薬を、シートごと飲み込んでしまった。今日はその話をします。
この記事は、特定のどなたかの事案の話ではありません。典型的な形としては——切り離した薬を、そのまま口に入れてしまう、という形で起こります。ここに書くのは資料に書かれていることだけで、いちばん伝えたいのはレントゲンには写らないことと、1錠ずつに切り離さないでくださいの2点です。
薬を1錠ずつ包んでいる、あのシートです。1錠ずつに切り離してはいけません(記事と関係のないイメージ写真です)
薬を、シートごと飲み込んでしまったら
『MSDマニュアル家庭版』の「消化管の異物」(最終更新2025年4月)は、飲み込んだあとの感じ方をこう書いています。
とがった部分のない小さな物体を飲み込んだ場合は、食道に何かがとどまっているような感覚が生じ、嚥下困難が起こることがあります。この感覚は、その物体が胃に入った後でも短時間続くことがあります。とがった小さな物体を飲み込んだ場合は、嚥下能力が正常な場合でも、食道に引っかかって痛みを引き起こすことがあります。食道が完全にふさがった場合は、いっさい何も、唾液さえも飲み込めなくなり、絶えず唾液が垂れたり唾液を吐き出したりします。唾液に血が混じり、むせたり、息ができなくなったりすることがあります。嘔吐しようとしてみても、何も吐き出せません。 (MSDマニュアル家庭版「消化管の異物」)
読んでほしいところを3つ。ふつうに飲み込める状態でも痛みが出る。完全にふさがると唾液さえ飲み込めず、垂れてくる。吐こうとしても、何も出ない。
PTP包装シート(薬を1錠ずつアルミとプラスチックで包んだ、あのシート)は、切り口の角がとがっています。しかも最初は「のどにつかえた感じ」だけのことがあります。
「つかえた感じ」しかないことがあります(写真はイメージです)
「食道異物」とは
異物とは、消化管に飲み込まれたり、消化管に入り込んでしまった物体です。これが消化管で動かなくなったり、ときに消化管に穴をあけたりすることがあります(穿孔)。 (MSDマニュアル家庭版「消化管の異物」)
MSDは、異物が動かなくなる場所として食道・胃・腸・直腸を挙げ、食道が最も一般的だとしています。大きな異物や、爪ようじや魚の骨のように鋭くとがった物は、消化管の「鋭く曲がっている部分や狭くなっている部分」で動かなくなる、とも書かれています。狭いところ、曲がっているところで止まる。薬のシートは、形がここに当てはまります。
起きているのは、ほとんどが高齢者
国民生活センターの報告書(平成22年9月15日)では、薬の包装に関する危害が2000年度から2009年度までに86件(調査は2000年4月1日〜2010年9月3日の登録分)で、60代から80代が約8割、入院を要する事例が10件。消費者庁が平成27年(2015年)9月16日に公表した資料(集計は平成21年9月1日〜平成27年7月末日の登録分)では、65歳以上の誤飲・誤食165件のうち53件がPTP包装シートの誤飲と明らかな事例でした。
のどの違和感は、本人が言わないと分かりません(写真はイメージです)
レントゲンには写りません
ここが核です。さきほどの報告書は、厚生労働省が平成22年(2010年)9月15日に出した通知の参考資料です。
痛みなどの症状が表れるまで誤飲したことに気付きにくい。また、誤飲を自覚せず体調不良などで検査しても、PTP包装の素材はⅩ線を透過してしまうため、発見されにくい。発見が遅れると重症化するおそれもある。 (国民生活センター「注意!高齢者に目立つ薬の包装シートの誤飲事故」平成22年9月15日/厚生労働省通知の参考資料)
Ⅹ線を透過してしまう。レントゲンを撮って「写っていません」と言われても、「無い」ことの証明にはなりません。この報告書では危害部位は「食道」37件(43%)が最多です。だから、飲み込んだかもしれないと思ったら、自分から言ってください。言わなければ、内視鏡まで進む理由がありません。
そして同じ趣旨の文が、いま家にある薬の説明書に実際に書かれています。この通知には、自主申し合わせで決まった添付文書(薬の正式な説明書)の記載文が載っています。
PTPシートの誤飲により、硬い鋭角部が食道粘膜へ刺入し、更には穿孔をおこして縦隔洞炎等の重篤な合併症を併発することが報告されている (厚生労働省「PTP包装シート誤飲防止対策について」平成22年9月15日/添付文書の記載文)
市販薬(一般用医薬品)の「取り扱い上の注意」は、こうです。
誤ってそのまま飲み込んだりすると食道粘膜に突き刺さるなど思わぬ事故につながります。 (同)
縦隔洞炎は、左右の肺にはさまれて心臓や食道が通っているところの炎症です。MSDも、とがった物体で食道に穴が開くと生命を脅かす炎症(縦隔炎)が起こりうると書いています。
「様子を見てよい」話ではありません
MSDには「24時間」が出てきますが、どの場合の24時間かを取り違えないでください。
鋭くとがった物体は食道の壁に穴をあけることがあるため、内視鏡のいずれかの方法で除去する必要があります。 (MSDマニュアル家庭版「消化管の異物」)
MSDが「異物が自然に通過するかどうかを医師が最長24時間観察します」と書いているのは、閉塞の症状がなく、とがった物体・ボタン電池・薬物の包みを飲み込んでいない場合です。PTP包装シートはとがった物なので、この「観察する」には当てはまりません。報告書も、はっきり書いています。
消化管などを傷つけ、場合によっては切り裂いてしまうなど、重い症状につながることもある。誤飲したと思ったら、すぐに専門医を受診する。自覚がない場合でも、薬の服用後に喉や胸などに違和感があるなどで誤飲が疑われる場合は、受診したほうがよい。 (国民生活センター報告書/厚生労働省通知の参考資料)
家庭でやってはいけないことが2つあります。1つは水やご飯で流し込もうとすること。押し込んでも、とがった物がとがっていない物になるわけではありません。もう1つが、これです。
また、吐物が気管に入ってしまうことや、吐かせることで症状が悪化するものもありますので、むやみに吐かせないようにしましょう。 (消費者庁「高齢者の誤飲・誤食事故に御注意ください!」平成27年9月16日公表)
流し込まない。吐かせない(写真はイメージです)
渡すときに、シートから出す。それだけで形が変わります(写真はイメージです)

