吐き気が続き、めまいもある。本人も家族も、何から伝えればよいか迷う場面です。そんなとき、病名を考えるより先に、最初に起きたことと、今起きていることを分けて伝えることが助けになります。
今回は、嘔吐や下痢の訴えで通報され、現場では回るようなめまいも確認された40代後半の女性の実事案です。搬送先の診断名は「小腸炎」。入院となりました。年齢は幅を持たせ、氏名、場所、発生日、医療機関名などは伏せています。
写真はすべてAI生成のイメージです。人物は架空で、実際の患者・家族・住居・活動の再現ではありません。報告書や業務画面は使用していません。
傷病名は「小腸炎」でした
通報の記録には、次のように残っています。原文の年齢は年代幅に置き換え、医療機関名をマスクしています。持病についての通報者の説明と、報告書で確認できる病歴は分けて扱います。
[40代後半]女性。2時間前から嘔気が止まらない。嘔吐と下痢の症状もあります。胃腸炎、うつ病で[医療機関名をマスク]へ掛かり付け。
この女性には自己免疫性肝炎の持病があり、子宮頸がんの既往も記録されていました。通報したのは家族です。普段から通院している人に、急に吐き気と回るようなめまいが起きた場面でした。ただし、持病が今回の小腸炎やめまいの原因だったとは資料から判断できません。病歴は、今回の症状と一緒に医療者へ伝える背景として整理します。
現場では横になっており、回転性のめまい、上腹部の不快感、吐き気を訴えていました。頭の位置を変えると吐き気が強くなるとの説明があり、袋の中には、血液の混じっていない胃液のような吐物が確認されています。
一方、その場での聴取では、下痢はしておらず、直近の便は普段どおりとの話でした。通報には下痢、現場ではその時点の下痢なし。この差を、どちらかが間違いだったと決めることはできません。誰が、いつの症状を説明したかまで含めて、両方の記録を残します。
搬送先の情報は、初診時傷病名が「嘔吐」、診断名が「小腸炎」で、中等症・入院中となっています。原因となった病原体、検査結果、入院後の治療までは、この資料から分かりません。食中毒やノロウイルス、脱水症だったと付け足すことはしません。
小腸炎とは——小腸に炎症が起きた状態
小腸炎は、小腸に炎症が起きた状態を指します。米国国立医学図書館MedlinePlusの解説では、感染によるもののほか、薬剤など感染以外の原因も挙げられています。病名だけで、食べたものや感染経路まで決まるわけではありません。
家庭で気を付けたいことの一つが、吐いたり下したりして水分を失うことです。米国NIDDKの胃腸炎の解説は、尿が少ない、口が渇く、ふらつくなどを脱水のサインとして示しています。ただし、これは一般的な情報で、今回のめまいの原因を脱水と証明するものではありません。

めまいが強くても、胃腸の病気とは限りません。吐き気から原因を一つに絞らないことは、頭痛の後に嘔吐・下痢が起きた事案でも扱っています。今回も、診断名は搬送先の情報として受け止め、現場の訴えとは分けて整理します。
家族が伝えたいのは「最初・途中・今」
最初は何をしていたか、どの症状が先に出たか。途中で何回吐いたか、水分を飲めたか。そして今、受け答えや立ち上がりに変化がないか。この順で、分かる範囲を伝えてください。
時間は正確でなくても、「食後しばらくして」「電話する少し前から」といった説明が手がかりになります。時計を確認できていなければ、推測の時刻を確定情報のように言わず、おおよそと伝えます。記憶が違うと気付いたら、途中で訂正して構いません。
症状が今は治まっていても、起きたことを消さないでください。今回の下痢の記録のように、情報が食い違って見える場合も、そのまま説明するほうが、経過を把握する助けになります。家族が診断を決めたり、記録をきれいにそろえたりする必要はありません。
付き添う人が途中で交代した場合は、自分が見ていないことを、見たことのように話さないことも大切です。「本人から聞いた」「別の家族が見た」と情報の出どころを添えれば、確認し直すポイントが分かります。分からない回数や量を、無理に数字にする必要はありません。
いつもの受け答え、普段の歩き方、最後に飲めたかといった情報も、分かれば一緒に伝えます。これは今回の患者の普段の状態を補った説明ではなく、家庭で経過を伝える際の工夫です。本人が話しづらいときほど、家族が知っている普段との差を共有してください。

受診や通報を急ぐ場面で、メモを完成させるために時間を使う必要はありません。先に助けを呼び、聞かれたことから答えます。伝え方の基本は、119番で伝えることでも確認できます。




