「もともとの右脚の麻痺が、いつのまにか悪くなっていました」——5日かけて進んだ変化。傷病名は「脳梗塞の再発の疑い」でした

「もともとの右脚の麻痺が、いつのまにか悪くなっていました」——5日かけて進んだ変化。傷病名は「脳梗塞の再発の疑い」でした

60代後半の女性が、自分で119番通報しました。脳梗塞の既往があり、右脚にはもともと軽い麻痺があった方です。5日ほど前から頭痛とろれつの回らなさ、ぐるぐる回るめまいがあり、数日前から立てなくなり、もともとの麻痺が悪くなっていました。「突然」ではなく「数日かけて」進んだ変化を、現役救急救命士が一次資料の原文で解説します。

今日は、もともとの麻痺が悪くなる話をします。傷病名でいうと脳梗塞の再発——その疑いです。

この記事は、実際にうかがった事案をもとにしています。年齢は幅で、場所や日付は書きません。救急隊は診断をしません。書く傷病名は、あくまで現場で疑ったものです。

障子ごしに庭が見える静かな和室 ご本人からの通報でした(写真はイメージです)

先に、3つだけ

  • 脳卒中は「突然」だけでなく、数日かけて悪くなることがあります
  • もともと麻痺がある方は、その変化が「いつものこと」に紛れやすいです
  • 熱があっても、原因を決めつけることはできません。候補はひとつではありません

1. 傷病名——疑われたのは「脳梗塞の再発」でした

通報したのは、ご本人でした。60代後半の女性。以前に脳梗塞を起こしたことがあり、右脚にはもともと軽い麻痺が残っていました。

5日ほど前から、頭痛・ろれつが回らない・ぐるぐる回るめまいが出ていたそうです。そして数日前から立てなくなり、もともとあった右脚の麻痺が悪くなりました。

私たちが着いたときの様子です。

  • 意識は「普段どおり」(友人から聴取)
  • 構音障害(ろれつが回らない状態)あり
  • 右脚は上げることはできるが、保持できない
  • 起立困難、吐き気あり
  • 体温38.1℃、脈拍120前後の頻脈
  • 血圧155/100→119/95(普段は120前後とのこと)

三次救急に対応できる病院へお運びしました。

現場で疑ったのは脳梗塞の再発ですが、脳出血や小脳の脳梗塞、熱があったことから脳炎や感染症の可能性も残りました。1つには絞り込めません。

木のテーブルに置かれた置き時計 最初の症状から、5日が経っていました(写真はイメージです)


2. 症状のサイン——「数日かけて悪くなる」脳卒中もあります

脳卒中というと「突然」のイメージが強いと思います。でも、いつもそうとは限りません。『MSDマニュアル家庭版』の「虚血性脳卒中」に、こう書かれています。

脳卒中の約10~15%では、脳組織が壊死した領域が着実に拡大するにつれて、最大2日間損傷が発生し続け、症状が悪化し続けます。このような脳卒中は進行性脳卒中と呼ばれます。(中略)通常は、病状がいくぶん安定する期間を挟み、症状と脳組織の損傷が段階的に進行します。 (MSDマニュアル家庭版「虚血性脳卒中」)

落ち着く時間を挟みながら、段階的に進む。ただしMSDが書くのは「最大2日間」で、今回の5日とは同じではありません。「突然」だけが脳卒中の形ではない、というところまでが言えることです。

めまいと構音障害についても、同じページに記述があります。

椎骨動脈(首の後部に沿って脳に向かう動脈)から枝分かれする動脈が詰まった場合は、次のような症状が特に多くみられます。めまいと回転性めまい/両眼の複視または視力障害/体の片側または両側で全体的に筋力が低下する。ほかにも、話し方が不明瞭になるなどの発話困難や、錯乱などの意識障害、協調運動障害、尿失禁など、多くの症状が起こります。 (同)

ぐるぐる回るめまい・ろれつが回らない・体の筋力低下。今回の経過と重なります。体温38.1℃についても、MSDはこう書いています。

ときに発熱がみられることもあり、これは脳卒中が原因で起こる場合もあれば、別の病気が原因で起こる場合もあります。 (同)

脳卒中ではない、とも、感染症だ、とも言えません。

「もともとの麻痺」が悪くなる、という気づきにくさ

すでに麻痺がある方の場合、新しい変化が「いつもの麻痺」に紛れてしまうことがあります。

今回は、最初の症状から5日が経っていました。

壁に沿って続く木の手すり もともとの歩き方を知っている人だからこそ、気づける変化があります(写真はイメージです)


3. 受診の判断——リーフレットとQ助は「頭」でつながっています

総務省消防庁のリーフレット『救急車を上手に使いましょう』の高齢者ページには、「」という欄があり、座標を確認すると項目は3つだけです。

突然の激しい頭痛/突然の高熱/急にふらつき、立っていられない (消防庁リーフレット『救急車を上手に使いましょう』高齢者ページ「頭」欄)

頭痛・高熱・ふらつき——今回の症状と重なる言葉が、同じ欄に並んでいます。ただし、どれも「突然」「急に」の形で書かれています。今回は5日かけて進みました。「突然ではないから当てはまらない」とは読まないでください。

消防庁の「全国版救急受診アプリ(Q助)」は、症状を選ぶの最初の質問がこうです。

(いつもどおり)ふつうにしゃべれていますか? 声は出せていますか?

いいえ」なら、症状を選ぶ前に「いますぐ救急車」です。

「しびれ」の項目に進むと、今回の所見と重なる設問が並びます。どれも「いますぐ救急車を呼びましょう」です。

4.足を上げてそのままにしても、下がってしまいますか? 6.頭痛がありますか? 9.「今日はいい天気です」と繰り返して言うように指示しても、ろれつが回っていないですか?〔または〕どこか異常に感じますか?

「上げることはできるが、保持できない」右脚の状態は、4番目の設問とそのまま重なります。「完全に動かない」だけが基準ではありません。

窓辺の椅子と小さなテーブル 「上げられるけれど、保てない」も、いますぐ救急車の設問です(写真はイメージです)


4. 家族へ——「いつも」を知っている人にしか、気づけない変化があります

① 「いつもの様子」を、誰かが知っておいてください

後遺症のある家族がいる場合、歩き方・話し方・どこまで自分でできるかを日々見ている人にしか、「今日はいつもと違う」とは言えません。医師や救急隊は、その方の「いつも」を知りません。知っているのは、そばにいる家族です。熱があるときも同じで、原因はひとつに決まりません。「いつもの麻痺が悪化しただけ」と自己判断せず、変化として報告してください。

② 迷ったときの目安

MSD家庭版「めまい」のページには、受診が必要な「警戒すべき徴候」が挙げられています。

最近始まった、あるいは重度の頭痛/首の痛み/歩くのが難しい/意識消失(失神)/その他の神経症状(聞こえにくい、目が見えにくい、話しづらい、ものを飲み込むのが難しい、腕や脚を動かすのが難しいなど) (MSDマニュアル家庭版「めまい」)

同じページは、警戒すべき徴候がみられる人は「直ちに医療機関を受診する必要があります」と続けます。今回の頭痛・起立困難・構音障害は、この中に含まれます。MSD「虚血性脳卒中」は「最初の脳卒中から回復した人の約25%で、5年以内に別の脳卒中が起こります」とも書いています。「前と同じ症状だから」でなく「前より悪くなっているか」で見てください。

時刻の数え方はこちら、脳卒中の記事はまとめページに。迷う段階なら♯7119も。

光を通す窓辺のカーテン 変化に気づけるのは、いつもの姿を知っている人です(写真はイメージです)

この記事で書かなかったこと

  • 最終的な診断名とその後の経過——脳出血・小脳梗塞・感染症の可能性も残り、1つに断定していません
  • 「悪化から何日以内なら間に合う」という日数の基準——一次資料に見つかりませんでした
  • 一般的な脳卒中の再発率(10年単位の数字など)——原文を確認できず、書けたのは「5年以内に約25%」の数字だけです

まとめ

  • 脳卒中の約10~15%は「進行性脳卒中」で、段階的に悪化することがあります(MSD「虚血性脳卒中」)
  • 椎骨動脈が詰まると「めまいと回転性めまい」「筋力低下」「発話困難」が起こりやすいとされています
  • 発熱があっても、原因は脳卒中とは限りません
  • もともと麻痺がある方は、変化が「いつものこと」に紛れやすい。「いつもの様子」を知る家族の目が頼りです
  • 消防庁リーフの高齢者ページ「頭」欄は「突然の激しい頭痛/突然の高熱/急にふらつき、立っていられない」の3項目。Q助は最初の質問(普通にしゃべれるか)から「いいえ」で、いますぐ救急車です

緑の見える開け放たれた和室 「前より悪くなっているか」——それが、見る基準になります(写真はイメージです)

家庭に置いておきたい備え

ここから先は、記事の内容に関連して家庭に備えておける市販品を紹介しています。治療や診断の代わりになるものではありません。症状があるときは、まず医療機関にご相談ください。

まず、調べられる本を。

この記事の内容に関係する備え。

  • 体調記録ノート・介護日誌 — 「いつもの歩き方」「いつもの話し方」を1行書いておくと、変化に気づきやすくなります
  • 上腕式血圧計 — 「普段は120前後」のように、いつもの数字を知っておくことが、今日の異常に気づく手がかりになります
  • 体温計 — 熱があっても原因は決められませんが、数字を記録しておくことは、伝える情報になります

Amazonのアソシエイトとして、救急のリアルは適格販売により収入を得ています。

参考文献

⚠️ 免責事項この記事の情報は一般的な救急知識の情報提供を目的としており、医療行為や医療診断に代わるものではありません。症状がある場合は必ず医療機関を受診してください。生命の危機を感じる症状は、迷わず119番に通報してください。

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救急のリアル 編集部

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