今日は、もともとの麻痺が悪くなる話をします。傷病名でいうと脳梗塞の再発——その疑いです。
この記事は、実際にうかがった事案をもとにしています。年齢は幅で、場所や日付は書きません。救急隊は診断をしません。書く傷病名は、あくまで現場で疑ったものです。
ご本人からの通報でした(写真はイメージです)
先に、3つだけ
- 脳卒中は「突然」だけでなく、数日かけて悪くなることがあります
- もともと麻痺がある方は、その変化が「いつものこと」に紛れやすいです
- 熱があっても、原因を決めつけることはできません。候補はひとつではありません
1. 傷病名——疑われたのは「脳梗塞の再発」でした
通報したのは、ご本人でした。60代後半の女性。以前に脳梗塞を起こしたことがあり、右脚にはもともと軽い麻痺が残っていました。
5日ほど前から、頭痛・ろれつが回らない・ぐるぐる回るめまいが出ていたそうです。そして数日前から立てなくなり、もともとあった右脚の麻痺が悪くなりました。
私たちが着いたときの様子です。
- 意識は「普段どおり」(友人から聴取)
- 構音障害(ろれつが回らない状態)あり
- 右脚は上げることはできるが、保持できない
- 起立困難、吐き気あり
- 体温38.1℃、脈拍120前後の頻脈
- 血圧155/100→119/95(普段は120前後とのこと)
三次救急に対応できる病院へお運びしました。
現場で疑ったのは脳梗塞の再発ですが、脳出血や小脳の脳梗塞、熱があったことから脳炎や感染症の可能性も残りました。1つには絞り込めません。
最初の症状から、5日が経っていました(写真はイメージです)
2. 症状のサイン——「数日かけて悪くなる」脳卒中もあります
脳卒中というと「突然」のイメージが強いと思います。でも、いつもそうとは限りません。『MSDマニュアル家庭版』の「虚血性脳卒中」に、こう書かれています。
脳卒中の約10~15%では、脳組織が壊死した領域が着実に拡大するにつれて、最大2日間損傷が発生し続け、症状が悪化し続けます。このような脳卒中は進行性脳卒中と呼ばれます。(中略)通常は、病状がいくぶん安定する期間を挟み、症状と脳組織の損傷が段階的に進行します。 (MSDマニュアル家庭版「虚血性脳卒中」)
落ち着く時間を挟みながら、段階的に進む。ただしMSDが書くのは「最大2日間」で、今回の5日とは同じではありません。「突然」だけが脳卒中の形ではない、というところまでが言えることです。
めまいと構音障害についても、同じページに記述があります。
椎骨動脈(首の後部に沿って脳に向かう動脈)から枝分かれする動脈が詰まった場合は、次のような症状が特に多くみられます。めまいと回転性めまい/両眼の複視または視力障害/体の片側または両側で全体的に筋力が低下する。ほかにも、話し方が不明瞭になるなどの発話困難や、錯乱などの意識障害、協調運動障害、尿失禁など、多くの症状が起こります。 (同)
ぐるぐる回るめまい・ろれつが回らない・体の筋力低下。今回の経過と重なります。体温38.1℃についても、MSDはこう書いています。
ときに発熱がみられることもあり、これは脳卒中が原因で起こる場合もあれば、別の病気が原因で起こる場合もあります。 (同)
脳卒中ではない、とも、感染症だ、とも言えません。
「もともとの麻痺」が悪くなる、という気づきにくさ
すでに麻痺がある方の場合、新しい変化が「いつもの麻痺」に紛れてしまうことがあります。
今回は、最初の症状から5日が経っていました。
もともとの歩き方を知っている人だからこそ、気づける変化があります(写真はイメージです)
3. 受診の判断——リーフレットとQ助は「頭」でつながっています
総務省消防庁のリーフレット『救急車を上手に使いましょう』の高齢者ページには、「頭」という欄があり、座標を確認すると項目は3つだけです。
突然の激しい頭痛/突然の高熱/急にふらつき、立っていられない (消防庁リーフレット『救急車を上手に使いましょう』高齢者ページ「頭」欄)
頭痛・高熱・ふらつき——今回の症状と重なる言葉が、同じ欄に並んでいます。ただし、どれも「突然」「急に」の形で書かれています。今回は5日かけて進みました。「突然ではないから当てはまらない」とは読まないでください。
消防庁の「全国版救急受診アプリ(Q助)」は、症状を選ぶ前の最初の質問がこうです。
(いつもどおり)ふつうにしゃべれていますか? 声は出せていますか?
「いいえ」なら、症状を選ぶ前に「いますぐ救急車」です。
「しびれ」の項目に進むと、今回の所見と重なる設問が並びます。どれも「いますぐ救急車を呼びましょう」です。
4.足を上げてそのままにしても、下がってしまいますか? 6.頭痛がありますか? 9.「今日はいい天気です」と繰り返して言うように指示しても、ろれつが回っていないですか?〔または〕どこか異常に感じますか?
「上げることはできるが、保持できない」右脚の状態は、4番目の設問とそのまま重なります。「完全に動かない」だけが基準ではありません。
「上げられるけれど、保てない」も、いますぐ救急車の設問です(写真はイメージです)
変化に気づけるのは、いつもの姿を知っている人です(写真はイメージです)
「前より悪くなっているか」——それが、見る基準になります(写真はイメージです)

