傷病名は「COPD」でした——酸素の値は88%。それが普段より4ポイント低いと分かったのは、家族が普段の数字を知っていたからです

傷病名は「COPD」でした——酸素の値は88%。それが普段より4ポイント低いと分かったのは、家族が普段の数字を知っていたからです

在宅酸素を使っている80代前半の男性が、夜から続く息苦しさで救急要請。酸素の値は88%。報告書には「普段のSpO2は在宅酸素毎分7L投与で92%程度であると家族から聴取する」とあり、普段より4ポイント低いと分かりました。環境再生保全機構とMSDマニュアルの原文で、COPDの増悪(急な悪化)と、寒くなる前にできることを現役救急救命士が解説します。

今日は10月1日。これから空気が冷えて、かぜやインフルエンザが増える季節です。COPD(慢性閉塞性肺疾患)をもつ方の、急な悪化の話をします。

この記事は、実際にうかがった事案をもとにしています。年齢は幅で、場所や日付は書きません。救急隊は診断をしません。書く傷病名は、病院で付いたものと、現場で私たちが見たものです。

夜の住宅街に灯る窓の明かり その夜も、どこかの家で息苦しさが続いていました(写真はイメージです)

先に、3つだけ

  • 酸素の値「88%」は、その人の「普段の値」と比べて、はじめて意味が分かります
  • 夜に始まった息苦しさが、深夜まで続いていました
  • COPDの急な悪化は、感染がきっかけになることが多いと国の機関が書いています。寒くなる前の今が、備えどきです

1. 傷病名——COPDの「増悪(急な悪化)」でした

通報は息子さんでした。内容は、こうです。

82歳男性。息苦しい。肺気腫で個人医院へ掛かり付け。 (通報内容・原文)

80代前半の男性。慢性閉塞性肺疾患と高血圧があり、診療所に通っていました。夜19時ごろから息苦しさが続き、悪化。私たちが呼ばれたのは深夜でした。

着いたときの様子です。

  • 布団の上で横向き。意識ははっきりしていて、唇の色も正常(チアノーゼなし)
  • 在宅酸素を、毎分7リットルで吸っている最中でした
  • 呼吸は1分間に28回。両方の肺で「乾いた音」(乾性ラ音)
  • 酸素の値(SpO2)は88%。救急隊が酸素を投与して90%、搬送中は90%から92%

そして、胸の痛みなし、首の血管の張りなし、両脚のむくみなし。これは心不全を考えるときの所見で、救急隊が観察して「なかった」と確認した項目です(脚のむくみのない心不全は別の記事)。

病院へ5回問い合わせて搬送し、結果は入院、中等症、診断名は「COPD」。現場での最初の傷病名は「呼吸困難」でした。

「増悪」とは

この方は在宅酸素を使い、普段から酸素を足して暮らしている方でした。そこに急な悪化が重なることを「増悪」といいます。

風邪やインフルエンザなどの呼吸器の感染症をきっかけに、呼吸困難などの症状が悪化して、いつもの治療で改善せず、治療内容を変更する必要がある状態をCOPD の「増悪」といいます。 (環境再生保全機構「増悪を起こすとどうなるのですか?」)

この方の増悪のきっかけは、記録からは分かりません。

枕と、めくれた掛け布団 布団の上で横になったまま、朝を待てませんでした(写真はイメージです)


2. 症状のサイン——「88%」は、普段と比べて意味が分かる数字です

報告書には、こんな一文があります。

普段のSpO2は在宅酸素毎分7L投与で92%程度であると家族から聴取する (救急活動記録より)

88%という数字だけでは、その人にとって悪い値なのかどうか分かりません。家族が「普段は92%くらい」と答えられたので、計算すると4ポイント下がっていると分かりました。大きな手がかりでした。

「何%なら救急車」という線は、この記事では引きません。頼るのは、その方自身の「いつも」です。

ERCAも同じです。

増悪を早い段階で発見するためには、日々の自分の体の調子を知っておくことが重要です。 (環境再生保全機構「【実践編】増悪を予防する」)

増悪のサイン

ERCAは「5つの変化」(息切れがいつもよりする/咳が増えた/痰が増えた・色が変わった/ゼーゼー、ヒューヒューという音/熱)に加えて、次のときは「受診日を待たずにすぐに病院を受診しましょう」と書いています。

じっとしていても息切れがする/胸が痛い/いつもより眠い、だるい、頭が痛い、のどれかです。

MSDマニュアル家庭版も書いています。

安静時にも息切れをきたすことがあり、重症の場合は入院が必要になることもあります。 (MSDマニュアル家庭版「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」)

消防庁の救急車利用リーフレットにも、おとな・高齢者どちらのページにも、「胸や背中」の欄に「急な息切れ、呼吸困難」があります。高齢者のページには「高齢者は自覚症状が出にくい場合もありますので注意しましょう」とあります。

人のいない病院の廊下と待合の椅子 「軽症」ではなく、入院でした(写真はイメージです)


3. 受診の判断——夜のうちに始まり、数時間続いた息苦しさ

消防庁の「全国版救急受診アプリ(Q助)」は、最初の質問のひとつでこう聞きます。

ハアハアしますか(ハアハアしていますか)? 息は苦しい(苦しそう)ですか?

「はい」を選ぶと「息が苦しい」の画面に進み、次の項目があります。1つ当てはまれば「いますぐ救急車を呼びましょう」です。

4.しばらく(数時間程度)その状態が続いていますか?

この事案は、夜に始まって深夜まで数時間続いていました。Q助の項目4は、まさにこの形です。なお、Q助の設問文に「COPD」「肺気腫」「酸素」という言葉は1件も出てきません。持病は、自分から伝えないと拾われない情報です。

酸素の量は、家庭で変えないでください

ERCAは、在宅酸素についてこう書いています。

酸素は薬と同じです。処方流量を守って吸入しましょう。 (環境再生保全機構「【知識編】酸素の処方」)

自己判断での変更は危険です。 (環境再生保全機構「【実践編】自宅での酸素療法」)

流量をどうするかは、主治医と決めておくことです。記事中の「毎分7リットル」は、この方に処方されていた量で、ほかの誰かの目安ではありません。

迷う段階なら♯7119もあります。

結露した窓ガラスと外の明かり 空気が冷えてくる季節が、これから始まります(写真はイメージです)


4. 家族へ——「普段」を知ることと、感染を防ぐこと

① 「普段」を書き留めておく

普段のSpO2、酸素の量、息切れの強さ、痰の色。どこからが受診かは、必ず主治医と決めておいてください。

ERCAは、アクションプラン(医師が指示する、悪化したときの行動計画)についても書いています。

アクションプランがあらかじめ決まっていない患者さんは、「増悪の症状がある場合」には早めに受診をしましょう。 (環境再生保全機構「増悪が起きたら、どうすればよいですか?」)

② 感染を防ぐ。ワクチンは、寒くなる前に

ERCAは、ワクチンの効果をこう説明しています。

インフルエンザワクチンには増悪の頻度を減少させたり、インフルエンザや肺炎による入院や死亡を減少させる効果があります。 (環境再生保全機構「増悪の予防はどうしたらよいですか?」)

厚生労働省は、対象をこう書いています。

65歳以上の方と、60~64歳で一定の基礎疾患がある方は定期の予防接種として毎年1回接種ができます。 (厚生労働省「インフルエンザ(総合ページ)」)

ERCAは肺炎球菌についても、「肺炎球菌はCOPD の増悪や肺炎を起こす病原体の一つ」と書いています。どのワクチンをいつ受けるかは、かかりつけ医に相談を。

③ 救急隊に伝えるのは、この4つです

  • 「COPD(肺気腫)です」
  • 「在宅酸素を、毎分〇リットルで使っています」
  • 「普段の酸素の値は、〇%くらいです」
  • かかりつけの病院と、お薬手帳

停電のときの在宅酸素は災害時の在宅医療機器の記事に、持病のある高齢の方の深夜の息苦しさはこちらにも書きました。

この記事で書かなかったこと

  • 「SpO2が何%なら救急車」という線引き——公的な家庭向け資料に、単独の数字の基準は見つけられませんでした

まとめ

  • 酸素の値は、「その人の普段」と比べて意味が分かります。この事案は、家族が「普段は92%程度」と答えられたので、4ポイント下がっていると分かりました
  • Q助は「息が苦しい」で数時間続いているといますぐ救急車。持病を伝えるのは家族です
  • 酸素の量は、自己判断で変えない
  • 寒くなる前に、普段の値を書き留め、ワクチンをかかりつけ医に相談を

窓辺に置かれたカップと開いた本 普段を知っていることが、いちばんの備えになります(写真はイメージです)

家庭に置いておきたい備え

ここから先は、記事の内容に関連して家庭に備えておける市販品を紹介しています。治療や診断の代わりになるものではありません。症状があるときは、まず医療機関にご相談ください。

まず、調べられる本を。

この記事の内容に関係する備え。

Amazonのアソシエイトとして、救急のリアルは適格販売により収入を得ています。

参考文献

⚠️ 免責事項この記事の情報は一般的な救急知識の情報提供を目的としており、医療行為や医療診断に代わるものではありません。症状がある場合は必ず医療機関を受診してください。生命の危機を感じる症状は、迷わず119番に通報してください。

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救急のリアル 編集部

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