肩が外れた——自分で戻そうとしないでください。傷病名は「肩の脱臼」
119の判断

肩が外れた——自分で戻そうとしないでください。傷病名は「肩の脱臼」

肩が外れたとき、自分で戻そうとしてはいけません。MSDマニュアル家庭版の原文と救急蘇生法の指針2025の「変形した状態を元に戻す必要はありません」から、「肩の脱臼」で起きていること、救急外来を受診する判断をまとめました。

肩が外れた。腕が上がらない。今日はその話をします。

この記事は、特定のどなたかの事案の話ではありません。典型的な形としては——転んで手をついたあと、腕を体から離せなくなる、という形で起きます。ここに書くのは資料に書かれていることだけで、いちばん伝えたいのは自分で戻そうとしないでくださいの一点です。

肩のレントゲン写真。鎖骨、肩甲骨、上腕骨の先端が写っている 肩のレントゲン写真。二の腕の骨の先端(右上の丸い部分)が、受け皿にはまっている状態です。外れると、ここがずれます(記事と関係のないイメージ写真です)

肩が外れると、腕が体から離せなくなります

『MSDマニュアル家庭版』の「肩の脱臼」(最終更新2025年10月)は、症状をこう書いています。

肩が脱臼すると、肩の位置が見て分かるほどずれていて、ゆがんで見えることがあります。関節周辺が腫れたりあざができたりすることもあります。通常は強い痛みがあります。患者は腕を体から離す方向に動かすことができないか、そのように腕を動かすのを嫌がります。肩の脱臼では、肩関節を覆う筋肉(三角筋)にしびれを感じることもあります。 (MSDマニュアル家庭版「肩の脱臼」)

家族が外から確かめられるのは、肩のかたちがゆがんで見えるか、腕を体から離す方向に動かせるか(動かしたがるか)、肩の外側にしびれがないか。しびれは本人が言わないと分かりません。聞いてあげてください。

「肩の脱臼」とは

肩の脱臼は、上腕骨上部の球状の頭部(上腕骨頭)が肩甲骨のくぼみから外れることで発生します。 (MSDマニュアル家庭版「肩の脱臼」)

上腕骨頭(二の腕の骨の肩側にある球の部分)が、受け皿から外れます。方向には偏りがあります。

肩は、体の大きな関節のうち最もよく脱臼が起きる部位です。肩の脱臼の95%以上では、上腕骨が関節の前方に押し出されています(前方脱臼)。 (同)

MSDは、肩が強い力で外側や上下に押されたり引かれたり、ひねりが加わったりすると脱臼することがあり、通常は引っ張られ外側に回転して起こる、と書いています。原因はこの3つです。

一般的な原因は、スポーツ外傷(バスケットボールでシュートをブロックされるなど)、自動車事故、および転倒です。 (同)

家庭で起きるのは、たいてい3つめです。

「完全に外れた」と「少しずれた」

脱臼とは、関節を形成している骨が完全に離れることです。亜脱臼では、関節の骨が部分的にずれています。多くの場合、脱臼した関節は、医師が元の位置に戻す(整復する)まで脱臼したままですが、ときに自然に元の位置に戻ることがあります。 (MSDマニュアル家庭版「脱臼の概要」)

整復(医師が関節を元の位置に戻す処置)までは外れたままのことが多い、と書かれています。自然に戻ったように見えても、肩の中では別のことが起きていることがあります。

肩が脱臼すると、靱帯、腱、血管、神経といった肩周囲の組織も伸びて断裂することがあります。 (MSDマニュアル家庭版「肩の脱臼」)

泥のついた前腕が、力なく体の横に下がっている MSDが挙げる原因は、スポーツ外傷・自動車事故・転倒の3つです(写真はイメージです)

自分で戻そうとしないでください

原文をそのまま読んでください。

肩が脱臼したと感じたら、すぐに医師の診察を受けてください。自分で肩を元に戻そうとしてはいけません。それにより損傷がひどくなることがあります。医師の診察を受けるまで、できればつり包帯や副子を使用してなるべく腕を動かさず、氷で冷やします。氷冷は痛みを和らげ、腫れを抑える効果があります。 (同)

いけない理由は2つ。ひとつは、骨折の有無が分からないまま動かすことになるから。

多くの場合、診察で肩の脱臼を診断することができますが、通常は診断を確定し骨折していないかを確認するためにX線検査を行います。脱臼した関節を元に戻す前に、医師が骨折の有無を把握しておく必要があるからです。 (同)

もうひとつは、血管と神経です。

脱臼が起きると、すばやく元の位置に修復された場合を除き、骨折よりもむしろ血管と神経の損傷を生じやすいです。 (MSDマニュアル家庭版「脱臼の概要」)

整復の方法はMSDにも載っていますが、医師が、X線で骨折を確認したうえで行う処置としてです。引っ張る・ひねる・ぶら下げる、どれもしないでください。

「変形した状態を元に戻す必要はありません」

正直に書きます。『救急蘇生法の指針2025(市民用)』の全69頁に「脱臼」という語は1度も出てきません。「指針が脱臼についてこう書いている」とは言えません。ただ、「捻挫、打ち身(打撲)、骨折」の章にある手足が変形しているときの原則は、そのまま当てはまります。

けがで手足が変形している場合は骨折が強く疑われます。変形した手足を固定することで、移動する際の痛みを和らげたり、さらなる損傷を防ぐことができます。固定には添え木や三角巾などを使用します。変形した状態を元に戻す必要はありません。 (救急蘇生法の指針2025 市民用「14 捻挫、打ち身(打撲)、骨折」)

元に戻す必要はない。固定して、冷やす。2つの資料の結論は同じです。指針は、冷却パックは薄い布などを挟んで皮膚に直接当てない、とも書いています。

片方の手で、反対側の腕を押さえている手元 家庭でしてよいのは「動かさない」と「冷やす」だけです(写真はイメージです)

救急車を呼ぶか、電話で相談するか

MSDマニュアル家庭版「脱臼の概要」は、救急医療機関に行くか、電話で相談するか、様子を見るか迷うことがある、と認めたうえで、こう前置きして項目を並べています。

次のいずれかに当てはまる場合は救急医療機関を受診するのが望ましく、場合によっては救急車を呼ぶのがよいでしょう。 (同)

確かめやすい項目を2つ。

問題が明らかに重篤である(自動車事故によるけがであったり、けがをした体の部位を動かせない場合)。 (同)

もう1項目は「合併症の症状がみられる」で、括弧の中に、患部の感覚がない、正常に動かすことができない、皮膚が触ると冷たかったり青く変色していたり黒ずんでいる、患部に力が入らない、が並びます。腕を動かせないという一点だけで、もう最初の項目に当てはまります。

電話相談の側は、1項目だけです。

脱臼によって痛みや腫れが生じているが、骨折や重度の損傷があるようにはみえず、関節を正常に動かすことができる。 (同)

関節を正常に動かせる場合です。腕が上がらないなら、こちらではありません。

Q助には、入口が3つある

総務省消防庁の「全国版救急受診アプリ(Q助)」は、自分で答えて目安を出すアプリで、病名を判定するものではありません。そこに、肩が外れた人が入りうる入口が3つあります。

A「手足・顔面のけが」(大人・こども共通)。16項目が並び、1つでも当てはまれば「いますぐ救急車を呼びましょう」。「変形していますか?」「手足が自分で動かせませんか?」「激しい痛みがありますか?」——肩が外れたときの症状が、そのまま並んでいます。

B「手や腕の問題」。2段あります。最初の画面の項目7「手が思うように動かせませんか?」で、もう「いますぐ救急車」。当てはまらなかった人だけが次へ進み、その1項目めが「腕や肘(ひじ)が外れましたか?〔または〕脱臼しましたか?」(担当科は「整形外科・外科・救急科」)。先で聞かれるのは3つだけ。65歳以上か6歳未満か妊娠中か/歩けない状態か/血が止まりにくいか抗凝固薬(血液をさらさらにする薬)をのんでいるか。どれにも当てはまらなくても「2時間をめやすに受診しましょう」です。

C「くびが痛い・肩が痛い」。9項目のうち項目1「痛みは一瞬で起こりましたか?」で「いますぐ救急車」、項目2「両腕や手足の動きが悪いですか?〔または〕感覚が鈍いようなことはありますか?」も同じ。抜けても次の「けがをした直後ですか?」(担当科は「整形外科・救急科」)からBと同じ3つの質問に進み、最短が「2時間をめやす」です。

この項目1は、もともと痛みが突然始まる病気を拾う質問で、脱臼のために置かれたものではありません。ただ、肩が外れたときの痛みは一瞬で起こるので、構造としてここで「はい」と答えることになります。

分岐は全部たどりました。どの入口から入っても、「様子をみて受診しましょう」に行き着く道は1本もありません。最短でも2時間をめやす、多くは即・救急車です。迷うときは♯7119もありますが、腕が動かない・指先が冷たい・感覚がないが重なるなら119番です。

包帯が巻かれた関節のクローズアップ 「様子をみる」という選択肢は、どの入口にもありませんでした(写真はイメージです)

この記事で書かなかったこと

  • 整復(元に戻す処置)のやり方——医師が、X線で骨折を確認したうえで行う処置です
  • 何時間以内に戻せばよいという時間の数字——今回使った資料に書かれていません
  • くせになる、という言い方——MSDは「肩が不安定になり、再び脱臼しやすくなることがあります」と書いていますが、生活習慣や性格の話としてではありません
  • 肩以外の関節の脱臼

家族ができることは2つです。動かさない。冷やす。そして、戻そうとしないこと。それだけで、医師が診るまでの肩を守れます。

障子のある窓辺。ガラス瓶に活けた花と、その向こうの庭 そのまま、受診につないでください(写真はイメージです)

家庭に置いておきたい備え

ここから先は、記事の内容に関連して家庭に備えておける市販品を紹介しています。治療や診断の代わりになるものではありません。症状があるときは、まず医療機関にご相談ください。

まず、調べられる本を。

この記事の内容に関係する備え。

Amazonのアソシエイトとして、救急のリアルは適格販売により収入を得ています。

参考文献

⚠️ 免責事項この記事の情報は一般的な救急知識の情報提供を目的としており、医療行為や医療診断に代わるものではありません。症状がある場合は必ず医療機関を受診してください。生命の危機を感じる症状は、迷わず119番に通報してください。

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