ある夏の夕方のことです。地方都市で暮らす60代の女性が、夕食の支度をしていたときに突然、頭に「バキッ」という衝撃を感じ、その瞬間から猛烈な頭痛に襲われました。
本人はこう言いました。「頭痛持ちだから、薬を飲んで横になれば大丈夫」。
でも、そばにいた家族は気づいていました。いつもの頭痛と、何かが違うことに。
「このままにしていていいの?」という不安から、家族が119番に電話しました。
「今まで経験したことのない頭痛」——それは命に関わるサインかもしれません
この記事では、くも膜下出血という病気と、その頭痛の見分け方を、家族の目線でお伝えします。
くも膜下出血とは
脳は3枚の膜(硬膜・くも膜・軟膜)に覆われています。くも膜下出血とは、脳の表面を覆う「くも膜」と「軟膜」の間の空間(くも膜下腔)に血液が流れ込む病気です。
最も多い原因は脳動脈瘤の破裂です。脳の血管の一部が風船のように膨らんだ「動脈瘤」が破裂すると、大量の血液がくも膜下腔に一気に広がります。この圧力と出血が、脳に深刻なダメージを与えます(国立循環器病研究センター)。
くも膜の下に血液が広がることで、脳が強いダメージを受けます
くも膜下出血は脳卒中の一種ですが、脳梗塞(血管が詰まる)やTIA(一過性脳虚血発作)とは、原因も対処法も異なります。
脳梗塞は「血管の詰まり」なのに対し、くも膜下出血は「血管の破れ」です。脳梗塞に使われる血栓溶解薬は、くも膜下出血には使えません。出血性の脳卒中には、外科的な処置や血管内治療が必要です。
脳動脈瘤は、破裂するまで無症状のことが多い
「いつもの頭痛」と「くも膜下出血の頭痛」の違い
頭痛持ちの方も、頭痛と縁のない方も、知っておいてほしいことがあります。
くも膜下出血の頭痛には、他の頭痛とはっきり異なる特徴があります。
突然の猛烈な頭痛——偏頭痛とはまったく別物です
「雷鳴様頭痛」と呼ばれる理由
くも膜下出血の頭痛は**雷鳴様頭痛(thunderclap headache)**と呼ばれます。その名のとおり、雷が落ちたような激しさで、突然始まる頭痛です。
日本脳卒中学会は、「今まで経験したことのない激しい頭痛」をくも膜下出血の典型的な訴えとして挙げています。
特徴は3つです。
① 突然——前触れなく始まる
徐々に強くなるのではなく、「ある瞬間」から猛烈な痛みが始まります。くしゃみ・咳・力み・重い物を持ち上げる動作などがきっかけになることがあります。「支度していただけなのに」「椅子に座っていただけなのに」という状況で起きることが多い。
② 激しい——「今まで経験したことのない」強さ
偏頭痛がひどい方でも「これは違う」と感じるほどの強さです。「人生で一番痛い頭痛」「こんな頭痛は初めて」という表現が典型的です。
③ 瞬時にピーク——数秒〜数分で最大の痛み
偏頭痛は数分〜数時間かけて徐々に強くなりますが、くも膜下出血の頭痛は発症のその瞬間から最大の痛みが来ます。「一瞬で頭が爆発するようだった」という訴えが多い。
「いつもの頭痛と違う」という本人・家族の直感は、非常に重要なサインです。
一緒に起きることが多い症状
頭痛だけでなく、次のような症状が伴う場合は、すぐに119番通報してください。
頭痛と同時に嘔吐することが多い
① 嘔吐・吐き気
突然の激しい頭痛と同時に、嘔吐することがよくあります。「頭が痛くて吐いた」は緊急のサインです。
② 意識を失う(気を失う)
発症と同時に意識を失い、倒れることがあります。「突然倒れた」「呼びかけに応えなくなった」という目撃がある場合は、強く疑ってください。
③ 首の後ろが固くなる(項部硬直)
出血が広がるにつれ、首の後ろの筋肉が硬直することがあります。「首を前に曲げると痛い」「うつむけない」といった訴えが出てきます。発症直後よりも、少し後に現れることが多い症状です。
④ 光がまぶしい(羞明)
明るい光を見ると頭痛が増すような感覚が出ることがあります。カーテンを閉めたがる、目を細める、などのサインに気づいたら注意してください。
⑤ 手足の麻痺・しゃべりにくさ(ACT FASTの症状)
脳卒中の見分け方として知られる「ACT FAST」——顔のゆがみ(Face)・腕の脱力(Arms)・言葉のもつれ(Speech)の症状が出ることもあります(日本脳卒中協会)。これらがあれば、さらに急ぎで119番が必要です。
上記のいずれかが1つでも見られたら、「頭痛薬を飲んで様子を見る」は大変危険です。
頭痛薬で痛みが和らいでも、脳内の出血状態は変わりません
「今まで経験したことのない頭痛」は、119番へ
高血圧はくも膜下出血の主なリスク因子のひとつです
「いつもと違う」という家族の直感が、命を救うことがあります
「おかしい」と感じた瞬間が、119番を押す瞬間です

