災害には、2種類あります。
来るとわからないものと、来るとわかっているものです。
地震について、気象庁ははっきりこう書いています。
現在の科学的知見からは、そのような確度の高い地震の予測は難しいと考えられています。
一方、台風はどうか。同じ気象庁が、こう説明しています。
気象庁では、台風の5日(120時間)先までの24時間刻みの予報を6時間ごとに発表します。
来るとわかっている。それが台風のいちばんの特徴です(写真はイメージです)
**5日先まで見えている。**これは、防災の世界ではとても贅沢なことです。
この記事は、持病のある家族がいる家庭——在宅酸素、人工呼吸器、透析、あるいは毎日の薬が欠かせない方がいるご家庭——が、台風が来る前の数日で何をしておくかをまとめたものです。
まず、用語が新しくなっています
ここを間違えると、いざというとき情報が読めません。2026年5月29日から、防災気象情報の名称が変わりました。
気象庁の説明では、これまで「大雨警報」と呼ばれていたものが、**「レベル3大雨警報」「レベル4大雨警報」**のように、情報名に警戒レベルの数字が付く形になっています。河川氾濫・大雨・土砂災害・高潮の情報が、避難情報の5段階と対応するように整理されました。
そして、避難情報のほうは以前から名称が変わっています。
| 警戒レベル | 避難情報(市町村長が発令) | とるべき行動 |
|---|---|---|
| 5 | 緊急安全確保 | 命の危険 直ちに安全確保! |
| 4 | 避難指示 | 危険な場所から全員避難 |
| 3 | 高齢者等避難 | 危険な場所から高齢者等は避難 |
**「避難勧告」という言葉は、もうありません。かつての「避難勧告」は廃止され、レベル4の「避難指示」に一本化されました。「避難準備・高齢者等避難開始」も、いまは「高齢者等避難」**です。
そして、いちばん大事な注意はこれです。
警戒レベル5緊急安全確保の発令を待ってはいけません!/ただし、警戒レベル5は、市区町村が災害の発生・切迫を把握できた場合に、可能な範囲で発令される情報であり、必ず発令される情報ではありません。
**レベル5は、出ないこともある。**避難は、レベル4までに終わらせるものです。
「高齢者等避難」は、高齢者だけの情報ではありません
内閣府のポスターには、そのままこう書かれています。
警戒レベル3は高齢者だけの情報ではありません。
ガイドラインの定義を読むと、対象はこうなっています。
※避難を完了させるのに時間を要する在宅又は施設利用者の高齢者及び障害のある人、妊産婦、乳幼児連れの人等、及びその人の避難を支援する者
窓を打つ雨の音が強くなってからでは、支度が間に合いません
「その人の避難を支援する者」——つまり、支える側の家族も、レベル3で動く対象です。親を迎えに行く、車を出す、荷物をまとめる。それはレベル3の段階の仕事だ、と国のガイドラインは言っています。
さらに、こうも書かれています。
また、本情報は高齢者等のためだけの情報ではない。高齢者等以外の人も必要に応じ、出勤等の外出を控えるなど普段の行動を見合わせ始めたり、避難の準備をしたり、自主的に避難するタイミングである。
予報円の意味を、正しく知っておく
台風情報を見るとき、多くの人が誤解しているのが予報円です。気象庁の説明を引用します。
白い破線の円は予報円で、台風の中心が到達すると予想される範囲を示しています。予報した時刻に、この円内に台風の中心が入る確率は70%です。台風の大きさの変化を表すものではなく、台風の進路予報の不確実性を表すものです。
予報円の中心を結んだ白色の破線を表示することもできますが、台風の中心が必ずしもこの線に沿って進むわけでないことに注意してください。
**予報円は「台風の大きさ」ではありません。**そして、中心が線の上を通るとも限りません。
家族の準備に使うなら、**「暴風域に入る確率」**のほうが実用的です。気象庁はこう説明しています。
早ければ値が出はじめる時間帯から、暴風域に入る可能性があります。値がピークの時間帯は、暴風域に入っている可能性が最も高い時間帯です。
**「値が出はじめる時間」から逆算する。**これが、準備の締め切りになります。
停電で止まると命に関わるもの
ここからが、この記事の本題です。
内閣府の資料には、こう書かれています。
人工呼吸器等の医療機器を装着している場合、電源の喪失は生命に関わることから、非常用電源の有無等を確認した上で避難場所を検討し
そして、厚生労働省の資料には、具体的な時間が出てきます。
在宅人工呼吸器に関しては、使用機器による差異はあるものの、内部・外部バッテリーの稼働時間は約30分~11時間という状況であり、患者の病態によっては、長期停電が生命に関わる事態となる可能性がある。
停電は「不便」で済む家庭と、そうでない家庭があります
30分から11時間。この幅の広さが、すべてを物語っています。「うちの機械は何時間もつのか」を知らないままでは、備えようがありません。
在宅で医療機器を使っているご家庭向けに、福岡県が具体的な備えを公開しています。
停電時には外部バッテリーが有効です。このため、平時から複数台の外部バッテリーを準備しておきましょう。
主治医から指示された酸素流量を確認し、停電が起きた場合に酸素ボンベで何時間程度対応できるのか把握しておきましょう。
吸引器は、設置型の他に充電式(内部バッテリーで作動するポータブル型)か足踏み式、手動式のいずれかを準備しておきましょう。
停電が長時間続く場合に備えた入院先や移動手段等について、平時から主治医と相談しておきましょう。
最後の一文がいちばん重要です。「停電が続いたらどうするか」は、台風が近づいてから考えることではなく、主治医と前もって相談しておくことだと書かれています。
透析を受けている家族がいる場合
日本透析医会が、患者さん向けにはっきりした指針を出しています。
大きな災害によって、断水か停電が生じると血液透析はできなくなります。
そして、行動の原則がこれです。
自施設で透析できるかどうかわからない場合、または透析ができないとわかっている場合でも、可能な限り自施設に向かうのが基本です。
大きな災害発生時は、施設からの送迎サービスは通常通りに迎えに行くことが困難になりますので、基本自力で施設に向かう必要があります。
**送迎は来ない前提で、移動手段を考えておく。**ここは家族の役割が大きいところです。
そして、覚えておく価値があるのがこの一文です。
1回だけの臨時透析であれば、ドライウェイトさえわかっていれば透析は可能です。
**ドライウェイトの数値を、家族もメモしておいてください。**避難先で別の施設にかかることになったとき、これがあるかどうかで話が変わります。
避難所に避難した場合は、透析を受けていることを、自治体の職員やボランティア、巡回の医師・看護師、あるいは周囲の方に必ずきちんと申し出てください。
薬は何日分?——数字の出どころに注意してください
「災害時の薬は3日分」とよく言われます。ただ、国(厚生労働省・内閣府)が「薬は◯日分」と定めた資料は、調べた範囲では見つかりませんでした。
一方で、主語をはっきりさせれば書ける数字はあります。
- 港区(自治体):「糖尿病、高血圧、ぜんそくなどの持病の薬は**3日分(できれば7日分程度)**常に持っておくと安心です」
- 日本透析医会(透析患者向け):「常備薬(最低3日分)」
- 福岡県(在宅人工呼吸器等の利用者向け):「服薬(1週間分)」
「何日分あるか」は、台風が近づいてから数えるものではありません
つまり——立場によって推奨される日数は違い、持病が重いほど長めに設定されています。自分の家族がどれに近いかで判断してください。
そして、日数より確実に効くのがこれです。
いつ起こるかわからない災害時に備えて、お薬手帳は常に携帯するようにしましょう。(港区)
**お薬手帳の写真を、家族全員のスマートフォンに入れておく。**これは今日5分でできて、災害でも停電でも効きます。
台風が去ったあとの、もうひとつの危険
台風の被害は、風と水だけではありません。停電が続いた家の中で、熱中症が起きます。
環境省のマニュアルは、台風を名指しでこう書いています。
豪雨やそれに伴う洪水・土砂災害などは、台風の接近、梅雨前線や秋雨前線の停滞、線状降水帯等に伴い発生し、被災後に酷暑に見舞われることもあります。
停電や浸水により自宅で冷房が使えなくなる可能性があります。その場合、高温多湿な環境になるため、家の中で熱中症リスクが高まります。
そして、内閣府・消防庁・厚生労働省・環境省の4省庁が連名で出しているリーフレットには、こうあります。
停電が長引く可能性がある場合、特に高齢者、こども、障害者の方々は、冷房設備が稼働している避難所への避難も検討しましょう。
「家にいれば安全」は、停電が長引くと成り立たなくなります
**家が無事でも、涼しくない家に高齢の家族を残さない。**これは避難の理由になります。水分については、環境省が具体的な目安を書いています。
水分はのどが渇いていなくてもこまめに少しずつとることを心掛けましょう。1時間あたりコップ1杯程度が目安です。
熱中症そのものの見分け方は、熱中症の記事まとめに整理してあります。
スマートフォンが使えなくなる前提の手段を、ひとつ持っておく
避難に時間がかかる家族がいる、と伝えておくのが第一歩です
荷物を玄関に出しておくだけで、判断の時間が短くなります
過ぎたあとに「やっておいてよかった」と思えるのが、台風の備えです

