今日は、**「急性緑内障発作(きゅうせい・りょくないしょう・ほっさ)」**という病気の話をします。
聞いたことがない方がほとんどだと思います。私も、救急の仕事に就くまで知りませんでした。
この病気がやっかいなのは、出てくる症状が「頭痛」と「吐き気」だからです。目の病気なのに、目の症状が表に出ないことがある。だから脳の病気だと思われて、脳を診る病院に運ばれます。
そして、放っておくと**失明します。**しかも猶予は「日」ではなく「時間」の単位です。
「頭が痛い」の原因が、頭の中とは限りません(写真はイメージです)
順番に説明します。
1. 症状——「頭が痛くて、吐いてしまって」
119番通報で、いちばんよく聞く訴えのひとつがこれです。
- 突然、激しい頭が痛くなった
- 気持ちが悪くて、吐いてしまった
- 冷や汗が出ている
ご家族から見ると、これだけです。本人は痛みで受け答えもつらそうにしている。目のことなど、誰も話題にしません。
2. 救急隊が現場で疑うもの
この2つ(激しい頭痛+嘔吐)が揃ったとき、私たちがまず頭に浮かべるのは脳です。
- くも膜下出血(脳の表面の血管が破れる)
- 脳出血(脳の中の血管が破れる)
- 脳梗塞(脳の血管が詰まる)
いずれも命に関わるので、搬送先も「脳を診られる病院」を探します。この判断自体は、間違っていません。
実際、総務省消防庁のリーフレット『救急車を上手に使いましょう』(令和7年12月発行)にも、ためらわず救急車を呼んでほしい症状として、こう書かれています。
● 突然の激しい頭痛 ● 冷や汗を伴うような強い吐き気
**この症状で救急車を呼ぶのは、正しい判断です。**そこは変わりません。
訴えの形が同じなら、家族にも救急隊にも区別のしようがありません(写真はイメージです)
3. 病院での検査
運ばれた先で、まず行われるのは頭の検査です。CT(体の断面を撮る機械)で、脳に出血がないかを見ます。
ここで出血が見つかれば、話は脳の治療に進みます。
問題は、異常が見つからなかったときです。
頭は大丈夫だった。では、この激しい頭痛と嘔吐は何なのか。——ここで目を診てはじめて、原因が分かることがあります。目の中の圧力を測る検査(眼圧検査)と、目の中の水の出口を覗く検査です。
4. 傷病名——「急性緑内障発作」
こうして確定するのが、急性緑内障発作です。
日本眼科学会(監修:日本緑内障学会)の一般向け解説には、こう書かれています。
また急性緑内障発作と呼ばれる病態では、**眼圧が正常値の倍以上に急に上昇し、眼痛、視力低下、嘔気、嘔吐などが生じます。**適切な加療をしても著しい視機能障害を来す場合があります。
「嘔気、嘔吐」——吐き気と嘔吐が、この病気の正式な症状として学会の文章に入っているわけです。頭痛についても、日本眼科医会が「見え方の異常のほかに強い頭痛や目の痛みを伴います」と書いています。
つまり、脳の病気と間違われるのは偶然ではありません。症状のリストが、もともと重なっているのです。
5. 急性緑内障発作とは?
ここからは、この病気そのものの説明です。専門用語は使わずに書きます。
目の中には、水が流れています
目の中は、透明な水で満たされています。この水は目の中で作られて、目の中を通って、**出口から外へ流れ出ていきます。**蛇口と排水口がある洗面台のようなものだと思ってください。
作られる量と出ていく量が釣り合っているので、目の中の圧力(=目の硬さ)は一定に保たれています。この圧力のことを眼圧といいます。
日本眼科学会は「眼圧は通常10 mmHgから20 mmHgが正常範囲内と考えられています」と書いています(血圧と同じ単位ですが、まったく別のものです)。
出口が、ふさがることがある
この「水の出口」が、もともと狭い作りの人がいます。そして何かのはずみで、出口が完全にふさがってしまうことがあります。
排水口が詰まった洗面台と同じで、水は入ってくるのに出ていかない。目の中の圧力が、一気に上がります。
日本眼科医会は、この上がり方を具体的に書いています。
急性発作を起こすと眼圧が急激に**(通常40~60mmHg程度まで)**上昇するため、見え方の異常のほかに強い頭痛や目の痛みを伴います。
正常が10〜20ですから、3倍前後です。目が石のように硬くなる。だから、割れるように痛い。吐き気も出る。
水の出口がふさがり、圧力が逃げ場をなくす——それが発作の正体です(写真はイメージです)
目にも症状は出ています(聞けば)
MSDマニュアル家庭版は、目に出る症状をこう並べています。
典型的には、激しい眼の痛みや頭痛、眼の充血、視界がぼやける、光の周囲に虹色のにじみ(ハロ)が見える、視力が急に低下するといった症状が突然現れ、本人が気づきます。眼圧の上昇により吐き気や嘔吐が生じることもあります。
「光の周囲に虹色のにじみ」——電球や街灯のまわりに、輪がかかって見える症状です。
これは、**自分からはまず言い出しません。**頭が割れるほど痛いときに「そういえば電球に輪が見えます」と説明する人はいないからです。誰かが聞かないと、この情報は出てきません。
聞かれなければ、本人からは出てこない症状です(写真はイメージです)
どのくらい危ないのか
日本眼科医会は、はっきりこう書いています。
治療が遅れると短期間で失明に至ることもあるので、緊急の対応が必要となります。
MSDマニュアル家庭版は、時間まで書いています。
症状が現れてすぐに治療しないと2~3時間以内に視力が失われるおそれがあるため、急性閉塞隅角緑内障は、医学的な緊急事態とされています。
この「2〜3時間」という数字は、今回確認した日本の学会・医会のページには見当たりませんでした。MSDマニュアル家庭版の記述として受け取ってください。ただ、どの資料も方向は同じです。朝まで様子を見る病気ではありません。
なお、緑内障は全体として「日本人の後天失明原因の第1位」(日本眼科学会)です。
6. 急性緑内障発作を避けるには?
ここが今日いちばんお伝えしたいところです。
残念ながら、「発作の前ぶれに気づく」という方法はありません。
日本眼科医会が、そう書いています。
発作を起こす前には通常、眼圧はほぼ正常なことが多いので自覚症状はありません。
前ぶれを待つ作戦は、成立しないということです。
では何ができるのか。同じ日本眼科医会が、答えも書いています。
**閉塞隅角という状態は、たまたま眼科に行かない限り診断できません。**もしくは急に眼圧が上昇して、眼が痛くなって霞んで頭痛や吐き気がするような、急性緑内障発作になって見つかることがあります。(中略)発作を起こさないうちに治療をしてもらいましょう。
**眼科で先に見つけてもらうか、発作で見つかるか。**この二択です。
避けかた その1:自分の目のタイプを聞いておく
緑内障には大きく2つのタイプがあります。水の出口が狭いタイプ(閉塞隅角)と、出口は広いタイプ(開放隅角)です。急性発作を起こすのは、前者です。
日本眼科学会は、こう書いています。
緑内障と診断された方はご自身が閉塞隅角、狭隅角か開放隅角かは主治医に確認されることをお勧めします。
ご家族に「緑内障」と言われている方がいるなら、次の通院のときに一言聞いてもらってください。
「私は閉塞隅角ですか、開放隅角ですか」
診察室で30秒の質問です。今日できることは、実質これです。
覚えるべきは症状のリストではなく、自分の目のタイプでした(写真はイメージです)
避けかた その2:市販のかぜ薬・鼻炎薬の前に、ひとこと相談する
市販のかぜ薬や鼻炎薬の箱に、「緑内障」の文字を見たことはないでしょうか。
あれは、メーカーが念のため書いているのではありません。国が定めた記載事項です。
医薬品医療機器総合機構(PMDA)の『かぜ薬等の添付文書等に記載する使用上の注意について』には、かぜ薬の「相談すること」の項目として、こう定められています。
(8)次の診断を受けた人. 甲状腺機能障害,糖尿病,心臓病,高血圧,肝臓病,腎臓病,胃・十二指腸潰瘍,緑内障,…
そして、この「緑内障」に付いている注記が理由を教えてくれます。
7)は,抗ヒスタミン剤又はペントキシベリンクエン酸塩を含有する製剤に
抗ヒスタミン剤というのは、鼻水を止める成分です。かぜ薬にも、鼻炎薬にも、市販の睡眠改善薬にも入っています。
なぜそれが目に関係するのか。MSDマニュアル家庭版が説明しています。
抗コリン作用を起こす薬(アレルギー、風邪、抗ヒスタミン薬を含む睡眠薬など)は瞳孔を広げ、虹彩が隅角の排膿管を塞ぐ原因となります。したがって、高齢者がこれらの薬を服用する前に、閉塞隅角緑内障の発症の可能性がないか、眼をチェックする必要があります。
かみ砕くと、こういうことです。**この成分には瞳(ひとみ)を広げる働きがある。瞳が広がると、さっきの「水の出口」がふさがりやすくなる。**だから眼圧が上がる。
箱の「緑内障」の3文字には、ここまでの話が全部たたまれています(写真はイメージです)
大事なのは、これが「してはいけないこと」ではなく「相談すること」の欄だという点です。**緑内障の人が絶対に飲めない、という意味ではありません。**薬剤師さんに一言相談してください、という意味です。
そして相談するには、自分が閉塞隅角かどうかを知っている必要があります。話は「その1」に戻ります。
ドラッグストアのレジに行く前に、聞けることがあります(写真はイメージです)
薬をご本人の判断で足したり止めたりすることの危うさは、「薬をやめる」も「いつも通り飲む」も、具合の悪い日に決めないでくださいにまとめました。今日の話は、その逆方向——新しく飲みはじめる前の一言です。
避けかた その3:お薬手帳に一行書き足す
日本眼科学会は、こう書いています。
内服薬だけでなく、注射や点滴、検査や手術の際に使われる薬が問題になることもあるため、他の病気で受診する際には「閉塞隅角緑内障である」ことを必ず医師や薬剤師、医療スタッフに伝えてください。
口で伝えるより、書いてあるほうが確実です。家庭の常備薬とお薬手帳にも書きましたが、お薬手帳は救急隊が最初に探すものです。そこに「閉塞隅角緑内障」と書いてあれば、そのまま病院まで伝わります。
目の中の圧力と水の出口は、眼科の機械でないと分かりません(写真はイメージです)
朝を待つかどうかを、家族が決めなくていいように(写真はイメージです)
聞くのは、次の通院のときで間に合います(写真はイメージです)

