血尿が出ている。トイレに行きたいのに、尿が出ない。それでも会話ができ、自分で歩けると、「もう少し様子を見てもよいのでは」と考えるかもしれません。今回の実事案で残したいのは、歩けるかどうかだけで、排尿の異常を軽く見ないという視点です。
傷病者は60代前半の男性で、膀胱がんのため医療機関へ通院していました。血尿が続き、受診先で尿閉とされ、治療のため別の医療機関へ搬送された事案です。搬送先の診断名は「膀胱タンポナーデ」。中等症で入院中との記録が残っています。
人物入りの写真はAI生成のイメージで、人物は架空です。ほかの写真は既存記事のイメージ写真を再利用しています。いずれも実際の傷病者・施設・活動を示すものではありません。報告書や診断画面は使用していません。
傷病名は「膀胱タンポナーデ」でした
通報内容には、次のように記録されています。原文の年齢は年代幅に置き換え、医療機関名をマスクしています。
[60代前半]男性。膀胱がん(告知済み)があり、尿閉で[医療機関名をマスク]への転院搬送依頼、処置なし。医療従事者の同乗なし。
血尿が始まったのは前日で、男性は受診先から通院していた医療機関へ転院することになりました。接触時は立っており、意識は清明で、自力歩行も可能でした。しかし、排尿しづらい感じと、下腹部の張りを訴えていました。
現場の記録では、すでに尿道カテーテルが留置され、少量の血尿が確認されています。また、前日から排尿していないという本人の説明も残っています。通報欄には「処置なし」とある一方で、接触時には管が入っていました。通報時の情報と、その後に確認した状態は分けて残します。 誰がいつ管を入れたかは、この資料では補いません。
搬送先からの情報では、初診時傷病名も診断名も膀胱タンポナーデとなっています。血の塊を取り除いたか、どのような検査をしたか、入院後の治療や退院後の様子までは分かりません。膀胱がんの病期や治療内容も、記録のないことは付け足しません。

医学的には、血の塊で排尿が妨げられる状態
膀胱タンポナーデは、血の塊が膀胱の出口をふさぎ、尿を出せなくなる状態として説明されます。厚生労働省の出血性膀胱炎のマニュアルも、膀胱内の凝血塊によって尿閉を来す状態を挙げています。ここでは病名の意味を確認するために参照しており、今回の男性が薬剤性の出血性膀胱炎だったという説明ではありません。
尿閉は、尿を出せない、または膀胱を十分に空にできない状態です。米国NIDDKの解説では、尿の通り道の閉塞や、膀胱が尿を押し出す働きの問題など、複数の原因を示しています。血尿や排尿困難だけで、家庭で原因を一つに決めることはできません。
今回の男性には膀胱がんという背景がありました。ただし、そのことだけで出血源や詰まり方をこちらで確定することはできません。持病を伝えることと、原因を決めつけることは別です。似た症状に別の病気があることは、尿管結石が疑われた事案も参考になります。
「最後に出た尿」と「今の様子」を伝える
本人や家族ができるのは、病名を当てるより、経過を言葉にすることです。最後にいつ尿が出たか、普段と比べて量がどうか、赤い尿や血の塊に気付いたか、下腹部が張るか。分かる範囲を医療者へ伝えます。
時計を見ていなければ、正確な時刻を作る必要はありません。「寝る前は出た」「起きてから出ていない」など、生活の区切りで伝えて構いません。尿量も、測っていなければ測定値のように言わず、「普段より少ない」「数滴程度」など、自分が見た範囲の説明にします。

通院先、持病、飲んでいる薬、最近受けた処置も、分かれば一緒に共有します。これは今回の男性に特定の服薬や手術があったと補う話ではありません。普段の情報をまとめておけば、急な場面でも探し回らずに済みます。119番で伝えることも、平時に確認しておくと安心です。




