「のどが痛いだけです」——のどを見ても赤くない。傷病名は「急性喉頭蓋炎」でした
家族を守る

「のどが痛いだけです」——のどを見ても赤くない。傷病名は「急性喉頭蓋炎」でした

「のどが痛い」だけで救急車を呼ぶ人はほとんどいません。ところが、のどを覗いても赤くないのに、数時間で気道がふさがる病気があります。傷病名は「急性喉頭蓋炎」。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は「診断が遅くなると息が詰まり直ちに命にかかわる」と書き、厚生労働省は危険症候として『唾を飲み込めない』『前傾姿勢』を挙げています。現役救急救命士が公的資料の原文で説明します。

今日は、**「急性喉頭蓋炎(きゅうせい・こうとうがいえん)」**という病気の話をします。

読みにくい名前ですが、覚えていただきたいのは名前ではありません。「のどが痛いだけ」に見える人が、息をする道をふさがれることがある——その一点です。

しかもこの病気には、ひどく意地の悪い特徴があります。のどを覗いても、赤くないことがあるのです。

のどのあたりに手をあてている 「のどが痛い」で救急車を呼ぶ人は、ほとんどいません(写真はイメージです)

順番に説明します。

1. 症状——「のどが痛いだけです」

私たちが呼ばれる場面は、だいたいこういう形です。

ご本人は意識もはっきりしていて、自分で歩けます。座って、こちらの質問にもちゃんと答える。訴えはひとつだけです。

  • のどが痛い
  • 熱がある
  • ゆうべから、だんだんひどくなってきた

ご家族は、たいてい申し訳なさそうにしています。「のどが痛いだけで救急車を呼んでしまって、すみません」と言われることもあります。

**謝る必要は、まったくありません。**なぜそう言えるのかは、最後まで読んでいただければ分かります。

そして、この訴えの陰に隠れているものがあります。ご家族もご本人も、聞かれるまで言わないことばかりです。

  • つばが飲み込めない(痛くて、飲み込むのをやめている)
  • 口の端から、よだれが垂れている
  • 声が、こもっている(かすれ声ではなく、口に何か入れて喋っているような声)
  • 横になろうとしない。座って、前かがみのまま動かない

2. 救急隊が現場で疑うもの

「のどが痛い」「熱がある」で呼ばれたとき、私たちが最初に頭に浮かべるのは、正直に言えばこのあたりです。

  • かぜ・インフルエンザ(のどの痛みと発熱で、いちばん数が多い)
  • 急性咽頭炎(のどの粘膜が腫れる)
  • 急性扁桃炎・扁桃周囲膿瘍(扁桃が腫れる、そのまわりに膿がたまる)
  • 魚の骨などが刺さった(咽頭異物

この並べ方は、私が勝手にしているものではありません。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会の一般向けページ「のどが痛い」に、そのまま並んでいます。

かぜのほか、のどの炎症には、のどの粘膜が腫れた咽頭炎・扁桃腺が腫れた扁桃炎・扁桃のまわりに膿がたまった扁桃周囲膿瘍・のどの奥の喉頭が腫れた喉頭炎・喉頭の入口にある喉頭蓋が腫れた急性喉頭蓋(がい)炎などがあります。

つまり「のどが痛い」の行き先は5つ以上あって、そのうちの1つだけが、気道をふさぐ。学会は続けてこう書いています。

急性喉頭蓋炎は強く腫れると気道をふさぎ呼吸困難になることがあるので注意が必要です。のどに痛みがあり、呼吸がつらいと感じたら直ちに耳鼻咽喉科医を受診してください。

そして、いちばん多い「かぜ」も、いちばん危ない「喉頭蓋炎」も、**最初の訴えは同じ「のどが痛い」**です。バイタルサイン(脈拍・血圧・酸素の値)も、この段階では正常なことがあります。

だから私たちは、のどの痛みを訴える人には、必ず痛み以外のことを見ます。声の質、つばの処理、そして座り方です。

夜、明かりのついた窓 悪くなるのは、たいてい夜です(写真はイメージです)

3. 病院での検査

搬送先で行われるのは、のどの奥を、直接見る検査です。

普通に口を開けて覗くだけでは足りません。済生会(社会福祉法人恩賜財団済生会)の解説には、こう書かれています。

急性喉頭蓋炎の診断は、ただ口を開けて喉を見ただけでは困難で、喉頭ファイバーなどの検査を受ける必要があります。

鼻から細いカメラを入れて、のどの奥を見る検査です。MSDマニュアル家庭版は、この検査をする場所まで書いています。

喉頭蓋炎の診断は、一般的には手術室で柔軟な細い管状の機器(喉頭鏡)を使って喉頭蓋を観察することによって行います。

「手術室で」の一言に、この病気の性格が全部出ています。覗いた拍子に気道が完全にふさがっても、その場ですぐ手を打てる場所でやる、ということです。

そして、ここが本題です。

感染部位は喉頭蓋なので、診察時にのどの奥が感染しているように見えないことがよくあります。(MSDマニュアル家庭版)

**ひどい咽頭痛(喉の痛み)があっても、中咽頭に炎症がない場合、喉頭蓋炎が疑われます。**中咽頭とは、開口したとき正面に見え、扁桃腺などがある視診可能な部位です。(済生会)

読み間違えないでください。「のどが赤くないから大丈夫」ではありません。「のどが赤くないのに、ものすごく痛い」ことが、逆に疑う根拠になると書いてあるのです。

4. 傷病名——「急性喉頭蓋炎」

かぜかもしれない。扁桃炎かもしれない。骨が刺さったのかもしれない。——現場でいろいろ検討したうえで確定する傷病名が、急性喉頭蓋炎です。

日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は、この病気をこう説明しています。

呼吸が苦しくなる原因はたくさんありますが、大事な疾患の一つが急性喉頭蓋(がい)炎です。診断が遅くなると息が詰まり直ちに命にかかわる可能性があります。発熱、のどの痛みなどの他に息がしづらい、物をのみこみにくいなどの症状が出てきたときは、急いで耳鼻咽喉科を受診して下さい。

厚生労働省のHib感染症に関する記述(2026年3月10日版)は、家庭から見える姿をもっと具体的に書いています。

急性喉頭蓋炎は高熱、咽頭痛で発症し、嚥下困難、流涎がみられます。顎の挙上、開口および前傾姿勢が特徴とされ、急激に進行する気道閉塞による死亡も多いとされています。

一文ずつ、日常の言葉に置き換えます。

資料の言葉 家庭で見える形
高熱、咽頭痛で発症し 熱が出て、のどが痛い
嚥下困難 飲み込めない。つばもつらい
流涎(りゅうぜん) よだれが垂れる
顎の挙上、開口 あごを上げ、口を開けている
前傾姿勢 座って前かがみ。横にならない
急激に進行する気道閉塞による死亡も多い 息の通り道がふさがって、亡くなることがある

**「よだれ」と「前かがみ」は、行儀の問題ではありません。**国の資料に、この病気の特徴として書かれている所見です。

水の入ったグラス コップの水が減っていなければ、それは「飲みたくない」ではないかもしれません(写真はイメージです)

5. 急性喉頭蓋炎とは?

ここからは、この病気そのものの説明です。専門用語は使わずに書きます。

喉頭蓋は、気管の「ふた」です

まず、喉頭蓋(こうとうがい)が何なのか。MSDマニュアル家庭版の説明が、いちばん短くて正確です。

喉頭蓋は小さなふた状の硬い組織で、ものを飲み込むときに喉頭と気管の入り口をふさぎます。

のどの奥には、道が2本あります。**食べ物が行く道(食道)**と、空気が行く道(気管)です。飲み込むたびに、空気の道のほうへふたが下りて、食べ物が肺に落ちないようにしている。そのふたが喉頭蓋です。

このふたが細菌に感染して腫れる。それが急性喉頭蓋炎です。

喉頭蓋炎(こうとうがいえん)は、喉頭蓋とその周囲の組織の細菌感染症です。

腫れる場所が、悪すぎます

問題は、腫れる場所が空気の入り口そのものだということです。

指を切って腫れても、指が使いにくくなるだけです。ところが気管の入り口のふたが腫れれば、空気の通り道が細くなります。

喉頭蓋炎は、気管を閉塞させるため死に至ることもあります。 主な症状は、のどの激しい痛み、よだれ、大きな呼吸音を伴う呼吸困難です。(MSDマニュアル家庭版)

そして、のどの奥を覗いても喉頭蓋は見えません。舌の付け根より、さらに奥にあるからです。**懐中電灯で照らして見える範囲には、腫れている場所がない。**だから「のどは赤くない」のに痛い、という食い違いが起きます。

モノクロの、首に手をあてた人 腫れているのは、覗いて見える場所より、ずっと奥です(写真はイメージです)

子どもと大人で、進み方が違います

これは、はっきり分けて書く必要があります。

子どもの場合、MSDマニュアル家庭版はこう書いています。

小児の喉頭蓋炎では、症状は突然発生し、症状が出始めてから数時間以内に、喉頭の狭窄が起こり死に至ることがあります。

症状として挙がっているのは、強いのどの痛み/ものを飲み込むのが難しい/飲み込む際の痛み/発熱/よだれ/くぐもった声の6つです。

気道が狭くなってくると、音が出ます。

喉頭蓋の腫れによって気道が狭くなってくると、初めのうちは息を吸うときにゼーゼー、ヒューヒューといった音またはあえぐような音(吸気性喘鳴[stridor])が生じ、続いて呼吸困難が徐々に悪化します。病状は急速に進行します。

大人の場合は、進み方が違います。

成人の喉頭蓋炎では、小児と同様、のどの痛み、発熱、ものを飲み込みにくい、よだれなどの症状がありますが、**通常は症状が発生するまでに24時間以上かかります。**成人の気道は太いため、小児に比べて気道閉塞の頻度は低く、それほど急に起こるわけでもありません。しかし、それでも気道がふさがることはあり、診断と治療が遅れれば死亡することがあります。

ここを読み違えないでください。大人のほうが「ゆっくり」なのは事実です。でも文はそこで終わっておらず、**「診断と治療が遅れれば死亡することがあります」**と続いています。

大人にとっての本当の危険は、速さではなく、「たかがのどの痛みだから」と一晩様子を見てしまう時間のほうです。

誰がなるのか——「子どもの病気」ではなくなりました

かつて、この病気の主な原因菌はHib(ヒブ)という細菌で、患者の中心は乳幼児でした。厚生労働省にも、こうあります。

b型(Hib)株がもっとも病原性が高いとされ、乳児や小児の敗血症や髄膜炎、急性喉頭蓋炎などの侵襲性感染症の起因菌となることが多いことが知られています。

ところが、ワクチンが状況を変えました。

インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)B型による喉頭蓋炎は、かつては小児で最も多くみられていましたが、インフルエンザ菌に対する定期予防接種によって、この感染症はほぼ根絶されています。現在では成人の発症例の方が多くなっています。(MSDマニュアル家庭版)

厚生労働省の『抗微生物薬適正使用の手引き 第四版』(2026年1月)にも、同じことが一行で書かれています。

なお、重要な鑑別診断である急性喉頭蓋炎は、その主な原因が H. influenzae b 型であり、ヒブワクチンの普及で激減した

**いまこの病気にかかるのは、大人のほうが多い。**これが、今日いちばん覚えて帰っていただきたい事実です。

「子どもの病気」というイメージだけが残っていると、大人ののどの痛みが、まっすぐ「ただのかぜ」に流れていきます。

6. 急性喉頭蓋炎を避けるには?

ここが本題です。できることとできないことを、正直に分けて書きます。

避けかた その1:子どもは、ワクチンで防げる部分があります

Hibが原因の分については、ワクチンで予防できます。

インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)b型による喉頭蓋炎は、インフルエンザ菌b型(Hib)ワクチンで効果的に予防できます。(MSDマニュアル家庭版)

日本では2013年4月にHibワクチンが定期接種になり、現在は5種混合ワクチン(百日せき・ジフテリア・破傷風・不活化ポリオ・Hib)が主に使われています。厚生労働省は対象をこう書いています。

接種の対象者は、生後2か月以上60か月(5歳)に至るまでの小児です(5種混合ワクチンを使用する場合は生後90か月(7歳6か月)に至るまで接種可能)。

**小さいお子さんがいるご家庭は、母子健康手帳の予防接種の欄を一度見てください。**それが、この病気に対して家庭でできる、唯一のはっきりした「予防」です。

ワクチンを準備する手元 「予防」と呼べるのは、この一手だけです(写真はイメージです)

避けかた その2:大人には予防がありません。あるのは「早く気づく」だけです

はっきり書きます。**大人がこの病気を防ぐ方法は、今回調べた公的資料の中にはありませんでした。**Hibワクチンは小児の定期接種で、大人が打って防ぐものとしては書かれていません。

だから大人の場合、「避ける」の中身は早く気づくことしかありません。そして、気づく材料は痛みの強さではありません。

ここについては、日本の国の文書に、そのままリストがあります。厚生労働省『抗微生物薬適正使用の手引き 第四版 医科・外来編』(2026年1月16日)の、成人の急性咽頭炎の項です。

咽頭痛を訴える患者では、急性喉頭蓋炎、深頸部膿瘍(扁桃周囲膿瘍、咽後膿瘍、Ludwig アンギーナ等)、Lemierre 症候群等の命に関わる疾病が原因である可能性もあることから、**人生最悪の喉の痛み、開口障害、唾を飲み込めない(流涎)、Tripod Position(三脚のような姿勢、前傾姿勢で呼吸補助筋を使用した呼吸)、吸気性喘鳴(Stridor)といった Red Flag(危険症候)**があればこれらの疾病を疑い、緊急気道確保ができる体制を整えるべきと指摘されている

これは医師向けの文章ですが、中身は全部、家族の目で見えるものです。ひとつずつ言い換えます。

(1)人生最悪の喉の痛み 「今までののどの痛みとは、種類が違う」と本人が言う。比較の相手は他人ではなく、その人自身の過去です。

(2)開口障害 口を大きく開けられない。あるいは逆に、あごを上げて口を開けたままにしている。

(3)唾を飲み込めない(流涎) コップの水が減っていない。会話の途中で飲み込むしぐさがない。ティッシュを口元に当てている。よだれが垂れている。——**大人がよだれを垂らしているのは、飲み込めていないということです。**恥ずかしがって隠すので、こちらから見ないと分かりません。

(4)前傾姿勢(Tripod Position) 横になろうとせず、**座って前かがみのまま動かない。**腕で体を支えるようにして、肩で息をしている。手引きが「三脚のような姿勢」と呼んでいる形です。

(5)吸気性喘鳴(Stridor) 息を吸うときにゼーゼー、ヒューヒューと音がする。ぜんそくの「吐くときのゼーゼー」とは逆向きです。

そして、この5つに入っていない6つめを、私は現場の感覚として足しておきます。声です。

口の中に音がこもっているように聞こえる含み声は、急性喉頭蓋(がい)炎や扁桃周囲膿瘍など、のどに強い炎症を伴う病気を疑う必要があります。(日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会)

MSDマニュアル家庭版の「のどの痛み」のページは、この声をもっと分かりやすく書いています。

くぐもった、「熱いジャガイモが口に入っているような」声(熱いものが口の中に入っているかのように話す)

**かすれ声ではありません。**電話で聞いても分かるくらい、口の中に何か入れて喋っているような声です。

**これらは全部、痛みの強さとは無関係に出ます。**そして全部、**本人からは言い出しません。**家族が見るしかない項目です。

電子体温計 熱は測れば分かります。飲み込めているかは、見ないと分かりません(写真はイメージです)

避けかた その3:「のどは赤くなかった」を、安心の材料にしない

これがいちばん大事かもしれません。

医療機関にかかって「のどは腫れていませんね」と言われたとします。その言葉は、この病気を否定しません。

激しいのどの痛みがあるにもかかわらずのどが正常に見える場合、医師は喉頭蓋炎を疑います。(MSDマニュアル家庭版)

家に帰ってから上の(1)〜(5)や含み声が出てきたなら、話が変わったということです。前に診てもらったから大丈夫、にはなりません。

そして学会は、行き先まで書いています。「急いで耳鼻咽喉科を受診して下さい」——のどの奥を見る道具を持っているのは、耳鼻咽喉科だからです。

7. 家族へ——実際に起きてしまったら

(1)息が苦しそうなら、119番です。

総務省消防庁のリーフレット『救急車を上手に使いましょう』(令和7年12月発行)の「おとな」のページには、ためらわず救急車を呼んでほしい症状として、こう書かれています。

● 急な息切れ、呼吸困難

これで十分です。病名を家族が当てる必要はありません。

(2)ただし、正直に書きます。このリーフレットに「のどが痛い」はありません。

今回、9ページ全部を確認しました。「のどが痛い」「よだれ」「声がこもる」に相当する項目は、高齢者・おとな・こどものどのページにも1つもありません。「のど」が出てくるのは「物をのどにつまらせて、呼吸が苦しい、意識がない」(=食べ物などの気道異物)だけです。

つまり、この病気は、国の「すぐ119番」リストでは、息が苦しくなる前の段階では拾えないということです。そのときにはもう、気道が細くなっています。

これは資料の欠陥という話ではないと思います。リストは誰にでも分かる形で作られているので、「のどが痛い」のような、ほとんどが軽症で終わる訴えは載せられないのでしょう。だからこそ、この記事のような形で補う必要があると考えて書いています。

(3)迷う段階のための窓口があります。

「息が苦しいとまでは言えないけれど、つばが飲み込めていない」——これがいちばん迷う場面です。この段階で救急車を呼ぶべきかを示した公的資料は、今回見つけられませんでした。

そのための窓口が**♯7119(救急安心センター事業)**です。使い方は#7119の使い方に、かかりつけ医と救急外来の使い分けはかかりつけ医と救急外来の分かれ目にまとめました。電話で「つばが飲み込めていません」「よだれが出ています」と言えることが、この記事の実用的な着地点です。

(4)「あとで行く」をしないでください。

済生会の解説に、こういう一文があります。

かかりつけ医に急性喉頭蓋炎と診断され、入院可能な総合病院を紹介された場合は、可能な限り早く受診してください。自宅に戻って着替える用意などをしているうちに、症状が悪くなって窒息する可能性もあります。

「着替えを取りに帰る」ができない病気だ、と書いてあります。紹介されたら、そのまま向かってください。

(5)本人が選んだ姿勢を、変えないでください。

座って前かがみでいる人を、「横になったほうが楽でしょう」と寝かせないでください。厚生労働省の手引きは、小児について、こう書いています。

短時間で窒息にいたる可能性があり、口腔内の診察はもとより採血やレントゲン検査等の、患児にストレスを与えることは避けて、患児の楽な姿勢のままで、安全に気道確保できる施設への転院を速やかに決断することが重要である

医療機関の中でさえ「楽な姿勢のままで」なのですから、家庭でも同じです。救急車を待つあいだも、本人がいちばん楽な姿勢のままにしておいてください。(大人についても同じ方向で書いている国の記載は見つけられませんでしたが、呼吸が苦しい人を無理に寝かせないというのは救急の一般的な考え方で、119番で迷ったら押す5つの症状でも同じことを書いています。)

(6)119番では、こう言ってください。

「のどが痛くて、つばが飲み込めていません」 「よだれが出ています」 「声がこもっています」 「座って前かがみのまま、横になりません

「のどが痛いです」だけだと、この情報は誰にも届きません。119番で何を聞かれるかは119番通報で聞かれる7つのことにまとめてあります。

スマートフォンを持つ手 伝える言葉は、「痛い」ではなく「飲み込めない」です(写真はイメージです)

(7)食べさせない・飲ませないでください。

飲み込めていない人に無理に飲ませれば、それは誤って気管に入ります。のどに食べ物を詰まらせたときの対処はお盆の食卓で、のどを詰まらせたらに書きましたが、**今日の話はそれとは別の病気です。**背中を叩いても腹部を突き上げても、腫れは取れません。

診察の記録 病院に着いてからの検査は、手術室で行われることがあります(写真はイメージです)

この記事で「書けなかったこと」

いつものように、確認できなかったことを正直に置いておきます。

  • **日本での急性喉頭蓋炎の患者数・死亡数・気道確保が必要になる割合。**公的な全国集計は見つけられませんでした。国が集計しているのは「侵襲性インフルエンザ菌感染症」(血液や髄液から菌が出た症例の届出)で、急性喉頭蓋炎そのものの数ではありません。「年間何人」は書けません。
  • 「急性喉頭蓋炎の◯%が気道確保を要する」という数字。学会誌に、成人216例中39例(18.1%)という報告(日本耳鼻咽喉科学会会報 117巻3号, 2014年)がありますが、これはひとつの施設の症例をまとめたもので、全国の割合ではありません。本文では使っていません。
  • 急性喉頭蓋炎の救急搬送人員。『救急救助の現況』に該当する集計がなく、書けません。
  • **大人がこの病気を予防する方法。**Hibワクチンは小児の定期接種で、成人の予防手段としての記載は見つかりませんでした。
  • 何時間で危険になるか(大人の場合)。MSDマニュアル家庭版の「24時間以上」は症状が出そろうまでの時間であって、「危険になるまでの猶予」ではありません。時間の目安として使わないでください。
  • 家庭で急性喉頭蓋炎を見分ける手順。ありません。本文の危険症候は、厚生労働省の手引きが医師に向けて挙げているものです。家族が診断する話にはしていません。
  • **「のどが赤くないのに痛ければ喉頭蓋炎」という逆向きの読み方。**資料が書いているのは「そういう場合に医師が疑う」であって、そう決まるという意味ではありません。
  • **喫煙・飲酒・持病などの危険因子。**今回確認した一般向け資料には記載がありませんでした。
  • **急性喉頭蓋炎と扁桃炎・咽頭炎を家庭で区別する方法。**公的資料にはありません。だから「区別する」ではなく「痛み以外を見る」という形にしています。

まとめ

3行まとめ:

  • **傷病名は「急性喉頭蓋炎」。**気管の入り口のふた(喉頭蓋)が細菌で腫れる病気です。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は「診断が遅くなると息が詰まり直ちに命にかかわる可能性があります」と書いています
  • のどを覗いても、赤くないことがあります。「激しいのどの痛みがあるにもかかわらずのどが正常に見える場合、医師は喉頭蓋炎を疑います」(MSDマニュアル家庭版)。「赤くないから大丈夫」は成り立ちません
  • 家族が見るのは、痛みの強さではありません。厚生労働省の手引きが挙げる危険症候は、人生最悪の喉の痛み・開口障害・唾を飲み込めない前傾姿勢息を吸うときの喘鳴。ここに含み声を足した6つです。そしていまは子どもより大人のほうが多い病気です

「のどが痛いだけで救急車を呼んでしまって、すみません」——冒頭のご家族の言葉に戻ります。

**謝る必要はありません。**この病気は、息が苦しくなるより前に気づいた人が、いちばん助かります。

窓から差し込む光 朝まで待つかどうかを、痛みの強さで決めないでください(写真はイメージです)

**この夏、ご家族が「のどが痛い」と言っていたら、コップの水が減っているかどうかだけ見てください。**それが今日、いちばん実用的なお願いです。

障子から光が入る和室 見るのは、痛がり方ではなく、飲み込み方でした(写真はイメージです)

今日そろえておけるもの

高価な道具は要りません。今日の話に直接効くのは、この3つくらいです。

  • 電子体温計 — 厚生労働省の記述は「高熱、咽頭痛で発症し」から始まります。熱は測れば分かる唯一の客観的な数字で、119番でも♯7119でも必ず聞かれます
  • 母子健康手帳ケース — 小さいお子さんがいるご家庭は、Hib(5種混合)ワクチンの記録が残っているか確認してください。この病気に対して家庭でできる、唯一のはっきりした予防です
  • お薬手帳・お薬手帳ケース — 消防庁のリーフレットが「救急車を呼んだら用意しておくと便利」なものとして名指ししています。抗菌薬のアレルギーがある方はとくに、口で言うより書いてあるほうが確実です

関連記事として、のどが痛くないのに肺炎が進むむせていないのに誤嚥性肺炎、症状の裏に別の傷病名が隠れていた例として頭痛と吐き気だったのに、傷病名は急性緑内障発作、のどや口の腫れが急に進むハチに刺されたあとのアナフィラキシーもあわせてご覧ください。


本記事は一般的な情報提供であり、医療診断に代わるものではありません。実際の症状については必ず医療機関にご相談ください。

参考

⚠️ 免責事項この記事の情報は一般的な救急知識の情報提供を目的としており、医療行為や医療診断に代わるものではありません。症状がある場合は必ず医療機関を受診してください。生命の危機を感じる症状は、迷わず119番に通報してください。

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