朝、寝返りで天井が回る——傷病名は「良性発作性頭位めまい症」。「良性」は診てもらってから付く名前です
119の判断

朝、寝返りで天井が回る——傷病名は「良性発作性頭位めまい症」。「良性」は診てもらってから付く名前です

朝、寝返りをうった瞬間に天井が回る。傷病名は「良性発作性頭位めまい症」。MSDマニュアル家庭版は、同じ症状でも他の病気がある人もいると書いています。「良性」は診てもらってから付く名前で、自分で名乗る言葉ではありません。

朝、寝返りをうった瞬間に天井が回った。今日はその話をします。

この記事は、特定のどなたかの事案の話ではありません。典型的な形としては——目が覚めて寝返りをうった瞬間に天井がぐるぐる回り、吐き気が出て、怖くて動けない。じっとしていると治まる。けれど起き上がろうとすると、また回る、という形で起こります。ここに書くのは資料に書かれていることだけで、いちばん伝えたいのは「良性」は診てもらってから付く名前だということと、手技のやり方は家庭で読んで真似るものではないということの2点です。

下から見上げた、板張りの勾配天井と太い梁 見上げた天井が回る——発作の大部分は、頭の位置を変えたときに起こります(イメージ写真です)

朝、寝返りをうった瞬間に天井が回る

『MSDマニュアル家庭版』の「良性発作性頭位めまい症」(最終更新2025年10月)から。

良性発作性頭位めまい症の発作の大部分は、典型的には朝目覚めた後に寝返りをうったときや、棚の高いところに手を伸ばそうとして頭を後ろにのけぞらせたときなど、頭の位置を変えたときに引き起こされます。 (MSDマニュアル家庭版「良性発作性頭位めまい症」)

頭の位置を変えたとき。動かした瞬間です。

続く長さが書かれています

回転性めまいは、ベッドで寝返りをうったり、何かを拾おうとして腰をかがめたときなど、頭が動いたときに引き起こされます。回転性めまいの発作は、1度につきわずか数秒から数分で治まります。数日から数週間の間に何度も発作が起きることがあり、発作はその後徐々に自然になくなっていきます。 (MSDマニュアル家庭版「良性発作性頭位めまい症」)

回転性めまい(自分か周りが回っているように感じること)の1回は、数秒から数分。それが数日から数週間のあいだに何度も起き、徐々になくなっていく。治まったことは、診てもらわなくていい理由になりません。

MSDは、症状に悪心(吐き気)や嘔吐を伴うことがあるとも書いています。吐くこともある。

そしてもうひとつ。

難聴や耳鳴り(耳鳴)は起こりません。 (MSDマニュアル家庭版「良性発作性頭位めまい症」)

これはこの病気の特徴を説明した文で、家庭での見分け方として渡されているものではありません。「耳は聞こえているから大丈夫」と裏返して使ってはいけません。耳の症状がないことは、脳の病気を否定しません。

朝日が斜めに差し込む枕元。シーツのしわに光の帯が落ちている 寝返りをうった瞬間に起こります。棚の高いところへ手を伸ばす動作も挙がっています(イメージ写真です)

「良性発作性頭位めまい症」とは

MSDは、「頭位性」は頭の位置を変えたときに回転性めまいが起こるという意味、「良性」はこの病気が危険なものではないという意味だと説明しています。半規管(はんきかん)は、内耳にあって体の傾きや回転を感じ取る器官です。

なぜ、朝なのか

内耳には3つの半規管があり、これらは平衡感覚の維持に関与しています。この3つの半規管のうち、後半規管は、剥がれた耳石が就寝中に重力によって最も入り込みやすい位置にあります。 (MSDマニュアル家庭版「良性発作性頭位めまい症」)

耳石(じせき)は、内耳にある小さな石のような粒です。剥がれて半規管に入り込むと、頭を動かすたびに「回っている」という信号が出ます。後半規管は、寝ているあいだに重力で耳石が最も入り込みやすい位置にある。だから朝、寝返りの瞬間です。

剥がれる原因としてMSDが挙げているのは、耳の感染症、頭または耳のけが、長期の不動状態(麻酔中および床上安静中など)、耳の手術、骨粗しょう症、高血圧・糖尿病・高脂血症などです。けがも、寝たきりの期間も、持病も入っています。

良性発作性頭位めまい症は、年齢が高いほど発生しやすく、高齢者では平衡感覚に大きな影響が起こることがあり、それにより転倒やけがに至る場合があります。ときに頭部外傷後に、良性発作性頭位めまい症が起こることがあります。 (MSDマニュアル家庭版「良性発作性頭位めまい症」)

年齢が高いほど起きやすい。頭を打った後に起こることもある、と書かれています。

白い壁に手のひらをついて体を支えている手元 高齢者では転倒やけがにつながることがあります(イメージ写真です)

「良性」は、診てもらってから付く名前です

ここがこの記事の芯です。

良性発作性頭位めまい症の症状がみられる人の中には、内耳の他の病気(メニエール病など)、内耳につながる動脈の閉塞、中枢神経系の腫瘍など、他の病気がある人もいます。 (MSDマニュアル家庭版「良性発作性頭位めまい症」)

内耳の他の病気、内耳につながる動脈の閉塞(詰まること)、中枢神経系(脳と脊髄)の腫瘍。資料自身が、同じように見えるものを並べています。

治療の側からも同じ。

耳石置換法で効果がない場合、医師は通常、症状の原因であり他の治療を必要としうる別のより重篤な病気がないか探します。 (MSDマニュアル家庭版「良性発作性頭位めまい症」)

効かなかったら、別の病気を探す。「良性」という判断は、診察と検査と、治療の反応まで見たうえで残るものです。「良性」は診断がついてから付く名前で、自分で名乗る名前ではありません。

見分け方は、医師のものです

診断にはディックス・ホールパイク法という検査が用いられます。MSDは、この検査での所見の違いにも触れています。

しかし、より深刻な脳の病気(脳卒中や多発性硬化症など)が原因で回転性めまいが起きている人では、ディックス・ホールパイク法を行うと即座に症状が起こり、頭の位置を変えない限り回転性めまいが持続して、動作を繰り返しても順応が起こりません。 (MSDマニュアル家庭版「良性発作性頭位めまい症」)

これは医師が診察で区別するときの見方です。家庭でこれを試して、自分で結論を出さないでください。家族が頭を動かして所見を取る、という話ではありません。

治療も同じです。耳石を元の位置に戻すために頭を動かす方法(浮遊耳石置換法。エプリー法など)があり、薬剤は一般的に推奨されないとMSDは書いています。そして再発に備えて「自宅でこの手技を行う方法を習うこともできます」とも。「習う」が条件です。だからこの記事に手順は書きません。診察を受けた人が教わるものです。

『救急蘇生法の指針2025(市民用)』の全69頁に「耳石」「回転」「平衡」は1度も出てきません。「めまい」はこの文脈です。

脳梗塞や脳出血では、手足(多くは左右どちらか)に力が入らない、しびれる、ろれつがまわらない、顔がゆがんでいる、物が見えにくい、めまいがするなどの症状が急に現れます。 (救急蘇生法の指針2025 市民用「脳卒中」)

市民向けの指針で「めまい」が置かれているのは、脳卒中の症状の列です。

ブラインドのかかった窓のそばに置かれた診察台 名前が決まるのは、診てもらってからです(イメージ写真です)

Q助では、12項目すべてが「いますぐ救急車」

総務省消防庁の「全国版救急受診アプリ(Q助)」は、自分で答えて受診の目安を出すアプリで、病名を判定するものではありません。大人の症状選択に「めまい・ふらつき」という入口があります。

最初の画面は全12項目で、1つでも当てはまれば「いますぐ救急車を呼びましょう」。すべてが同じ結論に行き着く作りです。

めまいやふらつきが起こったのは突然ですか? (全国版救急受診アプリ「Q助」総務省消防庁)

12番目の項目です。ほかに「吐き気がありますか?」(4番目)、「めまいの症状はひどいですか?」(10番目)、「動けませんか? 〔または〕 歩行や移動ができませんか?」(1番目)。残る8項目にも、急に手足の力が抜けた感じ、しゃべりにくい、胸の痛み、頭痛などが並びます。これも全部「いますぐ救急車」です。

BPPVの発作は、定義からして「突然」起こります。吐き気を伴うこともあります。だからQ助を使うと、ほぼ確実に「いますぐ救急車」の側に出ます。

Q助が大げさなのではありません。役割が違います。Q助は、脳の病気ではないと確かめる前の段階で目安を出す道具です。良性かどうかは、診てもらって初めて決まります。

耳の症状は、別の科へ振られます

12項目のどれにも当てはまらないと、次の画面(全4項目)です。ここ2日以内のけが、糖尿病と言われたことがあるか、38℃以上の発熱、そしてこれ。

4.耳が聞こえにくいですか? 〔または〕 耳鳴りがしますか? 〔または〕 耳の痛みがありますか? (全国版救急受診アプリ「Q助」総務省消防庁)

この項目だけ担当科が「耳鼻咽喉科・救急科」です。MSDが「BPPVに伴う難聴はありません」と書いていることと向きが合います。朝、片方の耳が聞こえないなら、違う話です。

その先の画面でも「高齢者(65歳以上)ですか?」「歩くことができない状態ですか?」のどちらかで、また「いますぐ救急車」に戻ります。どちらでもなくて、ようやく「2時間をめやすに受診しましょう」です。

高齢であること、歩けないこと。MSDは、高齢者では平衡感覚に大きな影響が起こって転倒やけがに至る場合があり、運転中など安全ではなくなる状況で発作が起きれば事故につながる可能性があると書いています。回っているあいだは歩かせない。

レースカーテン越しの光の中に置かれた、籐の肘掛け椅子 回っているあいだは、歩かせないでください(イメージ写真です)

この記事で書かなかったこと

  • エプリー法のやり方——MSDは「自宅でこの手技を行う方法を習うこともできます」と書いています。「習う」が条件なので、手順はこの記事には書きません
  • ディックス・ホールパイク法で何が見えるか——医師が診察で区別するために行う検査です。家庭で試すものではないので、所見の読み方は扱いません
  • 薬——MSDは、薬剤は一般的に推奨されないと書いています。何をどう使うかは診察した医師が決めることです
  • メニエール病など、ほかのめまいの病気との見分け方——MSDは、BPPVの症状がみられる人の中に他の病気がある人もいると書いています。見分けは診察と検査の仕事です

家族や本人ができることは、そう多くありません。朝、寝返りで天井が回ったら、歩かせない。突然だったか、吐き気があるか、耳の症状があるかを覚えておく。そして「良性だろう」と自分で名前を付けない。資料は、BPPVの症状がみられる人の中に他の病気がある人もいると書いています。決めるのは、診る人です。

救急車を呼ぶか迷うときの相談先として♯7119もあります。朝起きて体の一部が思うように動かないときの考え方は顔の片側が動かない記事にも書きました。横になっていてめまいと吐き気が出たときは、また別の話になります。

家庭に置いておきたい備え

ここから先は、記事の内容に関連して家庭に備えておける市販品を紹介しています。治療や診断の代わりになるものではありません。症状があるときは、まず医療機関にご相談ください。

まず、調べられる本を。

この記事の内容に関係する備え。

  • 体温計 — Q助が次の画面で聞いている「発熱(38℃以上)」は、測らないと分かりません
  • ベッド用手すり — MSDは、高齢者では転倒やけがに至る場合があると書いています。起き上がるときに掴めるものがあると、無理に立ち上がらずに済みます

Amazonのアソシエイトとして、救急のリアルは適格販売により収入を得ています。

参考文献

⚠️ 免責事項この記事の情報は一般的な救急知識の情報提供を目的としており、医療行為や医療診断に代わるものではありません。症状がある場合は必ず医療機関を受診してください。生命の危機を感じる症状は、迷わず119番に通報してください。

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