傷病名は「脱水」でした——皮膚のハリは良好でした。それでも、朝からのだるさは夕方に「体が動かない」になりました

傷病名は「脱水」でした——皮膚のハリは良好でした。それでも、朝からのだるさは夕方に「体が動かない」になりました

朝から全身がだるく、夕方から体が動かなくなった80代前半の男性。救急隊が皮膚の張りを調べると、結果は「良好」でした。それでも診断は脱水。MSDマニュアルは、高齢者は自分が脱水に気づかない場合があること、医療者向けには皮膚ツルゴールは高齢者では体液量にかかわらず低下している場合があることを書いています。現役救急救命士が一次資料の原文で解説します。

今日は10月2日。朝晩は涼しくなり、「脱水は夏の話」と思いたくなる頃です。今日は、高齢者の脱水は、見た目では分からないという話をします。

この記事は、実際にうかがった事案をもとにしています。年齢は幅で、場所や日付は書きません。救急隊は診断をしません。書く傷病名は、搬送先の診断名です。

障子から光が入る和室 朝から、だるさが続いていました(写真はイメージです)

先に、3つだけ

  • 高齢者は、自分が脱水であることに気づかない場合があります
  • 皮膚のハリが良好でも、脱水は否定できません
  • 見るのは皮膚ではなく、「いつもと違う」かどうかです

1. 傷病名——記録された診断名は「脱水」でした

通報したのは娘さんです。内容はこうでした。

83歳男性。脱水の様で体に力が入らず動けない。体重が80kg近くある。糖尿病、高血圧で●●●に掛かり付け。

80代前半の男性。高血圧と糖尿病があります。当日の朝から全身のだるさが続き、夕方から体が動かなくなりました。

居間でお会いしたときの様子です。

  • 横になっていて、会話に少し混乱がある(JCS 2、GCS 14)。ただし記録には意識レベルは普段どおりであると家族から聴取とある
  • 尿失禁あり。顔は赤く、全身に熱感。体温37.6℃
  • 呼吸24回、脈95回、血圧168/94、SpO2 98%。肺の音は正常、頭痛も腹痛もなし
  • 皮膚をつまんで戻りを見る検査(ツルゴール反応)は「良好」

家族によると普段の収縮期血圧(上の血圧)は150程度でした。かかりつけの病院が受け入れ、搬送。結果は軽症で帰宅、診断名は脱水でした。

窓辺に置かれたソファ 夕方、動けなくなったのは居間でした(写真はイメージです)


2. 症状のサイン——のどの渇きも、皮膚のハリも、当てになりません

本人が気づかないことがある

『MSDマニュアル家庭版』の「脱水」は、こう書いています。

脱水は特に高齢者によくみられます。口渇中枢が、若い人のように正常に機能しないからです。そのため、高齢者は自分が脱水状態であることに気づかない場合があります。

重度の脱水になると、のどの渇きが逆に減少することがあり、血圧が下がって、ふらつきや失神が特に立ち上がるときによく起こります(起立性低血圧と呼ばれる状態)。

ひどくなるほど、のどが渇かなくなることがある。「水が飲みたいと言わないから大丈夫」とは言えません。

皮膚のハリ(ツルゴール)も、決め手にならない

家庭版は、軽度から中等度の症状に「皮膚の弾力性の低下」を挙げています。ところが医療者向けの『MSDマニュアル プロフェッショナル版』「体液量減少」には、こうあります。

皮膚ツルゴールの低下が唯一の徴候となりうる(体幹上部での評価が最良);皮膚ツルゴールは,高齢患者では体液量の状態にかかわらず低下している場合があることに注意する。

皮膚のハリが落ちていても、体の水分の量と対応しているとは限らない。そう書かれています。今回は「良好」でしたが、良好でも、低下でも、それだけでは決められないという考え方に沿った1例です。

これは医療者が診察で使う道具の話です。ご家庭で皮膚をつまんで確かめる必要はありません。つまんでも、分からないからです。

急須と湯呑み のどが渇かないことは、飲まなくていい理由にはなりません(写真はイメージです)

「涼しくなったから」ではありません

家庭版が脱水の原因に挙げるのは、嘔吐、下痢、大量発汗、熱傷、腎不全、利尿薬などで、暑さは一例です。さらにこうあります。

糖尿病、バソプレシン分泌低下症、アジソン病は、尿の排出量を増加させ、脱水を引き起こします。

この方の糖尿病と脱水の関係は、記録にありません。「10月だから増える」と言える公的な資料は、私は持っていません。言えるのは、涼しくなっても起きることです。


3. 受診の判断——Q助に「脱水」の入口はありません

消防庁の「全国版救急受診アプリ(Q助)」は、症状を選ぶ前に4つの質問をします。最後の質問はこれです。

しっかりと受け答えが出来ますか?

「いいえ」なら「意識がおかしい」の画面へ進みます。今回、家族は意識を「普段どおり」と話していました。普段を知っている家族の目で答える質問です。

症状の一覧(大人は43項目)に、「脱水」も「だるい」もありません。脱水を拾うのは「意識がおかしい」の側です。その2画面目には、こう並んでいます。

2.尿の量が減ったり、尿の色が濃くなったりしていますか? 3.皮膚や唇が乾いていますか? 4.喉(のど)がとても渇きますか? 5.立ちくらみが起きましたか?

どれか1つ当てはまると、次の画面で「高齢者(65歳以上)ですか?」と聞かれ、はいなら「いますぐ救急車を呼びましょう」です。「意識がおかしい」では、「糖尿病がありますか?」の1つだけで「いますぐ救急車」。「発熱」では、最初の質問が「起き上がることができないですか?」です。

Q助に、皮膚をつまむ質問はありません(「つまむ」「弾力」「ツルゴール」は0件)。尿、唇、のどの渇き、立ちくらみ——家族の目で答えられることばかりです。

消防庁のリーフレットの高齢者のページには「高齢者は自覚症状が出にくい場合もありますので注意しましょう。」とあります。ただしおとな・高齢者のページに、「脱水」「水分」という語はありません。


4. 家族へ——「いつもと違う」を、普段の値と一緒に覚えておく

① のどが渇かなくても、飲む時間を決める

MSD家庭版は予防として「成人は1日に少なくともグラス6杯の水分を摂る必要があります(果物や野菜など水気の多い食物から得られる水分も含む)」と書いています。のどの渇きを当てにできないなら、時間で決めるほうが確実です。ただし心臓や腎臓に病気がある方は、量を主治医と決めてください。

② 「普段」を言えるようにしておく

今回の報告書に「普段」が残ったのは、家族が答えられたからです。普段の血圧、普段のトイレの回数など、ノートに1行ずつ残しておくと役に立ちます。

③ 伝えるのは、この3つです

いつからか(朝から、夕方から)、持病とかかりつけ、普段との違い。この方の通報には、持病とかかりつけがすでに入っていました。

④ 運ぶのにも、人手が要ります

通報で「体重が80kg近くある」と伝えられ、体重があるため増強救急指令となり、ポンプ隊が支援出動しました。体格を伝えておくことは、むだになりません。

「軽症で帰宅」は、「たいしたことなかった」という意味ではありません。朝のだるさが夕方に動けない状態になるまで、見分けるのは難しかった。それが脱水でした。誰かを責める話ではありません。

病室のベッド 「軽症」だったと分かるのは、調べたあとです(写真はイメージです)

関連記事です。夏の側は熱中症サインの記事と糖尿病と脱水の記事、「普段の値」は昨日のCOPDの記事、尿の量は急性腎不全の記事、相談窓口は♯7119の記事に書きました。

窓越しに見える色づいた木 涼しくなっても、起きるときは起きます(写真はイメージです)

この記事で書かなかったこと

  • 脱水の原因と診断の決め手——記録にありません
  • 何℃、血圧がいくつなら救急車、という線引き——引ける一次資料がありません
  • 季節ごとの患者数と増強救急指令の仕組み——一次資料がありません

まとめ

  • 高齢者は自分が脱水に気づかない場合があり、重度ではのどの渇きが逆に減少することがあります(MSD家庭版)
  • 医療者向けMSDは、高齢者のツルゴールは体液量と対応しないことがあると書きます。今回は良好でも診断は脱水でした
  • ご家庭で皮膚をつまむ必要はありません。見るのは「いつもと違う」
  • 普段の値を家族が言えることが、判断を助けます

家庭に置いておきたい備え

ここから先は、記事の内容に関連して家庭に備えておける市販品を紹介しています。治療や診断の代わりになるものではありません。症状があるときは、まず医療機関にご相談ください。

まず、調べられる本を。

この記事の内容に関係する備え。

  • 経口補水液 — MSD家庭版は「適切な量の電解質を含む経口補水液は、処方せんがなくても購入することができます」と書いています。持病のある方は、飲む量を主治医と決めてから
  • 血圧計(上腕式) — 「普段の血圧」を家族が言えるようにしておくための道具です
  • 体調記録ノート・介護日誌 — 普段の血圧、水分、トイレの回数を1行ずつ。救急隊に聞かれたときに答えられます

Amazonのアソシエイトとして、救急のリアルは適格販売により収入を得ています。

参考文献

⚠️ 免責事項この記事の情報は一般的な救急知識の情報提供を目的としており、医療行為や医療診断に代わるものではありません。症状がある場合は必ず医療機関を受診してください。生命の危機を感じる症状は、迷わず119番に通報してください。

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救急のリアル 編集部

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