傷病名は「椎間板ヘルニアの疑い」でした——4か月がまんできた腰から脚の痛みが、昼食後、歩けない痛みに変わった

傷病名は「椎間板ヘルニアの疑い」でした——4か月がまんできた腰から脚の痛みが、昼食後、歩けない痛みに変わった

職場で昼食後に崩れ落ち、歩けなくなった20代の男性。左のお尻から太ももの裏の痛みは、約4か月前から続いていました。消防庁のQ助の「腰痛」は、最初の画面の1つ目に「痛みが強くて動くことができませんか?」を置き、「はい」なら「いますぐ救急車」です。がまんできた痛みと救急車を呼ぶ痛みの境目を、MSDマニュアル家庭版と厚生労働省の指針の原文で解説します。

今日は、4か月続いた腰から脚の痛みの話をします。

この記事は、実際にうかがった事案をもとにしています。年齢は幅で、場所や日付は書きません。救急隊は診断をしません。書く傷病名は、あくまで現場で疑ったものです。

人のいない広い作業室 通報したのは、同じ職場の方でした(写真はイメージです)

先に、3つだけ

  • 同じ「腰の痛み」でも、Q助(消防庁の受診アプリ)には入口が2つあります。「動けない」側に入ると、いますぐ救急車です
  • 4か月がまんできた痛みと、救急車を呼ぶ痛みの境目は、痛みの強さより「動けるかどうか」です
  • 足を動かせない、しびれる、尿や便が漏れる。Q助では、どれも「いますぐ救急車」です

1. 傷病名——疑われたのは「椎間板ヘルニア」でした

通報は、同僚の方からでした。

20歳代男性。昼食後、崩れ落ち、左腰から膝までが動かなくなりました。既往症なし。数日前から違和感があった。 (通報内容・原文)

20代の男性。職場の作業場の床に、あお向けになっていました。意識ははっきりしていましたが、歩けませんでした。

記録に残っているのは、次のことです。

  • 約4か月前から、左のお尻から太ももの裏にかけて痛みが続いていた
  • 前の晩から痛みが強くなり、昼食後に歩けなくなった。午前中までは歩けていた
  • 動くと痛む。じっとしているときの痛みはない
  • 足首や足の指先を動かしても痛みはない。しびれや麻痺もない。熱もない
  • 痛みが出てから、病院にはかかっていない。数か月前に整骨院に行き、筋肉が硬くなっているのが原因であると言われた(本人の話)

結果は帰宅、区分は軽症、初診時の傷病名は椎間板ヘルニアの疑いでした。

椎間板ヘルニアとは

『MSDマニュアル家庭版』は、椎間板の中身が外へ飛び出して神経を押すと痛みが出る、と説明しています。診断をつけるのは画像検査で、「画像検査を行って診断を下します。」とあります。だから、現場で書けるのは「疑い」までなのです。

無地の段ボール箱 Q助は「重いものを持つなど、痛みが出たきっかけがありましたか?」とも聞きます。今回の記録に、きっかけの記載はありません(写真はイメージです)


2. 症状のサイン——痛みは「お尻から脚の裏」へ

MSDの「坐骨神経痛」のページに、こうあります。

痛みは腰から殿部を通って、片方の脚の裏側に感じられます。

今回の痛みの場所と重なります。ただし、記録に「坐骨神経痛」という診断名はありません。

歩いたり、走ったり、階段を上ったり、脚を伸ばしたり、ときにせきをしたり、いきんだりすると痛みが悪化し、背中を伸ばすもしくは座ると和らぎます。

椎間板ヘルニアのページにも「動かすと痛みが強くなることがよくあり」とあります。「じっとしていれば痛くない」は、軽い痛みという意味ではありません。

記録には、左脚を挙げたときに激しい痛みがあるとも残っています。これは救急隊の観察です。家庭で「足を上げて試す」ことはしないでください。家族が見るのは、歩けるか、足首や指先に力が入るか、しびれはないか、尿や便が漏れていないかです。

整骨院のこと

記録にあるのは「筋肉が硬くなっているのが原因であると言われた」という本人の話だけで、その後の経過との関係は記録にありません。責める話ではありません。MSDは腰痛について「単一の原因を診断することができない場合があります。」と書いています。原因をはっきりさせるのは、医師の診察の役目です。


3. 受診の判断——Q助の「腰痛」には入口が2つあります

消防庁の「全国版救急受診アプリ(Q助)」で「腰痛」を選ぶと、最初の画面の1つ目がこれです。

1.痛みが強くて動くことができませんか? 〔または〕 自力で病院を受診することができませんか?

「はい」なら、「いますぐ救急車を呼びましょう」。同じ画面には、次の項目もあり、6項目すべてが「いますぐ救急車」です。

4.急に足がしびれましたか? 〔または〕 足のだるさが強くなっていますか? 〔または〕 足を動かせませんか? 6.便や尿は漏れますか?

「どれにもあてはまらない」を選ぶと、次の画面には「5.腰から足へ響く痛みがありますか?」「6.歩きにくいですか?」などが並びます。ここは整形外科・救急科の側ですが、進んだ先の画面にも、「歩くことができない状態ですか?」があり、「はい」なら「いますぐ救急車」です。

Q助は、かかりつけや整形外科へ進む側の質問にも「軽い痛みで自分で移動できますか? 〔または〕 我慢できますか?」と書いています。境目に置かれているのは、痛みの数字ではなく、移動できるかどうかです。

なお、Q助が聞くのは今の症状です。4か月続く痛みは、緊急でなくても受診の対象です。MSDの「坐骨神経痛」には「筋力低下やしびれがあるか、症状が6週間以上続いている場合は、他の検査を行うこともあります。」とあります。計算すると、4か月は6週間の倍以上です。

消防庁のリーフレット『救急車を上手に使いましょう』(令和7年12月発行)の全9ページに、「腰」の字は1件も出てきません。腰の痛みで迷ったら、Q助か♯7119が頼りになります。

職場のロッカーと錠 午前中までは、歩けていました(写真はイメージです)


4. 家族へ——「軽症」でも、「呼ばなくてよかった」ではありません

① 「軽症で帰宅」は、たいしたことがなかった、ではありません

消防庁『救急救助の現況』は、軽症を「傷病程度が入院加療を必要としないもの」と定義し、こう注記しています。

傷病程度は入院加療の必要程度を基準に区分しているため、軽症の中には早期に病院での治療が必要だったものや、通院による治療が必要だったものも含まれる。

歩けない人を運ぶ必要があったことと、入院しなかったことは、別の話です。

② しびれ・脱力・尿や便の漏れ

MSDの「腰痛」のページは、次を神経の損傷や脊髄圧迫を示唆する症状としています。

しびれ、片脚または両脚の筋力低下、排尿ができない(尿閉)、尿失禁または便失禁

今回の男性に、しびれも麻痺もありませんでした。それでも歩けないので、Q助では「呼ぶ」側です。腰の痛みには血管の病気が隠れていることもあります。腰痛で始まった大動脈破裂の記事、血尿や痛みの移動を聞く尿管結石の記事もあわせてご覧ください。

③ 職場の方へ——救急隊に伝えてほしいこと

  • いつから痛いか(今回の記録では約4か月前から。通報では「数日前から」でした)
  • いつ、どう悪くなったか、しびれや尿便の漏れの有無
  • 病院や整骨院などにかかったか(本人の話のままで大丈夫です)

厚生労働省『職場における腰痛予防対策指針』の解説は、「腰痛は自覚症状としての訴えが基本的な病像」だと書き、職場の取り組みとして「上司や同僚のサポート、腰痛で休業することを受け入れる環境づくり」を挙げています。圧迫骨折で動けなくなった父の記事にもありますが、周りが見るのは「痛いか」より「どれだけ動けているか」です。

無地の手帳とペン いつから、どう痛むか。書き留めておくと、そのまま伝えられます(写真はイメージです)

窓のある病室のベッド 運ぶ必要があったことと、入院しなかったことは、別の話です(写真はイメージです)

この記事で書かなかったこと

  • 最終的な診断名と、その後の経過
  • 整骨院での施術と今回の症状との関係——記録にありません
  • 痛みの強さが何点なら救急車、という線引き——今回引いた資料に、点数の基準はありません

まとめ

  • Q助の「腰痛」は、最初の画面の1つ目で「痛みが強くて動くことができませんか?」を聞き、「はい」ならいますぐ救急車
  • MSDは、坐骨神経痛の痛みを「腰から殿部を通って、片方の脚の裏側」と説明。6週間以上続く痛みは、緊急でなくても受診の対象です
  • 軽症で帰宅は、入院しなかったという区分。「呼ばなくてよかった」という意味ではありません

窓辺のカーテンに差す光 「動けるかどうか」を、いちばんの目印に(写真はイメージです)

家庭に置いておきたい備え

ここから先は、記事の内容に関連して家庭に備えておける市販品を紹介しています。治療や診断の代わりになるものではありません。症状があるときは、まず医療機関にご相談ください。

まず、調べられる本を。

この記事の内容に関係する備え。

  • 体調記録ノート — 痛みの始まった時期、悪くなった日、しびれの有無を1行ずつ。受診や救急隊への説明がそのまま早くなります

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本記事は一般的な情報提供であり、医療診断に代わるものではありません。実際の症状については必ず医療機関にご相談ください。

参考文献

⚠️ 免責事項この記事の情報は一般的な救急知識の情報提供を目的としており、医療行為や医療診断に代わるものではありません。症状がある場合は必ず医療機関を受診してください。生命の危機を感じる症状は、迷わず119番に通報してください。

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救急のリアル 編集部

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