「いたずらかもしれない」それでも探す|未明の公衆電話からの無言通報

「いたずらかもしれない」それでも探す|未明の公衆電話からの無言通報

未明、公衆電話から入った無言の119番通報。いたずらの可能性を考えながらも、どこかで倒れている人がいるかもしれないと周辺を捜索しました。実事案と本人の振り返りから、無言だけでは判断できない理由、間違えて通報したときの対応、公衆電話への備えを伝えます。

未明、公衆電話から無言の119番通報が入りました。向かう道中では、いたずらの可能性も考えていました。それでも、もう一つの可能性を捨てることはできません。電話まではたどり着いたけれど、その後、近くで倒れてしまった人がいるのではないか。

現場の公衆電話は、ある公共施設の敷地内にありました。受話器は電話機に戻されず、コードでぶらんと垂れ下がっていました。近くの水道ホースからは、水が出しっ放しになっていました。

その状況を見て、私は悪質だと感じました。ただ、受話器を外した人、水を出した人、通報した人が同一人物かどうかまでは確認できていません。見たことと、そこから感じたことは分けておきます。

それでも、公衆電話の周辺を十数分ほど探しました。結果として、通報した人や関係者を確認することはできず、活動記録では、状況を総合していたずら通報と判断し、不搬送で引き揚げています。

今回は、傷病者や病名を確認できなかった実事案です。報告書に残る経過と、私自身の振り返りをもとに書いています。場所、発生日、正確な時刻、電話番号、所属や職員名は公開しません。

未明の公衆電話ボックスの近くに立つ男性のイメージ 写真はすべてAI生成のイメージです。人物・電話・街並みは実際の事案を再現したものではありません。業務画面や現場写真は使用していません。電話機の操作は、実機の表示と公式案内で確認してください。

記録に残っていたのは「公衆電話からの無言通報」

通報内容の欄には、次の一文が残っています。この一文には個人を特定する情報がないため、そのまま引用します。

公衆電話からの無言通報。

話し声から症状を聞き取れたわけでも、本人と会って事情を確かめられたわけでもありません。到着後に付近を捜索しても、該当者や関係者は確認できませんでした。

活動記録にある「いたずら通報と判断」は、確認できた状況を総合して活動を終えたときの記載です。通報者を特定し、本人からいたずらの意図を聞き取った、という意味ではありません。

見つからなかった相手の年齢、性別、動機は不明です。無言という記録から人物像を作ることはしません。

「いたずらかもしれない」と「確認しなくてよい」は別

未明の出動で、いたずらかもしれないと思わなかった、ときれいに言うつもりはありません。そう考えながら向かっていたのも事実です。それでも、途中で力尽きた人がいる可能性を考えて、周りを探しました。

誰も見つからなかったという結果は、出動前から分かっていた答えではありません。確認できる前に、本当に助けが必要な人はいないと決めてしまうことはできない。そのために動いた時間でした。

捜索時間や対応が、すべての無言通報で同じと決まっているわけではありません。

公衆電話の受話器を使う成人のイメージ

「無言」は、いたずらという動機の名前ではありません。通話で必要な情報を聞き取れていない状態です。間違いなのか、話せないのか、何かが起きたのか。その時点では分からないことが残っています。

間違えて119番につながったら、切る前に伝えてほしい

消防庁の誤発信に関する案内は、内容を確認できない場合、かけ間違いなのか、電話がつながった状態で意識を失ったのかを判断できず、折り返しや発信場所付近での確認を行うことがあると説明しています。

この案内はスマートフォンの自動発信についてのものです。今回の公衆電話で、同じ位置情報の仕組みや折り返し対応が行われたと示す資料ではありません。ただ、内容が分からないままでは、助けが必要かどうかを確かめる必要が残る、という点は知っておいてほしいと思います。

間違えてつながり、救急車などが必要ないことを伝えられるなら、慌てて切らずにその旨を伝えてください。切ってしまった後に折り返しがあれば応答する。これは、間違えたことを隠さず、必要な確認に協力するための行動です。

スマートフォンと白紙のノートを前に考える男性のイメージ

もちろん、本当に苦しくて話せない人に、無理に説明を求めたいわけではありません。症状のために言葉が出ないことと、必要のない通報を意図して行うことは違います。救急車を呼ぶべきか迷っている人まで、今回の記事でためらわせたくはありません。

通報するときは、分かることから伝え、聞かれたことに答えてください。119番で伝えることも、普段のうちに家族で確認しておくと安心です。

伝える内容を自分できれいにまとめ直す必要もありません。嘔吐とめまいがあった小腸炎の事案でも書いたように、分かることと分からないことを分け、そのまま共有することが大切です。

公衆電話は、いざというときの通報手段になる

消防庁の119番案内では、通信障害などで携帯電話から通報しにくい場合、公衆電話の利用や、近くの人・店への通報依頼を案内しています。スマホがあるから、公衆電話はもう関係ない、とも言い切れません。

NTT東日本の利用方法によると、公衆電話からの110番・118番・119番への緊急通話に、硬貨やテレホンカードは必要ありません。赤い緊急通報ボタンがある機種と、ない機種では操作が異なります。実際に使うときは電話機の案内を確認してください。

操作を確かめるために、本当に119番を発信する必要はありません。消防庁も、つながるかどうか確認するための119番通報は控えるよう求めています。見たことのある電話でも、場所と使い方を普段から知っておく。それでできる備えがあります。

家の近くや通学・外出先で、どこに公衆電話があるかを家族で確認しておくのも一つです。場所が分からない場面で、近くの建物や交差点をどう伝えるかも考えておきましょう。家族と連絡がつかないときの備えも、連絡手段を一つにしないための参考になります。

不搬送でも、出動の費用がゼロになるわけではない

「誰も運ばなかった」と「お金も人手も使っていない」は違います。 救急車の往復には燃料を使い、通報の受付、出動、捜索、記録には人が対応します。車両や通信設備の維持、人員の確保にも費用がかかります。病院へ搬送しなかった今回も、こうした体制と時間を使った活動でした。

自治体の公式説明でも、救急車の利用は無料で、運営費用は税金でまかなわれると案内されています。利用者への救急車の料金と、社会が負担する運営コストは別です。病院での診療費とも区別する必要があります。

金額の参考として、東京都の公的資料には、平成14年度(2002年度)の救急事業で、出場1回当たり約4万5千円という算定例があります。ただし、これは過去の東京都の事業コストの平均です。現在の全国一律の実費でも、不搬送1件の追加支出でもありません。今回の走行距離や活動全体の時間は不明で、「この通報で4万5千円を失った」とは断定できません。

病院での診察・治療には、保険や公費の適用に応じた自己負担が生じることがあります。また、紹介状なしで対象の大病院を受診した場合の選定療養費には、救急患者など徴収の対象外となる例外があります。制度の公式案内のとおり、救急車で来たかどうかだけで一律に決まるものではありません。救急車の運営費、医療費、選定療養費は区別してください。

出しっ放しだった水も、時間や量が不明で損失額は出せません。それでも、確認と捜索に人手や時間、水という資源が使われました。不搬送という結果だけで、すべてをいたずらや無駄と決めることはできませんが、意図して不要な通報をする行為は軽く見られません。本当に助けが必要なときは、費用を心配して通報を控えないでください。

話すことが難しい人は、平時の準備も

消防庁のNET119の案内では、音声による通報が難しい聴覚・言語機能障害者向けに、スマートフォンなどから文字で通報する仕組みを紹介しています。利用には事前登録が必要で、申請方法は管轄の窓口への確認が必要です。

利用できる仕組みを、必要な人が普段から確かめておきましょう。救急車を呼ぶ判断そのものに迷う場合は、救急安心センターの使い方も確認できます。緊急性が高い症状がある場合は、相談先を調べ続けず119番へつなぎます。

手袋や袋を家庭用のポーチにまとめる男性のイメージ

意図して不要な通報をすれば、確認のために動く人と時間が必要になります。ただ、今回、別の誰かの救急対応が実際に遅れたかどうかは分かりません。記録にない被害を加えて、話を大きくすることも避けたいと思います。

私が伝えたいのは、いたずらかもしれないと思っても、倒れている人の可能性を考えて探す現場がある、ということです。本当に助けが必要なときはためらわず通報する。間違えたときは、間違いだと伝える。その両方が、必要な人へ助けを届けることにつながります。

家のテーブルで連絡方法を確認する家族のイメージ

参考にした公式案内

2026年10月17日確認。費用の約4万5千円は2002年度の過去資料であり、現在の全国平均ではありません。実事案の記載は、提供された活動記録と本人の説明に基づき、識別情報を省いています。

⚠️ 免責事項この記事の情報は一般的な救急知識の情報提供を目的としており、医療行為や医療診断に代わるものではありません。症状がある場合は必ず医療機関を受診してください。生命の危機を感じる症状は、迷わず119番に通報してください。

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この記事の執筆・監修

現役救命士 hiro

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