今日は、**「腸閉塞(ちょう・へいそく)」**という病気の話をします。
現場で「イレウス」と呼ばれることも多い病気です。名前は聞いたことがある方が多いかもしれません。手術を受けた人が、あとで「くっついてしまう」と言われる、あれです。
けれど今日書きたいのは、その話ではありません。手術歴のない、ふつうの高齢者に、便秘の続きのようにして起きる腸閉塞の話です。
家庭でいちばん見過ごされる形は、こういう並び方をします。
「4日、出ていないだけです」
「便が出ていないだけです」。この言葉は、救急外来でも、私たちが現場に着いたときにも、よく聞きます。ご家族に悪気はありません。本人も「便秘」以外の言葉を持っていないだけです。
けれどそのお腹の中では、途中から別の病気が始まっていることがあります。
そして、この病気にはもうひとつ、家庭で読み違えやすい特徴があります。
痛がらないことがあるのです。
「お腹が痛い」と本人が言えば、家族はすぐに気づきます。ところが高齢者の腸閉塞は、はっきりした痛みではなく、お腹が張るだけで進むことがあります。
「痛がらないから大丈夫」が、いちばん通じない病気のひとつです(写真はイメージです)
順番に説明します。
なお、この記事は**特定のどなたかの事案の話ではありません。**公的機関や学会が「典型的な形」として書いている内容を、救急の現場で使う順番に並べ直したものです。
先に、3つだけ
長くなるので、結論から置きます。
- **「便が出ていない」+「お腹が張っている」+「吐いた」がそろったら、腸閉塞を考えます。痛みが強くなくても、です。日本消化管学会『便通異常症診療ガイドライン2023—慢性便秘症』は、腹痛と嘔吐、腹部膨満などを、便秘の背景に隠れた重い病気を疑う「警告徴候(レッドフラグ)」**として並べています
- **消防庁『救急車を上手に使いましょう』のおなかの欄には「便が出ない」という一項目はありません。**あるのは「突然の激しい腹痛」「激しい腹痛が持続する」「便に血が混ざる」といった、進んだあとの姿です。便秘そのものを判断リストにしていないことが、家庭が迷う理由のひとつです
- **秋は、食欲が細る季節です。食べる量と飲む水が同時に減ると、便のかさも減り、腸の動きも落ちます。この時期に高齢の家族の「食べていない」「トイレの回数が減った」「お腹が張ってきた」**が重なっていたら、様子を見る側ではなく、相談する側に倒してください
以下、ひとつずつ原文で確認していきます。
1. 症状——「4日、出ていないだけです」
私たちが呼ばれる場面、あるいは救急外来に運び込まれる場面は、資料に書かれている典型的な形でいうと、こう並びます。
対象になるのは、高齢のご家族です。もともと便秘気味だった方が多いのですが、そうでない方にも起こります。手術を受けたことがある方は特に起こりやすいと言われますが、手術歴がなくても起こります。
家庭で起きているのは、こういうことです。
- 数日、便が出ていない(3日、4日、あるいはもっと)
- 食欲が落ちる。「なんとなく食べたくない」と本人が言う
- お腹が張ってくる。お腹全体が、少し丸く盛り上がってくる
- ときどきゴロゴロ、キューッと鳴る(腸の音が本人にも聞こえる)
- 吐く。最初は食べたものを、そのうちに黄色い水を、進むと便のような色と匂いのするものを吐く
- おならも出ていない。本人が「そういえば」と気づくくらいの量
「食欲がない」は、家族が最初に気づく変化のひとつです(写真はイメージです)
MSDマニュアル家庭版「腸閉塞」の項に、この順番がそのまま書かれています。
ほとんどの場合、腹部の疝痛(せんつう)が起き、腹部膨満(ぼうまん)、悪心、嘔吐がみられ、便秘となります。
(MSDマニュアル家庭版「腸閉塞」)
書かれている症状は4つです。
- お腹の痛み(疝痛)
- お腹の張り(腹部膨満)
- 吐き気・嘔吐
- 便が出ない
この4つが「腸閉塞の四徴」と呼ばれることもあります。ただし——家庭で見えるのは、この4つが一斉にそろった姿ではありません。
進み方には順番があります。同じMSDに、こう続きます。
大腸の閉塞では、症状はあまりないが、腸内容物が徐々にたまっていくと、腹部膨満と嘔吐が起こります。
「症状はあまりないが」。
これが、大腸で詰まりが起きたときの、家庭での見え方です。**痛みで気づかせてくれる病気ではありません。**張って、吐いて、それでようやく気づきます。
だから、家庭で最初に見える変化は、多くの場合**「便が出ていない」と「食欲が落ちた」の2つです。この2つがそろっているときに、翌日または翌々日、「お腹が張ってきた」「吐いた」**が続いたら、それは便秘の延長ではなく、別の病気になっている可能性があります。
「1杯だけ食べた」の1杯が、日に日に減っていきます(写真はイメージです)
「便秘」と「腸閉塞」は、どこで線が引かれるのか
高齢のご家族の便秘に付き合ってこられた方は、こう思うかもしれません。「うちはいつも4日、5日出ないから」。
その通りです。慢性便秘症は珍しい病気ではありません。厚生労働省「令和4年 国民生活基礎調査」の有訴者率の項目にも「便秘」は載っており、年齢が上がるほど有訴者率が上がる傾向が、はっきり出ています。
だから「便が出ない」だけを線引きにすると、線が引けません。線を引くのは、便が出ていないことに、別の症状が加わったかどうかです。
日本消化管学会『便通異常症診療ガイドライン2023—慢性便秘症』は、便秘の診療にあたって、**まず除外すべき「警告徴候(レッドフラグ)」**を挙げています。原文の並び方は少し違いますが、ふだんの便秘と分ける代表的な項目として、次のようなものが並びます。
- 血便
- 急に始まった便通異常
- 50歳以上(大腸がん検診歴が無い場合など)
- 原因不明の体重減少
- 貧血
- 腹部の腫瘤(お腹の中にしこりを触れる)
- 腹痛、嘔吐、腹部膨満、排便困難、排ガスの停止
(項目名と表現はガイドラインからの整理。正確な原文は同書の該当章をご確認ください)
**下から2つ目の「腹痛、嘔吐、腹部膨満、排便困難、排ガスの停止」。**これがそのまま、腸閉塞のことを指しています。
つまり、便が出ないことに、吐き気・張り・お腹の痛みのどれかが加わっていたら、それはもう「便秘の相談」ではないのです。
2. 救急隊が現場で疑うもの
「お腹が張って、吐いていて、便が出ていない」で私たちが呼ばれたとき、正直に言うと、この時点で傷病名を絞り込むことはできません。救急隊はエコーもレントゲンも持っていないからです。
私たちが現場でやっているのは、「今すぐ病院に行くべきか」を外さないことだけです。頭に浮かべるのは、だいたいこのあたりになります。
- 腸閉塞(イレウス)——今日の話
- 急性胃腸炎(吐く・下痢する)
- 急性膵炎(みぞおちから背中の激痛)
- 胆道系の病気(胆石発作・急性胆管炎——こちらは別記事)
- 胃穿孔・十二指腸潰瘍穿孔(突然のみぞおちの激痛と板のように硬いお腹)
- 腹部大動脈瘤の破裂・切迫破裂(こちらも別記事)
- 心筋梗塞(下壁の梗塞は上腹部痛だけで来ることがあります)
このなかで、痛みが強くないのに命に関わる代表格が、腸閉塞と腹部大動脈瘤と下壁心筋梗塞です。ですので、現場で「そんなに痛がっていないから軽い」とは、私たちは絶対に言いません。
「今日、コップ何杯飲みましたか」——現場では、水の量をよく聞きます(写真はイメージです)
そして、腸閉塞と胃腸炎はまぎらわしいのです。どちらも吐きます。どちらも食欲が落ちます。違いは、便通と、お腹の張り、そして時間の経ち方にあります。
だから、現場で私たちが家族に聞くのは、病名を当てるための質問ではなく、時間と回数の質問です。
- **最後に便が出たのはいつか。**色と量は
- 最後におならが出たのはいつか(本人が「そういえば出ていない」と気づくことが多い)
- お腹の張りは、いつから始まったか
- 吐いたのは何回か。吐いたものの色と匂いは(黄色い水、緑色、便のような臭い)
- 痛みはあるか。あるとしたら、どこが、どんな痛みか
- 食欲は。最後に食べたのはいつ、何を、どれくらいか
- 飲んだ水の量は(この時期は必ず聞きます)
- 手術を受けたことはあるか(お腹の手術、婦人科の手術、ヘルニアの手術など)
このうち**「最後の排便・排ガス」と「手術歴」**は、あとで病院がいちばん必要とする情報です。
お薬手帳は、必ず持っていきます(写真はイメージです)
もうひとつ、飲んでいる薬も必ず確認します。
- 鎮痛薬(オピオイド系)
- 抗コリン薬(過活動膀胱の薬など)
- 一部の精神科の薬・抗パーキンソン病薬
- 鉄剤
- 一部の降圧薬
これらは腸の動きを鈍らせることが知られており、便秘を悪化させる方向に働きます。ですので、**お薬手帳は、必ず持っていってください。**痛みで本人が説明できない状態でも、これが1冊あれば伝わります。
3. 病院で行われる検査
日本消化管学会や日本消化器病学会の解説を読み合わせると、腸閉塞が疑われたときに病院で行われる検査は、だいたい次の順番になります。
- 診察(お腹の張り、圧痛、腸の音を聴く)
- 血液検査(脱水、感染、電解質異常、乳酸値など)
- 腹部レントゲン(立位で撮ると、腸の中に**ガスと液体の境目「鏡面像(ニボー像)」**が写ることがあります)
- 腹部エコー
- 腹部造影CT(多くの施設で決め手になる検査)
MSDマニュアル家庭版も「診断は、通常はX線検査またはCT検査で確定します」と書いています。
エコーとCTが、詰まっている場所と、詰まらせているものを見にいきます(写真はイメージです)
造影CTは少し詳しく書いておきます。造影剤を静脈から入れて撮ると、腸の壁に血が流れているかどうかが映ります。ここが決定的です。腸に血が流れていない場所があれば、それは絞扼性(こうやくせい)——腸そのものが締めつけられて血流が止まっている状態です。ここまで進んでいると、緊急手術が必要になります。
4. 傷病名は「腸閉塞(イレウス)」でした
検査でこの形が見つかったとき、つく傷病名が**「腸閉塞(イレウス)」**です。
呼び方について、ひとことだけ整理します。
- 「腸閉塞」:物理的に腸が詰まった状態(狭くなった、絞られた、詰まった)
- 「イレウス」:もともとは腸の動きが止まった状態を指す言葉。現在は「機能性イレウス」と呼ばれることが多い
- 家庭ではどちらもよく耳にします。病院で「腸閉塞ですね」と言われても「イレウスですね」と言われても、指しているものはほぼ同じと思ってください
そして、ここからがこの記事でいちばん伝えたいところです。この病気は、絞扼性(血が止まっているか)で、扱いがまったく変わります。
絞扼性でない場合(単純性・閉塞性):
- 絶飲食(口から水も入れません)
- 点滴で水と電解質を戻す
- 鼻から胃までチューブを入れて、たまったものを引く(イレウス管または経鼻胃管)
- 詰まっているものが便であれば、下から取ることもある
- 経過を見て、腸の動きが戻れば、食事を少しずつ再開
多くはこの流れで改善します。手術にならないこともよくあります。
絞扼性の場合(血が止まっている):
- 緊急手術
- 血が止まっている腸は、時間が経つと壊死します
- 壊死した腸からは、菌と便が腹腔(お腹の中)にもれ出す
絞扼性でなければ、まず点滴で水を戻すところから始まります(写真はイメージです)
MSDマニュアル家庭版は、この違いをこう書いています。
血液供給が完全に絶たれた場合、腸の一部が急速に死んで(壊死)、腸の壁に穴が開くこと(穿孔)があり、その結果、生命を脅かす感染症(腹膜炎)と、血圧の低下が起きます。
**「生命を脅かす」。**MSDが家庭版でこの言葉を使う病気は、そう多くありません。
もうひとつ、時間の話です。日本消化管学会や日本外科感染症学会の教科書レベルの記載では、絞扼性イレウスは発症から数時間の単位で腸の壊死に進むことがある、という書き方をしています。「明日の朝、様子を見てから」ではないのです。
ですので、救急隊が現場で「最後の排便はいつか」を聞き、「お腹が張り始めたのはいつか」を聞き、「吐いたのは何回か」を聞くのは、記録のためではありません。病院がその情報を元に、絞扼性かどうかを最初に外さないためです。
5. 腸閉塞とは——「便秘の続き」ではありません
そもそも何が起きているのか。整理して書きます。
腸は、口から入ったものを、押し出す動きで先へ運びます。この動きが**「蠕動運動(ぜんどううんどう)」**です。ホースを外からしごくような動き、と思ってください。
腸閉塞は、そのホースのどこかで、通り道が塞がれた状態です。塞ぐものは、いろいろあります。
- 癒着(過去の手術の跡や、炎症のあとで、腸どうしがくっつく)
- ヘルニア(腸の一部が、腹壁の弱いところや太ももの付け根から飛び出して戻らない)
- 腸のねじれ(S状結腸軸捻転など、高齢者に起きやすい形)
- 腫瘍(大腸がん、小腸腫瘍。閉塞で見つかることがあります)
- 糞便(固くなった便が、そのまま詰まる。高齢者・寝たきりの方に多い形)
- 異物(誤って飲み込んだもの、まれに胆石)
(原因の分類は、日本消化管学会・日本消化器病学会の解説や外科の標準教科書で共通です。ここに挙げたのは代表的なもので、すべてではありません)
このうち、家庭で「便秘のあとに」起きる形として代表的なのが、糞便が固くなって詰まる形(糞便性イレウス)と、腸のねじれ、そして大腸がんです。
大腸がんが閉塞で見つかることは、家族に持ち帰っていただきたい事実のひとつです。日本消化管学会の警告徴候の並びに「50歳以上」「急に始まった便通異常」「原因不明の体重減少」「貧血」が入っているのは、まさにこの可能性を早期に拾うためです。
「もともと便秘だった」も、「もともとお腹が弱かった」も、大腸がんを否定する材料にはなりません。むしろ**「もともとの便秘が、この数か月で急に悪くなった」**は、要注意の変化として書かれています。
そして、詰まったところから先の腸の壁は、次のような順で追い込まれていきます。
- 内容物がたまり、腸が伸びて(拡張して)張る
- 圧が上がって、血の流れが悪くなる
- 血が止まると、腸の壁がむくみ、細菌がしみ出す
- さらに進むと腸の壁が死ぬ(壊死)
- 死んだ壁に穴が開き(穿孔)、便と菌がお腹の中にもれる(腹膜炎)
**「詰まった」だけの病気ではなく、「血が止まった」病気にも化ける。**時間が効いてくる理由は、ここにあります。
6. 避けるには——「食欲がない」「水を飲まない」「動かない」の3つを見る
正直に書きます。**腸閉塞そのものを完全に予防する方法は、参照した公的資料には書かれていません。**手術のあとの癒着も、大腸がんも、S状結腸のねじれも、原因はさまざまです。
ただ、慢性便秘症の悪化を止めることは、腸閉塞の入口をひとつ減らすことにはなります。ここは、いくつかの公的資料が共通して書いています。
厚生労働省「e-ヘルスネット」の便秘の項や、日本消化管学会『便通異常症診療ガイドライン2023』の生活習慣の章には、家庭でできることとして、こういうことが並びます(表現は要約です。正確な原文は各資料でご確認ください)。
- 水分を十分にとる(この時期は特に)
- 食物繊維をとる
- 朝の食事をとる(腸の動きが起きるきっかけになる)
- 体を動かす(散歩程度でよい)
- 便意を我慢しない
「当たり前」に見えるかもしれませんが、この当たり前が抜けていくのが秋です。
- 夏の暑さで食が細っていた家族が、そのまま9月に入る
- 冷たい飲みものはやめたけれど、その代わりの水を飲んでいない
- 気候が良くなったのに、体力が落ちて散歩の距離が縮んでいる
- 夜、寒くて起きるのが億劫で、便意を我慢する
これが重なると、便のかさが減り、腸の動きが鈍り、便が硬くなります。硬くなった便が、まさに詰まる材料になります。
「トイレに何回行ったか」は、本人にも家族にも見えにくい情報です(写真はイメージです)
そして、この時期に特に注意していただきたいのは市販の下剤です。数日出ていないからと、家にある下剤を飲ませて出そうとするのは、判断が難しい行為です。
- すでに完全に詰まっている場合、下剤で腸の動きだけを強めると、詰まりの手前で圧が高くなり、腸を痛めることがあります
- 特に刺激性の下剤(センナ、ビサコジルなど)は、閉塞が疑われる状態では避けたほうがよいと、多くの内科・消化器の解説に書かれています
- 一方で便を軟らかくする薬(酸化マグネシウム、ラクツロースなど)は、日常の便秘対策として広く使われています
**「使ってはいけない」と一律に言うことはできませんが、「お腹が張っていて、吐いてもいる」ときの下剤は、家庭で判断せずに医師に相談してください。**これは、私たち救急隊も現場で家族にお伝えすることです。
もう一点だけ。「浣腸」も、家庭で自己判断で行うのは避けてください。特に血をさらさらにする薬(抗血小板薬・抗凝固薬)を飲んでいる方や、直腸に病気のある方では、家庭用浣腸で直腸を傷つけることがあります。急いで出さなければならないほど詰まっているのなら、それは病院で診るべき状態です。
迷ったときに、まずかけられる番号があります(写真はイメージです)
数えはじめるのは、病院に着いた時刻ではなく、お腹が張り始めた時刻です(写真はイメージです)
「いつもと違う」と感じたのが、いちばん確かな情報です(写真はイメージです)

