「痛くないので、様子を見ていました」——ゴミのような影が、急に増えた。傷病名は「網膜剥離」でした
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「痛くないので、様子を見ていました」——ゴミのような影が、急に増えた。傷病名は「網膜剥離」でした

日本眼科学会の一般向けページは、網膜剥離について「網膜には痛みを感じる神経がないため、痛みはありません」と書いています。痛くない。だから様子を見てしまう。初期のサインは飛蚊症(ゴミのような影)と光視症(ピカッと光が走る)で、判断の軸は「急に増えたかどうか」。学会は「飛蚊症や光視症が急に増えた場合は…できるだけ早い検査が必要です」と明記しています。傷病名は「網膜剥離」。現役救急救命士が解説します。

今日は「網膜剥離(もうまく・はくり)」の話をします。

この記事は、特定のどなたかの事案の話ではありません。公的な資料を、家庭の言葉に置き換えて説明します。そして、いつもどおり救急隊は診断をしません。

レースカーテン越しに、外の景色がぼんやり見えている 「カーテンがかかったように見えにくくなる」と学会は書いています(写真はイメージです)

先に、3つだけ

  1. 網膜には、痛みを感じる神経がありません。痛くないのが、この病気のふつうです
  2. 初期のサインは飛蚊症(ゴミのような影)と光視症(ピカッと光が走る)。判断の軸は「急に増えたか」
  3. 中心(黄斑)が剥がれる前に治療できたかどうかで、見え方の戻り方が変わります

1. 傷病名——網膜剥離とは

日本眼科学会の一般向けページ(監修:日本網膜硝子体学会)は、こう説明しています。

網膜剥離とは、眼の奥にある光を感じ取る網膜が、下の組織(網膜色素上皮)から剥がれて浮き上がる状態をいいます。

カメラのフィルムにあたる膜が、浮き上がってしまう。学会は「放置すれば失明につながる危険な病気です」と書いています。

いちばん多いのは裂孔原性(れっこうげんせい)網膜剥離。網膜に裂け目ができ、そこから眼の中の液体が入り込んで、網膜を下から押し上げていくタイプです。

主な原因は加齢でした。眼の中のゼリー状の組織(硝子体)が年齢とともに縮み、網膜を引っ張る。そのときに裂け目ができます。強度近視の人、目を打った人、家族に同じ病気の人がいる人に多い、とも書かれています。

暗がりに浮かぶ、いくつもの光の粒 飛蚊症は、影が目の動きに合わせて動いて見えます(写真はイメージです)

2. 症状のサイン

学会が挙げている初期のサインは、2つです。

初期には飛蚊症(小さなゴミや虫のような影が動いて見える)や、光視症(視界の中に閃光のような光が見える)を自覚することがあります。

飛蚊症は、黒い点や糸くずのような影が、目を動かすと一緒に動くもの。光視症は、視界の端に「ピカッ」と光が走る感じです。暗いところでも起こります。

ただし、そのすぐあとに、こう書かれています。

ただし、無症状のまま進行することもあります。

進むと、視野の一部が欠ける(カーテンがかかったように見えにくくなる)急な視力低下が起こります。

そして、この記事でいちばん伝えたいのがこの一文です。

網膜には痛みを感じる神経がないため、痛みはありません。

痛くない。だから、様子を見てしまう。目の病気を「痛みで判断する」と、この病気は素通りしてしまいます。

雨粒のついた窓越しに、光がぼやけて見える 光視症は「視界の端にピカッと光が走る」と説明されています(写真はイメージです)

3. 避けるには・受診の判断

正直に書きます。「網膜剥離を予防する方法」は、学会のページに書かれていませんでした。主な原因が加齢による変化だからです。

では何で判断するか。学会は網膜裂孔のページに、こう書いています。

特に、飛蚊症や光視症が急に増えた場合は、網膜裂孔の可能性があるため、できるだけ早い検査が必要です。

「急に増えた場合」。ここが判断の軸です。

というのも、飛蚊症そのものは、誰にでも起こります。学会は「後部硝子体剥離」という別のページで、これを「加齢に伴う自然な変化であり、誰にでも起こりうる現象です」と説明し、発症の多くは50〜60歳代としています。

つまり「前からある」なら加齢の変化、「急に増えた」なら受診、という分かれ方です。

カーテンと、外の木のシルエット 「前からある」か「急に増えた」か——ここが分かれ目です(写真はイメージです)

そして、急ぐ理由もはっきり書かれています。

黄斑が剥がれていない段階で治療すれば、術後の視力回復が良好なことが多いですが、黄斑が剥がれてしまった場合は、視力が完全には戻らないことがあります。

黄斑は、網膜の中心。ここが剥がれる前か後かで、あとの見え方が変わります。痛みは出ないまま、その線は近づいてきます。

白い壁の時計。針だけが見えている 痛みが出ないまま進みます(写真はイメージです)

4. 家族へ

やってほしいことは、3つです。

① 片目ずつ、見てもらう

両目で見ていると、片目の異常は気づきません。もう片方が補ってしまうからです。

片手で目を隠して、片目ずつ、部屋の壁や窓を見てもらってください。「片方だけ、端が欠けていないか」。これは家庭でできて、道具も要りません。

② 「前からあるか、急に増えたか」を聞く

「ゴミみたいなのが見える?」だけでは足りません。「それは前からある? 最近急に増えた?」まで聞いてください。受診するかどうかは、そこで決まります。

③ 迷ったら、眼科へ。夜間は相談窓口を使う

行き先は救急車ではなく、眼科です。ただし夜間や休日で判断に迷うなら、消防庁のリーフレットにある窓口が使えます。

※ 判断に迷った時は、電話相談窓口にご相談ください。子ども医療電話相談(主に休日・夜間)は♯8000 、119番通報の相談は♯7119をご利用いただけます。

♯7119の使い方は別の記事にまとめました。

ただし、突然まったく見えなくなった/片側の手足のしびれや言葉のもつれが一緒に来た——このときは眼科ではなく、119番です。脳のほうの可能性があるからです。

暗い部屋から、窓の明かりだけが見えている 片目ずつ見ると、はじめて分かることがあります(写真はイメージです)

この記事で書かなかったこと

  • 発症数・年間の患者数——学会の一般向けページに数字はありませんでした
  • 家庭でできる手当——ありません。冷やす・目薬などをすすめる記述も見つかりません
  • 予防法——上に書いたとおり、見つかりませんでした
  • 「何時間以内なら助かる」という数字——学会が書いているのは「黄斑が剥がれる前か後か」までです

関連する記事

格子越しに見える夕日 見えている部分と、欠けている部分(写真はイメージです)

まとめ

  • 網膜には痛みを感じる神経がありません。痛くないのが、この病気のふつうです
  • 初期のサインは飛蚊症光視症。ただし無症状のまま進むこともあります
  • 判断の軸は「急に増えたか」。飛蚊症そのものは50〜60歳代に多い加齢の変化です
  • 急ぐ理由は黄斑(網膜の中心)が剥がれる前かどうか。剥がれたあとは視力が完全には戻らないことがあります
  • 家族にできるのは片目ずつ見てもらうことと、「前からあるか、急に増えたか」を聞くこと

暗い部屋の窓と、夕焼け 痛くないから、様子を見てしまう——それがこの病気です(写真はイメージです)

暗い部屋にともる小さな明かり 光視症は暗いところでも見えます(写真はイメージです)

窓の一部だけに、沈む日が見えている 片目ずつ、確かめてみてください(写真はイメージです)

参考文献

⚠️ 免責事項この記事の情報は一般的な救急知識の情報提供を目的としており、医療行為や医療診断に代わるものではありません。症状がある場合は必ず医療機関を受診してください。生命の危機を感じる症状は、迷わず119番に通報してください。

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救急のリアル 編集部

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