今日は、軽症で帰された頭痛の話をします。確定診断は、そのまま「頭痛」でした。
この記事は、実際にうかがった事案をもとにしています。年齢は幅で、場所や日付は書きません。救急隊は診断をしません。
前の晩から、朝まで待った方の話です(写真はイメージです)
先に、3つだけ
- 日本頭痛学会は「手足の麻痺やしびれを伴う」頭痛を「至急」の側に置いています
- Q助は同じ症状でも「入口」で答えが割れます。頭痛から入れば救急車、手や腕から入れば様子見
- 確定診断が「頭痛」で終わるのは、統計上いちばん多い結末です
1. 傷病名——確定診断は「頭痛」でした
30代の男性。前の晩、家で横になっていたときに右の側頭部の痛みと右の前腕のしびれが突然はじまりました。吐き気もあり、同じ症状は初めてです。様子を見たけれど良くならず、翌朝、119番されました。
私たちが着いたときは意識清明、自分で歩けます。手足の麻痺はなく、両手を握ってもらっても左右差なし。瞳孔にも異常なし。残っていたのは右側頭部の痛み(出たり治まったり)と、右前腕のしびれでした。持病に糖尿病があります。
救急隊の判定は「準緊急」。三次救急のできる病院へお運びし、軽症・帰宅、確定診断は「頭痛」です。
何が疑われていたのか
頭痛と片側のしびれが同時に出れば、まず脳梗塞と、その前ぶれのTIA(一過性脳虚血発作)を考えます。ほかに片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛、首から来るしびれ——候補は複数あります。
これは「どれでもなかった」という話ではありません。「どれかを確かめるために病院へ行った」という話です。
確かめるための場所へ運ぶ。それが救急隊の仕事です(写真はイメージです)
2. 症状のサイン——学会が「至急」と書く条件に、当てはまっていました
日本頭痛学会の一般向けページに、こうあります。
急におこった頭痛で、これまでに経験がないひどい頭痛、突発して短時間でピークに達するような頭痛、熱がある、手足の麻痺やしびれを伴うような場合には至急、脳神経外科または脳神経内科を受診して正確な診断を受ける必要があります。 (日本頭痛学会「頭痛がおこったら」)
「手足の麻痺やしびれを伴う」。この方の症状そのものです。
消防庁の冊子『救急車を上手に使いましょう』も"おとな"のページに、頭の欄「● 突然の激しい頭痛」、手足の欄「● 突然のしびれ」と両方を載せています。どちらも「ためらわず救急車を呼んでほしい症状」。この方は、国と学会の基準どおりに行動されました。
一方で、片頭痛でもしびれは出ます
同じ日本頭痛学会の、片頭痛のページです。
前兆症状は,(中略)視覚性の症状が最も多く(90%以上),ほかにもチクチク感や感覚が鈍くなる感覚症状,言葉が出にくくなる言語症状などがあります。(中略)通常は,前兆が5~60分続いた後に頭痛が始まります。 (日本頭痛学会「片頭痛」)
しびれは、片頭痛の前兆としても起こります。同じ学会の資料が、危険な側とそうでないかもしれない側の両方を書いている。見ただけでは決められません。
横になって様子を見た一晩が、いちばん判断の難しい時間です(写真はイメージです)
3. 受診の判断——Q助は「入口」で答えが割れます
消防庁の「全国版救急受診アプリ(Q助)」の全274画面で、この方の症状を追ってみました。
「頭痛」を選ぶと12項目が並び、そのすべてが単独で「いますぐ救急車を呼びましょう」になります。6番目がこれです。
6.手足がしびれたり、力が入らなかったりしますか?
「しびれ」を選んでも同じく12項目すべてが「いますぐ救急車」。6番は「頭痛がありますか?」、12番は「しびれは突然始まりましたか?」。
ところが——「手や腕の問題」を選ぶと、結果が変わります。
このツリーはまるごと外傷専用でした。指がちぎれそう、変形、骨が見える、出血、指輪、爪。「しびれ」という語が一度も出てきません。唯一の分かれ道「手が思うように動かせませんか?」も、麻痺がなければ「いいえ」。進んだ先の結果はこうです。
引き続き、注意して様子をみてください
同じ人が、選ぶ入口によって「いますぐ救急車」と「様子をみる」に割れます。
分かれ目は症状を「頭の問題」と捉えるか「腕の問題」と捉えるかだけ。腕がしびれているのだから腕を選ぶ——自然な操作ですが、そちらは外傷用の道でした。
迷ったら、頭痛かしびれから入ってください。
入口の選び方ひとつで、出てくる答えが変わります(写真はイメージです)
4. 家族へ
① TIAは「2〜15分」で消えます
『救急蘇生法の指針2025』です。
脳梗塞や脳出血では、手足(多くは左右どちらか)に力が入らない、しびれる、(中略)などの症状が急に現れます。脳梗塞の前ぶれとして、このような症状が一時的(多くは2~15分間)に出現することもあり、これを一過性脳虚血発作といいます。この段階で気がついてただちに病院を受診することができれば、脳梗塞への進展を防げることがあります。 (『救急蘇生法の指針2025(市民用)』p.14)
消えたから治った、ではありません。『MSDマニュアル家庭版』は「そのような脳卒中のリスクは、TIAの発生後24~48時間で最も高くなります」としています。消えた直後の1〜2日が、いちばん危ない。
② しびれは、脳だけの話ではありません
国立長寿医療研究センターは「しびれの原因で最も多いのは(中略)末梢神経の部位での障害」「どこがどのようにしびれているかでどこに異常があるか、ある程度見当がつく」としています(健康長寿ナビ「しびれの原因は?」)。糖尿病の公的サイトも、こうです。
神経の障害は、糖尿病以外の病気(例えば、脊柱管狭窄症や頸椎症・腰椎症、脳梗塞など)でも生じるため、糖尿病以外の病気による症状でないことを確認することもあります。 (国立国際医療研究センター 糖尿病情報センター「神経障害」)
持病があると「またこれか」と思いがちですが、病院はその逆を確かめています。
③ 確定診断が「頭痛」は、いちばん多い結末です
『令和7年版 救急救助の現況』で、急病の搬送は初診時の医師の診断名で10に分類されます。確定診断が「頭痛」のように症状名で終わったものは「症状・徴候・診断名不明確の状態」に入り、令和6年の急病455万7,993人のうち195万1,752人(42.8%/当方計算)=10分類で最大です。
「結局、頭痛と言われただけでした」は、珍しい結果ではありません。むしろいちばん多い終わり方です。呼んだあと「軽症だった」となっても、それは呼ばなくてよかったという意味ではありません。迷う段階なら♯7119もあります。
「確かめに行った」——それが正しい使い方です(写真はイメージです)
一晩待ってから、朝に呼ぶ。その判断自体は責められません(写真はイメージです)

