薬を、間違えて飲んでしまった。今日はその話をします。
この記事は、特定のどなたかの事案の話ではありません。典型的な形としては——飲み忘れに気づいて、あとからもう一回飲んだ。別の薬に同じ成分が入っていた。家族が渡す薬を取り違えた。気がついたときにはもう飲んでしまっていて、どうしたらいいか分からない、という形で起こります。
救急の現場で働いていていちばん困るのは、「何を、どれだけ飲んだのかが分からない」ときです。だからこの記事で書きたいことは、ひとつだけです。自分で何とかしようとせず、相談してください。
飲んだあとで気づくことがあります(イメージ写真です)
薬を、間違えて飲んでしまったら
起こり方は、だいたいこの三つです。飲み忘れの埋め合わせ、同じ成分の重なり、渡し間違え。どれも、あとから気づきます。そして気づいた人がまずやりがちなことが、いちばんやってはいけないことです。
まず、やってはいけないこと
- 吐かせる
- 水や牛乳をたくさん飲ませて流す
- 様子を見る
吐かせることについては、消費者庁が平成27年(2015年)9月16日に公表した「高齢者の誤飲・誤食事故に御注意ください!」にこう書かれています。
また、吐物が気管に入ってしまうことや、吐かせることで症状が悪化するものもありますので、むやみに吐かせないようにしましょう。 (出典:消費者庁ウェブサイト。URLは参考文献に記載)
吐かせることで症状が悪化するものもある。水や牛乳で流すのも同じで、どちらに転ぶかを決めているのは「何を飲んだか」。それは家庭では判断できません。
そして様子を見る。これがいちばん多く、いちばん取り返しがつきません。何も起きていない時間は、安全の証拠になりません。やることは、相談するか、受診するかです。
気づいたあとで、自分で何とかしようとしないでください(イメージ写真です)
なぜ、間違いが起きるのか
『MSDマニュアル家庭版』の「加齢と薬」(最終更新2025年4月)から。
半数近い高齢者が、医師の指示通りに薬を服用していません。 (MSDマニュアル家庭版「加齢と薬」)
「だらしない人がいる」という話ではなく、指示どおりに飲むこと自体が難しいという話です。
高齢者のうち、90%近くが1種類以上、43%が5種類以上の処方薬を定期的に服用しています。市販薬と栄養補助食品も含めると、使用率はさらに高くなります。 (MSDマニュアル家庭版「加齢と薬」)
43%が5種類以上。市販薬と栄養補助食品を含めれば、さらに増えます。
スケジュールが複雑になればなるほど
MSDは、相互作用を避けるために異なる時刻に飲む薬があり、食後の薬も空腹時の薬もあると説明しています。そのうえで、こう書いています。
スケジュールが複雑になればなるほど、服用間違いを起こしやすくなります。 (MSDマニュアル家庭版「加齢と薬」)
薬が増えるほど、間違えやすくなる。注意不足ではなく、仕組みの問題として説明されています。MSDは、スケジュールを簡単にするよう医師に依頼することができるとも書いています。1日の回数を減らせることも、不要になる薬もある、と。
間違えると、何が起きるか。
高齢者は若い人の2倍以上も薬の副作用を起こしやすくなります。副作用は重くなりやすく、生活の質(QOL)にも支障をきたすようになり、医療機関の受診や入院という結果になることがあります。 (MSDマニュアル家庭版「加齢と薬」)
2倍以上。しかも重くなりやすい。同じ一錠の間違いが、誰にでも同じ結果になるとは限りません。
薬が増えるほど間違えやすくなる、と資料は書いています(イメージ写真です)
Q助が最後に聞くのは、一問だけ
総務省消防庁の「全国版救急受診アプリ(Q助)」は、自分で質問に答えて受診の目安を出すアプリで、病名を判定するものではありません。入口は大人の症状選択からもこどもからも入れて、名前は「薬をたくさん飲んだ・間違った薬を飲んだ」です。
最初の画面は全7項目。1つでも当てはまれば「いますぐ救急車を呼びましょう」です。
吐き気がありますか? 〔または〕 吐きましたか? (全国版救急受診アプリ「Q助」総務省消防庁)
残る6項目は、息の状態(ヒューヒュー、ゼーゼー、呼吸が浅い、ゆっくり)、胸の痛み、激しいおなかの痛み、下痢、飲酒、そして項目6の「自殺が目的でしたか?」です。気持ちのつらさの相談先として、厚生労働省のこころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556があります。
どれにも当てはまらないと、残る質問は一つ
7項目のどれにも当てはまらないと、次の画面に進みます。質問は一つです。
1.何か気になることがありますか? (全国版救急受診アプリ「Q助」総務省消防庁)
分かれ目が、検査でも数値でもなく、本人か家族の「気になる」という主観に置かれています。
「気になる」と答えた先(担当科の表示は「内科・救急科」)では、「高齢者(65歳以上)ですか?」「歩くことができない状態ですか?」、事故や犯罪に関係があるか——どれかに当てはまればまた「いますぐ救急車」。未就学児(6歳未満)か、妊娠しているかも同じ欄で聞かれます。どれにも当てはまらなくて、ようやく「2時間をめやすに受診しましょう」です。「気にならない」と答えた先(「内科・かかりつけ」)でも、高齢者・未就学児・妊娠中か歩けない状態なら「2時間をめやす」、事故や犯罪に関係があれば「いますぐ救急車」。最後まで当てはまらなくて、ようやく「早めに受診しましょう」でした。
「様子をみて受診」は、出てきません
この入口から出てくる答えは、最良でも「早めに受診しましょう」。「様子をみて受診しましょう」という答えは、一度も出てきません。
Q助が大げさなのではありません。役割が違います。何をどれだけ飲んだのかが分かる前の段階で目安を出す道具です。この入口には、そもそも「待っていい」という出口がありません。
だから、気になるなら、気になると答えてください。大げさかなと思ってもいいです。
何を飲んでいるかが分かるようにしておくと、相談が早くなります(イメージ写真です)
自分で抱えずに、相談してください(イメージ写真です)

