夜中に、犬が吠えるような咳で子どもが目を覚ました。今日はその話をします。
この記事は、特定のどなたかの事案の話ではありません。典型的な形としては——昼のうちは鼻水と軽い咳だけで、保育園にも行けていた。ところが夜中、声がかすれ、聞いたことのない響きの咳で子どもが起きる。息を吸うときに音がする。朝になると、咳は残っているけれど昨夜ほどではない——という形で起こります。
現役救命士として現場で子どもの呼吸を見てきた経験から言うと、夜の咳で気にするのは音の大きさではありません。息を吸うときに音が出ているかどうかです。そして今日いちばんお伝えしたいのは、ひとつだけです。朝に軽くなるのは、この病気の普通の経過であって、治ったという意味ではありません。
夜中に始まり、朝にはいったん軽くなります(イメージ写真です)
夜中の「ケンケン」という咳——傷病名は「クループ」です
この咳には名前がついています。傷病名はクループ(喉頭気管気管支炎(こうとうきかんきかんしえん))です。
MSDマニュアル家庭版は、クループをこう定義しています。
クループとは、ウイルス感染症により発生する気管と喉頭の炎症で、せきと、高いキューキューいう呼吸音(吸気性喘鳴)が起こり、ときに息を吸う(吸気)のが難しくなります。 (MSDマニュアル家庭版「クループ」)
吸気性喘鳴(きゅうきせいぜんめい)は、息を吸うときのキューキューという音です。ぜんそくで聞く「息を吐くときのゼーゼー」とは向きが逆になります。
始まり方も書かれています。
クループは通常、かぜと同じ症状(鼻水、くしゃみ、微熱、軽いせき)で始まります。次いで声がれが現れ、金属的なまたはイヌが吠えるような異常な響きのせきが頻繁にみられるようになります。 (MSDマニュアル家庭版「クループ」)
つまり、入口はかぜと見分けがつきません。変わるのは「声がれ」と「咳の響き」です。
変わるのは咳の強さではなく、咳の響きです(イメージ写真です)
この咳は、国のアプリも名指ししています。総務省消防庁の全国版救急受診アプリ「Q助」で、こどもの「せき」に進むと、2画面目にこの項目があります。
犬が吠えるような 〔または〕 オットセイの鳴き声のような変な咳ですか? (総務省消防庁「全国版救急受診アプリ(Q助)」こども「せき」A004192の項目6)
「オットセイの鳴き声」。聞いたことのない響きだと感じたら、その感覚で合っています。
「クループ」とは——夜に悪くなり、朝に軽くなる
年齢と季節が、はっきり書かれています。
クループは主に生後6カ月~3歳の小児に発生します。 (MSDマニュアル家庭版「クループ」)
原因は細菌ではなくウイルスで、最も多いのはパラインフルエンザウイルスです。
年中いつでも起こりえますが、しばしば季節性に流行します。パラインフルエンザウイルスによるクループは秋に、RSウイルスによるクループは冬と春に起こる傾向があります。 (MSDマニュアル家庭版「クループ」)
秋です。いまの時期の話として書いているのは、そのためです。
そして、この記事のいちばん大事なところです。
患児の約半数では発熱がみられます。これらの症状はいずれも、典型的には夜中に悪化するため、寝ているときに目を覚ましてしまうことがあります。朝には症状が軽快しますが、夜になるとまた悪化します。 (MSDマニュアル家庭版「クループ」)
「朝には症状が軽快しますが、夜になるとまた悪化します。」
熱が出るのは半分だけ。だから「熱がないから軽い」も成り立ちません。そして朝の軽さは、資料に書かれている普通の経過です。受診を見送る理由には使えません。
朝に軽くなるのは、この病気の普通の経過です(イメージ写真です)
では、いつまで続くのか。
最も症状がひどい状態は通常3~4日間続き、その後せきは残るものの、もっと緩やかな響きになります。 (MSDマニュアル家庭版「クループ」)
夜をまたいで3~4日。つまり、ひと晩で終わる話ではありません。
家庭でできること、そして受診の目安
まず、受診の基準です。MSDはクループについて、こう書いています。
小児がクループ特有の呼吸をしている場合は急激に症状が悪化することがあるため、すぐに医師に連絡する必要があります。 (MSDマニュアル家庭版「クループ」)
家庭でできることは、安静と水分と湿度です。疲れたり泣いたりすると症状が悪化するので、泣かせないことも書かれています。室内の湿度を上げる機器を使うと上気道の乾燥を防げるとされ、熱いシャワーを出しっぱなしにして浴室の湿度を上げる方法も挙げられています。
湿度を上げると上気道の乾燥を防げる、と書かれています(イメージ写真です)
ただし、よく聞く「冷たい外の空気を吸わせる」「冷凍庫の冷気を吸わせる」については、原文をそのまま出します。
冷たい夜の空気を吸わせるために屋外に連れて行ったり、台所で冷凍庫の空気を吸わせたりすることでも、気道が開く可能性があります。このような治療に害はないものの、小児の状態に何らかの違いをもたらすという科学的根拠はほとんどありません。 (MSDマニュアル家庭版「クループ」)
「科学的根拠はほとんどありません」。害はないと書かれていますが、効くとは書かれていません。これで受診を遅らせないでください。
次に、「待てない」側のサインです。MSDマニュアル家庭版「小児のせき」は、警戒すべき徴候を5つ挙げています。
- 唇や皮膚に青みがある(チアノーゼ)
- 小児が息を吸うときにキューキューという大きな音(吸気性喘鳴)がする
- 呼吸困難
- 重症感
- コントロールできず繰り返し起こるせき発作の後、甲高い音(笛声のような音)を立てながら息を吸う (MSDマニュアル家庭版「小児のせき」「警戒すべき徴候」)
この5つがあれば、直ちに医師の診察を受けるか、救急医療機関を受診する必要があるとされています。そして、5つがない場合の行き先まで書かれています。
警戒すべき徴候はないものの、頻繁に激しいせきやイヌが吠えるようなせき(犬吠様咳嗽)をする場合は、医師に電話で相談してください。 (MSDマニュアル家庭版「小児のせき」「受診のタイミング」)
電話で相談する。これが、朝に軽くなった日の正解です。様子を見るでも、救急外来に駆け込むでもありません。
なお、同じような咳や吸気の音になる病気は、クループ以外にもあります。細菌性気管炎、急性喉頭蓋炎、それに異物の吸い込みです。MSDは細菌性気管炎について、こう書いています。
首のX線検査を行うことも多く、のどの異常が認められれば、細菌性気管炎をクループと鑑別できます。 (MSDマニュアル家庭版「細菌性気管炎」)
X線です。つまり、これは医師が診察で区別するときの見分け方です。家庭でこれを試して、自分で結論を出さないでください。のどが痛いだけに見えて気道がふさがる病気については急性喉頭蓋炎の話に、息を吐くときのゼーゼーについてはぜんそく発作の話に分けて書きました。
迷う夜のための番号が、2つ用意されています(イメージ写真です)

