【震災Day2】停電で「命の医療機器」を止めないために——在宅酸素・人工呼吸器・インスリン・透析、救命士が伝える停電下の対処
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【震災Day2】停電で「命の医療機器」を止めないために——在宅酸素・人工呼吸器・インスリン・透析、救命士が伝える停電下の対処

熊本震度7から4日。停電が続く被災地では、電気で動く「命の医療機器」を止めないことが大きな課題になります。在宅酸素療法(HOT)・在宅人工呼吸器・インスリンの保管・人工透析——それぞれの停電時の対処を、日本呼吸器学会・日本くすりと糖尿病学会・日本透析医会などの一次資料をもとに、救急救命士の目線でまとめました。

2026年7月28日の熊本震度7から、今日で4日目です。

一部の地域では、まだ停電が続いています。

停電というと、多くの人は「灯りが消える」「スマホが充電できない」「冷蔵庫が心配」を思い浮かべます。もちろんそれも大変です。でも——停電で、文字どおり命に関わる人たちがいます。

在宅で酸素を吸っている人。人工呼吸器をつけている人。インスリンを冷蔵庫で保管している人。人工透析を受けている人。

これらの多くは、電気で動く医療機器か、電気(冷蔵)を前提とした薬です。停電が長引くと、その一つひとつが命の問題になります。

救急救命士として現場に出ていると、災害のあと数日たってから、こうした「持病と医療機器を抱えた方」の搬送が増えてくる時期があります。急なケガや外傷の波が一段落したあと、じわじわと来るんです。

震災シリーズDay2として、今日は「停電下で医療機器をどう守るか」を、テーマ別にまとめます。当てはまるご家族がいる方は、ぜひ最後まで読んでください。

停電が続く夜。灯りだけでなく、電気で動く「命の機器」を止めないことが被災地では大きな課題になる 停電で困るのは灯りだけではない。電気で動く「命の機器」を止めないことが、被災地の大きな課題になる


① 在宅酸素療法(HOT)と人工呼吸器

在宅酸素(HOT)の停電時

自宅で酸素を吸う「在宅酸素療法(HOT)」の多くは、酸素濃縮装置という電気で動く機械を使っています。停電するとこの装置は止まります。

このとき使うのが、携帯用(外出用)の酸素ボンベです。

日本呼吸器学会の患者向け情報によると、自宅で安静にしていて吸入する量が1〜3リットル程度の場合、満タンの携帯用ボンベ1本で3時間ほど持つ方が多いとされています(日本呼吸器学会「計画停電への対応」 https://www.jrs.or.jp/jrs_patient/information/20140326102104.html )。

ただしこれは目安で、処方されている流量やボンベの残量で変わります。残量がわからないときは、酸素を届けてくれている事業者(酸素業者)に必ず確認してください。 停電が続きそうなときも、まず業者へ連絡です。ボンベの追加や対応を相談できます。

そして、HOTでどうしても外せない注意が一つあります。

酸素のそばで、火を使わない

酸素は、それ自体は燃えませんが、**ほかのものが燃えるのを強く助ける性質(支燃性)**があります。酸素を吸っている近くで火を使うと、チューブや衣服に一気に燃え移り、重いやけどや住宅火災につながります。

厚生労働省は、酸素濃縮装置などを使うときは装置の周囲2メートル以内に火気を近づけないこと酸素を吸っている間はたばこを絶対に吸わないことを求めています。実際に、喫煙などが原因の火災事故が繰り返し報告されており、厚労省の集計では死亡に至った例も少なくありません(厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000003m15_1.html )。

停電で暗いと、ついろうそくやマッチ、カセットコンロを使いたくなります。酸素を使う方のそばでは、これが命取りになります。灯りは必ず電池式のライトやランタンにしてください。

在宅人工呼吸器の停電時

人工呼吸器は、停電でもっとも切迫する機器です。

多くの機種には内蔵バッテリーがありますが、持てる時間は機種によって大きく違います。 「うちのは何時間持つのか」を、平時のうちに主治医と機器の業者に必ず確認しておいてください。ここは推測で動けない部分です。

停電やバッテリー切れに備えて、公的機関は次の備えをすすめています(福岡県「在宅で医療機器を使用している方へ 停電への備え」 https://www.pref.fukuoka.lg.jp/contents/zaitaku-teiden-sonae.html )。

  • 蘇生バッグ(バッグバルブマスク/アンビューバッグ):手で空気を送る道具。バッテリーが尽きたときの命綱です。使い方を家族も練習しておく
  • 足踏み式・手動式の吸引器:電動の吸引器が止まっても、たんを吸引できるように
  • 停電が長引くときは、早めにかかりつけや相談窓口へ避難・受診を相談する

各自治体は、人工呼吸器などを使う難病患者向けの災害時支援の指針を出しています。難病情報センターの「災害時難病患者支援リンク集」( https://www.nanbyou.or.jp/entry/1602 )から、お住まいの地域の情報にたどれます。

在宅酸素や吸入の機器は電気で動くものが多い。停電時にどう動くかを平時に決めておく 在宅の呼吸ケア機器は電気で動くものが多い。停電時にどう動くかを、平時に家族で決めておく


② 糖尿病——インスリンの保管と血糖測定

インスリンは「凍らせない・熱くしすぎない」

停電で冷蔵庫が止まったとき、糖尿病の方がまず心配するのがインスリンです。

日本くすりと糖尿病学会の災害時向け情報によると、インスリンの温度の目安はこうです( https://jpds.or.jp/disaster_insulin/ )。

  • 未使用(保管中)のインスリン:2〜8℃の冷蔵。ただし凍らせるのは絶対にダメ
  • 使い始めたインスリン:30℃以下を目標に、35℃以上にしない

ポイントは、「冷蔵庫が止まった=すぐダメになる」ではないことです。使用中のものは室温でもしばらく使えます。あわてないでください。

冷蔵庫が使えないときの対処として、同学会は次を挙げています。

  • 保冷剤をタオルで包み、ポリ袋に入れたインスリンと一緒に保冷バッグへ(保冷剤に直接触れさせて凍らせない)
  • 冷たいペットボトルと一緒に保冷バッグに入れる
  • 湿らせたタオルで包み、気化熱で冷やす
  • 直射日光を避け、風通しのよい室内に置く
  • 冬に氷点下になる地域では、逆に凍結を防ぐため、寝具の中で体と一緒に温める

消毒用のアルコール綿がないときは、固く絞った濡れタオルで注射部位を拭き、乾いてから注射すればよい、ともされています。

血糖測定と、シックデイ

血糖自己測定器(SMBG)は電池で動くものが多く、停電の影響は受けにくいのが一般的です。ただし、停電時に使えるか、センサー式(FGM/CGM)の扱いは製品によって異なります。 予備の電池やセンサーを備え、詳しくは説明書やメーカー・主治医に確認してください。

災害時は、食事が乱れたりストレスで体調を崩したりして、血糖が不安定になりやすい時期です(いわゆるシックデイ)。自己判断で薬を中断せず、飲み物や食事がとれないとき・高血糖や低血糖のサインがあるときは、早めに医療者に相談してください。

糖尿病の災害への備えは、日本糖尿病協会が「災害時ハンドブック」などの患者向け資料を公開しています( https://www.nittokyo.or.jp/modules/patient/index.php?content_id=32 )。落ち着いたときに一度目を通しておくと安心です。

インスリンは凍らせない・熱くしすぎない。停電で冷蔵庫が止まった時の保管がカギになる インスリンは「凍らせない・熱くしすぎない」。停電で冷蔵庫が止まった時の保管がカギになる


③ 人工透析——「一日でも空けられない治療」

人工透析は、腎臓の代わりに血液の中の老廃物や余分な水分を取り除く治療です。数日空けると命に関わる、待ったのきかない治療です。停電・断水で透析施設が使えなくなると、透析患者さんにとっては直接の危機になります。

だからこそ、透析には専用の情報インフラがあります。

日本透析医会「災害時情報ネットワーク」https://www.saigai-touseki.net/ )です。これは、災害時に各透析施設が「うちは被災した/受け入れられる」といった情報を登録・共有する仕組みで、震度6弱以上の地震や、災害救助法が適用されるような広い被害が起きたときに稼働します(日本透析医会 https://touseki-ikai.or.jp/saigai-kankei/saigaiji-joho-nw/ )。

透析を受けている方・ご家族が停電時にすべきことは、はっきりしています。

  1. まず、かかりつけの透析施設に連絡する(電話・施設の掲示・SNS等)。今日の透析ができるか、別の施設に振り替えるかを確認する
  2. つながらないときは、地域の基幹病院や自治体の情報を確認する。東京都や大阪府など、自治体も透析患者向けの災害情報ページを出しています(例:東京都 https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/kenkou/kenkou/saigai_touseki
  3. お薬手帳・透析条件の記録(ドライウェイト、透析時間、使っている薬など)を持って動く。受け入れ先での治療がスムーズになります

自宅で行う**腹膜透析(PD)**の方は、停電でサイクラー(自動の機械)が止まったときに、手で袋を交換する方法や透析液の備蓄について、あらかじめ主治医・施設に確認しておいてください。ここは製品や個人の条件で対応が変わるため、必ずかかりつけに相談するのが安全です。

透析は一日でも空けられない治療。停電・断水時はかかりつけ施設と受入先の情報確認が命綱になる 透析は待ったのきかない治療。停電・断水時は、かかりつけ施設と受入先の情報確認が命綱になる


医療機器を使う人は「支援される側」に登録できる

ここまで読んで、「うちの家族が当てはまる」と感じた方に、もう一つ知っておいてほしいことがあります。

災害時に自力での避難が難しく、特に支援が必要な人を、法律では**「避難行動要支援者」と呼びます。市区町村は、この方たちの名簿を作ることが義務づけられ(2013年の災害対策基本法改正)、一人ひとりの避難を助ける「個別避難計画」**を作ることも求められています(2021年の改正、内閣府 https://www.bousai.go.jp/taisaku/hisaisyagyousei/yoshiensha.html )。

在宅で医療機器を使う方は、多くの自治体でこうした支援の対象として扱われます。平時のうちに、お住まいの市区町村の窓口(高齢福祉課・障害福祉課など)に相談し、名簿への登録や個別避難計画の作成をお願いしておいてください。 「停電のときに誰が助けに来てくれるのか」を、災害が起きる前に決めておくことが、いちばんの備えです。

なお、災害医療全体の体制(DMATや災害拠点病院など)については厚生労働省が情報をまとめています( https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000089060.html )。


家族の備えとして——「もしも」を家計でも支える

医療機器を使うご家族がいる家庭では、平時の備えがそのまま命綱になります。

  • 酸素・呼吸器・透析の業者と施設の連絡先を、紙に書いて冷蔵庫や玄関に貼っておく
  • お薬手帳と、治療の条件を書いたメモを一式にしておく
  • 携帯できる**非常用電源(ポータブル電源・大容量バッテリー)**を検討する(何時間・何ワット必要かは業者に確認を)
  • 予備の電池、保冷バッグと保冷剤、電池式ライト

こうした「モノの備え」に加えて、もしものときの経済的な備えも、家族を守る大切な柱です。入院や通院が長引いたとき、介護が必要になったとき、家計への負担は決して小さくありません。

医療保険や生命保険が今の家族構成・持病の状況に合っているか。この機会に一度、家族で見直しておくと安心です。「まさか」のときに、お金の心配で治療の選択肢を狭めないために——備えの一つとして考えてみてください。

非常用電源・お薬手帳・業者の連絡先。医療機器を使う家庭ほど平時の備えが効いてくる 非常用電源・お薬手帳・業者の連絡先。医療機器を使う家庭ほど、平時の備えが効いてくる


まとめ:今日確認してほしいこと

停電下の医療機器について、要点を整理します。

  • 在宅酸素:停電したら携帯ボンベに切り替え、残量不明なら酸素業者へ連絡。酸素のそばで火を使わない(2m以内に火気なし・喫煙厳禁)
  • 人工呼吸器:内蔵バッテリーの持続時間を主治医・業者に確認。蘇生バッグと手動吸引器を備え、家族も使い方を練習
  • インスリン凍らせない・35℃以上にしない。冷蔵庫が止まっても使用中のものはあわてず、保冷剤はタオルで包む
  • 透析:かかりつけ施設に連絡。日本透析医会「災害時情報ネットワーク」と自治体情報を確認。お薬手帳と透析条件を持って動く
  • 平時の備え:市区町村に相談して避難行動要支援者名簿・個別避難計画へ。連絡先・お薬手帳・非常用電源を用意

当てはまるご家族がいる方は、今日この記事を家族で共有し、業者と施設の連絡先を紙に書き出すところから始めてください。それだけで、いざというときの動きが大きく変わります。


熊本の停電と断水は、まだ完全には解消していません。

明日(Day3)は、被災地の熱中症対策を書きます。エアコンの止まった避難所、車中泊、そして「水はあるのにうまく飲めない」という被災地特有の落とし穴について、夏の災害でいちばん多い搬送理由の一つを取り上げます。


この記事で引用した一次資料

⚠️ 免責事項この記事の情報は一般的な救急知識の情報提供を目的としており、医療行為や医療診断に代わるものではありません。症状がある場合は必ず医療機関を受診してください。生命の危機を感じる症状は、迷わず119番に通報してください。

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救急のリアル 編集部

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