【震災Day4】車中泊で最も怖い「エコノミークラス症候群」——狭い座席と水分我慢が命を奪う前に
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【震災Day4】車中泊で最も怖い「エコノミークラス症候群」——狭い座席と水分我慢が命を奪う前に

震災の車中泊で最も問題になるのがエコノミークラス症候群(深部静脈血栓症・肺塞栓症)です。狭い座席で長時間動かず、トイレを我慢して水分を控えることで足に血栓ができ、肺に飛んで急変します。今日から車の中でできる予防と、家族が知っておくべき救急要請の判断ラインを、厚生労働省・日本呼吸器学会などの一次資料をもとに救急救命士がまとめます。

2026年7月28日の熊本震度7から、今日で6日目です。

昨日(Day3)は、真夏の被災地で起きる熱中症と脱水について書きました。今日はその「脱水」とも深くつながる、車中泊で最も怖い病気の話をします。

エコノミークラス症候群——正式には深部静脈血栓症(DVT)と肺塞栓症(PE)と呼ばれる病気です。過去の被災地でも、車中泊をしていた方が発症し、命を落とした例が問題になってきました。

「じっと座っているだけ」が、なぜ命に関わるのか。そして、どう防ぐのか。順番にお伝えします。

車の座席に寝具を敷いた車中泊の様子 被災地の車中泊は、プライバシーや防犯の面で選ばれます。でも、体には大きな負担がかかります

なぜ「震災=車中泊=エコノミークラス症候群」なのか

大きな地震のあと、多くの人が車の中で夜を過ごします。

  • 避難所よりプライバシーが保てる
  • ペットと一緒にいられる、防犯面で安心
  • エアコンで暑さ・寒さをしのげる

理由はさまざまですが、この「車中泊」という選択が、エコノミークラス症候群のリスクを大きく高めます。

駐車場にびっしり停まった車 被災地の駐車場には、夜になると車中泊の車が並びます。その一台一台にリスクがあります

血栓ができる仕組み

厚生労働省は、この病気の仕組みをこう説明しています。

「食事や水分を十分に取らない状態で、車などの狭い座席に長時間座っていて足を動かさないと、血行不良が起こり血液が固まりやすくなります。その結果、血の固まり(血栓)が足から肺や脳、心臓にとび、血管を詰まらせ肺塞栓や脳卒中、心臓発作などを誘発する恐れがあります。」

つまり、次の3つが重なると危険です。

狭い車内で足を伸ばして過ごす様子 狭い座席で膝を曲げたまま長時間——足の血流がとどこおり、血栓ができやすくなります

① 狭い座席で、長時間、足を動かさない 車の座席は、足を伸ばして寝るようにはできていません。膝を曲げたまま同じ姿勢が続くと、ふくらはぎの血流が悪くなります。

② 水分不足で血が濃くなる 被災地では、トイレが十分に整備されていないことが多く、「トイレに行きたくないから」と水分を控えてしまいがちです。厚労省も、被災地では「トイレが整備されないことが原因で、水分をとる量が減りがち」になり、それが脱水やエコノミークラス症候群の原因になると注意を促しています。

③ 血栓が肺に飛ぶ 足にできた血栓がはがれ、血流に乗って肺の血管を詰まらせると、突然の呼吸困難や胸痛が起こります。これが命に関わる「肺塞栓症」です。

車の中の水のボトル 「トイレを我慢して水を控える」——これが、被災地で最も危険な習慣のひとつです

過去の災害では、こうした車中泊によるエコノミークラス症候群が繰り返し問題になってきました。2024年の能登半島地震でも、発災直後に複数の関連学会や日本赤十字社が、車中泊・避難所での血栓予防を呼びかけ、避難所で弾性ストッキングの配布・着用指導が行われています。

今日から車の中でできる予防

エコノミークラス症候群は、正しく対策すれば防げる病気です。厚生労働省が挙げている予防法を中心に、今日からできることをまとめます。

ふくらはぎをもみほぐす ふくらはぎは「第二の心臓」。動かすこと・もむことが、血栓予防の基本です

① 軽い体操やストレッチをこまめに 長時間、同じ姿勢を続けないことが何より大切です。かかとの上げ下げ運動をしたり、ふくらはぎを軽くもむだけでも血流が保たれます。足首を上下に動かす運動も効果的です。

② 水分をこまめにとる トイレを我慢して水分を控えるのは、最も避けたい行動です。日本呼吸器学会は、目安として500mLのペットボトル2本程度の水分をすすめています。アルコールやコーヒーは、かえって水分を体の外に出してしまうので控えめに。

③ ときどき車から降りて歩く 可能なときは車の外に出て、体を動かしましょう。呼吸器学会は1日20分を目標に歩くことをすすめています。

木漏れ日の道を歩く 数分でも車の外に出て歩くだけで、足にたまった血流が動き出します

④ 足を伸ばせる工夫・眠るときは足を上げる 座席をできるだけ倒し、足を伸ばせる姿勢を作りましょう。厚労省も「眠るときは足を上げる」ことをすすめています。荷物やクッションを使って足を少し高くすると、血流が戻りやすくなります。

足を伸ばして休む 座席を倒し、足を伸ばして少し高くする。それだけでも足の負担は変わります

⑤ ゆったりした服装・弾性ストッキングの活用 ベルトをきつく締めず、体を締めつけない服装を。弾性ストッキング(着圧のあるくつ下)は血栓予防に用いられ、車中泊が続く方には着用がすすめられます。避難所で配布されることもあります。ただし、サイズの合わないものを自己判断で使うのは避け、不安があれば救護所や医療者に相談してください。

弾性ストッキングを整える 弾性ストッキングは足を適度に締めて血流を助けます。避難所で配られたら活用を

家族が知っておくべき「救急要請の判断ライン」

エコノミークラス症候群は、初期のサインを見逃さないことが命を分けます。ご家族に、次のラインを覚えておいてほしいのです。

落ち着いた表情の高齢男性 高齢の家族が車中泊をしているなら、足のむくみや息苦しさに、周りが気づいてあげてください

すぐに119番——肺塞栓症のサイン

  • 突然の息切れ・呼吸困難(肺塞栓症の最も代表的なサイン)
  • 突然の胸の痛み
  • 冷や汗・動悸・失神

これらは、足にできた血栓が肺に飛んだサインかもしれません。とくに**「車から降りて動き出した直後」に急に息が苦しくなった**ときは要注意です。迷わず119番してください。

**意識がない・呼びかけに反応しない・唇や指先が紫色(チアノーゼ)**のときは、心停止に至っている可能性があります。119番通報とあわせて、胸骨圧迫(心臓マッサージ)の準備をしてください。

早めに受診——足のサイン

  • 片方の足だけがむくむ・腫れる
  • ふくらはぎの痛み・赤み・熱っぽさ
  • 左右の足の太さに差がある

これは、足の静脈に血栓ができているサイン(深部静脈血栓症)かもしれません。厚労省も「胸の痛みや、片側の足の痛み・赤くなる・むくみがある方は、早めに救護所や医療機関の医師に相談を」と呼びかけています。放置すると、血栓が肺に飛ぶ危険があります。

なお、「発症は車中泊の何日目から」という明確な線引きはありません。車中泊を始めた直後の数日からリスクは高まるとされ、専門家は発災直後からの予防を呼びかけています。「まだ大丈夫」と思わず、今日から対策を始めてください。

朝日に手を伸ばす 「じっとしているだけ」の時間こそ、少し体を動かす。その積み重ねが命を守ります

最後に

エコノミークラス症候群は、「じっと座っているだけ」で起こり、しかも防げる病気です。

狭い車内でも、こまめに足を動かす。水分をとる。ときどき外に出て歩く。眠るときは足を上げる。——どれも、今日からできることばかりです。

そして、家族の誰かが「片方の足がむくむ」「急に息が苦しい」と言ったら、様子を見ずに行動してください。その一歩が、車中泊の夜を乗り越える大切な人を守ります。

明日(Day5)は、避難生活での感染症予防について書きます。人が集まる避難所で、どう体を守るかをお伝えします。


参考文献


※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、医療行為・医療診断・治療の指示ではありません。症状がある場合や心配なことがあれば、必ず医療機関を受診してください。緊急の場合は119番に電話してください。

⚠️ 免責事項この記事の情報は一般的な救急知識の情報提供を目的としており、医療行為や医療診断に代わるものではありません。症状がある場合は必ず医療機関を受診してください。生命の危機を感じる症状は、迷わず119番に通報してください。

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