台風が過ぎた夜、電気が止まったままの家。
エアコンが動かない。窓を開けても風がない。冷蔵庫の中身が心配で、スマホの充電も残り少ない。——こういう夜に、物置から携帯発電機を出してくる方がいます。あるいは、カセットこんろで湯を沸かす。炭を熾す。
そのどれもが、間違った場所でやると十数分で命に関わる、というのが今日の話です。
停電した家の中は、暗いだけでなく「空気が動かない」場所になります(写真はイメージです)
主な出典は、東京消防庁の「住宅で起きる一酸化炭素中毒事故に注意!」、**消費者庁・経済産業省・製品評価技術基盤機構(NITE)**の連名注意喚起「携帯発電機やポータブル電源の事故に注意!」(令和3年8月25日)および「携帯発電機・カセットこんろ・モバイルバッテリーの使用にご注意ください」(令和4年8月26日)、厚生労働省「職場のあんぜんサイト・一酸化炭素中毒(CO中毒)」です。どれも誰でも読める公開資料です。
先に、3つだけ
長い記事になるので、結論を先に置きます。
- **携帯発電機を屋内で使うと、約10分で「2時間吸えば死ぬ」濃度に届きます。**消費者庁の資料に載っている東京都の実験結果です。「窓を少し開けているから大丈夫」という話ではありません。
- **一酸化炭素中毒は、自分では気づけません。**厚生労働省は「軽度の頭痛、吐き気等からはじまり、その後、昏倒、致命傷に至るため、無意識のうちに被災するという特徴があります」と書いています。無色・無臭で、においも色も手がかりになりません。
- **手がかりは「同じ部屋にいる人が、同時に具合が悪くなる」ことだけです。**東京消防庁は「一酸化炭素発生に伴う事故は複数の人が受傷することも多いため、発生件数よりも多くの人が救急搬送されています」と書いています。ひとりが頭痛を訴えたら、もうひとりに聞いてください。
以下、ひとつずつ、原文で確認していきます。
1. 症状が、停電中の熱中症とほぼ同じです
このブログでは熱中症の記事を何本も書いてきました。だからこそ、今日はその逆をお伝えします。
厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」は、一酸化炭素中毒をこう説明しています。
一酸化炭素中毒は、軽度の頭痛、吐き気等からはじまり、その後、昏倒、致命傷に至るため、無意識のうちに被災するという特徴があります。
頭痛。吐き気。——停電した真夏の家の中でこの2つが出たとき、多くの方がまず疑うのは熱中症だと思います。実際、熱中症の応急手当でも、初期に出る症状として頭痛や吐き気を挙げています。暑い、エアコンが止まっている、水も十分に飲んでいない。条件はそろっています。
ですが、もし原因が一酸化炭素だった場合、**やるべきことは正反対になります。**熱中症なら「涼しい室内へ移す」。一酸化炭素中毒なら「その室内から出す」。同じ部屋にとどまっている限り、吸い続けることになるからです。
「暑いから閉めきる」と「暑いから開ける」が、この場面では結果を分けます(写真はイメージです)
はっきり書いておきますが、**症状だけで一酸化炭素中毒と熱中症を見分ける方法は、今回確認したどの公的資料にも書かれていません。**私も現場で、症状の並びだけから中毒を言い当てられるとは思っていません。
見分けるのではなく、**場面で判断します。**火を使う道具、エンジンのついた道具、炭を、屋根のある場所で動かしていたかどうか。それがイエスなら、症状が何であれ、まず外に出す。これが唯一、家庭でできる切り分けです。
2. なぜ気づけないのか——無色・無臭で、しかも重さが空気とほぼ同じ
東京消防庁のページは、冒頭でこう書いています。
一酸化炭素は、無色・無臭のため、とても気付きにくい、人体に有毒な気体です。濃度によっては、死に至る危険性があることから、十分な注意が必要です。
厚生労働省の説明は、もう一歩踏み込んでいます。
一酸化炭素は不完全燃焼状態で炭素化合物が燃焼する際に発生し、無色・無臭で、その存在が感知しにくい気体ですが、空気とほぼ同じ重さ(比重(空気を1としたときの重さ):0.967)で、強い毒性を有しています。
空気とほぼ同じ重さ、という一文が大事です。
ガス漏れの話でよく聞く「低いところにたまる」「天井にたまる」は、一酸化炭素には当てはまりません。比重0.967は、ほぼ空気そのものです。つまり、部屋の中に均一に広がっていくと考えるのが妥当で、「床に伏せていれば大丈夫」も「上のほうだけ危ない」もありません。
そして、体の中で起きていることについては、こう書かれています。
一酸化炭素は、赤血球中のヘモグロビンと結合しやすく、このため一酸化炭素を吸入すると血液の酸素運搬能力が下がることにより一酸化炭素中毒が起きます。
肺は普通に動いています。息も普通にできます。運んでいる荷物のほうが酸素と入れ替わってしまうので、苦しさが「息苦しさ」として出るとは限らない。ここが、窒息や喘息と決定的に違うところです。
3. 数字——室内で10分、1,600ppm
ここからが、この記事でいちばん覚えて帰っていただきたい部分です。
消費者庁・経済産業省・NITEが令和3年8月25日に出した注意喚起には、こう書かれています。
発電機の排気ガスには、毒性の強い一酸化炭素が多く含まれており、その毒性は、空気中の一酸化炭素濃度が1,600ppmだった場合、20分間の吸入で頭痛・めまい・吐き気の中毒症状が現れ、2時間の吸入で死に至ります。
そして、そのすぐあとに、実験結果が続きます。
東京都による実験では、家庭用の携帯発電機について室内で運転したところ、一酸化炭素濃度は10 分程度で1,600ppm 以上に達しました
外で使うために作られた機械です。屋根と壁の内側に持ち込んだ時点で、設計の前提から外れます(写真はイメージです)
順番に読むと、こうなります。
- 10分——室内で発電機を回すと、1,600ppmに届く
- その20分後——頭痛・めまい・吐き気が出る
- 2時間——死に至る濃度
つまり、症状が出た時点で、すでに30分ほど吸っているという計算です。「気分が悪くなったら止めればいい」という運用が成り立たない理由が、この時間軸にあります。
翌年(令和4年8月26日)の注意喚起には、さらに濃い濃度についての注記もあります。
※一酸化炭素濃度3200PPM では、30 分で死亡に至る。
この実験の出典は、東京都「東京くらしWEB」に掲載された「発電機・木炭等による一酸化炭素中毒の危険性」(平成23年11月14日公表)です。6畳程度の室内で行われたもので、木炭・練炭についても測定されており、こちらは800ppm以上に達したこと、換気扇で強制換気をすれば100ppm以下まで下げられたことが報告されています。
「炭なら発電機より安全」ではありません。桁がひとつ違うだけで、どちらも閉めきった部屋では危険域です。
4. 実際に、災害の「あと」に起きています
これは机上の危険ではありません。消費者庁の資料には、2件の事故が具体的に載っています。
1件目(令和4年8月26日付 注意喚起 参考1より)
事故発生年月日 2018 年9月8日(北海道、50 歳代・男性、死亡)※北海道胆振東部地震発生後事故 【事故の内容】一酸化炭素中毒により1名が死亡し、現場に家庭用の携帯発電機があった。 【事故の原因】…停電時に携帯発電機を換気の不十分な屋内で使用したため、排ガスが滞留し、一酸化炭素濃度が上昇して事故に至ったものと考えられる。
2件目
事故発生年月日 2020 年9月7日(鹿児島県、1名死亡、2名重症)※令和2年台風10 号発生後事故 【事故の内容】一酸化炭素中毒で1名が死亡、2名が重症を負い、現場に家庭用の携帯発電機があった。
2件とも、地震・台風という災害を生き延びたあとの、停電中の出来事です。日付を見てください。9月8日と9月7日。ちょうど今から2週間ほど先の時期にあたります。
そして2件目は、1名死亡・2名重症。ひとりが倒れる事故ではなく、その場にいた家族がまとめて倒れる事故だということが、この数字に表れています。
停電が起きるのは、たいてい風と雨が過ぎたあとの時間帯です(写真はイメージです)
5. 家庭で起きているのは、発電機だけではありません
東京消防庁の集計は、住宅で起きたぶんに絞ったものです。
令和2年から令和6年までの過去5年間で、住宅、共同住宅において30件の一酸化炭素中毒事故が発生しています。
(東京都のうち稲城市、島しょ地区を除く地域。自損を除く)
発生要因については、こう書かれています。
住宅、共同住宅における一酸化炭素の発生要因別では、七輪・火鉢や囲炉裏などの炭を使用するものや調理器具、暖房器具が多くなっています
そして、事故防止のポイントのひとつが、これです。
発動発電機やバーベキュー用こんろなど、屋外での使用が想定されている火気器具等は、屋内では使用しないなど、火気設備・器具の使用方法を守りましょう。
「外で焼く道具」を、屋根の下に持ち込むところから事故が始まります(写真はイメージです)
バーベキュー用こんろが名指しされています。夏の家庭にいちばん近い道具です。ベランダ、ガレージ、玄関の土間、テントの中——「外だから大丈夫」と思われがちな場所が、実は屋根と壁に囲まれていることは珍しくありません。
NITEも、テントについて別に注意喚起を出しており、消費者庁の資料には次の一文があります。
屋外であっても、自動車内やテント内で使用すると屋内と同等以上の危険性があります。
**「屋内と同等以上」**という書き方です。車中泊の車内も同じ扱いになります(車中泊そのもののリスクは災害時の車中泊とエコノミークラス症候群にまとめてあります)。
換気扇は「においを取る道具」ではなく、空気を入れ替える道具です(写真はイメージです)
部屋に入る前でも、通報だけは今すぐできます(写真はイメージです)
炎が見えなくなった炭は、燃えていないわけではありません(写真はイメージです)
電気が止まると、いちばん先に止まるのは風です(写真はイメージです)
火災警報器とは別に、一酸化炭素を感知する製品があります(写真はイメージです)

