「重症」から「軽症」に変わりました——傷病名は「めまい」。記録に残っているのは、それだけです

「重症」から「軽症」に変わりました——傷病名は「めまい」。記録に残っているのは、それだけです

記録に残っていたのは、初診時の傷病名が「めまい」だったこと、重症度判定が「重症→軽症(帰宅)」に変わったこと、運んだ先が地域の基幹病院だったこと、この3つだけです。年齢も経過もわかりません。総務省消防庁『令和7年版 救急・救助の現況』は、傷病程度の5区分を「入院加療の必要程度」で決めると説明しています。現役救急救命士が一次資料の原文で解説します。

今日は、「重症度」という言葉の話をします。

この記事は、実際にうかがった事案をもとにしています。場所や日付は書きません。救急隊は診断をしません。手元の記録は3つだけ。わからないことは、わからないまま書きます。

窓のある静かな部屋の角 記録に残っているのは、傷病名と重症度判定だけです(写真はイメージです)

先に、3つだけ

  • 記録にあるのは「めまい」「重症→軽症(帰宅)」「地域の基幹病院」の3つだけです
  • 「重症」「軽症」は現場の感覚ではなく、病院の初診時の医師の診断で決まる区分です
  • 同じ「めまい」でも、Q助は答え方で行き先が「いますぐ救急車」から「緊急ではないが受診」まで分かれます

1. 傷病名——記録にあるのは「めまい」と「重症→軽症」だけです

この事案の記録に残っているのは、初診時の傷病名が「めまい」だったこと、重症度判定が「重症→軽症(帰宅)」だったこと、運ばれた先が地域の基幹病院だったこと、この3つだけです。年齢も性別も経過も、私たちの手元にはわかりません。わかっているかのように書くことはしません。

はっきりしているのは、「重症」と「軽症」が同じ記録に両方残っていることです。そのあいだを想像で埋めず、「重症度」という言葉そのものが何を指すのかを確かめます。

机の上の白紙のノート 「重症」と「軽症」、両方の言葉が同じ記録に残っています(写真はイメージです)

2. 「重症度」とは何を測っているのか

総務省消防庁『令和7年版 救急・救助の現況』によると、令和6年中の搬送人員676万9,172人のうち、最も多かったのは軽症(外来診療)317万1,350人(46.8%)でした。この傷病程度の定義が、同じ資料の第25表の注にあります。

傷病程度とは、救急隊が傷病者を医療機関に搬送し、初診時における医師の診断に基づき、次の5種類に分類している。 (1) 死亡:初診時において死亡が確認されたもの (2) 重症(長期入院):傷病程度が3週間以上の入院加療を必要とするもの (3) 中等症(入院診療):傷病程度が重症又は軽症以外のもの (4) 軽症(外来診療):傷病程度が入院加療を必要としないもの (5) その他:医師の診断がないもの及び傷病程度が判明しないもの、並びにその他の場所に搬送したもの (総務省消防庁『令和7年版 救急・救助の現況』p.22)

現場で「緊急」と判断して運んでも、記録に残る区分を最終的に決めるのは病院の初診時における医師の診断です。基準は「今どれだけ苦しそうか」ではなく「入院での治療が必要だったかどうか」です。同じ注に、続きがあります。

なお、傷病程度は入院加療の必要程度を基準に区分しているため、軽症の中には早期に病院での治療が必要だったものや、通院による治療が必要だったものも含まれる。 (同)

「軽症だから大したことはなかった」という意味ではありません。入院が要るかどうかは、検査や経過を見てはじめて決まります。運ばれた時点の重さの印象と、記録に残る区分は、同じものさしで測られていないのです。

3. 受診の判断——同じ「めまい」から、行き先が分かれます

めまいの原因について、『MSDマニュアル家庭版』は幅の広さをこう書いています。

重篤な病気が原因で起きる割合はわずかです。 (MSDマニュアル家庭版「めまい」)

危険性の低い原因から入院が必要になりうる原因まで、同じ「めまい」の中に幅があるということです。個々の見分け方は今回は扱いません。

消防庁の「全国版救急受診アプリ(Q助)」で「めまい・ふらつき」を選ぶと12個の項目が出て、「動けませんか?」「吐き気がありますか?」「胸の痛みがありますか?」などどれか1つでも当てはまれば「いますぐ救急車を呼びましょう」です。

ここから先は、あまり知られていません。12項目のどれにも当てはまらないと、画面はもう一段進みます。次に聞かれるのは「ここ2日以内に、けがをしましたか?」「糖尿病と言われたことがありますか?」「発熱(38℃以上)はありますか?」「耳が聞こえにくいですか?」の4つです。

ここで1つでも当てはまった人は、そのあと「高齢者(65歳以上)ですか?」「歩くことができない状態ですか?」と聞かれ、どちらかに当てはまれば「いますぐ救急車を呼びましょう」に戻ります。当てはまらなければ「2時間をめやす」です。

4つのどれにも当てはまらなかった人だけが、同じ年齢と歩行の質問で「2時間をめやす」か「緊急ではありませんが医療機関を受診しましょう」に分かれます。同じ「めまい」という入口から、答え方次第で行き先が変わる——今回の記録と同じ形です。

なお、消防庁の冊子『救急車を上手に使いましょう』に「めまい」という語は出てきません。近いのは「ふらつき」ですが、全9ページで1回だけ、高齢者のページの「頭」の欄に「急にふらつき、立っていられない」とあるだけです。おとなのページには、この項目はありません。

窓辺に並ぶ椅子 運ばれた先で、区分は最終的に決まります(写真はイメージです)

4. 家族へ——「軽症でした」と言われたときに

① 「軽症」は「呼ばなくてよかった」ではありません

消防庁が自分で書いているとおり、軽症の中には早期に病院での治療が必要だったものも含まれます。「軽症」はあとから振り返ってつく区分であって、呼んだ時点の判断が間違っていたという意味ではありません。逆に「前は軽症だったから」と様子見する理由にもなりません。そのつどの状態で判断するものです。

玄関に置かれた靴 「軽症でした」は、判断が間違っていたという意味ではありません(写真はイメージです)

② 帰宅したあと、見ておくところ

『MSDマニュアル家庭版』は、めまいで医療機関を受診するタイミングについて、こう書いています。

警戒すべき徴候がみられる人や、症状が重いか1時間以上続く人、嘔吐がみられる人は、直ちに医療機関を受診する必要があります。(中略)短時間(1分未満)の軽いめまいが1回だけあり、他の症状がない場合は、再度めまいが出るかどうか様子を見ることも選択できます。 (MSDマニュアル家庭版「めまい」)

「軽症でした」と言われたあとも、この線引きは生きています。また出るか、長く続くか、吐き気を伴うか——そこが見どころです。

光が差し込む廊下 同じ入口から入っても、行き先は分かれます(写真はイメージです)

③ 記録には残らなくても、伝えることはできます

今回のように経過が記録に残らない事案もあります。それでも、家族が見た「いつから」「どんな感じだったか」は次の手がかりになります。覚えている範囲で書き残しておいてください。

同じ「めまい」で心臓が疑われた事案はこちらに、9月のめまいが熱中症だった事案はこちらに。「軽症」という区分は狭心症の疑いの事案でも触れました。迷う段階なら♯7119もあります。

灯りのともる窓 帰ってきたあとの様子を、見ていてください(写真はイメージです)

この記事で書かなかったこと

  • 年齢・性別・症状が始まってからの経過——記録に残っていません
  • 重症度判定がなぜ「重症」から「軽症」に変わったのか、その途中の経緯——想像で埋めることはしません
  • 候補に挙がる病気それぞれの見分け方——別の一次資料が必要なため扱いません

まとめ

  • 記録に残っているのは傷病名「めまい」、重症度判定「重症→軽症(帰宅)」、収容先が地域の基幹病院、この3つだけです
  • 消防庁の傷病程度は「入院加療の必要程度」を基準に区分され、初診時における医師の診断で決まります。現場の緊急性の印象とは同じものさしではありません
  • 令和6年中の搬送人員676万9,172人のうち、軽症(外来診療)は317万1,350人(46.8%)で最多でした
  • Q助の「めまい・ふらつき」は答え方次第で「いますぐ救急車」「2時間をめやす」「緊急ではないが受診」の3通りに分かれます。けが・糖尿病・発熱・耳の症状がある人は、年齢や歩行の答え次第で「いますぐ救急車」に戻ります
  • 「軽症」は「呼ばなくてよかった」という意味ではありません。帰宅後も症状の長さや嘔吐の有無を見ておく理由になります

家庭に置いておきたい備え

ここから先は、記事の内容に関連して家庭に備えておける市販品を紹介しています。治療や診断の代わりになるものではありません。症状があるときは、まず医療機関にご相談ください。

まず、調べられる本を。

この記事の内容に関係する備え。

  • 体調記録ノート — 「いつから」「どんな感じだったか」を、その場で書き残しておくためのものです
  • 血圧計 — めまいの原因には血圧に関わるものも含まれます。ふだんの数字を知っておく道具です
  • 家庭の医学書(検索) — 気になる症状から調べられる一冊を、手の届くところに

Amazonのアソシエイトとして、救急のリアルは適格販売により収入を得ています。

参考文献

⚠️ 免責事項この記事の情報は一般的な救急知識の情報提供を目的としており、医療行為や医療診断に代わるものではありません。症状がある場合は必ず医療機関を受診してください。生命の危機を感じる症状は、迷わず119番に通報してください。

関連記事

足の付け根のふくらみが、戻らなくなったとき——傷病名は「鼠径ヘルニア」。記録に残っているのは、それだけです
事案から学ぶ

足の付け根のふくらみが、戻らなくなったとき——傷病名は「鼠径ヘルニア」。記録に残っているのは、それだけです

続きを読む →
「この夏も、消化器の入院をしたばかりでした」——それでも、みぞおちの痛みを持病のせいと決めなかった理由。傷病名は、ひとつに絞られませんでした
事案から学ぶ

「この夏も、消化器の入院をしたばかりでした」——それでも、みぞおちの痛みを持病のせいと決めなかった理由。傷病名は、ひとつに絞られませんでした

続きを読む →
最後に会ったのは、前の日の夕方でした——朝、部屋を見に行くと、もう息をしていませんでした。記録に残る傷病名は「心肺停止」でした
事案から学ぶ

最後に会ったのは、前の日の夕方でした——朝、部屋を見に行くと、もう息をしていませんでした。記録に残る傷病名は「心肺停止」でした

続きを読む →

記事内容に誤りを発見された場合はこちらからご連絡ください(訂正依頼を選択してください)

🚑

救急のリアル 編集部

現役救命士(匿名)|救急歴20年以上

患者さんとご家族のプライバシーを守るため匿名で運営しています。 内容の正確性については、現役救命士として責任をもってお伝えします。

このブログについて →