「吸入薬は、もう手元にありませんでした」——ひとりで待った、明け方までの息苦しさ。傷病名は「気管支喘息発作の疑い」でした

「吸入薬は、もう手元にありませんでした」——ひとりで待った、明け方までの息苦しさ。傷病名は「気管支喘息発作の疑い」でした

深夜から息苦しさを我慢し、明け方に自分で119番した80代の男性。喘息の持病はあったものの、通院できておらず、吸入薬も手元にありませんでした。傷病名は気管支喘息発作の疑い。環境再生保全機構は『高齢者のぜん息は、COPDや心臓病など、ほかの病気を合併していることが多くあります』と書き、MSDマニュアル家庭版は『服薬スケジュールを遵守していれば予後は良好』と書いています。現役救急救命士が一次資料の原文で解説します。

今日は、高齢者の「ゼーゼー」の話をします。傷病名でいうと気管支喘息発作の疑いです。

この記事は、実際にうかがった事案をもとにしています。年齢は幅で、場所や日付は書きません。救急隊は診断をしません。書く傷病名は、現場で疑ったものです。

障子越しの光が差し込む薄暗い和室 手元にあるはずの薬が、なかった夜でした(写真はイメージです)

先に、3つだけ

  • 高齢者の「ゼーゼー」は、喘息とは限りません。心臓の病気やCOPDでも、同じような音が出ます
  • 喘息の吸入薬は、症状がない日も毎日使う薬です。切れる前に、通院して受け取ってください
  • 「薬さえ手元にあれば」の夜を、家族が防げることがあります

1. 傷病名——疑われたのは「気管支喘息発作」でした

通報したのは、本人でした。深夜から息苦しさが続いていたものの、明け方近くまでひとりで我慢し、朝になってから119番しました。

80代後半の男性。気管支喘息の持病がありましたが、しばらく通院できておらず、吸入薬も手元にありませんでした。

私たちが着いたとき、意識ははっきりしていて、自分の足で立ち、歩くこともできました。呼吸は1分間に24回とやや速く、両方の肺で乾いた音(ヒューヒュー、ゼーゼーという乾性ラ音)が聞こえ、脈拍93回、SpO2(血液中の酸素)96%、熱はなし。

見た目だけなら「様子を見られる状態」に見えたかもしれません。それでも呼吸の速さと、両肺の音があり、準緊急として病院にお運びしました。

このケースの中心にあるのは、通院の中断と、吸入薬が切れていたことです。

吸入器の本体とマウスピース 通院が途切れると、薬も途切れます(写真はイメージです)


2. 症状のサイン——高齢者の「ゼーゼー」は、喘息とは限りません

環境再生保全機構(ERCA)は、「ぜん息と似ている病気」というページで、高齢者に多い合併をこう説明しています。

COPDとぜん息が合併していることもあります。とくに高齢者に多く、ぜん息とCOPDが合併していると、ぜん息が悪化する頻度が高く、QOL(生活の質)も低くなり、病気の経過(予後)も悪いことがわかっています。 (環境再生保全機構「ぜん息と似ている病気」)

そしてもう一つ、心臓の病気です。同じページに、こう書かれています。

心臓の病気(虚血性心疾患、心臓弁膜症、心筋症など)によって、発作性の呼吸困難が起こることがあり、「心臓ぜん息」とも呼ばれます。とくに60歳以上の患者さんに多いとされます。 (同)

「ゼーゼー」という音だけでは、喘息か、COPDか、心臓の病気かを区別できません。むくみのない心不全の記事でも書きましたが、脚がむくんでいなくても、肺に水がたまることがあります。

MSDマニュアル家庭版も、高齢者の診断について同じ注意を書いています。

高齢者は、息切れの原因となる他の肺疾患(慢性閉塞性肺疾患など)を患っている可能性が高いため、医師は呼吸困難がどの程度喘息と関連し、適切な喘息治療でどの程度改善するかを判断する必要があります。高齢者の診断では多くの場合、病状が改善するかどうかを確認するために喘息治療薬が短期間試されます。 (MSDマニュアル家庭版「喘息」)

「薬を使ってみて、良くなるかどうかで確かめる」のが実際のようです。現場の乾性ラ音は喘息の所見と矛盾しませんが、それだけで決めつけられるものでもありません。

誰もいない待合の椅子 原因を確かめられるのは、病院の検査です(写真はイメージです)


3. 受診の判断——Q助は「吸入薬を使っていますか」と聞きます

消防庁の「全国版救急受診アプリ(Q助)」の「息が苦しい」では、途中でこう聞かれます。

6.喘息(ぜんそく)と言われたことがありますか? 〔または〕 喘息(ぜんそく)の薬が効かなかったことがありますか?

「はい」なら「ぜんそく発作」の専用画面に進みます。最初の画面は、この2つです。

1.横になると息苦しいですか? 〔または〕 (苦しくて)座らないと息ができませんか?

2.(手持ちの)薬を使ってもまだ苦しいですか 〔または〕 苦しさがとれないですか?

どちらかに当てはまれば、その場で「いますぐ救急車を呼びましょう」です。「手持ちの薬」を前提にした質問なのに、今回の方にはその薬がありませんでした。

次の画面には、「ステロイドを飲んでいますか? 〔または〕 吸入薬を使っていますか?」を含む7つの質問が並びます。どれか1つでも当てはまると、その次に「高齢者(65歳以上)ですか?」と聞かれ、「はい」ならいますぐ救急車どれにも当てはまらなければ、同じ年齢の質問でも結果は「2時間をめやすに病院に行かれたほうが良いでしょう。」になります。

年齢と、薬や入院歴の組み合わせで判定が変わる作りです。そして、Q助のどの画面にも「通院を中断している」「薬が切れている」という選択肢はありません。電話で、自分から伝えてください。

何も書き込まれていない白紙のノート 「薬が切れている」は、自分から伝えないと届きません(写真はイメージです)


4. 家族へ——薬を切らさないために

吸入薬は、症状がないときも続ける薬です。MSDマニュアル家庭版は、喘息の見通しについてこう書いています。

重度の喘息発作により死に至ることもありますが、これらの死のほとんどは治療で予防することができます。したがって、十分な治療を受けることができ、服薬スケジュールを遵守していれば予後は良好です。 (MSDマニュアル家庭版「喘息」)

「調子がいいから」は、薬をやめていい理由にはなりません。調子がいいのは、薬が効いているからかもしれません。

高齢のぜん息患者は、家族のサポートが欠かせません。ERCAは「高齢のぜん息患者さんへ」というページで、こう書いています。

ぜん息で死亡している人の年齢をみると、89%が65歳以上の高齢者です。 (環境再生保全機構「高齢のぜん息患者さんへ」。同じページで2016年の死亡数とあわせて示されている数字です)

同じページの「ここがポイント!」には、こうもあります。

高齢者のぜん息は、COPDや心臓病など、ほかの病気を合併していることが多くあります。(中略)自己管理が必要なぜん息治療には、家族や介護者のサポートが欠かせません。 (同)

「本人が分かっているはず」ではなく、通院の予定や薬の残りを、家族も一緒に見てあげてください。

消防庁リーフレット『救急車を上手に使いましょう』の高齢者のページの「ためらわず救急車を呼んでほしい症状」には、こうあります。

急な息切れ、呼吸困難

「持病の発作だから」と自分で判断せず、まず電話してください。迷うなら♯7119も。薬の自己中断の危うさはこの記事、発作の見分け方は以前の記事に書きました。

窓の外に色づいた木の枝 季節が変わる前に。通院の予定と薬の残りは、家族も一緒に見てください(写真はイメージです)

この記事で書かなかったこと

  • この方の最終的な診断名と、その後の経過——COPDや心臓の病気との合併の有無は、病院の検査でなければ確定できません
  • 吸入薬の具体的な名前・回数、「何日分切れたら危険」という日数の基準——医師の指示によるもので、日数で線を引いた公的資料も見つけられませんでした
  • 9月・秋に発作が増えるという断定——以前の喘息発作の記事で調べた際も月別の公的統計は見つかりませんでした

まとめ

  • 高齢者の「ゼーゼー」は、喘息とは限りません。ERCAは「COPDとぜん息が合併していることもあります。とくに高齢者に多く」「『心臓ぜん息』とも呼ばれ、とくに60歳以上の患者さんに多い」と書いています
  • ERCA「ぜん息で死亡している人の年齢をみると、89%が65歳以上の高齢者です」。家族や介護者のサポートが欠かせません
  • MSD「服薬スケジュールを遵守していれば予後は良好」。症状がなくても薬はやめない・切らさないことが大切です
  • Q助は「手持ちの薬を使っても苦しい」で、いますぐ救急車。「薬が切れている」の選択肢はないので、電話で伝えてください

朝の光が差し込む枕元 ひとりで我慢した夜明けが、もう一度来ないように(写真はイメージです)

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本記事は一般的な情報提供であり、医療診断に代わるものではありません。実際の症状については必ず医療機関にご相談ください。

参考文献

⚠️ 免責事項この記事の情報は一般的な救急知識の情報提供を目的としており、医療行為や医療診断に代わるものではありません。症状がある場合は必ず医療機関を受診してください。生命の危機を感じる症状は、迷わず119番に通報してください。

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救急のリアル 編集部

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