食事のあと、父がふらついて座り込む——名前は「食後低血圧」。立ちくらみとは、起きる時間が違います
家族を守る

食事のあと、父がふらついて座り込む——名前は「食後低血圧」。立ちくらみとは、起きる時間が違います

食後低血圧は、食後に血圧が過度に低下する状態で、MSDマニュアル家庭版は高齢者では3人に1人という高い頻度で起きると書いています。立ち上がったときの立ちくらみとは別のものです。MSDマニュアル、救急蘇生法の指針2025、消防庁のリーフレットとQ助の原文から、起きる仕組み、家庭で記録できること、そして薬は自己判断で変えずかかりつけ医に相談すべき理由を解説します。

食事のあとに、高齢の家族がふらついて座り込む。立ち上がったときではなく、食べたあとに。今日は、その病気の名前を知っておく話です。

この記事は、特定のどなたかの事案の話ではありません。公的な資料と医学書の原文から、食後に起きるふらつきについて分かっていることをまとめました。救急隊は診断をしません。

黒い木目の食卓に置かれた、食べ終えた和食の器 「食べたあと」に起きるふらつきには、名前があります(写真はイメージです)

先に、3つだけ

  • 食後に血圧が過度に下がる「食後低血圧」があります。MSDマニュアルは、高齢者では3人に1人という高い頻度で起きる、と書いています
  • 立ちくらみ(起立性低血圧)とは、起きるタイミングが違います。座ったままでも起こりえます
  • 血圧の薬は、自己判断でやめたり、飲む時間を変えたりしないでください。変えるかどうかを決めるのは、かかりつけ医です

1. 傷病名は「食後低血圧」——立ちくらみとは、起きるタイミングが違います

MSDマニュアル家庭版「食後低血圧」には、こう書かれています。

食後低血圧とは、食後に血圧が過度に低下する状態です。めまい、ふらつき、転倒などの症状がみられます。 (MSDマニュアル家庭版「食後低血圧」)

MSDマニュアルは米国で書かれた医学書の日本語版です。

頻度については、こう書かれています。

食後低血圧は、高齢者では3人に1人という高い頻度で起きますが、若年者ではほとんどみられません。 (同)

「3人に1人」はMSDの記述で、日本国内の数字ではありません。国内の数字は、確認できる公的な統計が見つからなかったので書きません。

立ちくらみ(起立性低血圧)は立ち上がったときの話で、食後低血圧は食べたあとの話です。きっかけが「立つこと」ではなく「食べること」なので、座っていても起こりえます。

2. なぜ食後に起きるのか——血液が腸に集まる、という仕組み

MSDマニュアルは、仕組みをこう書いています。

腸が食物を消化するには大量の血液が必要になります。そのため食後に血液が腸に集まると、全身の血圧を維持しようとして心拍数が上昇し、腸以外の部分の血管が収縮しますが、一部の高齢者では、このような仕組みが十分に機能しないことがあります。 (同)

起こしやすい人についても、こうあります。

特に食後低血圧を起こしやすいのは、血圧が高い人と、自律神経系(体内の機構を調節している神経系)を制御している脳の中枢に異常が出る病気がある人です。そのような病気の例としては、パーキンソン病、多系統萎縮症、糖尿病などがあります。 (同)

血圧が高い人が入っています。ご家族が高血圧で治療中なら、気に留めてください。

ひざ掛けが置かれた、無人のソファ 消化のために血液が腸へ集まる、その「あと」の話です(写真はイメージです)

3. 家庭で確かめること——食前と食後に血圧を測る

何が起きていたのかを確かめる方法も、MSDに書かれています。

食後低血圧では、めまい、ふらつき、気が遠くなる、転倒などが起こります。高齢者で食後にこのような症状がみられた場合は、食前と食後の血圧を測定して、原因が食後低血圧かどうかを確かめる必要があります。 (同)

食前と食後の血圧を比べるのが手がかりです。血圧計があれば、食前と、食後にふらつくと感じたときの血圧を、時刻とあわせてメモしてください。

  • 食後何分後に測るか、何mmHg下がったら食後低血圧か、はMSDの当該ページに書かれていません
  • ふらつく最中に、測るために立たせたり歩かせたりしないでください

4. 家族へ——倒れたときと、倒れる前にできること

ふらついたとき、倒れたとき

救急蘇生法の指針2025(市民用)は、失神についてこう書いています。

失神しそうだと感じたり、以前に失神したときと同じような感じがしたら、立った状態ではなく、床や地面に座るか、横になることが大切です。 (救急蘇生法の指針2025 市民用)

失神は命の危険がある病気の症状の一つでもあるので、意識が戻っても病院を受診するようにします。 (同)

食後のふらつきでも、まず立たせず、座るか横にする。意識が戻っても、様子見で終わりにしないことです。

呼びかけても反応がないときは、別の手順になります。指針2025は、反応の有無に迷う場合も心停止の可能性を考え、応援を呼んで119番通報とAEDの手配に進むよう書いています。

薬は、自己判断で変えない

MSDマニュアルの原文には、こうあります。

食後低血圧の症状がみられる人は、食前に降圧薬を服用しないようにし、食後は横になって休む必要があります。 (MSDマニュアル家庭版「食後低血圧」)

この一文を読んで、「薬を食後にずらそう」「ふらつくからやめよう」と考えないでください。これは、症状を調べた医師が、その人の持病や薬の種類、血圧の変わり方を見たうえで決める治療の話です。

  • 自己判断で、血圧の薬をやめたり、量を変えたり、飲む時間を変えたりしない
  • ふらつきが食後に起きていることを、かかりつけ医に伝えて、相談する
  • 飲んでいるものをお薬手帳にまとめておく

119番を呼ぶ目安——Q助と消防庁リーフレットは、こう書いています

「食後だから食後低血圧だろう」と決めつけるのは危険です。原因はほかにもあります。

消防庁の全国版救急受診アプリ「Q助」の「めまい・ふらつき」には、最初に12の設問があります。そのうちどれか1つでも当てはまると、結果は「いますぐ救急車を呼びましょう」になります(プロトコルの原文で、12個すべてが「119番」の結果につながっています)。その中から、この話に近いものを原文のまま挙げます。

6.高血圧の治療中ですか? 〔または〕 高血圧と言われたことがありますか? 12.めまいやふらつきが起こったのは突然ですか? (総務省消防庁「全国版救急受診アプリ(Q助)」)

ほかにも「歩行や移動ができませんか?」「しゃべりにくいですか?」「胸の痛みがありますか?」があり、すべて同じ結果です。当てはまるなら、食後のふらつきと決めつけないでください。なお、Q助の「めまい・ふらつき」「意識がおかしい」に、食事や食後を聞く設問はありませんでした。

消防庁のリーフレット「救急車を上手に使いましょう」には、「めまい」「失神」「血圧」という言葉も、「食後」という言葉も出てきません。ただ、高齢者のページの「頭」の欄に、次の項目があります。

急にふらつき、立っていられない (消防庁リーフレット「救急車を上手に使いましょう」高齢者のページ)

おとなのページには「支えなしで立てないぐらい急にふらつく」があります。迷ったら、救急相談窓口(♯7119等)にも相談できます。

白紙の方眼ノートとペン 食前と食後の血圧は、時刻とあわせてメモしておくと診察で役立ちます(写真はイメージです)

この記事で書かなかったこと

  • 日本国内の患者数(公的な統計が見つかりませんでした)、「何mmHg下がったら」という基準、食後何分後に測るか(MSDの当該ページに書かれていません)
  • 薬の飲み方の調整、食事の工夫、薬による治療(家庭で試す話ではなく、医師の判断だからです)

まとめ

  • 食後低血圧は、食後に血圧が過度に低下し、めまい・ふらつき・転倒が起こるものです(MSD)
  • 食前と食後の血圧を時刻とともにメモし、かかりつけ医に見せる
  • ふらつくときは立たせず、座るか横にする。意識が戻っても受診する(指針2025)
  • 血圧の薬は、自己判断でやめたり時間を変えたりしない。変えるのは医師です
  • Q助「めまい・ふらつき」は12設問すべてが「いますぐ救急車」。「食後だから」と決めつけない

あわせて読みたい

階段の壁に取り付けられた木の手すりと、床に差す光 ふらついたとき、つかまれるものがあるだけで違います(写真はイメージです)

窓辺に置かれた枕と布団 食後の片づけは、少し休んでからでも間に合います(写真はイメージです)

家庭に置いておきたい備え

ここから先は、記事の内容に関連して家庭に備えておける市販品を紹介しています。治療や診断の代わりになるものではありません。症状があるときは、まず医療機関にご相談ください。

まず、調べられる本を。

この記事の内容に関係する備え。

  • 上腕式の家庭用血圧計 — 食前と食後の血圧を、同じ道具で記録しておくために。測り方や基準は、かかりつけ医にご確認ください
  • 血圧手帳 — 日時、食前か食後か、ふらつきの有無をまとめて見せられます
  • お薬手帳ケース — 飲んでいる薬を、受診のときすぐ出せるように

Amazonのアソシエイトとして、救急のリアルは適格販売により収入を得ています。

参考文献

⚠️ 免責事項この記事の情報は一般的な救急知識の情報提供を目的としており、医療行為や医療診断に代わるものではありません。症状がある場合は必ず医療機関を受診してください。生命の危機を感じる症状は、迷わず119番に通報してください。

関連記事

「手をついて転んだだけです」——手首が腫れて、指がしびれてきた。傷病名は「橈骨遠位端骨折」でした
家族を守る

「手をついて転んだだけです」——手首が腫れて、指がしびれてきた。傷病名は「橈骨遠位端骨折」でした

続きを読む →
「久しぶりに会ったら、歩き方が変だった」——傷病名は「慢性硬膜下血腫」でした
家族を守る

「久しぶりに会ったら、歩き方が変だった」——傷病名は「慢性硬膜下血腫」でした

続きを読む →
盆休みの帰省で高齢の親に確認したい救急5チェック——『いつもの様子』を医療のサインに翻訳する
家族を守る

盆休みの帰省で高齢の親に確認したい救急5チェック——『いつもの様子』を医療のサインに翻訳する

続きを読む →

記事内容に誤りを発見された場合はこちらからご連絡ください(訂正依頼を選択してください)

現役救命士 hiro のアバター

この記事の執筆・監修

現役救命士 hiro

救急の現場から、家族を守るための情報を発信しています

患者さんとご家族のプライバシーを守るため、本名・所属・勤務地域は公開していません。 記事は総務省消防庁・厚生労働省などの公的な一次資料の原文を確認したうえで書き、 出典は各記事の末尾にすべて記載しています。

運営者・監修者について →