上保安庁は、海上における事件・事故の緊急通報用電話番号として、警察の110番や消防の119番のように覚えやすい局番なし3桁電話番号「118番」の運用を2000年5月1日から開始しています。

**「海上における」**です。川や用水路は118番ではなく119番(または110番)になります。

水辺は住所がわかりにくい場所です。119番したときに現在地を伝えられないと、それだけで到着が遅れます。着いたらまず、近くの橋の名前や目印を確認しておく。家族の誰かが一度やっておけば済むことです。

「助けて」と叫べないことがあります

もうひとつ、知っておいてほしいことがあります。

溺れている人は、必ずしも大声を出したり水しぶきを上げたりしません。

海上保安庁のウォーターセーフティガイドは、その理由を体の浮き方から説明しています。

溺者が助けを呼ぶために手を挙げると、腕が水面上に出すことのできる2%を担ってしまうのでその分だけ体は沈みます。さらに「助けて」と声を出せば肺の空気がなくなり比重は1を超えて、ますます沈みます。つまり溺者が静かに沈むというのは、体を垂直にして、手を挙げて、声を出して助けを呼ぼうとしたときに起こる現象なのです。

**助けを呼ぼうとする動作そのものが、体を沈める。**だから同庁は、こう注意しています。

※溺れている状態で助けてサインを行うことは、十分な浮力が確保できなくなるため危険です。

子どもについては、消費者庁がはっきり書いています。

子どもは声や音を出さず静かに溺れることもあります。

**「静かだから大丈夫」は、成り立ちません。**目を離さない、という助言が繰り返される理由がここにあります。

引き上げたあとの心肺蘇生には、溺水だけの注意があります

これは救急救命士として、どうしても書いておきたいところです。

心肺蘇生は「胸骨圧迫だけでよい」と広まっています。それは正しいのですが、溺水は例外的な扱いになっています。

『救急蘇生法の指針2025(市民用)』の原文です。

とくに、小児の心停止や、窒息や溺水による心停止などでは、人工呼吸を組み合わせた心肺蘇生を行うことが強く望まれます。

溺れて心臓が止まるのは、多くの場合呼吸ができなくなった結果だからです。だから空気を入れることに意味があります。

ただし、同じ文章はこうも続きます。

人工呼吸を躊躇する状況でも、胸骨圧迫だけは勇気をもって行ってください。

この2つは、セットで覚えてください。「人工呼吸ができないなら何もしない」ではありません。できる人はやってほしい、できない人は胸骨圧迫だけでも絶対にやってほしい、という順序です。

引き上げたあとの手順そのものは、通常と同じです。指針は「水から引き上げたら、一次救命処置の手順に従って反応や呼吸を確認してください」としています。

判断に迷う場面の全体像は救急車を呼ぶべき7つのサインと、呼ぶか迷ったときの#7119の使い方にまとめてあります。

出かける前に、家族で決めておく3つ

木立のあいだを流れる小川

1. 上流の天気を見る

行き先の天気ではなく、その川の上流の天気です。晴れていても増水します。

2. 「入らない人」も浮くものを着ける

釣り、川遊びの見守り、河原でのバーベキュー。水に入る予定がない人ほど、統計上は危ないという結果が出ています。

3. 飲んだら入らない、を先に宣言しておく

その場になってから言うと角が立ちます。行く前に決めておくのがいちばん揉めません。

夕暮れの水辺 楽しかった、で終わる日にするための準備です

まとめ

3行まとめ:

  • **亡くなるのは子どもではなく高齢者。**死者・行方不明者760人のうち65歳以上が50.4%、中学生以下は3.6%(令和7年・警察庁)。65歳以上の過半数は過去6年続いています
  • **亡くなる人の行為で最多は「魚とり・釣り」22.1%、水泳はわずか4.9%。**作業中・通行中で93人、用水路で69人。水に入る予定がない人が死んでいます
  • 見つけても飛び込まない。「救助者が死亡する事故を防ぐために、救助は専門家に任せるのが原則」(救急蘇生法の指針2025)。通報→浮くものを投げる→沈んだ場所の目印を覚える
  • **溺水の心肺蘇生は、人工呼吸を組み合わせることが強く望まれる。**ただし「できない場合も胸骨圧迫だけは勇気をもって」もセットです

水の事故は、起きてしまうと救急隊にできることが非常に少ない事故です。だからこの記事は、いつもより「起きる前」の話に寄せて書きました。

出かける前の5分で読める話です。この週末、川や海に行く予定のある方に、そのまま送っていただければ十分です。


本記事は一般的な情報提供であり、医療診断に代わるものではありません。実際の症状については必ず医療機関にご相談ください。

参考

⚠️ 免責事項この記事の情報は一般的な救急知識の情報提供を目的としており、医療行為や医療診断に代わるものではありません。症状がある場合は必ず医療機関を受診してください。生命の危機を感じる症状は、迷わず119番に通報してください。

関連記事

「せきは、そんなにひどくないんです」——見るのは音ではなく、飲めているかどうか。傷病名は「RSウイルスによる細気管支炎」でした
家族を守る

「せきは、そんなにひどくないんです」——見るのは音ではなく、飲めているかどうか。傷病名は「RSウイルスによる細気管支炎」でした

続きを読む →
「虫に刺された覚えは、ありません」——草むらに入った数日後の、高熱と発疹。傷病名は「日本紅斑熱」でした
家族を守る

「虫に刺された覚えは、ありません」——草むらに入った数日後の、高熱と発疹。傷病名は「日本紅斑熱」でした

続きを読む →
「ゆうべ、いただいたキノコを食べました」——症状が出るまでが遅いほうが、危ない。傷病名は「毒キノコによる食中毒」でした
家族を守る

「ゆうべ、いただいたキノコを食べました」——症状が出るまでが遅いほうが、危ない。傷病名は「毒キノコによる食中毒」でした

続きを読む →

記事内容に誤りを発見された場合はこちらからご連絡ください(訂正依頼を選択してください)

🚑

救急のリアル 編集部

現役救命士(匿名)|救急歴20年以上

患者さんとご家族のプライバシーを守るため匿名で運営しています。 内容の正確性については、現役救命士として責任をもってお伝えします。

このブログについて →