2026年7月28日の熊本震度7から、今日で3日目になります。
私は救急救命士として、これまでいくつかの大きな災害出動を経験してきました。その中で、現場で一番多く耳にした言葉のひとつが、これです。
「家族に連絡がとれなくて……」
電話が鳴り続ける。でもつながらない。LINEのメッセージは「送信中」のまま止まっている。テレビには現地の映像が流れているのに、そこに家族がいるのかどうかわからない。
この「わからない」が、人を動かしてしまうんです。
「行ってしまった」——救急出動のたびに、こういうケースに出会います。家族の安否を確かめようと被災地に向かって車で出発し、途中で事故に遭ったり、渋滞に巻き込まれて孤立したりする。連絡がとれないことが、二次被害を生む。
今日は、そのことを書きます。
震災シリーズDay1として、まず「安否確認と連絡がつかない時の初動」にしぼります。難しい話はひとつもありません。今日読んで、家族に送ってもらえれば、それで十分です。
「どこにいる?」「無事か?」——画面を見つめる時間を、備えで短くできる
なぜ電話がつながらなくなるのか
まずここだけ知っておいてください。
大きな地震が起きると、電話回線に一気に大量のアクセスが集中します。総務省の資料では、これを「輻輳(ふくそう)」と呼んでいます。通常の何倍もの発信が同時に走ることで、回線が詰まった状態になる。
このとき、電話会社は「発信規制」をかけます。一般の電話からの発信を制限して、消防・救急・警察・行政など、命に関わる通信を優先してつなぐためです(総務省「災害時優先通信」)。
これは、電話会社が悪いわけでも、あなたの電話が壊れたわけでもありません。システムが正しく機能している状態です。
だから——
「電話がつながらない」は「家族が危険な状態にある」と直結しません。まずそこを思い出してください。
安否確認の手段:3つのルートを知っておく
① 災害用伝言ダイヤル「171」
これが、電話回線をつかった安否確認のいちばん確実な手段です。
NTT東日本・西日本が大規模災害時に開設するサービスで、固定電話・携帯電話・IP電話すべてから「171」に電話してアクセスできます(NTT東日本公式情報)。
使い方はシンプルです。
① 171 にダイヤルする
② 「1」→ 伝言を録音したい(被災地の家族向け)
「2」→ 伝言を聞きたい(安否を確認したい側)
③ 相手の電話番号を入力する(市外局番から)
電話番号1件あたり最大20件の伝言を保存でき、1件あたり30秒録音できます(NTT東日本「disaster用伝言ダイヤル概要」)。
ただし、伝言数や保存期間は災害ごとに運用が変わります。NTT東日本・西日本は、開設時にその都度テレビ・ラジオ・公式サイトでお知らせします。「20件のはずなのに10件だった」ということもあります。開設時の公式アナウンスを確認してください。
一つだけ覚えておく約束事があります。
被災地の家族が「1」で録音し、心配している家族が「2」で再生する。このルールを事前に家族で決めておかないと、全員が再生しようとして誰も録音していない、ということが起きます。
公衆電話は災害時優先。171へのアクセスも、公衆電話からが有利な場合がある
② web171 と各キャリアの「災害用伝言板」
インターネットが使える環境なら、こちらも活用できます。
各携帯キャリアの「災害用伝言板」は、それぞれの公式サービスから使えます。
- ドコモ:災害用伝言板
- au・UQ mobile:au安否確認サービス
- ソフトバンク・ワイモバイル:災害用伝言板
特徴と使い分け:
| 171(音声) | web171・伝言板(テキスト) | |
|---|---|---|
| 使える端末 | 電話(固定・携帯・IP) | スマホ・PC |
| 伝言形式 | 音声(30秒) | テキスト(各社数十〜100文字程度) |
| 電波状況 | 音声回線 | データ回線 |
| 向いている場面 | 停電・データ回線が混雑 | 音声回線が混雑 |
どちらか一方でなく、両方を知っておくのがポイントです。音声がつながらなければデータを、データが重ければ音声を。
web171・各キャリアの伝言板は、データ回線が使えれば電話が込んでいても届く
③ SNSとTwitter/X検索
171と伝言板が使えない、または場所をすぐに調べたい場合はSNSも有効です。
LINEの「既読」がつかないとき——送信済みでも受信側のデータが届いていない可能性があります。あわてて送り直すより、まず伝言板に切り替えてください。メッセージを大量に送ると回線に負荷をかけます。
Twitter/Xの検索が有効なケース:
安否をSNSに投稿している人を探すなら、以下の検索がシンプルです。
例)「田中 無事 熊本」「○○市 避難 無事」
本人が投稿していなくても、周囲の人が「○○さんと会えました」と書いていることがあります。また、地域の避難所がアカウントを持っている場合もあります。
ただし注意点があります。 災害時のSNSには、不正確な情報も多く流れます。安否情報としてのSNSは「見つかったらラッキー」程度に使い、正式な安否確認は171・伝言板を優先してください。
公衆電話は「特別な電話」だと知っておく
停電時、電池が切れたとき、スマホが使えないとき——公衆電話が選択肢に入ります。
しかし、それだけではありません。
公衆電話は、災害時に発信規制の対象外です(総務省)。一般の電話・携帯電話は発信規制がかかっていても、公衆電話からは規制なしで発信できます。被災地から家族へ連絡したいとき、公衆電話が意外と「つながる」のはこのためです。
また、被災地に設置される「災害時用公衆電話」は通話無料です。2026年3月31日時点で、全国38,271台が855自治体の避難所等に整備されています(NTT西日本・総務省データ)。
避難所に入ったら、まず「公衆電話はどこですか」と確認する習慣をつけてください。
"連絡がつかない"時の初動フロー
ここが今日いちばん大事なところです。
家族と連絡がとれない状態が続いたとき、どう行動するかを、平時に決めておいてください。
【連絡がとれない時の初動フロー】
Step 1: 171に録音・再生を試みる(音声)
↓
Step 2: web171・各キャリア伝言板を確認(テキスト)
↓
Step 3: LINEのタイムライン・SNS検索(状況投稿を探す)
↓
Step 4: 自治体の安否照会窓口に連絡(下記参照)
↓
Step 5: 【最低72時間は待機】被災地に向かう判断はここから
「動いてしまいたい気持ち」を一度止めてください。
救命士として正直に書きます。「行かないと」と感じるのは当然の感情です。でも、被災直後の道路は渋滞・通行止め・余震で状態が悪い。あなたが動くことで、緊急車両の妨げになることがある。そして、あなたが二次被害に遭えば、家族はさらに心配します。
安否照会窓口:市区町村の担当窓口、または各都道府県の「災害対策本部」に問い合わせることで、避難所名簿の照会ができます。市区町村のWebサイトに「災害対策本部設置」と出ていれば、そこから電話番号を確認してください。
避難所では、氏名と居場所を書いた掲示板が設置される。172の体験利用で「どこに書けばよいか」を家族で練習しておくと差が出る
家族の集合場所と連絡ルールを、今日決める。これだけで、災害後の混乱が大きく変わる

