今日は、背中の痛みで救急隊が現場で何を確かめているかの話をします。傷病名でいうと尿管結石の疑いです。
この記事は、実際にうかがった事案をもとにしています。年齢は幅で、場所や日付は書きません。救急隊は診断をしません。書く傷病名は現場で疑ったものです。
右の背中の痛みは、強くなったり弱くなったりしながら続いていました(写真はイメージです)
先に、3つだけ
- 背中を叩いて痛むかを確かめるのは、医療者の診察です。ご家族が試す必要はありません
- 痛みが強くなったり弱くなったりする波は、それ自体が伝える価値のある情報です
- 血尿・熱・痛みの移動が「ない」ことは、大丈夫という意味ではありません
1. 傷病名——疑われたのは「尿管結石」でした
通報したのは娘さんでした。70代後半の女性。前日の昼ごろから右の背中に強弱を繰り返す痛みがあり、徐々に悪化していったといいます。脳梗塞の既往と高血圧がありました。
私たちが着いたときの数字です。
- 意識清明、呼吸24回/分、脈80前後
- 血圧は右腕173/101、左腕169/106(普段は130前後)
- 熱はなし(36.1℃)、右の背中を叩くと痛みがある(叩打痛)
- 血尿なし、痛む場所の移動なし、外傷なし
候補はひとつではありません。尿管結石、急性腎盂腎炎、大動脈の病気、胆石発作、筋肉や骨の痛み、帯状疱疹の出はじめ——現場で1つには絞れません。いちばん有力なのは尿管結石で、準緊急で地域の基幹病院にお運びしました。
通報したのは、娘さんでした(写真はイメージです)
2. 症状のサイン——確かめたこと
私たちの仕事は病名を当てることではありません。所見を確かめ、それぞれが「何を示し、何は示さないか」を積み重ねます。
① 背中を叩くと痛むか
これは医療者が診察でおこなう手技です。腎臓の位置を、日本泌尿器科学会は「ちょうど腰が痛い時にとんとんと叩く場所」と説明しています。そして、この所見が何を示すかは、こう書かれています。
急性腎盂腎炎では腎臓の炎症に伴って痛みを生じます。背中の腎臓のあたりを叩くと強い痛みを感じるのが特徴です。 (日本泌尿器科学会【一般のみなさま】「腎臓のあたりが痛む」)
このページが「叩くと強い痛み」を特徴として挙げているのは、急性腎盂腎炎です。今回、現場でいちばん有力だったのは尿管結石でしたが、叩いて痛むという所見だけでは、どちらかに決まりません。だからこそ病院の検査で見分けます。そして、これはご家族が試すものではありません。
② 痛みは強くなったり弱くなったりしたか
今回、痛みは一定ではなく波がありました。波打つ仕組みは尿管結石の記事に書いたので繰り返しません。大事なのは、波があること自体を「治まった」の判断に使わないことです。強弱の変化は、そのままご家族の言葉として情報になります。
③ 両腕の血圧に差はないか、痛む場所は移動したか
私たちは現場で右と左、両方の腕で血圧を測ります。血管が裂ける病気では腕によって血圧に差が出ることがあるからです。今回は右173/101、左169/106ではっきりした差はなく、痛みの場所も動いていませんでした。どちらも、差や移動がないことがその病気を完全に消す材料にはなりません。詳しくは大動脈解離の記事に書いています。
④ 血尿はあるか
今回血尿はなし。MSDマニュアル家庭版はこう書いています。
血尿は診断を支持しますが、すべての結石が血尿を引き起こすわけではありません。 (MSDマニュアル家庭版「尿路結石」)
血尿が「ない」ことは、石が「ない」証明にはなりません。
⑤ 熱はあるか
今回熱はなし(36.1℃)。日本泌尿器科学会は腎盂腎炎の症状をこう説明しています。
頻尿、排尿痛、残尿感、下腹部痛など膀胱炎症状に加え(自覚しない場合もあります)、発熱、全身倦怠感、腎周囲の腰背部痛などの症状が認められます。 (日本泌尿器科学会【一般のみなさま】「排尿症状を伴う発熱がある」)
腎盂腎炎は背中の痛みに発熱が重なるのが典型です。熱がなかったことは可能性を少し下げますが、症状の欠けが病気の欠けと同じとは限りません。
検査で確かめるまでは、候補はひとつに絞られません(写真はイメージです)
3. 受診の判断——Q助「腰痛」の質問
消防庁の「全国版救急受診アプリ(Q助)」で「腰痛」を選ぶと、最初の画面にこの質問が並びます。
3.強く痛む場所が移動しますか? 5.赤い尿が出ましたか? 〔または〕 尿をするとき激しい痛みはありますか?
どちらか1つでも「はい」なら「いますぐ救急車を呼びましょう」です。今回はどちらも「いいえ」でした。
同じ画面には「突然の痛みで強くなっていますか?」もあります。血尿・痛みの移動・痛みの強まり——Q助が聞くのは、そばにいる人が見て答えられることです。「叩くと痛むか」は、Q助には出てきません。
なお、消防庁のリーフレット『救急車を上手に使いましょう』(令和7年12月発行)の全9ページに、「叩打」「間欠」「血尿」は1件も出てきません。症状の言葉だけで、現場の診察所見までは書かれていないのです。
「普段はどのくらいか」を知っている人が、いちばん強い情報を持っています(写真はイメージです)
痛みの波・熱・血尿の有無を、そのつどメモしておくと伝えやすくなります(写真はイメージです)
確かめることが多い痛みほど、家族の言葉が助けになります(写真はイメージです)

