明日から9月です。
今日は、**「気管支喘息(きかんしぜんそく)の発作」**の話をします。
「持病だから」「いつものことだから」で片づけられやすい病気です。けれど日本呼吸器学会は、喘息をこう説明しています。
気管支喘息(喘息)は空気の通り道(気道)に炎症が続き、さまざまな刺激に対して気道が敏感になり発作的に気道が狭くなること(大火事)を繰り返す病気です。
(日本呼吸器学会「呼吸器の病気 C-01 気管支ぜんそく」2025年9月)
そして、この病気には家庭で使える物差しが、はっきり文章で存在します。
横になれるか。横になれないか。動けるか。
この3つで、発作の強さが分かれます。国の独立行政法人が、そう表にして公開しています。
「横になると苦しい」は、気分の問題ではなく段階の名前です(写真はイメージです)
順番に説明します。
なお、この記事は**特定のどなたかの事案の話ではありません。**公的機関や学会が「典型的な形」として書いている内容を、救急の現場で使う順番に並べ直したものです。
1. 症状——「せきが止まらないだけです」
季節の変わり目に、私たちが呼ばれる場面、あるいは救急外来に運び込まれる場面は、資料に書かれている典型的な形でいうと、こうなります。
家族が最初に気づくのは、たいていせきです。
- 数日前から、夜になるとせき込む
- 明け方、せきで目が覚める
- 息を吐くときに、ゼーゼー、ヒューヒューという音がする
- 横になると苦しくて、布団の上に起き上がって座っている
- 座って、前かがみになっている
日本呼吸器学会の症状の説明は、こうです。
発作的に咳や痰が出て、ゼーゼー、ヒューヒューという音を伴って息苦しくなります(必ずしもすべての症状が出るわけではありません)。夜間や早朝に出やすいのが特徴です。また、季節性に変化したり、冷気、香水や線香などの香りで誘発されることもあります。
「必ずしもすべての症状が出るわけではありません」。
ここが最初の落とし穴です。ゼーゼーが聞こえなくても、せきだけでも、喘息の発作は起きています。MSDマニュアル家庭版は、はっきりこう書いています。
せきは、喘息の唯一の症状であることがあります。
目が覚めるのは、たいてい夜中から明け方です(写真はイメージです)
なぜ夜と明け方なのか
これは偶然ではありません。日本呼吸器学会の「呼吸器Q&A」Q12が、理由まで書いています。
副交感神経は気道を狭くし、交感神経は広げる方向に働くので、副交感神経が活発になる夜間や早朝に気道が狭くなり、息切れなどの症状が出やすくなります。また、体内で分泌されるステロイドホルモンが、夜間や早朝に減少することも関与しています。
MSDマニュアル家庭版も同じことを、別の言い方で書いています。
喘息の発作は、予防薬の効果が薄れ、気道狭窄を抑える能力が最も弱まる早朝に、最もよく発生します。
つまり、いちばん弱い時間帯は、いちばん助けを呼びにくい時間帯です。「朝まで様子を見よう」という判断は、この病気に関しては、いちばん悪くなる方向に向かって待つことになります。
2. 救急隊が現場で疑うこと
「ゼーゼーして苦しい」という通報で向かうとき、隊員の頭の中には喘息だけがあるわけではありません。
日本呼吸器学会のQ&A(Q16「ゼーゼーする」)は、市民向けにこう書いています。
「ゼーゼー」いう場合、できるだけ早く医療機関を受診することをお勧めします。「ゼーゼー」が、息を吸うときに聞こえるのか、息を吐くときに聞こえるのか、体のどの部分で強いのか、などで、原因の病気は異なってきます。また、「ゼーゼー」が起きる時間帯や、どのようなことをすると悪化するのか、食べ物や薬を飲んだあと生じたか、など、御本人からの情報が大変重要です。
現場で聞いているのは、まさにこの通りのことです。
- 息を吸うときか、吐くときか(喘息は、特に吐くときに鳴ります)
- いつから始まったか。今夜が初めてか、何日か前からか
- 発作止めの吸入薬を、何時に何回使ったか
- 何をしたあとに始まったか(薬を飲んだ/食べた/掃除をした/外から帰った)
- 前にも同じことがあって、入院したことがあるか
同じ「息が苦しい」でも、行き先も処置も変わる病気が並んでいるからです。日本呼吸器学会のQ11は、発作的な呼吸困難を起こす病気として、気管支喘息のほかに肺血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)、自然気胸、心不全を並べています。同じQ&Aの別の場所では、**喉頭浮腫(アレルギーでのどの入り口が腫れる)**も、緊急の初期治療が必要な病態として挙げられています。
だから救急隊は、喘息の持病がある方でも、胸が痛くなってから息が苦しくなった自然気胸や、夜中に横になれなくなる急性心不全、ハチや薬によるアナフィラキシーを、その場で外しにいきます。
3. 病院で行われる検査
搬送先で行われるのは、おおまかにこうなります。
発作の最中に評価するもの(MSDマニュアル家庭版「喘息の発作の評価」より)
- パルスオキシメーターで血液中の酸素の値を見る
- 発作が重い場合は、血液中の二酸化炭素の量を測る(動脈血の採取が必要)
- ピークフローメーターなどで、息を吐き出す勢いを見る
- 胸部X線検査は、「喘息発作が重度で、他の重篤な病気(肺の虚脱など)を除外する必要がある場合にのみ」行われる
落ち着いてから、診断を確定するもの
医師は、主に患者が訴える特徴的な症状に基づき、喘息を疑います。そして、**呼吸の検査(肺機能検査)により診断を確定します。**中でも最も重要なのは、1秒間に吐き出すことのできる空気の量に関する測定値です。この肺機能検査は、(中略)吸入薬の投与前と、投与後に行います。この薬剤の投与後の検査結果が、投与前に比べて明らかに良好であれば、喘息があると考えられます。
**「薬で広がるかどうか」で確かめる病気です。**だからこそ、発作の最中に「吸入して良くなったか、ならなかったか」という家族の観察が、そのまま医療情報になります。
4. 傷病名は「気管支喘息発作」でした
ここまでの流れで確定する傷病名が、**気管支喘息の発作(急性増悪)**です。
日本では、この病気を持っている人は決して少なくありません。日本呼吸器学会は、こう書いています。
日本では子供の8~14%、**大人では9~10%**が喘息です。高年齢で発症する方もおられます。
そして、亡くなる方もいます。厚生労働省『令和6年(2024)人口動態統計(確定数)』第9表によると、喘息による死亡は年間1,088人(男417人・女671人)でした。前年(令和5年)は1,089人です。
MSDマニュアル家庭版は、この数字の意味をこう書いています。
重度の喘息発作により死に至ることもありますが、これらの死のほとんどは治療で予防することができます。
「予防できる死」が、年に1,000人分あるということです。
5. 気管支喘息発作とは——「大火事」が起きている
日本呼吸器学会の説明は、たとえがはっきりしています。気道の炎症が続いている状態が「くすぶり」で、発作は**「大火事」**です。
そして学会は、症状がないときのことを、こう書いています。
症状が無ければ喘息は治ったと思われるかもしれませんが、気道の炎症は続いています。炎症が続けばいずれまた発作(大火事)が起こり、学校や会社を休んだり、日常・社会生活に影響が出ます。そして炎症が続くと気道が固く狭くなり元に戻らなくなりますので、治療によって症状をおさえることが困難になります。
MSDマニュアル家庭版も、同じ趣旨をもっと直接的に書いています。
長期間症状がないか軽度にとどまり、肺機能が正常な軽い喘息の人でも、生命を脅かす重度の喘息発作を起こすことがあります。
**「軽い喘息」は「軽い発作しか起きない」という意味ではありません。**ここは、家族に伝わっていないことが多いところです。
発作の最中、体はこうなっている
MSDマニュアル家庭版の描写が、現場で見るものとほぼ一致します。
喘息の発作中に息切れが激しくなると、患者は強い不安を感じます。本能的に座って前かがみになり、首と胸の筋肉を使って呼吸を楽にしようとしますが、それでも息苦しさが続き、なんとか息をしようともがきます。**呼吸努力と不安のために、発汗することもよくあります。**心拍は通常速くなり、胸に激しい鼓動を感じることもあります。
**座って、前かがみで、汗をかいている。**これは「落ち着きがない」のではなく、本人が必死に呼吸を稼いでいる姿勢です。横にしてはいけません。
横になれずに、上体を起こしたまま朝を迎えることがあります(写真はイメージです)
6. 家庭で使える物差し——「横になれるか、動けるか」
ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。
独立行政法人 環境再生保全機構(ERCA)の「大気環境・ぜん息などの情報館」は、発作の強さを呼吸困難の程度だけで見分ける表を公開しています(『喘息予防・管理ガイドライン2018』を一部改変、と明記されています)。原文の区分は、こうです。
| 発作強度 | 呼吸困難 | 対処法(原文の要旨) |
|---|---|---|
| ぜん鳴/胸苦しい | 急ぐと苦しい・動くと苦しい | 発作止めを吸入。改善したら家庭で様子をみる。悪化するようなら再度吸入し、改善しない場合は救急外来を受診 |
| 軽度(小発作) | 苦しいが横になれる | 同上 |
| 中等度(中発作) | 苦しくて横になれない | 発作止めを吸入。改善がみられない場合、20〜30分後に再度吸入。改善しない場合は救急外来を受診 |
| 高度(大発作) | 苦しくて動けない | 発作止めを吸入しながら、周囲の助けを借りて速やかに救急外来を受診、もしくは救急車を呼ぶ |
| 重篤 | 呼吸が減弱/チアノーゼ/呼吸停止 | 直ちに救急車を呼ぶ |
(環境再生保全機構「発作が起こったら…」より。チアノーゼについては同ページに「血液中の酸素濃度が低下した状態。唇や指先が青白くなる」と注が付いています)
専門的な器具は一つも要りません。
- 苦しいけれど、横にはなれる → 小発作
- 苦しくて、横になれない → 中発作
- 苦しくて、動けない → 大発作。ここが救急車を呼んでよい線です
「横になれない」は、家族が布団のそばで目で見て分かることです。「本人が起き上がったまま戻らない」時点で、すでに中発作の欄に入っています。
同じページには、救急受診のタイミングも4つ挙げられています。
次のような場合は、ためらわずに医療機関を受診しましょう。 ・苦しくて眠れない ・短時間作用性β2刺激薬や内服薬の効果が不十分 ・発作止めの薬が手元にない ・強いぜん息発作の症状がある
**3つ目に注目してください。「発作止めの薬が手元にない」。**症状の重さではなく、手元に薬がないという事実そのものが受診の理由として挙げられています。旅行先、帰省先、災害時。持っていない夜は、それだけで受診の側に倒してよい、と書かれているということです。
MSDマニュアル家庭版の、軽い発作についての記述も具体的です。
通常は、吸入器を使用して、(中略)一定量吸入し、空気が新鮮な場所に移動して(タバコの煙などの刺激物から離れ)、座って安静にします。吸入器は、必要であれば20分間隔で3回使用できます。発作は普通5〜10分で治まります。吸入器を3回使っても治まらなかったり、悪化したりする場合は、医師の指導の下で新たな治療が必要になる可能性が高くなります。
**「3回使っても治まらない」も、家族が数えられる情報です。**何時に何回吸ったかを、スマホのメモでいいので残してください。救急隊も救急外来も、必ずそこを聞きます。
7. いちばん怖い勘違い——「ゼーゼーが小さくなった」
ここは、太字にしておきます。
MSDマニュアル家庭版の記述です。
**非常に重い喘息発作が起こると、息を継がずには、ほんの二言三言しか話せなくなります。また、空気がほとんど肺に出入りしないため、喘鳴が実際に小さくなることがあります。**錯乱、嗜眠、チアノーゼ(皮膚の色が青っぽく変化する症状)などが現れると、酸素の供給が著しく低下していることを示し、緊急の治療が必要になります。
**ゼーゼーが小さくなるのは、良くなったからとは限りません。**音が鳴るには空気が動く必要があります。空気がほとんど動かなくなれば、音は消えます。
だから、静かになったかどうかではなく、次の3つを見てください。
- どれだけ続けて話せるか(「二言三言しか話せない」は、資料が名指しした重症のサインです)
- 唇や指先の色(青白い=チアノーゼ)
- 反応(ぼんやりしている、うとうとしている)
このうち一つでも当てはまるなら、ERCAの表でいう「重篤」に近い側です。直ちに119番です。
静かになったかどうかではなく、話せるか・唇の色・反応を見てください(写真はイメージです)
なお、繰り返す過換気の記事でも書きましたが、「いつもの発作だから」という自己判断がいちばん危ないのは、判断する本人が、酸素の足りない頭で判断しているからです。家族が横で見ている情報のほうが、この場面では正確です。
台風が近づく日は、気圧が大きく動きます(写真はイメージです)
線香の煙や調理の湯気も、資料が名指ししている刺激です(写真はイメージです)
ダニは、資料が「もっとも多い」と書いたアレルゲンの筆頭です(写真はイメージです)
迷ったときにかけられる番号が、リーフレットにも書かれています(写真はイメージです)
「どのくらいで、どこまで悪くなったか」は、家族しか持っていない情報です(写真はイメージです)
明け方を越えられたら、その日のうちに主治医に伝えてください(写真はイメージです)

