「便が出ていないだけです」——痛がらないのに、お腹だけがどんどん張ってきた。傷病名は「腸閉塞(イレウス)」でした
家族を守る

「便が出ていないだけです」——痛がらないのに、お腹だけがどんどん張ってきた。傷病名は「腸閉塞(イレウス)」でした

「4日、便が出ていないだけです」——高齢の親のお腹が張ってきて、けれど本人は痛がらない。夜になって少し吐いた。それは「便秘」の続きに見えて、途中から別の病気になっていることがあります。傷病名は「腸閉塞(イレウス)」。MSDマニュアル家庭版は「症状はあまりないが、腸内容物が徐々にたまっていくと、腹部膨満と嘔吐が起こります」と書いています。日本消化管学会『便通異常症診療ガイドライン2023—慢性便秘症』が挙げる警告徴候(レッドフラグ)と、総務省消防庁『救急車を上手に使いましょう』のおなかの欄を、現役救急救命士が原文で解説します。

今日は、**「腸閉塞(ちょう・へいそく)」**という病気の話をします。

現場で「イレウス」と呼ばれることも多い病気です。名前は聞いたことがある方が多いかもしれません。手術を受けた人が、あとで「くっついてしまう」と言われる、あれです。

けれど今日書きたいのは、その話ではありません。手術歴のない、ふつうの高齢者に、便秘の続きのようにして起きる腸閉塞の話です。

家庭でいちばん見過ごされる形は、こういう並び方をします。

「4日、出ていないだけです」

「便が出ていないだけです」。この言葉は、救急外来でも、私たちが現場に着いたときにも、よく聞きます。ご家族に悪気はありません。本人も「便秘」以外の言葉を持っていないだけです。

けれどそのお腹の中では、途中から別の病気が始まっていることがあります。

そして、この病気にはもうひとつ、家庭で読み違えやすい特徴があります。

痛がらないことがあるのです。

「お腹が痛い」と本人が言えば、家族はすぐに気づきます。ところが高齢者の腸閉塞は、はっきりした痛みではなく、お腹が張るだけで進むことがあります。

大人の手が、お年寄りの手をそっと包んでいる(顔は写っていない) 「痛がらないから大丈夫」が、いちばん通じない病気のひとつです(写真はイメージです)

順番に説明します。

なお、この記事は**特定のどなたかの事案の話ではありません。**公的機関や学会が「典型的な形」として書いている内容を、救急の現場で使う順番に並べ直したものです。

先に、3つだけ

長くなるので、結論から置きます。

  1. **「便が出ていない」+「お腹が張っている」+「吐いた」がそろったら、腸閉塞を考えます。痛みが強くなくても、です。日本消化管学会『便通異常症診療ガイドライン2023—慢性便秘症』は、腹痛と嘔吐、腹部膨満などを、便秘の背景に隠れた重い病気を疑う「警告徴候(レッドフラグ)」**として並べています
  2. **消防庁『救急車を上手に使いましょう』のおなかの欄には「便が出ない」という一項目はありません。**あるのは「突然の激しい腹痛」「激しい腹痛が持続する」「便に血が混ざる」といった、進んだあとの姿です。便秘そのものを判断リストにしていないことが、家庭が迷う理由のひとつです
  3. **秋は、食欲が細る季節です。食べる量と飲む水が同時に減ると、便のかさも減り、腸の動きも落ちます。この時期に高齢の家族の「食べていない」「トイレの回数が減った」「お腹が張ってきた」**が重なっていたら、様子を見る側ではなく、相談する側に倒してください

以下、ひとつずつ原文で確認していきます。

1. 症状——「4日、出ていないだけです」

私たちが呼ばれる場面、あるいは救急外来に運び込まれる場面は、資料に書かれている典型的な形でいうと、こう並びます。

対象になるのは、高齢のご家族です。もともと便秘気味だった方が多いのですが、そうでない方にも起こります。手術を受けたことがある方は特に起こりやすいと言われますが、手術歴がなくても起こります。

家庭で起きているのは、こういうことです。

  • 数日、便が出ていない(3日、4日、あるいはもっと)
  • 食欲が落ちる。「なんとなく食べたくない」と本人が言う
  • お腹が張ってくる。お腹全体が、少し丸く盛り上がってくる
  • ときどきゴロゴロ、キューッと鳴る(腸の音が本人にも聞こえる)
  • 吐く。最初は食べたものを、そのうちに黄色い水を、進むと便のような色と匂いのするものを吐く
  • おならも出ていない。本人が「そういえば」と気づくくらいの量

窓辺の木の食卓に、椅子が並んだ朝の光景 「食欲がない」は、家族が最初に気づく変化のひとつです(写真はイメージです)

MSDマニュアル家庭版「腸閉塞」の項に、この順番がそのまま書かれています。

ほとんどの場合、腹部の疝痛(せんつう)が起き、腹部膨満(ぼうまん)、悪心、嘔吐がみられ、便秘となります。

(MSDマニュアル家庭版「腸閉塞」)

書かれている症状は4つです。

  • お腹の痛み(疝痛)
  • お腹の張り(腹部膨満)
  • 吐き気・嘔吐
  • 便が出ない

この4つが「腸閉塞の四徴」と呼ばれることもあります。ただし——家庭で見えるのは、この4つが一斉にそろった姿ではありません。

進み方には順番があります。同じMSDに、こう続きます。

大腸の閉塞では、症状はあまりないが、腸内容物が徐々にたまっていくと、腹部膨満と嘔吐が起こります。

「症状はあまりないが」。

これが、大腸で詰まりが起きたときの、家庭での見え方です。**痛みで気づかせてくれる病気ではありません。**張って、吐いて、それでようやく気づきます。

だから、家庭で最初に見える変化は、多くの場合**「便が出ていない」「食欲が落ちた」の2つです。この2つがそろっているときに、翌日または翌々日、「お腹が張ってきた」「吐いた」**が続いたら、それは便秘の延長ではなく、別の病気になっている可能性があります。

白い椀に注がれた温かいスープ 「1杯だけ食べた」の1杯が、日に日に減っていきます(写真はイメージです)

「便秘」と「腸閉塞」は、どこで線が引かれるのか

高齢のご家族の便秘に付き合ってこられた方は、こう思うかもしれません。「うちはいつも4日、5日出ないから」。

その通りです。慢性便秘症は珍しい病気ではありません。厚生労働省「令和4年 国民生活基礎調査」の有訴者率の項目にも「便秘」は載っており、年齢が上がるほど有訴者率が上がる傾向が、はっきり出ています。

だから「便が出ない」だけを線引きにすると、線が引けません。線を引くのは、便が出ていないことに、別の症状が加わったかどうかです。

日本消化管学会『便通異常症診療ガイドライン2023—慢性便秘症』は、便秘の診療にあたって、**まず除外すべき「警告徴候(レッドフラグ)」**を挙げています。原文の並び方は少し違いますが、ふだんの便秘と分ける代表的な項目として、次のようなものが並びます。

  • 血便
  • 急に始まった便通異常
  • 50歳以上(大腸がん検診歴が無い場合など)
  • 原因不明の体重減少
  • 貧血
  • 腹部の腫瘤(お腹の中にしこりを触れる)
  • 腹痛、嘔吐、腹部膨満、排便困難、排ガスの停止

(項目名と表現はガイドラインからの整理。正確な原文は同書の該当章をご確認ください)

**下から2つ目の「腹痛、嘔吐、腹部膨満、排便困難、排ガスの停止」。**これがそのまま、腸閉塞のことを指しています。

つまり、便が出ないことに、吐き気・張り・お腹の痛みのどれかが加わっていたら、それはもう「便秘の相談」ではないのです。

2. 救急隊が現場で疑うもの

「お腹が張って、吐いていて、便が出ていない」で私たちが呼ばれたとき、正直に言うと、この時点で傷病名を絞り込むことはできません。救急隊はエコーもレントゲンも持っていないからです。

私たちが現場でやっているのは、「今すぐ病院に行くべきか」を外さないことだけです。頭に浮かべるのは、だいたいこのあたりになります。

  • 腸閉塞(イレウス)——今日の話
  • 急性胃腸炎(吐く・下痢する)
  • 急性膵炎(みぞおちから背中の激痛)
  • 胆道系の病気(胆石発作・急性胆管炎——こちらは別記事
  • 胃穿孔・十二指腸潰瘍穿孔(突然のみぞおちの激痛と板のように硬いお腹)
  • 腹部大動脈瘤の破裂・切迫破裂こちらも別記事
  • 心筋梗塞(下壁の梗塞は上腹部痛だけで来ることがあります)

このなかで、痛みが強くないのに命に関わる代表格が、腸閉塞腹部大動脈瘤下壁心筋梗塞です。ですので、現場で「そんなに痛がっていないから軽い」とは、私たちは絶対に言いません。

水がなみなみと注がれたガラスコップ 「今日、コップ何杯飲みましたか」——現場では、水の量をよく聞きます(写真はイメージです)

そして、腸閉塞と胃腸炎はまぎらわしいのです。どちらも吐きます。どちらも食欲が落ちます。違いは、便通と、お腹の張り、そして時間の経ち方にあります。

だから、現場で私たちが家族に聞くのは、病名を当てるための質問ではなく、時間と回数の質問です。

  • **最後に便が出たのはいつか。**色と量は
  • 最後におならが出たのはいつか(本人が「そういえば出ていない」と気づくことが多い)
  • お腹の張りは、いつから始まったか
  • 吐いたのは何回か。吐いたものの色と匂いは(黄色い水、緑色、便のような臭い)
  • 痛みはあるか。あるとしたら、どこが、どんな痛みか
  • 食欲は。最後に食べたのはいつ、何を、どれくらいか
  • 飲んだ水の量は(この時期は必ず聞きます)
  • 手術を受けたことはあるか(お腹の手術、婦人科の手術、ヘルニアの手術など)

このうち**「最後の排便・排ガス」と「手術歴」**は、あとで病院がいちばん必要とする情報です。

透明な茶色の薬瓶に、白いカプセルの薬が入っている お薬手帳は、必ず持っていきます(写真はイメージです)

もうひとつ、飲んでいる薬も必ず確認します。

  • 鎮痛薬(オピオイド系)
  • 抗コリン薬(過活動膀胱の薬など)
  • 一部の精神科の薬・抗パーキンソン病薬
  • 鉄剤
  • 一部の降圧薬

これらは腸の動きを鈍らせることが知られており、便秘を悪化させる方向に働きます。ですので、**お薬手帳は、必ず持っていってください。**痛みで本人が説明できない状態でも、これが1冊あれば伝わります。

3. 病院で行われる検査

日本消化管学会や日本消化器病学会の解説を読み合わせると、腸閉塞が疑われたときに病院で行われる検査は、だいたい次の順番になります。

  • 診察(お腹の張り、圧痛、腸の音を聴く)
  • 血液検査(脱水、感染、電解質異常、乳酸値など)
  • 腹部レントゲン(立位で撮ると、腸の中に**ガスと液体の境目「鏡面像(ニボー像)」**が写ることがあります)
  • 腹部エコー
  • 腹部造影CT(多くの施設で決め手になる検査)

MSDマニュアル家庭版も「診断は、通常はX線検査またはCT検査で確定します」と書いています。

手袋をした手が、超音波検査のプローブを操作している エコーとCTが、詰まっている場所と、詰まらせているものを見にいきます(写真はイメージです)

造影CTは少し詳しく書いておきます。造影剤を静脈から入れて撮ると、腸の壁に血が流れているかどうかが映ります。ここが決定的です。腸に血が流れていない場所があれば、それは絞扼性(こうやくせい)——腸そのものが締めつけられて血流が止まっている状態です。ここまで進んでいると、緊急手術が必要になります。

4. 傷病名は「腸閉塞(イレウス)」でした

検査でこの形が見つかったとき、つく傷病名が**「腸閉塞(イレウス)」**です。

呼び方について、ひとことだけ整理します。

  • 「腸閉塞」:物理的に腸が詰まった状態(狭くなった、絞られた、詰まった)
  • 「イレウス」:もともとは腸の動きが止まった状態を指す言葉。現在は「機能性イレウス」と呼ばれることが多い
  • 家庭ではどちらもよく耳にします。病院で「腸閉塞ですね」と言われても「イレウスですね」と言われても、指しているものはほぼ同じと思ってください

そして、ここからがこの記事でいちばん伝えたいところです。この病気は、絞扼性(血が止まっているか)で、扱いがまったく変わります。

絞扼性でない場合(単純性・閉塞性):

  • 絶飲食(口から水も入れません)
  • 点滴で水と電解質を戻す
  • 鼻から胃までチューブを入れて、たまったものを引く(イレウス管または経鼻胃管
  • 詰まっているものが便であれば、下から取ることもある
  • 経過を見て、腸の動きが戻れば、食事を少しずつ再開

多くはこの流れで改善します。手術にならないこともよくあります。

絞扼性の場合(血が止まっている):

  • 緊急手術
  • 血が止まっている腸は、時間が経つと壊死します
  • 壊死した腸からは、菌と便が腹腔(お腹の中)にもれ出す

点滴のバッグが金属のスタンドに吊るされている 絞扼性でなければ、まず点滴で水を戻すところから始まります(写真はイメージです)

MSDマニュアル家庭版は、この違いをこう書いています。

血液供給が完全に絶たれた場合、腸の一部が急速に死んで(壊死)、腸の壁に穴が開くこと(穿孔)があり、その結果、生命を脅かす感染症(腹膜炎)と、血圧の低下が起きます。

**「生命を脅かす」。**MSDが家庭版でこの言葉を使う病気は、そう多くありません。

もうひとつ、時間の話です。日本消化管学会や日本外科感染症学会の教科書レベルの記載では、絞扼性イレウスは発症から数時間の単位で腸の壊死に進むことがある、という書き方をしています。「明日の朝、様子を見てから」ではないのです。

ですので、救急隊が現場で「最後の排便はいつか」を聞き、「お腹が張り始めたのはいつか」を聞き、「吐いたのは何回か」を聞くのは、記録のためではありません。病院がその情報を元に、絞扼性かどうかを最初に外さないためです。

5. 腸閉塞とは——「便秘の続き」ではありません

そもそも何が起きているのか。整理して書きます。

腸は、口から入ったものを、押し出す動きで先へ運びます。この動きが**「蠕動運動(ぜんどううんどう)」**です。ホースを外からしごくような動き、と思ってください。

腸閉塞は、そのホースのどこかで、通り道が塞がれた状態です。塞ぐものは、いろいろあります。

  • 癒着(過去の手術の跡や、炎症のあとで、腸どうしがくっつく)
  • ヘルニア(腸の一部が、腹壁の弱いところや太ももの付け根から飛び出して戻らない)
  • 腸のねじれ(S状結腸軸捻転など、高齢者に起きやすい形)
  • 腫瘍(大腸がん、小腸腫瘍。閉塞で見つかることがあります
  • 糞便(固くなった便が、そのまま詰まる。高齢者・寝たきりの方に多い形
  • 異物(誤って飲み込んだもの、まれに胆石)

(原因の分類は、日本消化管学会・日本消化器病学会の解説や外科の標準教科書で共通です。ここに挙げたのは代表的なもので、すべてではありません)

このうち、家庭で「便秘のあとに」起きる形として代表的なのが、糞便が固くなって詰まる形(糞便性イレウス)と、腸のねじれ、そして大腸がんです。

大腸がんが閉塞で見つかることは、家族に持ち帰っていただきたい事実のひとつです。日本消化管学会の警告徴候の並びに「50歳以上」「急に始まった便通異常」「原因不明の体重減少」「貧血」が入っているのは、まさにこの可能性を早期に拾うためです。

「もともと便秘だった」も、「もともとお腹が弱かった」も、大腸がんを否定する材料にはなりません。むしろ**「もともとの便秘が、この数か月で急に悪くなった」**は、要注意の変化として書かれています。

そして、詰まったところから先の腸の壁は、次のような順で追い込まれていきます。

  1. 内容物がたまり、腸が伸びて(拡張して)張る
  2. 圧が上がって、血の流れが悪くなる
  3. 血が止まると、腸の壁がむくみ、細菌がしみ出す
  4. さらに進むと腸の壁が死ぬ(壊死)
  5. 死んだ壁に穴が開き(穿孔)、便と菌がお腹の中にもれる(腹膜炎

**「詰まった」だけの病気ではなく、「血が止まった」病気にも化ける。**時間が効いてくる理由は、ここにあります。

6. 避けるには——「食欲がない」「水を飲まない」「動かない」の3つを見る

正直に書きます。**腸閉塞そのものを完全に予防する方法は、参照した公的資料には書かれていません。**手術のあとの癒着も、大腸がんも、S状結腸のねじれも、原因はさまざまです。

ただ、慢性便秘症の悪化を止めることは、腸閉塞の入口をひとつ減らすことにはなります。ここは、いくつかの公的資料が共通して書いています。

厚生労働省「e-ヘルスネット」の便秘の項や、日本消化管学会『便通異常症診療ガイドライン2023』の生活習慣の章には、家庭でできることとして、こういうことが並びます(表現は要約です。正確な原文は各資料でご確認ください)。

  • 水分を十分にとる(この時期は特に)
  • 食物繊維をとる
  • 朝の食事をとる(腸の動きが起きるきっかけになる)
  • 体を動かす(散歩程度でよい)
  • 便意を我慢しない

「当たり前」に見えるかもしれませんが、この当たり前が抜けていくのが秋です。

  • 夏の暑さで食が細っていた家族が、そのまま9月に入る
  • 冷たい飲みものはやめたけれど、その代わりの水を飲んでいない
  • 気候が良くなったのに、体力が落ちて散歩の距離が縮んでいる
  • 夜、寒くて起きるのが億劫で、便意を我慢する

これが重なると、便のかさが減り、腸の動きが鈍り、便が硬くなります。硬くなった便が、まさに詰まる材料になります。

閉じられた木のドアの向こうに、白いトイレが見える 「トイレに何回行ったか」は、本人にも家族にも見えにくい情報です(写真はイメージです)

そして、この時期に特に注意していただきたいのは市販の下剤です。数日出ていないからと、家にある下剤を飲ませて出そうとするのは、判断が難しい行為です。

  • すでに完全に詰まっている場合、下剤で腸の動きだけを強めると、詰まりの手前で圧が高くなり、腸を痛めることがあります
  • 特に刺激性の下剤(センナ、ビサコジルなど)は、閉塞が疑われる状態では避けたほうがよいと、多くの内科・消化器の解説に書かれています
  • 一方で便を軟らかくする薬(酸化マグネシウム、ラクツロースなど)は、日常の便秘対策として広く使われています

**「使ってはいけない」と一律に言うことはできませんが、「お腹が張っていて、吐いてもいる」ときの下剤は、家庭で判断せずに医師に相談してください。**これは、私たち救急隊も現場で家族にお伝えすることです。

もう一点だけ。「浣腸」も、家庭で自己判断で行うのは避けてください。特に血をさらさらにする薬(抗血小板薬・抗凝固薬)を飲んでいる方や、直腸に病気のある方では、家庭用浣腸で直腸を傷つけることがあります。急いで出さなければならないほど詰まっているのなら、それは病院で診るべき状態です。

7. 家族へ——119番と♯7119の使い分け

総務省消防庁のリーフレット『救急車を上手に使いましょう』(令和7年12月発行)のおとなおよび高齢者のページの「おなか」欄には、こう並んでいます。

  • 突然の激しい腹痛
  • 激しい腹痛が持続する
  • 血を吐く
  • 便に血が混ざる または、真っ黒い便が出る

そして「吐き気」欄には、次の項目があります。

  • 冷や汗を伴うような強い吐き気

さらに「意識の障害」欄には、こうあります。

  • 意識がない(返事がない)またはおかしい(もうろうとしている)

高齢者ページの冒頭には、こう書かれています。

高齢者は自覚症状が出にくい場合もありますので注意しましょう。

(総務省消防庁『救急車を上手に使いましょう』高齢者ページ)

正直に、この資料の限界も書いておきます。このリーフレットの全9ページを見ても、「腸閉塞」「イレウス」という言葉は一度も出てきません。「便が出ない」という一項目もありません。「お腹が張る」という表現もありません。

つまり、「4日、便が出ていない」と「お腹が張っている」だけでは、消防庁の119番の判断リストのどれにも当てはまりません。この状態で家族が迷うのは、資料の作りとして自然なのです。載っているのは、多くの場合進んだあとの姿——強い痛み、繰り返す嘔吐、意識の変化——のほうです。

だから、家庭での判断はこう分けるのが現実的だと思っています。

すぐ119番でよい場合(リーフレットに載っている形です)

  • お腹が突然、激しく痛くなった/その痛みが続いている
  • 繰り返し吐いている(黄色い水、緑色の水、便のような臭いのするもの)
  • 冷や汗を伴う強い吐き気
  • 意識がはっきりしない、反応がおかしい
  • 血を吐いた/便に血が混ざる/真っ黒い便が出た

♯7119(救急安心センター事業)に電話でよい場合

  • 数日、便が出ていない
  • お腹が張ってきた
  • 少し吐いたが、いまは吐いていない
  • 痛みは強くない、あるいは、強くなったり弱くなったりする

♯7119は、救急車を呼ぶべきか迷ったときに、看護師や医師が話を聞いてくれる番号です。全国で使える地域が広がっています。「まだ119番ではない気がする」と感じたときの、正解の一つがこの番号です。

#7119(救急安心センター事業)の使い方と、迷ったときの考え方は別の記事にまとめています。

そして、**♯7119につないだ結果として119番が必要と判断されることは、よくあります。**それは電話を無駄にしたのではありません。電話で待たされる時間よりも、遅れる10分のほうが命に近いからです。

両手でスマートフォンを持って画面を操作している手元(顔は写っていない) 迷ったときに、まずかけられる番号があります(写真はイメージです)

病院で聞かれることを、先に用意しておく

救急車を呼んだ場合も、家族の車で行った場合も、病院で必ず聞かれることがあります。時間があるうちに、これだけメモにしておくと、話が早くなります。

  1. **最後に便が出たのはいつか。**色と量、硬さ(コロコロだったか、水っぽかったか)
  2. 最後におならが出たのはいつか
  3. お腹の張りが始まったのはいつか
  4. 吐いたのは何回か。時刻と、吐いたものの色と匂い
  5. 痛みはあるか。いつから、どこが、どんな痛みか(キリキリ、ズーンなど)
  6. 食欲は。最後に食べたのはいつ、何を、どれくらいか
  7. 飲んだ水の量(コップ何杯くらいか)
  8. 手術を受けたことはあるか(お腹の手術、婦人科の手術、ヘルニアの手術など)
  9. 飲んでいる薬(お薬手帳をそのまま持参してください)
  10. もともとの便通(毎日出ていたか、何日おきだったか、最近急に変わったか)

これは、救急外来の診察で聞かれる項目とほぼ同じです。病名を当てる質問ではありません。「絞扼性かどうかを外さない」ための質問です。

8. 書かなかったこと

この記事を書くにあたって調べたものの、公的資料で裏が取れなかったので書かなかったことを、正直に並べておきます。

**「秋に多い」とは書けませんでした。**慢性便秘症は季節性の統計が乏しく、腸閉塞の入院数を月別に整理した全国統計を見つけられませんでした。「秋に食欲が落ちて、水分が減ることが、便秘の悪化につながることがあります」というのは、季節性ではなく生活の流れとして書いています。

**「日本で年間何人が腸閉塞になるか」も書けませんでした。**総務省消防庁『救急救助の現況』にも、この傷病名の区分はありません。厚生労働省の患者調査には「腸閉塞」の入院統計がありますが、値は年で変動し、また分類の切り分け(「イレウス」「腸重積」「ヘルニアによる閉塞」など)によっても数字が変わります。特定の一つの数字で言い切ることはできません。

絞扼性イレウスの致死率も、単一の数字では書きませんでした。古い教科書には「10〜30%」といった記述もありますが、診断技術や治療の進歩で年代によって差が大きく、また「絞扼性」の定義そのものが施設によって幅があります。ですので本文では「時間が経つと壊死する」「生命を脅かす」というMSDと学会資料の言い方にとどめました。

大腸がんが閉塞で見つかる割合も、断定はしませんでした。「大腸がん患者の一部は閉塞(イレウス)の形で発症する」ことは複数の消化器外科の解説にありますが、割合の数字は施設や年代で変動します。ここは「閉塞で見つかることがあります」までにとどめました。

**「S状結腸軸捻転」の頻度も書けませんでした。**高齢者に多いこと、寝たきりや向精神薬内服者に多いこと、は消化管外科の解説にありますが、家庭向けに数字で言い切れる公的資料を見つけられませんでした。

**下剤の具体的な使い分けは書きませんでした。**酸化マグネシウム、刺激性下剤、上皮機能変容薬、胆汁酸トランスポーター阻害薬など、便秘の薬にはいくつもの種類があります。どれを使うかは医師と薬剤師の判断であって、この記事の役割ではありません。

**『救急蘇生法の指針2025(市民用)』は、この病気にはほぼ使えませんでした。**全69ページを調べましたが、「腸閉塞」「イレウス」「便秘」はいずれも0件です。ファーストエイドの19項目にも、腹痛の項目はありません。ですので、消防庁『救急車を上手に使いましょう』のおなかの欄と、MSDマニュアル家庭版の腸閉塞の項を、家庭で使える一次資料として本文に据えました。

**MSDマニュアル家庭版とプロフェッショナル版で、記述が完全に一致するわけではありません。**本文で引用したのは家庭版です。プロフェッショナル版のほうがより詳細で、絞扼性の頻度や治療の細部まで書かれていますが、家庭で読む前提の記事ですので家庭版にそろえました。

**「浣腸で腸が破ける」ことの日本語の一次資料は、こども病院の情報しか見つけられませんでした。**成人の家庭用浣腸の合併症を、公的機関がまとめた文書を確認できませんでした。ですので本文では「傷つけることがあります」までにとどめ、具体例や頻度は書いていません。

まとめ

3行まとめ:

  • **傷病名は「腸閉塞(イレウス)」。**腸のどこかで通り道が塞がり、たまった内容物が逆流したり、腸の壁の血が止まったりする病気です。手術歴のない高齢者に、便秘の続きのように起きることがあります
  • **「便が出ていない」+「お腹が張ってきた」+「吐いた」がそろったら、便秘の相談ではありません。**日本消化管学会が便秘の警告徴候として挙げている項目です。痛みが強くなくても、です
  • **時間で扱いが変わります。**多くは絶飲食と点滴と鼻からのチューブで改善しますが、血が止まっている場合(絞扼性)は緊急手術になります。「明日の朝まで」ではありません

白い壁に掛けられたシンプルな丸い掛け時計 数えはじめるのは、病院に着いた時刻ではなく、お腹が張り始めた時刻です(写真はイメージです)

消防庁の高齢者ページは、こう書いています。

高齢者は自覚症状が出にくい場合もありますので注意しましょう。

**「痛くない」「本人は元気そう」は、大丈夫の証拠にはなりません。**とくにこの病気では。

日本消化管学会の警告徴候は、便秘に隠れる重い病気を、便秘の相談として来た患者さんから見つけ出すためのものです。だから病院は、便秘の相談で来た方にも、排ガス・排便・お腹の張り・体重・便の色を、必ず聞きます。

家庭で見ていただきたいのも、同じ場所です。

年配のご夫婦が、腕を組んで通りを歩いている後ろ姿 「いつもと違う」と感じたのが、いちばん確かな情報です(写真はイメージです)

高齢のご家族は、若い世代よりも**「大したことない」と言いがち**です。それは我慢強いのではなく、痛みや不快感の感じ方そのものが、若い時期と違うのだと言われています。

だから、家族が「様子がいつもと違う」と感じたときの、その感覚のほうを大事にしてください。便が出ていないだけです、と本人が言ったとしても、お腹の張りと吐き気があるなら、それは相談する側の話です。

今日そろえておけるもの

高価な道具は要りません。今日の話に直接効くのは、この3つくらいです。

  • お薬手帳・既往歴を書けるカードケース — 腸の動きに影響する薬(鎮痛薬、抗コリン薬、精神科の薬、鉄剤など)は、意外と多くの家庭に置かれています。お薬手帳は、救急隊が現場で最初に探すものの一つです。手術歴のメモを一緒にはさんでおくと、なお良いです
  • 時刻を記録できる手帳・メモ帳 — この病気で病院が知りたいのは、症状の名前ではなく「最後にいつ出て、いつから張っていて、いつ吐いたか」です。夜中に急変してから思い出そうとすると、これが出てきません。排便の日付をカレンダーに一言メモしておくだけで、そのまま伝える材料になります
  • 家庭用の水分補給ボトル・保温マグ — 秋は飲む量が知らないうちに減ります。手の届く場所に、常に温かい飲みものがあるというだけで、1日の水分量は変わります。冷たい飲みものは高齢者には敬遠されがちですが、温かければ受け入れられることが多いです

関連記事として、同じ「痛みが強くないのに命に関わる」形の「お腹は痛くない」と母は言った——真っ黒い便、みぞおちの痛みで鑑別に挙がる急性膵炎の転院搬送急性胆管炎、腹痛全般で救急車を呼ぶかどうかの判断に救急車を呼ぶ7つのサイン、そして高齢者の「いつもと違う」を医療のサインに翻訳する盆休みの帰省で確認したい救急5チェックもあわせてご覧ください。

家庭に置いておきたい備え

ここから先は、記事の内容に関連して家庭に備えておける市販品を紹介しています。治療や診断の代わりになるものではありません。症状があるときは、まず医療機関にご相談ください。

まず、調べられる本を。

この記事の内容に関係する備え。

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本記事は一般的な情報提供であり、医療診断に代わるものではありません。実際の症状については必ず医療機関にご相談ください。

参考

⚠️ 免責事項この記事の情報は一般的な救急知識の情報提供を目的としており、医療行為や医療診断に代わるものではありません。症状がある場合は必ず医療機関を受診してください。生命の危機を感じる症状は、迷わず119番に通報してください。

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「せきは、そんなにひどくないんです」——見るのは音ではなく、飲めているかどうか。傷病名は「RSウイルスによる細気管支炎」でした

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救急のリアル 編集部

現役救命士(匿名)|救急歴20年以上

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