「顔がゆがんでいないか」「片方の腕が上がるか」「言葉がいつもと違わないか」——脳卒中を疑う合言葉として、この3つ(FAST)はよく知られてきました。今日はそのあとの話です。
この記事は、特定のどなたかの事案の話ではありません。総務省消防庁が都道府県に発出した通知の原文から、救急隊の観察のしかたをまとめました。
灯りの下で、いつもと違う様子に気づくことがあります(写真はイメージです)
先に、3つだけ
- FAST(顔・腕・言葉)で脳卒中を疑ったあと、救急隊はさらに7項目を観察することがあります。家族がその場で試す手技ではありません
- 4項目以上を満たすと、血栓回収療法(太い血管の詰まりを取り除く治療)ができる医療機関への搬送を考慮する、と提言されています。ただし全国一律の決まりではありません
- 家族がすることは変わりません。いつから、どちらの手足に、何がいつもと違うか。それを見て、そのまま119番で伝えることです
1. 通知の話——FASTのあとに、もう7項目
総務省消防庁は令和2年3月27日、「救急隊における観察・処置等について(通知)」(消防救第83号)を各都道府県に発出しています。日本循環器学会と日本脳卒中学会から提案された内容を、「令和元年度救急業務のあり方に関する検討会」で検討した結果がこの通知になっています。
脳卒中が疑われる傷病者への観察について、こう書いています。
従来どおりFASTやCPSSといった病院前における評価法により脳卒中を疑った際は、これに加え別表1-2に示す7項目の観察を行い、4項目以上を満たした場合、大血管閉塞による脳卒中が疑われるため、機械的血栓回収療法を常時実施できる医療機関への搬送を考慮することが日本脳卒中学会から提言された。 (総務省消防庁「救急隊における観察・処置等について(通知)」消防救第83号)
FASTで疑ったところが終わりではない、ということです。
2. 7項目とは——救急隊が見ているもの
通知の別表1-2は「脳卒中が疑われる傷病者に対する身体観察」という表で、7つの項目がイラスト付きで並んでいます。表の中身を書き出すと、次のとおりです(左が項目名、右がその欄に書かれている説明です)。
| 項目 | 表に書かれている説明 |
|---|---|
| 1.共同偏視 | 両方の眼球が一側を向いている 又は 指を追視させて反対を向けない |
| 2.半側空間無視(指4本法) | 50cm 手前で指4本をかざす/片方(通常左)が見えないので指の数を正確に回答できない |
| 3.失語(眼鏡/時計の呼称) | めがね/とけい と言えない |
| 4.脈不整 | 脈不整がある |
| 5.構音障害 | 呂律がまわらない、不明瞭 |
| 6.顔面麻痺 | 顔がゆがむ |
| 7.上肢麻痺 | 腕が片方動かない |
(総務省消防庁 消防救第83号 別表1-2より。説明文は原文のまま)
5〜7番目(構音障害・顔面麻痺・上肢麻痺)は、FASTの「言葉・顔・腕」とほぼ同じです。増えているのは、共同偏視(両目が同じ方向を向いたまま戻らない)、半側空間無視(見えていない側の指の数を答えられない)、失語(「めがね」「とけい」が言えない)、脈不整の4つです。
共同偏視の確認や指4本法は、救急隊員が学ぶ観察の技術です。家族がその場でやらせてみる手技ではありません。
気づいたことを書き留めておくと、そのまま伝えられます(写真はイメージです)
3. 受診の判断——変わるのは「搬送先」、全国一律の基準ではない
通知には但し書きがあります。ひとつは、7項目の組み合わせがまだ検証中だということです。
なお、現在、当該7項目の観察のうち最も効果的な組合せを科学的に検証する日本脳卒中学会のプロジェクトが進行中であることも申し添える。 (同)
もうひとつは、地域ごとに扱いが異なってよい、ということです。
これを踏まえ、各地域における脳卒中治療・受入れ体制の整備状況等を勘案しながら、地域の実情に応じた十分な検討をお願いする。 (同)
そもそもこの通知は、命令ではなく「消防組織法(昭和22年法律第226号)第37条の規定に基づく助言」として出されたものだと、文書の最後に書かれています。
7項目を4つ満たしたら必ずその病院に運ばれる、という決まりではありません。血栓回収療法を常時実施できる医療機関が近くにあるかどうかは地域によって違い、「搬送を考慮する」候補が増える、という位置づけです。
同じ症状でも、運ばれる先が変わることがあります(写真はイメージです)
家庭で見るのは、この7項目ではありません。消防庁のリーフレット「救急車を上手に使いましょう」(令和7年12月発行)は、おとなのページにこう挙げています。
- 「顔」の欄に「ニッコリ笑うと口や顔の片方がゆがむ」「ろれつがまわりにくく、うまく話せない」
- 「手足」の欄に「突然、片方の腕や足に力が入らなくなる」
(消防庁リーフレット「救急車を上手に使いましょう」おとなのページより)
「全国版救急受診アプリ(Q助)」も同じです。「ろれつが回らない」を選ぶと8つの質問が出て、そのなかに「(症状は)突然始まりましたか?」「手足に力が入りませんか? 〔または〕 手足が動きませんか?」「顔の表情に左右差がありますか?」が並んでいます。8つのうちどれか1つでも当てはまれば、判定は「いますぐ救急車を呼びましょう」です。家族が見られるのは、ここまでです。
迷ったときは、電話をかけるところからで大丈夫です(写真はイメージです)
「いつから、いつもと違ったか」——その時刻が、治療の選択を分けることがあります(写真はイメージです)
数えるのは救急隊。家族が持っているのは、普段の暮らしを知っているという強みです(写真はイメージです)

