夏の夕方、119番に電話が入った。

「背中が……痛くて、我慢できないんです」

電話の主は、20代の男性。事故に遭ったわけではない。その日の昼間、海に行った。それだけだった。


現場で見た「日焼け」の事案

現場に着くと、男性は上半身裸で立っていた。

背中が広く真っ赤になり、肩甲骨のあたりには透明な水ぶくれがあった。意識ははっきりしている。歩ける。呼吸も脈も、心配な数字ではない。

「何か手当ては」と聞くと、こう返ってきた。

「水風呂に……入ってました。でも、痛くて、我慢できなくて」

浴槽に水を張って背中をつけていたが、痛みは治まらず、119番を押した。

浴衣姿の親子が夏の路地を歩く後ろ姿のイメージ 花火大会、BBQ、海——夏は「熱いもの」「強い日差し」に近づく機会が一気に増える季節だ

正直に書く。現場の感覚としては、救急車でなくてもよかった事案だった。

ただ、それを責めたいわけではない。本人には「これが救急車を呼ぶレベルなのか」が判断できなかった。そして、冷やし方も間違っていた

この2つ——判断できないやり方を知らない——は、夏のやけど全般に当てはまる。


「日焼け」も、やけどである

日焼けは、皮膚が紫外線によって受けた**熱傷(やけど)**だ。花火やBBQの鉄板によるやけどと医学的に地続きにある。

日本皮膚科学会の「熱傷診療ガイドライン(第3版・2023年)」は、深さで次のように分類している。

深さ 見た目 痛み
I度 発赤のみ。瘢痕を残さず治る 有痛性
浅達性II度 水疱底が赤色。1〜2週間で上皮化 有痛性
深達性II度 水疱底が白色で貧血状。3〜4週間、瘢痕を残しうる 知覚鈍麻
III度 白色・褐色の皮革様、または炭化。植皮術が必要 無痛性(水疱なし)

ここで、多くの人が誤解している。

深いやけどほど、痛くない。

皮膚の神経ごと壊れるからだ。総務省消防庁の解説も、こう書いている。

最も深いやけどは、水ぶくれにならずに皮膚が真っ白になったり、黒く焦げたりします。痛みがなくても必ず病院を受診しましょう

「痛くないから大丈夫」は、やけどに関しては逆の判断になりうる。


正しい冷やし方——3つのルール

① 流水で冷やす

冷やす時間は出典によって幅がある。日本熱傷学会は「最低5分から30分くらいを、できれば流水で」、英国NHSは「15〜30分、または痛みが和らぐまで」、豪州・NZ蘇生協議会(ANZCOR)は「最低20分」。共通しているのは**「流水で」「痛みが和らぐまで」**という点だ。

溜めた水はすぐぬるくなる。冒頭の男性の水風呂で痛みが引かなかったのも、これが一因だ。蛇口の水を患部に当て続けるのが基本になる。

ただし広い範囲を長時間冷やし続けるのは危険だ。東京消防庁は「熱傷の範囲が広い場合、全体を冷却し続けると体温をひどく下げる可能性があるので、10分以上の冷却はしない」としている。日本熱傷学会も、小児で低体温から意識障害や不整脈を起こしうると注意を促している。

やけどを冷やす水をイメージした透明なグラス 溜めた水ではなく、流れる水を。冷たさより「流し続けること」が効く

② 服が皮膚にくっついていたら、無理に剥がさない

熱湯を浴びた、火が燃え移った——服が皮膚に貼りついていることがある。慌てて引き剥がすと、皮膚が服と一緒に持っていかれる。表面を守っていた層が失われれば、そこは細菌の入り口になる。

消防庁も、化学薬品によるやけどを除いて「水疱が潰れないように、衣服の上からの冷却を考えます」としている。

服は着たまま、その上から流水をかける。 脱がせるのは病院の仕事だ。

③ 水ぶくれは、破らない

消防庁は、はっきりこう書いている。

水疱(水ぶくれ)は傷口を保護する効果をもっているため、潰さずにそっと冷却し、病院を受診しましょう

日本創傷外科学会も「できるだけ破らないようにして病院に行きましょう」としている。医療機関が大きな水疱を排液することはあるが、それは医療者が判断して行う処置。家庭で針を刺す理由にはならない。


やってはいけない「家にあるもの」での対処

患部に、何かを塗ることだ。

東京消防庁は、やってはいけない手当てとして「熱傷の部分に油、味噌などを塗ること」を挙げている。ANZCORは「ローション、軟膏、クリーム、パウダーを塗ってはいけない」、NHSは「やけどにクリーム、油、バターを塗ってはいけない」としている。

味噌、油、バター、家に何年も置いてある塗り薬——結論は同じで「塗らない」。清潔でないものを傷面に載せるうえ、病院で状態を見るときの妨げにもなる。「アロエがいい」といった話も耳にするが、やけどの直後に自己判断で何かを塗る必要はない

氷やアイスノンの直当ても、やめてほしい。 ANZCORは「氷や氷水で冷やしてはいけない。さらに組織を傷める結果になりうる」と明記している。

冷やすのは、水道の水でいい

家庭の薬棚に並んだ古い軟膏やオイルの瓶 「家にあるもので何とかしよう」が、いちばん危ない。塗るのではなく、流す


ためらわず119番してほしいサイン

総務省消防庁の「救急車を上手に使いましょう」は、おとなは「広範囲のやけど」、**こどもは「痛みのひどいやけど」「広範囲のやけど」**を、ためらわず救急車を呼ぶべき症状に挙げている。

顔のやけどと、気道熱傷

顔をやけどしたら、すぐに119番でいい。見た目の問題ではなく、気道熱傷を疑う所見だからだ。

気道熱傷は、高温の煙・水蒸気・有毒ガスを吸い込んで起きる呼吸器の障害だ。日本救急医学会の医学用語解説集は、その危険性をこう説明する。

上気道型では、進行性に声門・喉頭などの浮腫が進行し、気道閉塞による換気障害や窒息を来す危険がある

受傷直後は普通に話せていても、あとから喉が腫れて空気の通り道が塞がっていくことがある。同解説集は疑う状況として、閉め切った空間での受傷顔面のやけど、口や鼻の粘膜のやけど声のかすれ(嗄声)・呼吸困難・ゼーゼーする呼吸音を挙げている。

閉じた空間で煙を吸った可能性があるなら、本人が「大丈夫」と言っていても119番にしてほしい。「様子を見ましょう」が、いちばん危ない類のやけどだ。

部位と、広さ

重症度判定に使われるArtz(アーツ)の基準では、面積が小さくても顔面・手・足のIII度熱傷気道熱傷の合併は、それだけで重症熱傷とされる。日本熱傷学会も「特殊部位(顔・手・会陰など)の熱傷」を重症として扱っている。

広さの目安も簡単で、同学会によれば手のひらの大きさが体表面積のおよそ1%。「手のひら何枚分か」で考えて、広いと感じたら迷わず呼ぶ

迷ったときは #7119

「救急車を呼ぶほどか分からない」——冒頭の男性も、そこで迷った。

そのための窓口が救急安心センター事業(#7119)だ。医師・看護師・救急救命士から電話でアドバイスを受けられる。ただし総務省消防庁によれば令和7年7月現在で全国41地域での実施で、未実施の地域もある。お住まいの地域を一度確認しておいてほしい。**子どもの場合は #8000(子ども医療電話相談)**が別にある。

電話で救急相談をする人の後ろ姿のイメージ 「呼んでいいのか」で悩んでいる時間が、いちばんもったいない。まず相談してほしい


高齢者と糖尿病のある方——「熱い」と気づかないやけど

家族に見ておいてほしいのは、もうひとつ、低温やけどだ。冬のものだと思われがちだが、冷房で冷えた足元にあんかを使う、湿布やカイロを長時間貼るなど、夏にも起こる。

消費者庁は、皮膚が損傷を受ける温度と時間の目安を示している。

温度 皮膚が損傷を受けるまでの時間
44℃ 3〜4時間
46℃ 30分〜1時間
50℃ 2〜3分

44℃は、熱いというより「心地よい」と感じる温度だ。それが数時間続くだけで、皮膚は壊れていく。消費者庁は「一見軽そうに見えますが、長時間熱の作用が及んだために、深いやけどになって」とも書いている。

痛くない。水ぶくれも出ない。でも、深い。

同庁の調査では、65歳以上の高齢者のやけど事故338件のうち56件(16.6%)が入院治療を要し、死亡例も2件あった。低温やけどは119件で、原因はカイロ、湯たんぽ、ストーブ類の順。同資料は「高齢者は若年者に比べて感覚が鈍く、熱源に接する時間が長くなり、重症化しやすい」と分析し、こう指摘する。

**低温やけどは水で冷やしても効果はありません。**見た目より重症の場合があります

だからこそ、家族が「気づく」以外にない。

糖尿病のある方も同じだ。合併症の末梢神経障害で感覚が低下し、熱さに気づきにくくなる。国立国際医療研究センター糖尿病情報センターの「糖尿病 フットケアノート」も、「**カイロや湯たんぽ等による低温やけどに注意しましょう。**もし使用する場合は、厚手のタオルで包み、細心の注意をはらいましょう」と明記している。

「熱かったら気づくはず」は、感覚が正常な人の前提だ。高齢の親や糖尿病のある家族がいるなら、足元の暖房器具や貼るタイプの製品をときどき見てあげてほしい。本人は最後まで痛いと言わない。


まとめ——夏のやけど、5つだけ

  1. すぐ、流水で冷やす(目安5〜30分/痛みが和らぐまで。広範囲は冷やしすぎに注意)
  2. 服が皮膚にくっついていたら剥がさない。服の上から水をかける
  3. 水ぶくれは破らない。塗り薬・味噌・油・氷の直当ては、しない
  4. 顔・気道(煙を吸った)・手・会陰・広範囲は、ためらわず119番
  5. 痛くないやけどほど、深い。高齢者と糖尿病のある方の低温やけどは、家族が見つける

冒頭の男性に必要だったのは、救急車より先に**「海から帰ったら、すぐ流水で冷やす」という知識**だったのだと思う。

やけどは、予防できる救急事案だ。

夏の歩道を手をつないで歩く親子の後ろ姿 いちばんの備えは、家族がこの5つを知っていること。今日、共有しておいてほしい


「もしものとき」の備えを

やけどは、範囲や深さによっては入院が必要になります。深いやけどでは**植皮術(皮膚移植)**が行われ、その後の治療が長く続くこともあります。

医療保険・生命保険・就労不能保険は、そうした「治療が長引いたとき」の経済的な支えになります。この機会に、ご家族の保険を一度確認しておくことをおすすめします。


参考文献・出典

医療情報の正確性について:本記事の情報は執筆時点(2026年7月)の公的情報・診療ガイドラインに基づきます。冷却時間など出典によって推奨が異なる項目は、原典の表記をそのまま併記しています。医療判断は必ず医師にご相談ください。記事内容の誤りを発見された場合は、お問い合わせよりお知らせください。


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免責事項:この記事の情報は一般的な救急・予防知識の情報提供を目的としており、医療行為・医療診断の代替となるものではありません。症状がある場合は必ず医療機関を受診してください。生命の危機を感じる症状は、すぐに119番に通報してください。