今日は、本人が症状を言えないときの話をします。傷病名でいうと腎盂腎炎(じんうじんえん)——尿路感染症が腎臓まで及んだ状態の疑いです。
この記事は、実際にうかがった事案をもとにしています。年齢は幅で、場所や日付は書きません。救急隊は診断をしません。書く傷病名は、あくまで現場で疑ったものです。
「どこが痛いですか」——この質問が使えない現場が、確かにあります(写真はイメージです)
先に、3つだけ
- 膀胱炎では熱は出ません。熱が出た時点で、膀胱までの話ではない可能性があります
- 尿道カテーテルが入っている人では、熱が最初のサインになることがあります
- 「いつもと違う」は、消防庁の冊子の"おとな"のページにも書いてあります
1. 傷病名——疑われたのは「腎盂腎炎」でした
呼ばれたのは、入院中の病院からでした。より高度な治療ができる病院へ運ぶための要請です。
50代の男性。熱が3日続いていました。検査で尿路感染症と腎機能の低下が疑われ、うちでは診きれない、という判断です。左の前腕には点滴のルート。そして、尿道にカテーテル(尿を出すための細い管)が入っていました。
目は開いていて、こちらを見ています。顔色も悪くない。頭痛・胸痛・腹痛の訴えもない。
ただ、主訴がありませんでした。ご本人と言葉のやりとりができる状態ではなかったからです。
「膀胱炎では、発熱はありません」
厚生労働省老健局の『介護現場における感染対策の手引き 第3版』(令和5年9月)に、こうあります。
感染する場所によって、膀胱炎と腎盂腎炎に分けられます。膀胱炎では、(中略)尿が濁るといった症状がありますが、発熱はありません。(中略)腎盂腎炎では、腎臓の部分の痛みと発熱があります。 (厚生労働省『介護現場における感染対策の手引き 第3版』16.尿路感染症)
膀胱炎の症状として挙げられているのは、排尿痛・残尿感・頻尿・尿の濁りです。
膀胱炎では熱は出ない。「熱がある尿の感染」は、もう膀胱までの話ではない可能性がある、ということです。
原因も同じ手引きが名指しします。「尿道カテーテルの長期留置等が原因となることもある」「チューブ類は、感染のリスクが高い」(同 p.28)。管が入っていること自体が、リスクとして挙げられている。年齢の話ではありません。
管が入っている、というだけで見るべきところが増えます(写真はイメージです)
2. 症状のサイン——「出ていない」のと「言えない」のは、別のことです
手引きは「腎盂腎炎では、腎臓の部分の痛みと発熱があります」と書いています。では今回、痛みはなかったのか。
わかりません。確かめる方法がなかったからです。記録に残るのは「訴えなし」。ただしその4文字は、本当に無いのか、伝わっていないだけなのか、区別がついていません。
高齢の方の「症状が出にくさ」は80代の事案に書きました。ただ今回の方は50代。年齢では説明がつきません。
では、何を見るのか
同じ手引きが答えを持っています。介護の現場向けですが、家族がそのまま使えます。
「普段の反応と違う」、「今日は笑顔がみられない」、「なんだか元気がない」等の日常の中の変化を早期に把握することが大切です。(同 p.28)
次のページには、認められたら直ちに看護職員や医師に報告する症状が一覧で並びます。意識レベルの低下・発熱・嘔吐・腹痛と同じ並びに、「いつもと比べて活気がない」が入っています(p.29)。尿路感染症については「尿の混濁等に注意」とも(p.31)。活気も尿の濁りも、本人が言えなくても、そばにいる人には見えます。
「いつもと何が違うか」は、書き留めておくと伝えやすくなります(写真はイメージです)
3. 受診の判断——Q助は、症状を選ぶ前に8つ聞いてきます
消防庁の「全国版救急受診アプリ(Q助)」は、症状を選ぶと緊急度の目安が出ます(使い方は♯7119の記事へ)。書きたいのは中身の構造です。
症状を選ぶ画面の前に、質問が2段階あります。まず「はじめに必ず確認する症状」——呼吸・脈・水没・体の冷たさの4つ。当てはまらなければ「各症状へ進む前に」が4つ続きます。
①(いつもどおり)ふつうにしゃべれていますか? 声は出せていますか? ②ハアハアしますか(ハアハアしていますか)? 息は苦しい(苦しそう)ですか? ③顔色、唇、耳の色が悪いですか? 冷や汗をかいていますか? ④しっかりと受け答えが出来ますか?
この8つ、ひとつも本人の説明を必要としていません。そばにいる人が見ればわかることだけで書かれています。
①の「いつもどおり」という括弧書きも大事です。基準はその人のいつもで、そこが変わったかを見ます。
④で「いいえ」を選ぶと
症状の選択画面を飛ばして「意識がおかしい」へ直行します。そこにある「10.発熱(38℃以上)はありますか?」を選べば、結果は「いますぐ救急車を呼びましょう」。次の画面には「9.いつもと違った様子ですか?」も正式な選択肢として並びます。
Q助の8つの質問は、すべて「見ればわかること」で書かれています(写真はイメージです)
「いつもと違う」は、いつもを知っている人にしか言えません(写真はイメージです)
同じ手引きは、尿路感染症の予防として「水分をたくさんとりましょう」とも書いています(写真はイメージです)

