小さな子どもが熱を出した。かぜだと思っていた。ところが熱が下がらないまま、日が過ぎていく。今日はその話をします。
この記事は、特定のどなたかの事案の話ではありません。典型的な形としては——1歳から5歳くらいの子どもが38℃を超える熱を出す。解熱薬を使っても、下がりきらない。2日目に目が赤くなる。3日目、4日目に体やおむつのあたる部分に赤い発疹が出てくる。唇が赤く乾いてひび割れ、舌が赤くザラザラしてくる。首のつけ根がぽっこり腫れている。それでも機嫌が悪いだけに見えるので、家族は「かぜが長引いている」と考える——という形で起こります。
現役救命士として子どもの発熱の現場に行ってきた経験から言うと、こういうときに家族がいちばん気にするのは体温の数字です。けれどこの病気で見てほしいのは、高さではなく下がらないまま日が過ぎていることと、熱のほかに何が増えてきたかです。そして今日いちばんお伝えしたいのは、ひとつだけです。この病気は治療に適した時期があり、早く治療すれば心臓の合併症のリスクが下がります。
熱が下がらないまま、日だけが過ぎていきます(イメージ写真です)
かぜだと思って日が過ぎる——傷病名は「川崎病」でした
MSDマニュアル家庭版「川崎病」は、熱の始まり方をこう書いています。
通常は38℃を超える発熱で始まり、5日間以上続きます。熱を下げる薬剤(アセトアミノフェンやイブプロフェンなど)を投与しても、小児の体温は正常に戻りません。 (MSDマニュアル家庭版「川崎病」)
ここに家族が足をとられる理由が書いてあります。解熱薬を使っても下がらないのです。「効きが悪い」「こじらせた」という受け取り方になります。これは家庭で薬を試して確かめる話ではありません。すでに使っていて下がらないなら、その事実をそのまま医師に伝えてください。
目の変化も、はっきり書かれています。
発症から1~2日のうちに眼が赤くなりますが眼から分泌物は出ません。 (MSDマニュアル家庭版「川崎病」)
目やにが出ないので、結膜炎として眼科に向かう流れにもなりにくい。そのあと唇は赤く乾いてひび割れ、赤い舌がイチゴのように見えてきます。手のひらと足の裏も赤くなり、しばしば手足が腫れます。首のリンパ節が腫れることも多くなります。
何日続いているか。それがいちばんの情報になります(イメージ写真です)
この記事の軸はここです。MSDは治療の項にこう書いています。
川崎病の治療はできるだけ早く開始されます。症状が現れてから10日以内に治療を行えば冠動脈疾患のリスクは有意に低くなり、発熱、発疹、不快感の消失も早まります。 (MSDマニュアル家庭版「川崎病」)
「10日以内」という時間が書かれている病気です。だから「かぜだと思って様子を見る」が、そのまま時間の消費になります。
川崎病とは——全身の血管に炎症が起こる病気です
川崎病は、全身の血管の壁に炎症(血管炎)が起こる病気です。MSDは、最も深刻な問題を招くのは心臓の血管の炎症だと書いています。原因は不明で、なりやすい体質の子どもに何らかの感染が加わって異常な免疫反応が起きるのではないかと考えられています。
たいてい1~5歳の子どもに起こります。まれに生後4カ月未満の乳児や、青年・成人にみられることもあります。最も多いのは春か冬です。そしてMSDには、日本に住む私たちに関係の深い一行があります。
この病気は日系の小児により多くみられます。 (MSDマニュアル家庭版「川崎病」)
熱が下がったら終わり、という病気ではありません。ここが二つめの落とし穴です。
小児の場合、治療しなければ、通常は発症から1~4週間後に心臓の問題が発生します。 (MSDマニュアル家庭版「川崎病」)
少数の子どもに、冠動脈瘤(心臓の血管の壁にできた膨らみ)が発生します。MSDは、これが破裂したり血栓の原因になったりして、心臓発作や突然死を招くと書いています。一方で治療により、心臓の合併症のリスクは大幅に低下します。症状は2~12週間続くこともあります。つまり熱が下がった時点は、ゴールではなく途中です。
水分がとれているかは、家庭で見ておける手がかりです(イメージ写真です)
診断については、MSDが基準を書いています。
小児に5日以上続く38℃以上の発熱があり、以下の5つの症状のうち少なくとも4つがみられれば、川崎病と診断されます。 (MSDマニュアル家庭版 表「川崎病の診断」)
この表に並んでいる症状は、数えると5つです。ただし——これは医師が診断を下すときに使う基準です。家庭でこの項目を数えて、自分で結論を出すためのものではありません。とくに、「まだ5日たっていないから川崎病ではない」とは読まないでください。家庭の役割は、熱が下がらないことと、熱のほかに何が増えてきたかを医師に見せ続けることです。
MSDは、よく似た見た目になる別の病気も挙げています。
同様の症状を引き起こすその他の病気(麻疹[はしか]、猩紅熱、若年性特発性関節炎、小児多系統炎症性症候群[MIS-C]など)を否定するため、血液検査、尿検査、胸部X線検査や血液とのどの培養検査も行われます。 (MSDマニュアル家庭版「川崎病」)
これは医師が診察と検査で区別することです。家庭でこれを試して自分で結論を出さないでください。血液検査や培養検査が必要だと原文が書いているのは、見た目では分けられないからです。
治療は、免疫グロブリンを点滴で、アスピリンを飲み薬で使います。これは医療機関で行う治療の話であって、家庭で子どもに飲ませる薬を選ぶ話ではありません。量や使い方は書きません。
避けるには——予防ではなく「遅れないこと」
原因が分かっていない病気なので、「こうすれば川崎病にならない」という避け方はありません。避けられるのは、病気ではなく遅れです。
総務省消防庁の全国版救急受診アプリ「Q助」をこどもの入口からたどりました。「症状選択(こども)」には32の入口が並び、「発熱」を選ぶと最初の画面(A004171)は2項目です。「意識がもうろうとしていますか?」「興奮していますか?〔または〕あばれていますか?」——どちらも'いますぐ救急車を呼びましょう'。
どちらにもあてはまらないと、次の画面(A004172)に進みます。ここは18項目あり、生後3カ月未満の38℃以上、8時間以上うとうとしている、ぐったりしている、水分がとれていないといった項目が'できるだけ早めに医療機関を受診しましょう(2時間をめやす)'になっています。
ここで大事なことが二つあります。ひとつは、この18項目に「熱が何日続いているか」を聞く項目が一つもないことです。もうひとつは、18項目のどれにもあてはまらなかったときの行き先が'緊急ではありませんが医療機関を受診しましょう'(夜間なら翌日の診察でもかまわない、小児科・かかりつけ)であることです。つまりこどもの発熱の入口には、'引き続き、注意して様子をみてください'に行き着く道がありません。
熱以外に何が増えたか、順番と日付を持っていってください(イメージ写真です)
さらに、A004172の16番目に「全身(体の広い範囲)が赤いですか?〔または〕発疹はありますか?」という項目があり、ここを選ぶと「発疹」の画面に移ります。発疹の1枚目(A004231)は顔の腫れや呼吸の苦しさなど5項目で、全部が'いますぐ救急車'。どれにもあてはまらないと2枚目(A004232)に進み、その9項目のなかにこう書かれています。
7.舌にイチゴのようなザラザラがみられますか? 8.眼や唇が真っ赤ですか? (総務省消防庁「全国版救急受診アプリ(Q助)」こども・発疹 A004232)
国のアプリが、川崎病の症状を家庭の言葉で名指しで聞いています。どちらも選んだ時点で'できるだけ早めに医療機関を受診しましょう'(2時間をめやす、小児科)に落ちます。病名はどこにも出てきませんが、国の判定でも様子を見る側ではないということです。
一方、日本救急医療財団『救急蘇生法の指針2025(市民用)』は全69ページで、「川崎病」は単純検索・ルビ分断を許す検索ともに0件でした。市民向けの応急手当の指針なので、この病気は扱われていません。
熱の高さは、この病気の重さを表しません(イメージ写真です)

