お盆です。ふだんは離れて暮らしている家族が集まって、同じ食卓を囲んでいる家も多いと思います。
その食卓は、救急隊にとって窒息の通報が入りやすい場面でもあります。
人が集まって、いつもと違うものを、いつもと違うペースで食べる日です(写真はイメージです)
この記事は、もし目の前で誰かがのどを詰まらせたら、家族が最初の1分に何をすればいいかだけを書きます。
そして最初に、いちばん意外なことをお伝えします。
窒息は、「119番通報よりも異物除去を優先する」という指示が、国の手引きにはっきり書かれている場面です。
「窒息=正月の餅」だと思っていませんか
窒息の話は、たいてい年末に出てきます。だから夏には関係のない話だと思われがちです。
まず、数字を見てください。
厚生労働省の人口動態統計(令和6年・確定数)で、「気道閉塞を生じた食物の誤えん」——食べ物がのどに詰まって亡くなった人は、4,383人でした。
年代別の内訳は、こうなっています(消費者庁が同統計から作成)。
| 年代 | 人数 | 割合 |
|---|---|---|
| 14歳以下 | 11人 | 0.3% |
| 15〜64歳 | 380人 | 8.7% |
| 65〜79歳 | 1,102人 | 25.1% |
| 80歳以上 | 2,890人 | 65.9% |
65歳以上が3,992人。全体の約91%です。そして80歳以上だけで、3人に2人を占めています。
比較のために、もうひとつ。同じ統計の同じ年、交通事故による死亡は3,511人でした(人口動態統計の死因分類による数字で、警察庁が発表する交通事故死者数とは集計の仕方が違います)。
食べ物をのどに詰まらせて亡くなる人のほうが、交通事故で亡くなる人より多い——これが、いまの日本の数字です。消費者庁も、はっきりこう書いています。
例えば、食べ物による窒息、浴室での溺水で亡くなられる方は、交通事故で亡くなる方より非常に多くなっています。
そして、詰まらせるのは餅だけではありません
「窒息の原因は餅」というイメージも、半分しか当たっていません。
厚生労働科学研究費補助金による研究(平成19年度・主任研究者 向井美惠)は、原因食品についてこう報告しています。
窒息の原因となった食品の種類は多様であり、その中で炭水化物の食品が多くを占め、最も多かったのが餅であった。
「最も多かったのが餅」。ここだけ読めば、やはり餅の話に見えます。ですが、同じ研究の消防本部への調査で分類できた432例の内訳は、こうでした。
「穀類」が最も多く211 例で、そのうち「もち」が77 例、いわゆる「米飯(おにぎりを含む)」61 例、「パン」47 例、「粥」11 例であった。次いで「菓子類」62 例「魚介類」37 例、「果実類」33 例、「肉類」32 例
もち77例に対して、米飯61例、パン47例。詰まらせているのは、特別な食べ物ではありません
**もち77例に対して、ごはん61例、パン47例。**さらに菓子62例、魚介37例、果物33例、肉32例。
お盆の食卓に、ひととおり並ぶものばかりです。
(※この研究は平成19年度のもので、データ自体は古いものです。ただし消費者庁が令和7年12月の注意喚起でも引用している一次資料です。)
もっと新しいデータでも、同じことが起きています
東京消防庁が公表している管内(東京都のうち稲城市・島しょ地区を除く地域)の令和6年のデータです。
令和6年は、1,565人の高齢者がものをつまらせる、誤って飲み込んでしまうことにより救急搬送されています
原因として多かったものの順位は、こうでした。
| 順位 | 原因 | 人数 |
|---|---|---|
| 1 | 包み・袋 | 153人 |
| 2 | 入れ歯 | 118人 |
| 3 | 肉 | 63人 |
| 4 | 薬剤等 | 57人 |
| 5 | 餅 | 54人 |
**餅は5位です。**そして東京消防庁自身が、この表にこう添えています。
特別な食品ではなく、普段の食事の中でも事故は発生しています
**2位が「入れ歯」**というのも、見落とされがちなところだと思います。合わない入れ歯は、噛む力の問題であると同時に、それ自体が詰まるものでもあります。
そして、9割は家の中で起きています
同じデータで、発生場所の内訳はこうでした。
事故の発生場所では、9割以上が「住宅等居住場所」で発生しています
**1,565人のうち1,430人(91.4%)が、住宅等居住場所。**外食先でも、施設でもなく、家の食卓です。
重症度も見ておいてください。
救急搬送時の初診時程度では5割以上の高齢者が入院の必要がある中等症以上と診断され、379人が生命の危険がある重症以上と診断されています
**5割以上が入院の必要な中等症以上。**そのうち生命の危険がある重症以上が379人、死亡は102人でした(いずれも令和6年・東京消防庁管内)。
※東京消防庁の数字は管内のもので、全国の値ではありません。
窒息は、静かに起きます
まず知っておいてほしいのは、窒息した人は助けを呼べないということです。
のどが完全に詰まれば、声は出ません。「苦しい」も「詰まった」も言えない。騒がしい食卓では、隣の人が気づかないまま数十秒が過ぎます。
これは、水の事故で「溺れている人が、声も出さずに沈んでいくことがある」のと、まったく同じ構造です。助けを求める声が上がらない事故は、周りが自分から見つけにいくしかありません。
だから、まず見分け方から始めます。
サイン①「苦しそう・顔色が悪い・声が出せない」
『救急蘇生法の指針2025(市民用)』——国の市民向けの手引きです——には、こう書かれています。
適切な対処の第一歩は、窒息に気がつくことです。苦しそう、顔色が悪い、声が出せない、息ができないなどがあれば、窒息しているかもしれません。
そして、次の一手が具体的に示されています。
このような場合には「喉が詰まったの?」とたずねます。声が出せず、うなずくようであれば、ただちに気道異物への対処を行います。
「大丈夫?」ではなく「喉が詰まったの?」。答えられるかどうかが、そのまま判定になります
「喉が詰まったの?」と聞いてください。
質問の形が大事です。**声を出して答えられるなら、気道は完全には詰まっていません。**声が出ずにうなずくだけなら、それが答えです。
サイン②「窒息のサイン」——のどをつかむ仕草
もうひとつ、覚えて帰っていただきたい仕草があります。
気道異物により窒息を起こすと、親指と人差し指で喉をつかむ仕草をすることがあり、これを「窒息のサイン」といいます。
親指と人差し指で、のどをつかむ。これが世界共通の「詰まった」の合図です
指針は、この仕草についてもう一方の使い方も書いています。
また、自分が窒息して声が出せない場合は、この仕草で窒息したことを周りの人に知らせましょう。
**これは、自分が詰まらせたときのための知識でもあります。**声が出ないと分かった瞬間に、この形を作って周りに見せる。食卓を囲む全員が知っていれば、それが最速の通報になります。
咳ができているうちは、叩かないでください
ここが、いちばん誤解されているところだと思います。
むせている人を見ると、多くの人は反射的に背中を叩きます。でも指針は、順番を明確に分けています。
異物が気道に入っても咳ができる間は、気道は完全には詰まっていません。窒息になる前であれば、強い咳により自力で排出できることもあります。救助者は大声で助けを求めたうえで、できるだけ強く咳をするよう促してください。
咳は、体がやっている「異物除去」そのものです
**咳は、人間が持っているいちばん強い異物除去の力です。**それが出ているということは、気道にすき間が残っているということでもあります。
だから、咳ができているあいだの正解は——
- 咳を止めない
- 「もっと強く咳をして」と促す
- 同時に、大声で助けを呼んでおく
そして、指針はその先をこう書いています。
咳ができなくなった場合には、窒息としての迅速な対応が必要です。
**咳ができる → できなくなる。**この変化が、手を出すタイミングの合図です。
ただし、高齢者は「咳で出す力」そのものが落ちています
消費者庁は、高齢者が詰まらせやすい理由を4つ挙げています。4つ目を読んでください。
・ 歯の機能が衰え、噛む力も弱くなる ・ 唾液の量が少なくなる ・ 飲み込む力が弱くなる ・ 咳などで押し返す力が弱くなる(万が一、喉に食べ物が詰まったときに、咳などで押し出しにくくなります。)
つまり高齢のご家族の場合、「咳で自力排出できる」という前提そのものが、若い人より弱いということです。
咳を促すのは正解です。**ただし、期待して眺める時間を長く取らないでください。**咳が弱まってきたら、その時点で次の手に移ります。
ひとりのときは、119番より異物除去が先
ここが冒頭でお伝えした、この記事でいちばん重要な部分です。
指針の原文です。
傷病者が声を出せず、強い咳をすることもできないときには窒息と判断し、救助者はただちに大声で助けを呼んで、119番通報を依頼し、以下の手順で異物除去を試みてください。救助者が1人の場合には、傷病者に反応がある間は119番通報よりも異物除去を優先します。
読み違えないでいただきたいので、2つに分けます。
① 人がいるなら——大声で助けを呼び、119番は他の人に頼む。自分は手を動かす。
② 自分ひとりなら——反応があるあいだは、通報より異物除去が先。
「呼ばなくていい」ではありません。「先に手を動かす」です
私たち救急隊は、ほとんどの場面で「迷ったらまず119番」とお伝えしています。その原則の、数少ない例外がここです。
理由は単純で、通報して私たちが到着するまでのあいだ、その人は息をしていないからです。電話で説明している数分を、そのまま待たせるわけにはいきません。
ただし、**手が離せないなら、電話をかけてスピーカーにするという手もあります。**指針にはこう書かれています。
窒息への対応がわからないときは、119番通報をすると通信指令員が対応の手順を教えてくれますので、落ち着いて指示に従ってください。
**手順を思い出せなくても構いません。**つないだまま、指示を受けながら手を動かせます。
なお、この「ひとりなら除去が先」は、消費者庁も同じ内容を書いています。
なお、救助者が一人の場合で、詰まらせた人に反応があるうちは、119番通報よりも餅の除去を優先してください。
東京消防庁も、同じ趣旨をこう書いています。
※ 大声で応援を呼んでも誰も来ない場合は、119番通報とAEDの搬送はせずに直ちに気道異物除去を始めます。
**3つの公的機関が、同じ順番を示しています。**言い間違いでも例外的な解釈でもありません。
左右の肩甲骨の、あいだ。手のひらの「付け根」で叩きます
「喉を潤してから食べる」は消費者庁も勧めています。ただし、噛まないうちに流し込むのは逆に危険です
「食べやすいように切っておくね」は、遠慮させないための一言でもあります
なにごともなく片づけ終わる食卓が、いちばんです

