今日は、高齢の方の転倒が「骨折だけ」で終わらないことがあるという話です。傷病名でいうと上腕骨近位端骨折(じょうわんこつ・きんいたん・こっせつ)——肩の骨折の疑い。
この記事は、実際にうかがった事案をもとにしています。年齢は幅で、場所や日付は書きません。救急隊は診断をしません。書く傷病名は、あくまで現場で疑ったものです。
学会いわく「家の中にも危険があります」(写真はイメージです)
先に、3つだけ
- 高齢の方が転んで折れる骨は4か所で、肩はその1つです
- この骨折は変形も腫れも出ないことがあり、「打ち身」に見えてしまいます
- 痛いと言っている場所だけが、けがとは限りません
1. 傷病名——疑われたのは「上腕骨近位端骨折」でした
台所から、大きな物音がしました。同居のご家族が様子を見に行くと、70代の女性が床に倒れていました。
訴えたのは、左の肩から二の腕にかけての痛みと、吐き気。意識ははっきりしていて、会話もできます。そして——左の腕には、変形も腫れも出血もありませんでした。
上腕骨は肩からひじまでをつなぐ二の腕の骨。その肩に近いほうの端が折れたものです。日本整形外傷学会の解説には、こうあります。
高齢者では転倒などの軽い外力で生じることが多く、大腿骨近位部骨折(股関節)、橈骨遠位端骨折(手関節)、脊椎圧迫骨折と並んで高齢者に多い骨折の一つです。
つまり、この4つ。
ほかの3つに比べ、肩はあまり知られていません。MSDマニュアル家庭版は「通常、上腕の骨折は、転倒した際に腕を伸ばしたままつくことで発生します。」と書いています。手をついた勢いが、手首ではなく肩まで届くのです。
畳のへり、敷居、カーペットの端(写真はイメージです)
2. 症状のサイン
MSDマニュアル家庭版が挙げる症状は3つです。
肩と上腕に痛みと腫れが起こります。患者は腕を容易に上げることができなくなります。
これに「神経が損傷して、上腕にしびれが生じることがあります。」が続きます。つまり——肩から二の腕の痛みと腫れ/腕が上がらない/二の腕のしびれ。
なぜ「打ち身」に見えてしまうのか
同じ資料に、こうあります。
折れた骨片がその場にとどまったり骨片どうしが近くにあることが多いため、自然に治る傾向があります。
骨は折れていても、大きくずれない。つまり見た目が崩れません。この事案がまさにそうでした。
手首なら腫れて形が変わるので気づきます。けれど肩は、服を着ていれば外から分かりません。「痛がるけれど、形はふつう」——これで「打ち身」と判断され、数日そのままになります。
そのまま、数日が過ぎていきます(写真はイメージです)
3. 避けるには・受診の判断
痛いと言っている場所だけが、けがとは限りません
この事案には、続きがあります。右の呼吸音が、弱くなっていました。そして血液中の酸素の値が低く、酸素を投与すると数値が上がりました。痛いのは左の肩だけ。それでも胸の側に何かが起きていることを示す所見です。さらに首はネックカラーで固定——後頸部の痛みは訴えていないのに、です。
重症度は「緊急」、運ばれた先は三次救急。肩の痛みだけを訴えた人が、です。
MSDマニュアル家庭版が挙げる「救急車で受診すべき場合」に、これがあります。
複数のけがを負っている。
転倒は、一か所で終わらないことがあります。
同じ資料は骨折全般について「骨折したかもしれないと思った場合は、救急医療機関を受診してください。」とも書いています。「様子を見る」という選択肢がありません。救急車で受診すべき場合には「けがをした体の部位を動かせない場合」も挙がっていて、転んで腕が上がらないならそのまま当てはまります。
骨はつくのに、肩は固まる
「自然に治る傾向がある」なら放っておいてもいいのでは、と思うかもしれません。日本整形外傷学会は「適切な治療を行わないと肩関節の機能障害(動きの制限)が残ります。」と書いています。骨がつくことと、肩が動くことは別です。髪を洗う、服を着る、棚の物を取る。それができないと生活が変わります。
家の中の備えについて、日本整形外科学会はこう書いています。
高齢者の場合は家の中にも危険があります。手すり、滑りにくい靴下、ポータブルトイレなどが有用です。
足元は、いちばん手を入れやすい場所です(写真はイメージです)
ここで転んで、ここで様子を見てしまいます(写真はイメージです)
「腕、上がる?」——それだけで十分です(写真はイメージです)

