食事のあとに、高齢の家族がふらついて座り込む。立ち上がったときではなく、食べたあとに。今日は、その病気の名前を知っておく話です。
この記事は、特定のどなたかの事案の話ではありません。公的な資料と医学書の原文から、食後に起きるふらつきについて分かっていることをまとめました。救急隊は診断をしません。
「食べたあと」に起きるふらつきには、名前があります(写真はイメージです)
先に、3つだけ
- 食後に血圧が過度に下がる「食後低血圧」があります。MSDマニュアルは、高齢者では3人に1人という高い頻度で起きる、と書いています
- 立ちくらみ(起立性低血圧)とは、起きるタイミングが違います。座ったままでも起こりえます
- 血圧の薬は、自己判断でやめたり、飲む時間を変えたりしないでください。変えるかどうかを決めるのは、かかりつけ医です
1. 傷病名は「食後低血圧」——立ちくらみとは、起きるタイミングが違います
MSDマニュアル家庭版「食後低血圧」には、こう書かれています。
食後低血圧とは、食後に血圧が過度に低下する状態です。めまい、ふらつき、転倒などの症状がみられます。 (MSDマニュアル家庭版「食後低血圧」)
MSDマニュアルは米国で書かれた医学書の日本語版です。
頻度については、こう書かれています。
食後低血圧は、高齢者では3人に1人という高い頻度で起きますが、若年者ではほとんどみられません。 (同)
「3人に1人」はMSDの記述で、日本国内の数字ではありません。国内の数字は、確認できる公的な統計が見つからなかったので書きません。
立ちくらみ(起立性低血圧)は立ち上がったときの話で、食後低血圧は食べたあとの話です。きっかけが「立つこと」ではなく「食べること」なので、座っていても起こりえます。
2. なぜ食後に起きるのか——血液が腸に集まる、という仕組み
MSDマニュアルは、仕組みをこう書いています。
腸が食物を消化するには大量の血液が必要になります。そのため食後に血液が腸に集まると、全身の血圧を維持しようとして心拍数が上昇し、腸以外の部分の血管が収縮しますが、一部の高齢者では、このような仕組みが十分に機能しないことがあります。 (同)
起こしやすい人についても、こうあります。
特に食後低血圧を起こしやすいのは、血圧が高い人と、自律神経系(体内の機構を調節している神経系)を制御している脳の中枢に異常が出る病気がある人です。そのような病気の例としては、パーキンソン病、多系統萎縮症、糖尿病などがあります。 (同)
血圧が高い人が入っています。ご家族が高血圧で治療中なら、気に留めてください。
消化のために血液が腸へ集まる、その「あと」の話です(写真はイメージです)
3. 家庭で確かめること——食前と食後に血圧を測る
何が起きていたのかを確かめる方法も、MSDに書かれています。
食後低血圧では、めまい、ふらつき、気が遠くなる、転倒などが起こります。高齢者で食後にこのような症状がみられた場合は、食前と食後の血圧を測定して、原因が食後低血圧かどうかを確かめる必要があります。 (同)
食前と食後の血圧を比べるのが手がかりです。血圧計があれば、食前と、食後にふらつくと感じたときの血圧を、時刻とあわせてメモしてください。
- 食後何分後に測るか、何mmHg下がったら食後低血圧か、はMSDの当該ページに書かれていません
- ふらつく最中に、測るために立たせたり歩かせたりしないでください
4. 家族へ——倒れたときと、倒れる前にできること
ふらついたとき、倒れたとき
救急蘇生法の指針2025(市民用)は、失神についてこう書いています。
失神しそうだと感じたり、以前に失神したときと同じような感じがしたら、立った状態ではなく、床や地面に座るか、横になることが大切です。 (救急蘇生法の指針2025 市民用)
失神は命の危険がある病気の症状の一つでもあるので、意識が戻っても病院を受診するようにします。 (同)
食後のふらつきでも、まず立たせず、座るか横にする。意識が戻っても、様子見で終わりにしないことです。
呼びかけても反応がないときは、別の手順になります。指針2025は、反応の有無に迷う場合も心停止の可能性を考え、応援を呼んで119番通報とAEDの手配に進むよう書いています。
薬は、自己判断で変えない
MSDマニュアルの原文には、こうあります。
食後低血圧の症状がみられる人は、食前に降圧薬を服用しないようにし、食後は横になって休む必要があります。 (MSDマニュアル家庭版「食後低血圧」)
この一文を読んで、「薬を食後にずらそう」「ふらつくからやめよう」と考えないでください。これは、症状を調べた医師が、その人の持病や薬の種類、血圧の変わり方を見たうえで決める治療の話です。
- 自己判断で、血圧の薬をやめたり、量を変えたり、飲む時間を変えたりしない
- ふらつきが食後に起きていることを、かかりつけ医に伝えて、相談する
- 飲んでいるものをお薬手帳にまとめておく
119番を呼ぶ目安——Q助と消防庁リーフレットは、こう書いています
「食後だから食後低血圧だろう」と決めつけるのは危険です。原因はほかにもあります。
消防庁の全国版救急受診アプリ「Q助」の「めまい・ふらつき」には、最初に12の設問があります。そのうちどれか1つでも当てはまると、結果は「いますぐ救急車を呼びましょう」になります(プロトコルの原文で、12個すべてが「119番」の結果につながっています)。その中から、この話に近いものを原文のまま挙げます。
6.高血圧の治療中ですか? 〔または〕 高血圧と言われたことがありますか? 12.めまいやふらつきが起こったのは突然ですか? (総務省消防庁「全国版救急受診アプリ(Q助)」)
ほかにも「歩行や移動ができませんか?」「しゃべりにくいですか?」「胸の痛みがありますか?」があり、すべて同じ結果です。当てはまるなら、食後のふらつきと決めつけないでください。なお、Q助の「めまい・ふらつき」「意識がおかしい」に、食事や食後を聞く設問はありませんでした。
消防庁のリーフレット「救急車を上手に使いましょう」には、「めまい」「失神」「血圧」という言葉も、「食後」という言葉も出てきません。ただ、高齢者のページの「頭」の欄に、次の項目があります。
急にふらつき、立っていられない (消防庁リーフレット「救急車を上手に使いましょう」高齢者のページ)
おとなのページには「支えなしで立てないぐらい急にふらつく」があります。迷ったら、救急相談窓口(♯7119等)にも相談できます。
食前と食後の血圧は、時刻とあわせてメモしておくと診察で役立ちます(写真はイメージです)
ふらついたとき、つかまれるものがあるだけで違います(写真はイメージです)
食後の片づけは、少し休んでからでも間に合います(写真はイメージです)

