顔をぶつけた。そのあと、ものが二重に見える。今日はその話をします。
この記事は、特定のどなたかの事案の話ではありません。典型的な形としては——ボールや肘が顔に当たったあと、見えかたがおかしいと本人が言う、という形で起きます。ここに書くのは資料に書かれていることだけで、いちばん伝えたいのは鼻をかまないでくださいの一点です。
見えかたの異変は、本人にしか分かりません。だから「二重に見える?」と聞く必要があります(記事と関係のないイメージ写真です)
顔をぶつけたあと、ものが二重に見えたら
『MSDマニュアル家庭版』の「眼窩の骨折」(最終更新2024年10月)は、症状をこう書き始めています。
眼窩骨折では、症状がまったくない人もいます。しかし、眼窩骨折は、多くの場合痛みを伴い、血液と体液が蓄積するために骨折のある領域が腫れます。蓄積した血液により、多くの場合、青色または紫色に腫れた領域(眼の周りのあざ)が形成されます。ときに鼻出血が見られます。 (MSDマニュアル家庭版「眼窩の骨折」)
最初の一文から読んでください。症状がまったくない人もいます。痛みもあざも鼻血も、出るとは限りません。
眼窩底(眼球の下にある骨)が折れたときの症状は、別のページにまとまっています。
眼窩の底部の骨折は、複視(眼の筋肉が骨折部位の近くにはさまるため)、眼の下方の皮膚のしびれ(神経の損傷のため)、または眼球の陥没などの症状を引き起こします。 (MSDマニュアル家庭版「あごと顔面中央部の骨折」)
複視とは、ものが二重に見えることです。MSDは「眼窩の骨折」のほうでも、眼球陥入(眼球が奥に引っ込むこと。腫れが引いたあとに分かります)と、頬および上唇の触覚と痛覚の低下(眼窩の下を通る神経の損傷)を挙げています。
家族が確かめられるのは、聞けることだけです。ものが二重に見えないか。頬や上唇の感覚が鈍くないか。どちらも本人が言わないと分かりません。そして、目を押したり、まぶたを開いて中をのぞいたり、眼球に触ったりはしないでください。
「眼窩底骨折(吹き抜け骨折)」とは
顔面への強い打撃により、眼窩(がんか)(眼球、筋肉、神経、血管、そして涙を排出する器官を含む骨で囲まれた空間)を構成する骨が折れることがあります。 (MSDマニュアル家庭版「眼窩の骨折」)
眼窩は、眼球が入っている骨の部屋です。折れる場所でいちばん多いのが、その底です。
ときに、打撃の力を眼の周りの強い骨ではなく眼球で受けてしまうような形で眼に打撃をこうむります(ゴルフボールのような小さな物体がぶつかった時など)。この場合、眼球への圧力は眼窩の壁に伝わります。この圧力により、眼窩の最も脆弱な部分の1つである、眼球の下の骨(眼窩底)が折れることがあります。顔面への直接的な打撃によっても同じ骨折を引き起こす力が伝わることがあります。このタイプのけがを吹き抜け骨折と呼びます。 (同)
眼球に当たった力が、眼窩の底を内側から押し抜く。だから「吹き抜け骨折」です。
「筋肉のはさまり」が起きると
ときには、眼窩内の一部(例えば、眼球に付着する筋肉など)が、骨折部から押し出され、骨と骨の間にはさまってしまいます。これ(筋肉のはさまりと呼ばれます)は子どもや10代の若者、若年成人で最もよくみられ、緊急に修復する必要があります。 (同)
子ども・10代・若年成人で最もよくみられる。部活やスポーツの年代が、そのまま当てはまります。
MSDが例に挙げるのは「ゴルフボールのような小さな物体」。はさまりが最もよくみられるのは子ども・10代・若年成人です(写真はイメージです)
二重に見える理由も、そこにあります。
複視は、眼がひどく腫れたり、眼を動かす筋肉が折れた骨と骨の間にはさまったりした場合に生じます。筋肉(通常は、眼を下に動かす下直筋と呼ばれる筋肉)がそのようにはさまると、そちら側の眼を、反対側の眼が見ている対象物に向けることができなくなるためです。 (MSDマニュアル家庭版「眼窩の骨折」)
左右の眼が同じ方向を向けなくなるから、二重に見える。腫れだけで起きることも、はさまりで起きることもあり、見た目では区別がつきません。診断はCT検査です。
鼻をかまないでください
この記事でいちばん伝えたい一文です。
眼窩骨折のある人は、鼻をかむのを避けるべきです。これは、鼻をかんだ際に押し出された空気が眼の周りの皮下組織に蓄積して腫れを生じることがあるからです。 (同)
眼窩の底の向こう側は、鼻につながる空洞です。底が折れていると、鼻をかんだときの空気が、折れ目から眼のまわりの組織に入ります。鼻血が出ていると、つい鼻をかみたくなります。かまないでください。
してよいことは、2つだけ書かれています。
また、他の骨折およびけがと同様に、氷をあてがうと、痛みと腫れを軽減するのに役立ちます。頭部を心臓よりも高い位置に保ち続けることも、さらなる腫れを防ぐのに有用です。 (同)
冷やす。頭を心臓より高くする。冷却パックは薄い布を挟んで、皮膚に直接当てないでください。まれに眼圧が急激に上がり、緊急の処置が必要になることもあります。
顔の大きなけがでは、首も痛めている可能性があります
MSDは、上あごの骨が折れるほどの強い力による外傷は、首の脊椎損傷や脳損傷を引き起こす可能性があると書いています。
『救急蘇生法の指針2025(市民用)』の全69頁に「眼窩」「複視」「鼻をかむ」という語は1度も出てきません。指針が眼窩底骨折について書いているわけではありません。ただ、顔のけがという条件は、はっきり書いてあります。
自動車にはねられたり、高所から落ちた場合、あるいは顔や頭に大きなけががある場合、首の骨(頸椎)を痛めている可能性があります。このような場合には傷病者の首の安静を保つ必要があります。 (救急蘇生法の指針2025 市民用「15 首の安静」)
では家族が頭を押さえるのか、というと、違います。
意識のはっきりしている傷病者に対しては自分で頭を動かさないように伝え、救助者が頭を支える必要はありません。 (同)
意識がはっきりしているなら、「頭を動かさないで」と声をかける。それが家族の役割です。器具についても、指針ははっきり書いています。
頸椎を固定する器具の一つに頸椎カラーがありますが、装着する際に頸椎の損傷を悪化させるおそれがあるため、自己判断で使用することは避けてください。 (同) 同じ原則は、倒れて後頭部を打ったときにも使えます。
家庭でしてよいのは「冷やす」と「頭を高く保つ」だけです。氷は薄い布を挟んで、皮膚に直接当てないでください(写真はイメージです)
眼の検査に使う機器です。ただし眼窩底骨折を確かめるのはこうした機器ではなくCT検査です(記事と関係のないイメージ写真です)
そのまま、受診につないでください(写真はイメージです)

