現役救命士として、家族に知っておいてほしいことがあります。救急隊が着いたときに落ち着いていても、その前に何が起きたかは消えません。 とくに、めまいで転んだときは、今の顔色だけで受診を決めてほしくないと思います。
今回は、立ち上がった際にめまいが起き、転倒した80歳代の方の実事案です。横になっていると症状は軽くなっていました。それでも、病院で記録された傷病名は「脱水症」、転帰は入院でした。個人が特定されないよう、年齢と状況の記載を絞っています。
写真はすべてイメージです。実際の患者・住居・搬送先ではありません。
傷病名は「脱水症」でした
通報の記録には、次のように残っています。年齢と既往の詳細は個人情報としてマスクしています。
[年齢をマスク]男性。今朝からめまいがあり、転倒し左頬部を打撲した。呼吸がしんどそう。[既往の詳細をマスク]で●●●に掛かり付け。
記録では、朝、立ち上がったときに回るようなめまいが起こり、転倒しています。救急隊が確認したときはベッドに横になっており、安静時にはめまいが軽くなっていました。顔を打ったとの話はありましたが、外から分かる明らかな傷はありませんでした。
搬送先で記録された診断は脱水症。入院となり、重症度は中等症でした。ここから言えるのは、症状が軽くなって見える時間があっても、入院が必要な状態はあるということです。
この記録には、採血の値や脱水に至った原因、入院後の治療内容まではありません。「水を飲まなかったから」「薬のせい」とは書けません。また、回転性のめまいだけで脱水症と分かるわけでもありません。傷病名は、救急隊の推測ではなく、搬送先からの情報です。
「今は楽そう」と「治療が要らない」は、同じ意味にはなりません。
脱水症とは——体に必要な水分が足りない状態
米国国立医学図書館のMedlinePlus「Dehydration」は、入る水分より失う水分が多くなり、体が正常に働くための水分を保てなくなる状態と説明しています。
水分不足は、汗をたくさんかく日だけの話ではありません。発熱、下痢、嘔吐、飲む量の減少などもきっかけになります。同資料は、高齢者ではのどの渇きを感じにくくなる人がいることも挙げています。「本人が欲しがらないから十分」とは言い切れません。
米国退役軍人省の高齢者の脱水予防資料にも、立ち上がったあとのめまいやふらつきが、気をつけたい症状として載っています。ただし、この事案の転倒の原因を、資料だけで証明することはできません。 症状と診断の経過を知り、同じような場面で受診につなげるための説明です。
めまいには、耳の病気や血圧の変化など、さまざまな背景があります。寝返りで起きるめまいの記事でも書いたように、症状の呼び方から病名を決めないことが大切です。
横になって軽くなったことも、倒れたときのことと合わせて伝えます。
普段の飲み物を、無理なく手に取れる場所へ。
日頃から手すりや足元を確認し、めまいのあるときは無理に移動しません。

