救急車の中で、隊員が胸に何かを貼っている。そんな場面を見たことがあるかもしれません。今日は、救急車の中で心電図(12誘導心電図)をとるとき、とらないときの話をします。
この記事は、特定のどなたかの事案の話ではありません。消防庁の通知の原文をもとにまとめました。
救急車は、この道を通って来ます(写真はイメージです)
先に、3つだけ
- 心電図をとるかどうかは、決まった条件で動いています。通知は、症状と、モニターの変化や持病などを組み合わせて対象を示しています
- とらないことが正しい場面があります。通知は「搬送を優先してよい」「実施する必要はない」と書いています。とられなかった=手抜き、ではありません
- どちらの通知も「助言」で、全国一律ではありません。地域の実情に応じて決めることになっています。家族にできるのは、症状を正確に伝えることです
1. 車内で、搬送を遅らせずに
消防庁は、令和6年3月28日の通知(消防救第103号)で、日本循環器学会と日本臨床救急医学会の提案を情報提供しています。通知は、これを「救急業務において既に12誘導心電図の測定ができる場合」のものとしています。つまり、心電図を測れる体制がある救急隊の話です。
基本の考え方は、2行だけです。
状況によって処置の実施よりも迅速な搬送を優先する。 搬送遅延が生じないように基本的に車内で測定する。 (消防庁「12誘導心電図の測定プロトコルについて(通知)」別添1)
車内で、搬送を遅らせない範囲で測る、ということです。
なぜ測るのか。令和2年の通知(消防救第83号)に、その理由が書かれています。
12誘導心電図については、モニター心電図よりも高い感度・特異度で心電図の異常を検出することができ (消防庁「救急隊における観察・処置等について(通知)」)
同じ通知は、導入の論点として「迅速・的確に状態を把握する」ことと「適切な医療機関を選定できること」を挙げています。状態を早くつかむことと、行き先を選ぶこと。この2つが目的です。測った結果は、傷病者の状況や観察所見とともに、搬送先の医師やオンラインMCに「報告あるいは伝送する」と、令和6年の通知(※6)にあります。
測定は、基本的に走る車の中で行われます(写真はイメージです)
2. とる対象——症状と、もう一つの条件
令和6年の通知は、対象を「心疾患を疑う、もしくはその可能性を否定できない者」のうち、次の2つを「ともに」満たす人としています。
① 次の症状のいずれか1つ以上
- 上半身(下顎〜胸部〜心窩部・肩・背部)の疼痛、不快感
- 冷汗
- 呼吸困難
② 次のいずれか1つ以上
- 心電図モニター(三点誘導)で、ST-T変化、QRS幅の広い頻脈、高度の徐脈(40/分未満)、多発する心室期外収縮のいずれかが出る
- 既往に狭心症か心筋梗塞がある、もしくは硝酸薬(舌下錠・スプレー・テープ等を含む)の処方を受けている
- 119番通報前後の意識消失
(心窩部は、みぞおちのあたりです。①②の用語は通知に出てくる言葉です。)
注目したいのは、②です。症状だけではなく、モニターの変化、持病・処方薬、通報前後の意識消失のどれかが加わって、対象になります。家族が知っていることが条件になります。
さらに、通知はこう添えています。
測定対象を広げることが可能な地域では、「または、危険因子(高血圧・糖尿病・脂質異常症・喫煙)がある。」を加えることを考慮する。 (同・※3)
令和2年の通知の別表2「12誘導心電図を測定することが望ましい対象」でも、必須と考えられるものは「胸痛・圧迫感を含む胸部違和感」「心窩部痛」「上半身に関連する疼痛(額から心窩部まで)」などです。
3. とらない場面、とれない場面
ここが、この記事でいちばん伝えたいところです。令和6年の通知には、とらなくてよい場面が書かれています。
心停止が切迫している状況、ショック、アナフィラキシーなど、心疾患よりも他の病態・疾病への対応が優先される状況や容態急変が想定される状況では本処置を実施する必要はない。 (同・※2)
本処置にいたずらに時間を費やさないように留意し、速やかな測定が困難と判断した場合は搬送を優先してよい。 (同・※1)
アーチファクトなどにより適切に測定できない場合などは搬送を優先してよい。 (同・※5)
(アーチファクトは、体の動きなどで波形が乱れることを指します。通知に定義は書かれていないので、これは私の言い換えです。)
急いで病院へ向かうことが、心電図より大事な場面があります。車内で測らなかったとしても、通知に沿った判断である場合があります。「とってもらえなかった」と責める必要も、「とってほしい」と求める必要もありません。
この処置は「特定行為ではないが必要に応じ医師の指示・助言を得ること」(※1)とされています。
そして最後に、もっと大きな前提があります。測れるかどうか自体が、地域で違います。
令和2年の通知は、測定の導入について、次のように求めています。
地域における心臓病治療・受入れ体制の整備状況、12誘導心電計及び伝送装置の導入に係るコスト等とのバランスを勘案し、地域の実情に応じた検討をお願いする (消防庁「救急隊における観察・処置等について(通知)」)
どちらの通知も、消防組織法第37条に基づく「助言」として出されたものです。令和6年の通知も「地域の実情に応じてプロトコル改定等を検討いただくようお願いします」と結んでいます。住んでいる地域の救急隊が、この通りに動いているとは限りません。
条件は、症状だけでは決まりません(写真はイメージです)
急いで病院へ向かうことが、心電図より大事な場面があります(写真はイメージです)
持病と薬は、書いておくとそのまま伝えられます(写真はイメージです)

