10月に入って、飲み会が増えてきました。今日は、その席の最後に起きることの話をします。
この記事は、特定のどなたかの事案の話ではありません。典型的な形としては——店を出るころには自分で歩けなくなっていて、仲間が肩を貸して連れ出す。壁ぎわやソファに横になったら、いびきをかいて眠りはじめる。声をかけると少しうなる。「寝かせておけば、朝には覚めるだろう」と、周りの人が解散する——という形で起こります。
現役救命士として現場で見てきたからこそ言えることがあります。酔って眠っている人の前でいちばん多く選ばれている「手当て」は、何もしないことです。そして今日お伝えしたいのは、ひとつだけです。「酔っぱらいだから、寝かせておけばいい」という判断は、国の資料のどこにも書かれていません。
10月は飲み会が増える時期です(イメージ写真です)
「酔って歩けない」——傷病名は「急性アルコール中毒」です
この状態には名前がついています。傷病名は急性アルコール中毒(きゅうせいアルコールちゅうどく)です。
MSDマニュアル家庭版は、アルコールが体に何をするかをこう書いています。
アルコール(エタノール)は、中枢神経系の機能を抑制します(脳と神経系の働きを遅くします)。急激または定期的に大量の飲酒をすると、臓器の損傷、昏睡、死亡などの健康上の問題を引き起こす可能性があります。 (MSDマニュアル家庭版「アルコール使用」)
抑制する、つまり働きを遅くする薬物です。元気に見えるのは、抑えがきかなくなった結果のほうです。同じページは、酔った人が社交的でおしゃべりにみえても記憶はほとんど残っていないことがある、とも書いています。
酔っているように見えて、実際には頭を打っている、血糖が下がっている、脳の病気が起きている——ということもあります。これは医師が診察で区別することです。家庭でこれを試して自分で結論を出さないでください。その理由が、MSDの診断の項に書かれています。
医師は、単に呼気にアルコールが検出されたからといって、ほかに異常はないとは考えません。 (MSDマニュアル家庭版「アルコール使用」)
酒のにおいは、ほかに何も起きていないことの証明にはなりません。医師でもそう扱わないものを、家族が決めてしまうのは順番が逆です。
しゃべれていることは、安全の証明にはなりません(イメージ写真です)
急性アルコール中毒とは——眠っていることが、いちばん危ない
では、眠っている間に何が起こりうるのか。MSDはこう書いています。
中等度から重度のアルコール中毒では嘔吐がよくみられます。非常に眠くなるため、嘔吐物が肺に入り(誤嚥)、肺炎を起こし死亡する場合もあります。 (MSDマニュアル家庭版「アルコール使用」)
ここが大事なところです。危険なのは「吐くこと」ではなく、「吐くほど眠い」という組み合わせです。普段なら、吐きそうになれば起きて顔を横に向け、せき込んで吐き出します。その動きができないから、吐いたものが肺のほうへ入る。仰向けで放っておくと、その条件がそろいます。
家庭でできる「酔いを覚ます方法」については、こう書かれています。
急性アルコール中毒に対する特別な解毒剤はありません。コーヒー、水分、ビタミン、その他の療法は、酔いをさますのに役立ちません。 (MSDマニュアル家庭版「アルコール使用」)
コーヒーを飲ませる、水を飲ませる——役に立たないと名指しで書かれています。吐かせる、歩かせる、風呂に入れるも、この記事で使った資料のどこにも出てきません。やれることが無いのではなく、やれることは別にあるという話です(最後の章で書きます)。
吐くほど眠い、という組み合わせが危険です(イメージ写真です)
「酔っ払い」という入口がないアプリ——受診の判断
総務省消防庁の「全国版救急受診アプリ(Q助)」は、質問に答えて受診の目安を出すアプリで、病名を判定するものではありません。
このアプリの症状一覧を最後まで見ても、「酔っ払い」「酔っている」「急性アルコール中毒」という入口はありません。アルコールは、ほかの症状の中の一項目としてしか出てきません。つまり国のアプリは、酔いを酔いとして扱わず、意識の状態として評価します。
症状を選ぶ前に、4つの前置きの質問があります。4つめは「しっかりと受け答えが出来ますか?」です。ここで「いいえ」を選ぶと、症状を選ぶ画面を通らずに、そのまま「意識がおかしい」に進みます。酔って受け答えがあやしい人は、この時点でもう意識障害として扱われています。
その最初の画面は全16項目で、どれか1つでも当てはまれば「いますぐ救急車を呼びましょう」です。13番目がこれです。
13.大量に酒を飲んだばかりですか? 〔または〕 その可能性がありますか? (全国版救急受診アプリ「Q助」総務省消防庁)
受け答えがあやしく、大量に酒を飲んだばかり。それだけで「いますぐ救急車」に行き着きます。「その可能性がありますか?」まで含むので、何をどれだけ飲んだか分からなくても当てはまります。同じ16項目には「話し方がおかしいですか?ろれつが回りませんか?」「頭を打った後ですか?」「吐きましたか?」もあり、すべて「いますぐ救急車」です。
16項目のどれにも当てはまらなかったときだけ、次の画面に進みます。そこで初めてアルコール依存症かどうかを聞かれ、その先で「歩くことができない状態ですか?」に当てはまれば、やはり「いますぐ救急車」。当てはまらなくても、2時間をめやすの受診でした。この経路に「様子をみて受診」はありません。酔って歩けないは、救急車の側です。
薬を飲んだうえで酒を飲んだ場合は、別の入口「薬をたくさん飲んだ・間違った薬を飲んだ(大人・こども)」でも「7.飲酒しましたか?」と聞かれ、これも「いますぐ救急車」です(誤薬の記事で書きました)。
飲んだあとに避けることも書かれています。『救急蘇生法の指針2025(市民用)』は「お風呂での心停止」の注意の2番目でこう書いています。
②食後すぐや飲酒後、眠気を催す薬を服用した後の入浴は避けましょう。 (日本救急医療財団『救急蘇生法の指針2025(市民用)』p.16)
酔いを覚まさせようと風呂に入れる、は指針が避けるほうに書いている行為です。同じ指針は、低体温症の説明でも飲酒を名指ししています。
けがで動けなくなったときや、お酒や眠気を催す薬を飲んだ後に、屋内・屋外にかかわらず寒いところに長時間いると低体温症になります。 (日本救急医療財団『救急蘇生法の指針2025(市民用)』p.17)
屋内・屋外にかかわらず、です。10月の夜、玄関やベランダ、車の中で寝てしまう形です。体が冷えて動けなくなる話は低体温症の記事に、お風呂そのものの危なさは入浴中の事故の記事に分けて書きました。
飲んだあと寒いところで眠ることは、指針が名指ししています(イメージ写真です)
横向きにしたら、そのあと観察を続けます(イメージ写真です)

