高齢の家族の膝が、昨日まで何でもなかったのに、急に腫れて熱を持っている。「痛風だろう」と思った。今日はその話をします。
この記事は、特定のどなたかの事案の話ではありません。典型的な形としては——70代、80代の人の膝や手首が、けがをした覚えもないのに一晩のうちに腫れ、さわると熱い。痛くて曲げられない。熱も少し出ている。家族は「足の親指じゃないけど、痛風かな」と考える。あるいは「年だから」で済ませてしまう。
寒くなってから、動かしづらさに気づくことがあります(イメージ写真です)
はじめにお伝えしておきます。救急隊は診断をしません。ここから先は、医学資料と公的機関の原文に書いてあることだけを並べます。そしてこの記事では、痛風と偽痛風の見分け方をお伝えしません。資料がそれを家庭の仕事として書いていないからです。
膝や手首が急に腫れて熱を持つ——傷病名は「偽痛風」
『MSDマニュアル家庭版』の「ピロリン酸カルシウム沈着症」(最終更新 2025年7月)から。この病気のかっこ書きの別名が、そのまま「偽痛風」です。
ピロリン酸カルシウム沈着症の症状は様々です。一部の患者では、痛風に似た、痛みを伴う関節の炎症(関節炎)の発作が、通常は膝、手首、その他の比較的大きな関節に起こります。 (MSDマニュアル家庭版「ピロリン酸カルシウム沈着症」)
通常は膝、手首、その他の比較的大きな関節。痛風の発作がもっとも多いのは足の親指の付け根ですが、こちらは出る場所の傾向が違います。ただし「膝なら偽痛風」とは言えません。場所で決める話ではないのです。
痛風発作に比べて、ピロリン酸カルシウム沈着症による発作は強度が多様で、持続時間が長くなる傾向があり、しばしば治療が難しくなります。痛風と同様に、ピロリン酸カルシウム沈着症の発作では発熱することもあります。 (MSDマニュアル家庭版「ピロリン酸カルシウム沈着症」)
持続時間が長く、発熱することもある。痛いのは関節なのに、熱が出る。これがあとで大事になります。
膝や手首が急に腫れて、熱を持ちます(イメージ写真です)
「偽痛風」(ピロリン酸カルシウム沈着症)とは
ピロリン酸カルシウム沈着症(CPPD)(以前は偽痛風またはCPP結晶誘発性関節炎と呼ばれていました)は、関節の軟骨にピロリン酸カルシウムの結晶が沈着することで起きる病気で、痛風に似た、痛みを伴う間欠的な関節炎の発作や、関節リウマチに似た慢性の関節炎を引き起こします。 (MSDマニュアル家庭版「ピロリン酸カルシウム沈着症」)
関節の軟骨(骨の端をおおっているやわらかい組織)に結晶がたまる。痛みの出どころは、関節の中の結晶です。痛風は尿酸の結晶で、別の物質です。
CPP結晶誘発性関節炎は、通常は高齢者にみられ、男女差はありません。 (MSDマニュアル家庭版「ピロリン酸カルシウム沈着症」)
通常は高齢者にみられる。ただし「年のせいだから放っておける」という意味ではありません。急に腫れて熱を持った関節は、速やかに診てもらう側の症状です。
MSDは結晶のできやすい人の条件に、過去の関節の損傷(手術を含む)や高齢とならんで痛風も挙げています。「前に痛風と言われたから、今回も痛風だ」とも言えません。
確定するのは、関節液です
ピロリン酸カルシウム沈着症は、関節炎がある高齢者で、特に関節に腫れ、熱感、痛みが断続的にみられる場合に疑われます。医師は、炎症を起こしている関節から、関節液のサンプルを針で採取(関節穿刺)して診断を確定します。関節液にはピロリン酸カルシウムの結晶が認められます。これは、特別な偏光顕微鏡を用いることで、尿酸結晶(痛風を引き起こす結晶)と見分けることが可能です。 (MSDマニュアル家庭版「ピロリン酸カルシウム沈着症」)
痛風の結晶と区別できるのは、関節の液を採って特別な顕微鏡で見たときです。関節穿刺は、関節に針を刺して液を採る検査です。
腫れた場所が足の親指か膝かも、熱があるかないかも、家庭で痛風と偽痛風を切り分ける材料にはなりません。これは医師が検査で区別することです。家庭でこれを試して自分で結論を出さないでください。
足の親指ではないから痛風ではない、とは決められません(イメージ写真です)
受診の目安——「警戒すべき徴候」と、感染の可能性
同じ『MSDマニュアル家庭版』の「関節痛:1つの関節」(最終更新 2025年4月)に、受診の目安が書かれています。MSDは、1つの関節に突然痛みが生じる原因でもっとも多いものを3つ挙げています。けが、感染症、関節内の結晶(結晶誘発性関節炎)です。偽痛風は3番目。そして2番目について、こう続きます。
どの年齢層でも、最も危険な原因は急性感染性関節炎です。感染性関節炎は、関節内の構造を数時間以内に損傷することがあり、それが永続的な関節炎につながる可能性があります。 (MSDマニュアル家庭版「関節痛:1つの関節」)
数時間以内。感染性関節炎は、関節の中に細菌などが入って起きる関節炎です(化膿性関節炎とも呼ばれます)。熱については、こうあります。
発熱は、ほとんどの場合は感染性関節炎か結晶誘発性関節炎が原因です。 (MSDマニュアル家庭版「関節痛:1つの関節」)
この2つは、同じ欄に並んでいます。関節が腫れて熱も出ているとき、考えられるのは偽痛風だけではありません。家庭では、この2つを区別できません。これは医師が検査で区別することです。家庭でこれを試して自分で結論を出さないでください。
「警戒すべき徴候」
MSDは「警戒すべき徴候」として7つを挙げています。最初の4つを引きます。
突然痛くなったか、痛みがひどいとき 関節の発赤、熱感、腫れ、動きの制限 発熱 関節の近くの皮膚が破れていたり、赤くなったり、熱っぽかったり、押すと痛かったりするとき (MSDマニュアル家庭版「関節痛:1つの関節」)
残りの3つは、出血性疾患や抗凝固薬(血液をサラサラにする薬)のこと、関節以外にも突然病気になった感じがするとき、性感染症の可能性です。
急に腫れて、熱くて、赤くて、動かせない。熱もある。これで2つめと3つめに当てはまります。要点の欄にも、こうあります。
関節に突然痛みと腫れが起きた人は、感染性関節炎があった場合に速やかに治療できるように、できるだけ速やかに医師の診察を受ける必要があります。 (MSDマニュアル家庭版「関節痛:1つの関節」)
発熱をともなう関節の腫れは、その日のうちに相談してください(イメージ写真です)
Q助がたどらせる道
総務省消防庁の「全国版救急受診アプリ(Q助)」は、自分で答えて受診の目安を出すアプリで、病名を判定するものではありません。「偽痛風」の語はありませんが、膝は名指しで出てきます。
大人の症状選択には「足(太もものつけ根から足首)の問題(大人・こども)」という入口があります。最初の画面は3項目で、どれかに当てはまれば「いますぐ救急車を呼びましょう」。当てはまらないと次の画面(全4項目)に進み、その1番目と2番目がこれです。
1.関節(股・膝)に痛みがありますか?(耐えられるが強烈な痛み、または我慢すれば他の動作ができるが忘れることはできない痛み) 2.下腿・大腿のはれがあり、発熱や熱感がありますか? (全国版救急受診アプリ「Q助」総務省消防庁)
どちらを選んでも同じ次の画面(全3項目)に進みます。高齢者(65歳以上)か未就学児(6歳未満)か妊娠しているか、歩くことができない状態か、血が止まりにくいか抗凝固薬などをのんでいるか。いずれかに当てはまれば「いますぐ救急車を呼びましょう」。どれにも当てはまらないときだけ「できるだけ早めに医療機関を受診しましょう」(2時間をめやす)です。
偽痛風は通常は高齢者にみられる病気です。つまりこの道では、65歳以上という項目だけで救急車の側に出ます。Q助が大げさなのではなく、病名を当てる道具ではないのです。
『救急蘇生法の指針2025(市民用)』全69ページには、「偽痛風」「痛風」「関節」「膝」はいずれも0件でした。家庭向けの応急手当の本に、この病気の名前は載っていません。
家族が見ておけるのは、腫れと熱感と、動かせるかどうかです(イメージ写真です)

